彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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国の終焉

 

 敗走する王国軍と呼べるものは近衛兵やガゼフの戦士団、貴族の私兵達などの、秩序だった撤退をしている者達だった。

 それ以外の兵達は徴集兵であり、士気は完全に崩壊しており、秩序だった撤退など望めるものではなく、ただ敗走する王国軍と何となく同じ方向に逃げているだけという形だった。

 

 赤い軍勢から逃げる、という思いのみ、彼らは一致していた。

 

 そんな彼らの撤退先はエ・ランテル。

 強固な城壁もあり、籠城戦に強い。

 またカッツェ平野での戦いには参加しなかった兵も――徴集兵が主体とはいえ――まとまった数がいる。

 

 だが、相手が悪すぎた。

 王国軍の逃げ足は速いものであったが、メリエルが転移魔法で移動する速さと比べると圧倒的に遅かった。

 

 

 

 警戒の為に先行していたガゼフ配下の戦士達が血相を変えて戻ってきた。

 彼らは見た。

 

 敗走する王国軍の、すぐ前方に、青と白と赤の三色で彩られた軍服を纏い、赤い軍勢と同じく棒状の筒を担いだ軍勢が見事な隊列を組んで展開していることに。

 

 ランポッサ三世は無論、他の貴族達も派閥に関係なく、ただちに兵を停止させた。

 そしてこちらも対抗して陣形を組ませたところで、どうすべきかと協議することになった。

 

 しかし、それはあまりにも意味のない行動だった。

 

 先程の赤い軍勢とはまた違った太鼓のリズムが響き渡り、敵の軍勢が進軍を開始する。

 笛とラッパの音色が加わり、先程の赤い軍勢が陽気なメロディとは違い、勇ましいメロディが木霊する。

 

 それにより、遂に国王であるランポッサ三世と貴族派閥の盟主であるボウロロープ侯は決断した。

 2人の決断に対して、協議に参加した貴族達は反論することなく賛成した。

 

 

 

 ガゼフは幾人かの配下とランポッサ三世に指名されたレエブン侯と共に進軍する敵軍の前に立った。

 ガゼフも彼の配下も武装を解除しており、彼の手には大きな白旗があった。

 

 敵は圧倒的に強かった、とガゼフは思う。

 彼やブレインの個人としての武力など、問題にもならない程に敵軍は組織として、軍隊として優れていた。

 ガゼフもブレインも一個人の戦士としてなら優れた存在であることは確かだ。 

 しかし、彼らは一個人で戦争の趨勢を左右できるような存在ではない。

 

 結局、ガゼフ達は今回の戦闘では何もしていない。

 せいぜいが追撃してきた敵兵を幾人か倒した程度であった。

 

 メリエルなりアインズなりが前に出てきてくれればガゼフが捨て身で一騎打ちを挑んだだろうが、その2人は数多の戦列を超えた、最奥の陣地におり、決して出てくることはなかった。

 

 圧倒的な強さを有していても、決して慢心も油断もしない。

 

 ガゼフからすれば、手本にしたいくらいの心構えだった。

 

 しかし、今の彼を支配する感情はそういった戦士としての云々などは一切なかった。

 

 

 王国の終わりの始まり――

 

 

 

 ガゼフは何とも言えない感情が込み上げてくるが、それを飲み込み、ランポッサ三世から任せられた仕事を果たすべく、彼は持っていた白旗を掲げて、大きく振る。

 

 その段階に至り、敵軍の動きが止まった。

 最前列の敵兵の顔が見えるが、どれもこれも精悍な顔つきで、若い兵士もいればガゼフと同じくらいの年齢と思われる兵士もいるのが見えた。

 

 ガゼフは叫ぶ。

 

「我々、リ・エスティーゼ王国軍はアインズ・ウール・ゴウン魔導国軍に対して無条件降伏する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼下でガゼフの降伏宣言にメリエルは一息ついた。

 空中で不可視化の魔法を使った上で、指揮を取っていた彼女。

 

 今のガゼフの降伏宣言はカッツェ平野での戦いと同じく、各地に設置した鏡に音声付きの映像で投影されている。

 

「後ろからはレッドコート、前からは老親衛隊とか、誰だって投げ出したくなるわよね」

 

 うんうん、とメリエルは頷く。

 

 他にもコールドストリーム連隊とか色々と準備していた彼女だったが、それらを使うことはなかった為、少し残念に思う。

 

 とはいえ、メリエルは次の行動に移る。

 彼女は完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)を解除して、ガゼフの前へと降り立つ。

 

 メリエルが現れたことに、ガゼフらに驚きはなかった。

 彼女は彼らを真っ直ぐに見据えて告げる。

 

「我々、アインズ・ウール・ゴウン魔導国はあなた方の無条件降伏を受諾します。この場にいる王国軍は全て武装解除の上、我々の捕虜となります。異論はありますか?」

 

 何気に初めて自分が敬語を使っているかもしれない、とメリエルは思うが、さすがにこういった場では使わざるを得ない。

 

 メリエルの問いかけにガゼフはレエブン侯へと視線を向けるが、彼が僅かに頷いたのを確認して、メリエルへと再度視線を向ける。

 

「異論は、ありません」

 

 ゆっくりとガゼフはメリエルに告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 王国軍の無条件降伏――

 それにより、その後の魔導国による王国領土各地への進駐は極めてスムーズであった。

 なにせ、捕虜には国王や六大貴族をはじめとした大物貴族がゴロゴロといたのだ。

 彼らはメリエルと、そしてアインズと会談し、特にアインズがアンデッドであることに驚愕したものの、反抗する気力など起きよう筈もなかった。

 

 

 さて、今回の戦争により、王国軍側は死者およそ3万、負傷者に至っては5万を超えたが、そのうちの半分は戦闘終盤の、メリエルの軽騎兵達が追撃したことによるものであった。

 しかし、王国側にとって救いであったこともある。

 

 貴族にも死者は出ていたが、それは貴族の三男坊といった、大して影響の無い、そうであるが故に戦争で名をあげようとして前線にいた者くらいであり、中堅貴族、下級貴族の当主などやその私兵達にほとんど死者はおらず、負傷者が若干出たくらいであった。

 

 

 捕虜となった貴族達はどれだけ苛烈な拷問をされるかと戦々恐々としていたのだが、捕虜とは思えない贅を尽くした生活を魔導国により体験させられた。

 

 結果、大半の貴族はそれで心情的に魔導国に傾いた。

 

 数日の捕虜生活を楽しんだ貴族達は私兵と共に解放されて、各々の領地に戻った。

 だが、既にそこには魔導国の軍勢が待っていたということが抵抗する気力を完全に失わせた。

 

 勿論、待っていたとは比喩でも何でもなく、進駐の為に彼らはただ単に数時間前にメリエルによって召喚されて、待っていたに過ぎないのだが、王国の貴族達にはこれ以上ない程の圧力であった。

 

 それは王都においても同じことだった。

 ランポッサ三世がガゼフらと共に王都に帰還した時、アインズとメリエルが王都の郊外で軍勢と共に待っていた。

 

 

 

 そして、ロ・レンテ城内にあるヴァランシア宮殿にて、講和会議が開かれることになった。

 

 王国側の無条件降伏であり、その為に魔導国から提示された内容は王国にとって過酷なものだ。

 実質的に王国の解体・消滅を意味するものに、王国側の代表であるレエブン侯は戦慄した。

 

 何の躊躇もなく、そんな要求を突きつけてくるのは余程に統治に自信があるのだろう、と。

 とはいえ、魔導国にはそれを王国に呑ませるだけの兵力があった。

 王国領土各地には魔導国の兵士達が進駐している。

 

 たとえ反乱を起こしたところで、あっという間に鎮圧されるだろうことは想像に難くない。

 魔導国の兵士達と王国の兵士達との間にある練度の差は如何ともし難いものだった。

 

 結果として、王国は魔導国の要求を全て受諾。

 若干の猶予期間を挟んで、王国は魔導国に完全に併合され、魔導国の一地方として名を残すのみとなった。

 

 カッツェ平野での戦闘から僅か1ヶ月の出来事だった。

 

 そして、王国が片付くや否や、間髪をいれず、魔導国はさらなる行動を起こすこととなった。

 これまで練りに練った各種計画――いわゆる内政であり、また同時に聖王国攻略の幕開けだった。

 

 

 


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