彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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終わった2人の関係

 

 ンフィーレア・バレアレは非常に忙しかった。

 

 魔導国の領土となった後、店に魔導王が直接、尋ねてきた。

 傍らに美しいメガネを掛けたメイドを伴って。

 

 そして、2人に赤いポーションを見せ、こう言った。

 

 資金も物資も何もかも必要なものは用意する。

 だから、挑戦してみないか――?

 

 そう言われて、2人がやらないわけがない。

 

 それ以降、毎日祖母と共に赤いポーションを作り出そうと躍起だった。

 

 店の方は魔導国から派遣されたホムンクルス達が売り子をしてくれている為、問題はない。

 

 

 朝から晩まで、睡魔に襲われて倒れるくらいまでリィジーもンフィーレアも赤いポーション作りに夢中だった。

 とはいえ、ンフィーレアも男である。

 

「疲れた……」

 

 ぐったりとした彼を優しく膝枕するのは美しいホムンクルスの少女だった。

 彼女は魔導国から派遣された売り子の一人で、ンフィーレアと同い年だと言う。

 

「ンフィー、お疲れ様。今日はゆっくり休んで」

「うん……ありがとう」

 

 答えながら、自分のどこに惹かれたんだろう、とンフィーレアは思う。

 薬師ではあるが、少なくとも男として魅力的とは言えないと彼自身、思う。

 

「ところで、僕のどこに……?」

「ひたむきに、努力するところかな。そういうところとか、あと優しくて真面目で……」

 

 聞いたンフィーレアが恥ずかしくなってきた。

 

「だから、私、あなたと一緒になりたいなって」

 

 最後の最後にとんでもない発言が出てきた。

 ンフィーレアは眠気や疲労が一瞬で吹き飛んだ。

 

「ぼ、僕の方こそ! 君みたいな、綺麗な人と一緒に!」

「幼馴染のエンリさんはいいの? あなたがエンリさんについて、教えてくれたとき、そういう感じがしたんだけど……」

「え、エンリは……その、うん……」

 

 幼馴染のエンリはンフィーレアは幼い頃から好きだった。

 ろくに目も合わせられないが、それでもどうにか友人になることができたのは幸運だったと今でも思う。

 

 しかし、ここ最近はカルネ村に行くこともなくなった。

 魔導王の配下が、ほぼ毎日必要な材料を持ってきてくれるからだ。

 

 エンリのことが好きだとンフィーレアは今でも思う。

 けれど、今、自分の前にいる少女はどうだろうか。

 

 売り子としてやってきて、それから何だか仲良くなって、そして、今では恋人のような関係になっている。

 ンフィーレアも彼女も告白はしていないにも拘らず。

 

「……やっぱり初恋は叶わないものなのかな」

 

 悲しげな、小さい声が聞こえてきた。

 ンフィーレアは彼女から、色々と身の上話を教えてもらっている。

 その中には、女ばかりのところだった為、恋をしたことがない、というものもあった。 

 

 ンフィーレアは悩みに悩む。

 

 エンリか、目の前の彼女か――?

 

 先延ばしにする、という選択肢がないことを彼は直感的に悟っていた。 

 

 そして、ンフィーレアは決断した。

 決め手は、一緒にいた時間だ。

 

 彼女と出会ったのは最近だが、それでもエンリと過ごした時間と比較すれば、エンリよりも彼女の方が長い時間、共に過ごしていた。

 

 彼女達売り子はバレアレ家の空いている部屋に寝泊まりしているから、それも当然だったが。

 

 

 さようなら、僕の初恋――

 

 ンフィーレアは心の中で呟いて、やっぱり初恋は叶わないものだ、と思う。

 だが、女の子を泣かせるのが良くないことくらい、ンフィーレアだって知っている。

 

「……僕は、君を選びたい」

 

 彼女は信じられないといった顔を見せ、やがて笑みを浮かべながら、涙を流す。

 それは決して悲しいものなどではなく、嬉しさのあまりに。

 

「末永く、お願いします」

 

 

 

 

 ンフィーレアをベッドに送り、彼女は自室へと戻る。

 部屋では他の売り子達が待っていた。

 彼女は部屋に入り、鍵を閉めて告げる。

 

「メリエル様にご報告を。ンフィーレアが落ちました、と」

 

 即座に売り子の一人により、スクロールが発動され、伝言(メッセージ)がメリエルへと飛ばされる。

 報告がされている中、別の売り子が尋ねる。

 

「本当に愛しているの?」

「ええ。ンフィーのことは心から愛しているわ。彼に尽くしたいし、子を産みたい」

 

 くすくすと笑う。

 確かにその通りだ、と、しかし、それにも例外がある。

 その意図を、彼女は正確に読み取っていた。

 

「でも、メリエル様は例外よ。創造主たるメリエル様に求められて、拒むわけがないでしょう?」

 

 あなた達もそうでしょう、と彼女が問いかけると同意の声が上がる。

 

 魔導国――というより、モモンガの要請を受けてメリエルが作って派遣したホムンクルスは5名。

 その全員が、優秀だとされた上で、更に次のように設定が作られていた。

 

 

 

 ンフィーレア・バレアレを心から愛し、尽くす。

 しかし、創造主たるメリエルには、いかなる場合も揺らぐことのない絶対の忠誠を誓っている。

 その忠誠心は、たとえンフィーレアを自らの手で拷問し、殺したとしても何ら影響することはない――

 

 

 

 

 最初の1人が成功したら、残る4人も、ンフィーレアに対してアプローチを仕掛け、合計5人の妻を娶るように仕向けることになっていた。

 ひとえにそれはンフィーレアに対する魔導国の鎖であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エンリ・エモットは忙しかった。

 メリエルとの連絡役となり、彼女は今日も今日とて、魔導国から派遣されてきたアンデッドやホムンクルス達と協議をし、今後の村の方向性について議論を交わす。

 

 たまにメリエルに呼ばれると、村についてアレコレ尋ねられる。

 

 その後には抱かれるのだが、立場的にエンリに逆らえる筈もない。

 

「別に嫌ってわけじゃ、ないのよね」

 

 エンリは連絡役としては初めてメリエルに会ったときのことを思い出す。

 

 あのときに、誘惑されて、なし崩し的に関係を持ってしまった――ついでにメリエルが両性具有であることも知ってしまった――が、むしろエンリとしてはメリエルに誘惑されて、雰囲気に流されない人間など世界中で数えられる程ではないか、と自己弁護する。

 

 初めてって痛いらしいけど、凄く気持ち良くて満足できたし――

 

 エンリはそんなことを考えながら、次の仕事に取り掛かる。

 今度は慣れた仕事――農作業だ。

 

 アンデッドが耕したりはしてくれているとはいえ、どうしても単純な作業しかできない。

 その弱点を埋めるのがエンリや他の住民達の役目だ。

 

 デスナイトが警備にあたっている姿を横目で見ながら、エンリはぐーっと伸びをする。

 

「平和っていいなぁ……」

 

 エンリはそう思いながら、ネムについて考える。

 

 聞いた話によれば、メリエルは気に入った者には不老不死の薬を飲ませるとのことだ。

 エンリは自惚れではないが、気に入られていると感じている。

 

 村に来るルプスレギナやソリュシャンなどからは、まだもらっていないの、と驚かれたりするから、もらえるだろうとエンリは予想する。

 

 しかし、妹のネムが老いていく一方で、自分は16のまま、永遠を過ごすというのは、ちょっとエンリには耐えられそうにない。

 

「ネムが私と同い年くらいになったら、本人に聞いてみようかな」

 

 ネムがエンリと一緒がいい、と言ったなら、エンリはメリエルに不老不死の薬をもらうつもりだ。

 どんなことでもするから、とお願いして。

 

「ただ何となく、たとえば100年くらい経っても、私はここで農作業をしているような気がする。村長やりながら」

 

 それは幸せなような、それでいて不幸なような、何とも微妙な未来像だった。

 

 


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