彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話 作:やがみ0821
メリエルが王都からナザリックに帰還すると、デミウルゴスが出迎えた。
報告とのことで、メリエルは私室にて聞くと伝え、彼と一緒に私室へ向かった。
私室では、お付きのソリュシャンが待ち構えており、彼女にメリエルは適当に冷たい飲み物が欲しいと要求。
1分と経たずに出てきたキンキンに冷えたオレンジジュースを飲んで、一息ついたところでデミウルゴスに問いかける。
「それで、どうだった?」
「蒼の薔薇……いえ、ラキュースとイビルアイは落ちたかと」
「チョロいといえばチョロいのかしらね」
マッチポンプで簡単にこっちの味方になってくれるというのは楽だが、味方になったフリではないか、と疑いたくもなる。
「口では何とでも言うでしょうが、基本メリエル様の要求を拒むことはないかと……無論、プランBも実行できるように手はずは整えてあります」
「実行した場合の予想される結果は?」
「実行した場合、メリエル様に対する教育を行うので、教育終了次第、すぐにでも手元におくことが可能でしょう」
なるほど、とメリエルは頷きつつ、実行しなかった場合の結果について問いかける。
デミウルゴスはすらすらと言葉を紡ぐ。
「しなかった場合、基本的にメリエル様のお傍で侍らすことはできません。ですが、その分、自由に動けますので、メリエル様の偉大さを知らしめる宣伝役となるでしょう」
なるほど、なるほど、とメリエルは数回頷いて、更に問いかける。
「ラキュースとイビルアイにのみ、絞ったプランBは?」
「パーティーとしての蒼の薔薇は解散になるかと。ただ2人をすぐに手に入れられるでしょう」
「どれも一長一短ね。私としては気に入った相手に対して、プランBは使いたくはないわ。ニューロニストには悪いけど」
グロやリョナもいけるメリエルとしては、ニューロニストの種族にとても心惹かれている。
「……っていうか、吸血鬼の脳って腐ってるのかしら? モモンガとかの完全に骨だけなら、なんかこう、魔法的な力とか魂的なあれやこれやで思考できるんだろうなって思うけど。その辺、どう?」
「吸血鬼は綺麗な死体のようなものです。鮮度を保ったまま死んでいますので、腐ってはないかと思われます」
「釣り上げた魚みたいなものか……」
さすがはデミウルゴス、物知りだわ、とメリエルは感心しながら、話を元に戻す。
「デミウルゴスとしてはどれが最善だと思う?」
「ペット以外を処理するのが最善と愚考します。その上で、ペットは教育し、教育終了次第、メリエル様が迎えに出向く、というのがペットに対して良い印象を与えることになるかと」
「ふむ、それも良いわね。とはいえ、あんまり酷いことはしたくないし。優しいのでいこうかしら。ただ、そうね、どっかの湧いて出た悪魔が不幸にも、蒼の薔薇を襲ってしまう可能性はあるわね」
メリエルの言葉にデミウルゴスは心得たり、と頭を下げる。
同時にデミウルゴスは興奮した。
以前、彼はメリエルが蒼の薔薇を魔導国の尖兵として使い、人類との間で板挟みにすると思ったのだ。
だが、現実は違った。
流石はメリエル様。
私如きでは計り知れない程のお考えをお持ちだ――
モモンガ様もメリエル様も、もはや私程度の頭脳ではそのお考えの一欠片も理解できない――
デミウルゴスは畏れからくる震えを隠しながらも言葉を続ける。
「それはあり得る可能性です。何分、ヤルダバオトとかいう恐ろしい存在がおりますので、他の悪魔が現れても不思議ではありませんし、ヤルダバオトの指示を受けてという可能性も大いにありえます」
そう告げる彼にメリエルは頷いて、続ける。
「標的は理解できているわね?」
「ラキュースとイビルアイです。その2人がもっとも蒼の薔薇において、失ったら痛手となります」
「やりすぎてはダメよ? ああ、忍者も必要よ。ちょっと調べたいことがあってね」
ユグドラシルにおいて、忍者はそれなりにレベルが高くなければ習得できない職業であった。
しかし、蒼の薔薇の双子にそこまでのレベルはない。
そのカラクリを解き明かす為に、双子は必要だった。
「はい、勿論ですとも。ではその4人は残します。3日以内に実行できるよう、整えます」
「彼女らが人間に絶望するように、仕込みなさいよ?」
畏まりました、と頭を下げるデミウルゴス。
そして次に彼は聖王国についての報告を述べたいとメリエルに告げる。
無論、メリエルに異論などはない。
「聖王国の3名についてですが、いつでも実行できます。実行すれば10分以内に全て終わるでしょう」
デミウルゴスの言葉にメリエルが伝える言葉は一つ。
「作戦を開始して頂戴」
するとデミウルゴスは失礼します、と断りを入れて、
その間、メリエルはソリュシャンに視線を向ける。
「ペットが3人、増えるから。用意しておいて」
「畏まりました、メリエル様。3人は女ですか?」
「ええ、そうよ。ただ、聖王国はいなくなったことに気が付かないでしょうね」
残念ながら、手元に置いておくことはできない。
そのため、ちょくちょく戻す必要があるが、これも布石の為だ。
ラキュース達に関してはメリエルはとても高く評価している。
その為、なるべく手荒なことはしたくはないとナザリックのシモベ達が言うところの、大きな慈悲を与えている。
故に、メリエルはプランB――拉致ってナザリックの真実の間へ送るということはしない。
ニューロニストによる拷問は芸術的とソリュシャンが称する程に素晴らしいものらしく、蒼の薔薇の面々に味わってもらうのは心が痛む。
だからこそ、ヤルダバオトに襲われる程度に済ませるのだ。
勿論、ヤルダバオトが蒼の薔薇を拷問したり何だりするだろうが、それでもニューロニストが実行するだろうものと比べてみれば、比較的優しいものになるだろう。
そして、聖王国に関してはデミウルゴスの分析により、ラキュースらと同じようなマッチポンプは難しいと判断された為、メリエルが慈悲を与える理由が存在しない。
メリエルがニューロニストによる拷問風景を見てみたいという個人的な欲望もあるので、ちょうど良い。
「メリエル様、ここに連れてきてもよろしいでしょうか?」
「起きているの?」
「いえ、意識は失わせてあります」
「それなら一度、見ておきましょうか」
メリエルがそう告げると、デミウルゴスは再度、
そして、5分と経たずに彼女の部屋に3人の女性が運ばれてきた。
3人共例外なく意識は無いが、死んでいるというわけではない。
眠っているだけのようで、その証拠に胸が上下しているのが確認できる。
デミウルゴスはメリエルの前で平伏した。
「メリエル様、聖王国聖王女カルカ・ベサーレス、神官団団長兼最高司祭ケラルト・カストディオ、聖騎士団団長レメディオス・カストディオ、ご献上致します」
うむ、とメリエルは鷹揚に頷いて、とりあえずカルカに近寄った。
そのままメリエルはカルカの顔を優しく撫でる。
「……すべすべしているわね。中々手触りが良い」
「美容技術に関しては中々のものがあるらしい、とのことです」
「何それ凄い。王よりそっちに進んだほうが良かったんじゃないの?」
世の中の女性が飛びつくようなものだろう。
それで一商売できそうね、とメリエルは思いつつ、カルカを見つめる。
「可哀想に。あと数時間程度で、今の彼女達は無くなってしまうのね」
そうは言いながらも、メリエルの気分は大変良い。
「ニューロニストは上手くやってくれるでしょう」
「心を折れるのかしら?」
「それでは不足だと思われるので……脳に直接、教育します。拷問はおそらく行われないでしょう」
「そうなの? まあ、ニューロニストに頑張って、と伝えておいて」
「畏まりました。ニューロニストも、喜ぶことでしょう」
ニューロニストには実は一度もメリエルは現実化してから、会ったことがない。
ちょっと勇気が足りなかった。
モモンガは一度だけ会いに行ったが、すぐに帰ったとのことだ。
それだけ強烈だったらしい。
ともあれ、拷問が行われないなら、メリエルとしても進んでいきたいとは思わない。
「ああ、それともう一つございました。アベリオン丘陵に
「それで?」
「そこの女王がメリエル様のペットになりたい、と申しておりまして」
デミウルゴスとしても少々予想外のことだった。
ヤルダバオトとして亜人達の支配にアベリオン丘陵で活動していたのだが、小耳に挟んだ話によればその
その為、デミウルゴスは献上品として、今回提案したというわけだ。
無論、亜人の中では強いとは言っても、どんぐりの背比べ程度であり、メリエルとは次元が違う。
もし万が一、メリエルの子を孕んだら、という問題は今更の話だ。
というよりも、確率を考えればできるだけ多数の種族の者と長期間、交わってもらったほうが良い、という判断だ。
単純に試行回数を増やす為に。
その為にデミウルゴスとしてはこれからもペットを自発的に献上していくつもりだ。
彼としてはモモンガにも献上し、その心をメリエルのように癒やして欲しいところだが、デミウルゴスの明晰な頭脳はモモンガ様はペットを好まれない、という結論を下していた。
「見た目はどんなのよ?」
「腕は四本ですが、比較的見た目は人間に近いです。顔はそうですね……強いて言えば、蛞蝓のような」
「人化アイテムを使っといて。永続のやつ」
メリエルはそう言って、無限倉庫から小瓶をデミウルゴスへと渡す。
それを恭しく彼は受け取る。
「畏まりました。ただ、少々、メリエル様の御手を煩わせてしまうかもしれませんが……」
「力を見せればいいのね。分かったわ。蒼の薔薇のこともあるし、最速で終わらせましょう」
「畏まりました。ではすぐにでも手配致します。なお、聖王国に対する全体計画の報告に関しましては、後日、モモンガ様とご一緒でよろしいでしょうか?」
「構わないわ。あなたのことだから、抜かりはないと信じているし」
デミウルゴスは己が信頼されていることに深く感激しながら、頭を下げた。