彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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一つの区切りに

 

 ナザリック地下大墳墓の第9階層「ロイヤルスイート」にあるモモンガの私室。

 そこにメリエルはモモンガの着込んだ服をジロジロと無遠慮に観察していた。

 

 そして、彼女は告げる。

 

「似合っているわよ、モモンガ」

「それ、今度そっくりそのままお返ししますからね」

 

 

 メリエルはモモンガのタキシード姿に対する感想を言ったのだが、どうやらそのままお返しをされるようだった。

 今日はモモンガとユリの結婚式だ。

 

 竜王国からメリエルが帰還して1ヶ月程が経過している。

 

 

 ビーストマンを叩き潰した、ということに対する反応は劇的だった。

 特にスレイン法国の反応はモモンガもメリエルもドン引きする程に狂喜乱舞といった具合だ。

 

 ともあれ、魔導国は当初の目標を推し進める。

 

 穏便なる世界征服、その遠大な目標の為に。

 

 

 この後には竜王との会談が控えているが、イビルアイを仲介役として、諸々のやり取りをしているが、向こうもこちらに対して、興味津々といった感じらしい。

 無論、それは悪い意味などではなく、予想としては特に何事もなく終わるだろう、というもの。

 

 

 

 

 ともあれ、一つの区切りとなったことは確かで、それならばモモンガとユリの結婚式を行うにちょうど良いのではないか、というメリエルの鶴の一声で、デミウルゴス達は動いた。

 

 しかし、モモンガもそのことを知るや否や、同じようなことをデミウルゴス達に告げた。

 

 メリエルさんは竜王との会談後、そのまま長期休暇になるから、それをそのまま新婚旅行とすべく、私の結婚式と日を少しズラして行えばいいのでは、と。

 モモンガのささやかな仕返しだった。

 

 そんな彼の鶴の一声にデミウルゴス達は――特にアルベドは――異論があるはずもない。

 

 結果として、モモンガとユリの結婚式から1週間後にメリエルとアルベドの結婚式も行われることになったのだ。

 

 しかし、もっとも衝撃的なことは――当人達を除けば、デミウルゴスですら知らなかった――いつのまにか、メリエルがアルベドにそういう意味での告白をしていたというのだ。

 アルベドが一切そういう雰囲気を見せず、メリエルといるときもいつもと変わらない態度だった。

 

 アルベドのことであるから、メリエルから告白されたとなれば上へ下へと駆け回って、叫び倒すくらいはしそうなものであったが、そんなことは全く無かったのだ。

 

「で、どんな告白をしたんですか? ていうかアルベドが何にも騒いでいなかったんですが?」

「普通よ、普通。アルベドとは時期が来るまでは黙っていようって約束したのよ。あと、私は似合っているって言われれば嬉しいわよ?」

 

 モモンガの問いにメリエルは答える。

 これもまた既に何回もあったやり取りだ。

 

「俺も嬉しいですよ」

「素直に最初からそう言えばいいのに。これだからモモンガは……」

「このクソ天使め、地獄に落ちろ」

「黙れクソ骸骨、天国に昇れ」

 

 そう言い合って、2人は笑い合う。

 

「天国、昇ってきます」

「そうしなさい。あなたが幸せにならないと、ナザリックは幸せにならないわ」

 

 そう言って、メリエルが拳を突き出した。

 モモンガもまた応じて、彼女の拳に合わせて拳を突き出した。

 

 かつん、という音が室内に響く。

 

「色々、あったわね」

「ええ、ありましたね。こっちに来て、はっちゃけて、今じゃ国家元首ですよ、俺」

「魔導王陛下ですってね」

「他人事みたいに言ってますけど、メリエル様も告死女神とかっていう異名がこっそりつけられているんですよ、最近シモベ達の間で」

 

 ぐああああ、とメリエルは大げさに声を上げて、胸を押さえて、崩れ落ちた。

 

「何でも、現れたら敵対者の死が確定するとかっていうことらしいです」

「やめろ、そういうのは私に効く」

「俺にも効きますから、自爆技ですね」

「それで、なんだっけ、色々あって。私はペットを集めて」

「俺は冒険者、やってましたね。あれ、思ったんですが、俺、かなり地味じゃ……なんか、メリエルさんのほうが目立ってません?」

 

 問いかけられたメリエルはこれでもかと溜息を吐いてみせる。

 

「法国とか帝国とかの政治的な交渉の時に出てきてくれても良かったのよ?」

「そ、それはその……メリエルさんのほうがそういうの、得意でしたし。き、基本、ほら、メリエルさんのできることのほうが俺よりも多いので、任せたほうがナザリックに良い結果となると……」

 

 尻すぼみになっていくモモンガの言葉。

 

 しかし、彼は何かを思いついたのか、「そう!」と声を張り上げる。

 

「私はナザリック地下大墳墓の最高支配者。瑣末事など、配下に任せれば良い」

 

 開き直ってそう告げるモモンガにメリエルは思わず笑ってしまった。

 

 そして、彼女は「ところで」とモモンガに切り出した。

 

「彼らの異世界ライフ、モモンガさんがやっぱり苦労する話って題名で本でも書いたら、売れるかしらね? 私達のことなんだけど」

「いや、その題名ではどれだけ内容が良くても売れないでしょう。ていうか、俺が名指しで苦労するんですか……」

「しているじゃないの」

「誰のせいですか、誰の」

 

 そう言いつつ、モモンガは閃いた。

 

「シンプルで良いものを思いつきました。ギルド長の私が一応、主人公ってことで良いんですよね?」

「まあ、そうなるわね。本気で執筆するなら、あなたにも手伝ってもらいたいわ。というか、むしろ、あなたが書いたら? 寿命なんてないから、時間はあるんだし」

 

 メリエルの言葉にモモンガは苦笑しつつ、問いかける。

 

「分かりましたよ、それじゃあ、そのときは手伝ってくださいね。それで、題名なんですが、いいものがあるんですよ」

 

 モモンガの言葉にメリエルはジト目となる。

 彼のネーミングセンスが無いことは、よく知っている。

 

「超越者という意味もあるので、メリエルさんも含まれていますよ」

「どんなのよ? カッコイイのにしないとダメよ」

 

 メリエルの言葉にモモンガは疑われているな、と思いつつも自信を持って告げる。

 

「空中に書いてみせますよ、課金アイテムの文字エフェクトのやつで」

「あれって後ろ以外にも出せたのね。使ったことないから、知らなかった」

「……まあ、普通は滅多に使わないと思いますよ。俺も結局、ほとんど使いませんでしたし」

 

 モモンガはアイテムボックスを操作し、空中に示す。

 彼が書いたのは8文字のアルファベット。

 

 

 

 

  OVER LORD

 

 

 


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