彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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ヤルダバオトは強い悪魔なんだぞ

 

「はぁ!?」

 

 ラキュースは思わず驚きの声を上げた。

 

「ドワーフの国に行くって、本当なの?」

「ええ、本当。だから、あなた達を雇いたい。経費は全部私が出すし、前金1人当たり金貨5万、成功報酬に追加で5万」

 

 ひゅー、とティアとティナが口笛を吹いた。

 難易度は高いが、報酬も破格だ。

 

 わざわざ伝言(メッセージ)を使って、ラキュースにメリエルが連絡を入れたのは3日前。

 そこからラキュースはラナーに会い、基本的にメリエルからの依頼を受けて構わないと確認を取り、今回、王都で蒼の薔薇が泊まっている宿で詳しい話を聞くことになったのだ。

 

「護衛なら剣士がいるだろう? なぜ、私達に頼む?」

 

 そう尋ねてきたのはイビルアイだ。

 

「ああ、彼女ともう1人、同行するわ。理由としては、ドラゴンやら巨人やらがいるアゼルリシア山脈だから、念のためにね」

 

 メリエルの言葉ももっともだ。

 アダマンタイト級冒険者といえど、ドラゴンやら巨人やらを相手にするのは骨が折れる。

 だが、イビルアイが見たところ、メリエルのお抱えの剣士はそこらのアダマンタイト級冒険者よりも実力は上だろう、と判断している。

 未確認情報であるが、元漆黒聖典ではないか、という話もある。

 

「それにラキュースと仲良くなりたいので」

 

 メリエルはニコニコ笑顔で、そう告げる。

 ラキュースとしても、そうやって好意を向けられて悪い気はしない。

 

「メリエル、酒は?」

「黙れ筋肉ダルマ」

「つれないこと言うなよ。お前から貰った酒、アレは美味かったから、期待するのも仕方ないだろう?」

 

 ガガーランの言葉に同意するティアとティナ。

 

「それで、ドワーフの国に行く目的は?」

「ちょっと商売をね。あと学術的興味」

 

 学術的興味、とラキュースは首を傾げると、イビルアイが口を開く。

 

「ルーンか?」

「そう、ルーン。やっぱり私もほら、魔法詠唱者として、そういう興味の出るお年頃なのよ。イビルアイは知ってると思うけど、商売はドワーフの武器やら防具やらの仕入れみたいなものね。品質は良いらしいから」

 

 目的にもおかしなところはない。

 メリエルも魔法詠唱者として、中々の腕前だ。

 物品をどこからともなく魔法で取り寄せるなど、英雄の領域に片足を突っ込んでいるレベルだろう。

 

 また嘘か本当か分からないが、彼女は商売をしているという情報もある。

 裏側の武器商人というのが彼女の正体かもしれない、とラキュースは予想する。

 

「依頼人にこう尋ねるのはおかしいが、メリエル。お前はどの程度の実力がある?」

 

 イビルアイの直球な物言いであったが、ラキュースは咎めるつもりはない。

 

「私としてもメリエルさんの強さには興味があるわ」

「呼び捨てでいいわよ。さっきから敬語をやめてくれていたので、私としては距離が縮まった気がしてすごく嬉しい」

「あなたがドワーフの国に行くとか言ったから、全部吹き飛んだのよ……わかったわ、もう遠慮はしない」

「仲良くやりましょうよ、長い付き合いになりそうだから」

 

 微笑むメリエルにティアが舌なめずりをする。

 

「メリエル、今晩どう?」

「いいわよ」

「ちょっとティア、依頼主なんだから。それとメリエル。そういうのは個人的にやって頂戴」

 

 個人的にならOKということで、ティアはガッツポーズ、メリエルも満足げに頷く。

 

「それはそうとして、メリエル。お前はどのくらい強いんだ? うちのちびさんと同じくらいか?」

「うーん……」

 

 メリエルはちらり、とイビルアイへと視線を向ける。

 ビューイングやら何やらのスキルを使ってどの程度のレベルか、見ても良かったが、敢えてそうはせず、彼女は告げる。

 アダマンタイト級ともなれば実力を隠蔽する類のアイテムくらいは装備しているだろう、と予測したのもある。 

 勿論、見ない方が面白そうというしょうもない理由も存在する。

 

「戦士9人と同時に戦って引き分けたんだけど……」

「魔法詠唱者が近接戦?」

 

 イビルアイは思わず問いかけた。

 確かに状況的に無いとは言い切れないが、それでも可能性としては極めて低い。

 

「ちょっと昔、色々あってね。とはいえ、そうね、一番手っ取り早く実力を示すってなると……」

 

 何かなかったか、とメリエルが覚えている魔法を思い返して、ちょうどいいものを見つけた。

 

大治癒(ヒール)が使えるわ」

 

 そう彼女は言って、無限倉庫からナイフを取り出して、自分の指先を傷つけ、唱えた。

 

大治癒(ヒール)

 

 あっという間にその傷は消えてなくなった。

 

「……信仰系魔法詠唱者だったのか?」

「正確にはどっちも使える」

「魔力系はどの程度まで?」

「秘密」

 

 メリエルの言葉にイビルアイは軽く溜息を吐く。

 教える気がないと容易に理解できたからだ。

 

「これで分かってくれたかしら?」

 

 メリエルはラキュースに視線を向けて、問いかける。

 

「ええ。私とあなたがいれば万全ね」

「依頼は受けてくれるってことでいいわね?」

 

 メリエルの問いにラキュースは頷いた。

 ラキュースが受けると判断したならば、他のメンバーに異論は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お忙しい中、拝謁する機会を賜り……」

 

 仰々しい口上を述べるデミウルゴスにメリエルは手をひらひらと振る。

 

「そういうのはいらないわ。珍しいわね、あなたから私に相談事って」

 

 ドワーフの国へ向けてラキュース達に協力を取り付けるなどの準備をメリエルが行う中、デミウルゴスがメリエルに相談をしにやってきた、というのが事の発端だ。

 

 リザードマンの件は先日、片がついており、メリエルを除いたナザリック全軍でもって押しかけて、力の差を見せつけていた。

 結果、リザードマンはナザリックの支配下となり、コキュートスが統治するという報告をモモンガから受けていた。

 

「蒼の薔薇の件ですが、聖王国の件と連動させたほうが良いかと思いまして」

 

 聖王国と蒼の薔薇を連動させる、というはどうにもメリエルにはピンとこない。

 困ったときはデミウルゴスとばかりに聞いてみることにした。

 

「デミウルゴスの計画に組み込んだ方が良い、ということかしら? そちらの概要は?」

「聖王国に関しては魔王ヤルダバオトという架空の存在をでっち上げようかと」

 

 メリエルは軽く頷き、彼の言わんとしていることを推測する。

 

「つまり、ヤルダバオトに蒼の薔薇を襲わせて、そこを私が撃退すると。聖王国はモモンガも一枚噛ませた方が良いかしら?」

「はい。今後のことを考えますと、その方が都合が良く、メリエル様のご期待に添える結果となるかと……」

「参加兵力は?」

「ヤルダバオトは私が演じ、また私の配下の悪魔を数体程度、予定しております。聖王国の者はもとより、蒼の薔薇ですら手も足も出ない程度のレベルの者を用意します」

 

 なるほど、とメリエルは頷いて肯定しつつ、問いかける。

 

「蒼の薔薇のイビルアイ、あれはどの程度か、予想はできる? 中々、大口を叩いていたけれど」

「アレは吸血鬼ですね。それも人間から成った類です」

 

 メリエルはソファからずり落ちそうになった。

 

 なにそれ知らない――あ、調べてなかった――

 

 隠蔽する類のアイテムをつけているだろうし、調べないほうが面白そうだから、というしょうもない理由で調べなかった結果、まさかのものが飛び出してきたので、メリエルとしては驚きを隠せない。

 リアルのときでは考えられない慢心にメリエルは内心、笑ってしまう。

 

 標的の全てを調べ尽くすのが、仕事の前段階であるのに、と。

 

 そんな彼女に対し、デミウルゴスは説明する。

 

「国堕としと現地で呼ばれている吸血鬼です。正確には吸血姫……鬼ではなく姫と表記するものらしいです。とはいえ、メリエル様やモモンガ様と比較するのも烏滸がましい、塵芥の類ですよ」

「なるほどね……とはいえ、その年月、蓄えた知識は本物でしょう。無闇矢鱈に他を襲っていないところからも、馬鹿ではないわね」

「塵芥如きに何と、慈悲深いお言葉です」

 

 デミウルゴスはそう言いつつ、メリエルの次の言葉を待つ。

 次に放たれる言葉こそ、塵芥にはもったいなさすぎる、慈悲に溢れたお優しい言葉であると確信して。

 

「手に入れたいわ。心の底から私に服従を誓わせたい」

「畏まりました」

 

 デミウルゴスは深く頭を下げる。

 

 メリエル様のお傍に侍ることが許されるなど、至上の栄誉であると刻んでやらねばなりませんね――

 

 

 

 そんなことを思う彼にメリエルは更に言葉を続ける。

 

「どうせならアルベドも出してあげましょうか」

 

 デミウルゴスはそのとき、脳裏に電撃が走る。

 即座にその意味を理解するとともに、言外にあるメリエルの意図を正確に――正確過ぎてメリエル本人が考えていなかったことまで――読み取る。

 

「流石はメリエル様。そこまでお考えとは……」

「どこまで理解した?」

「私とアルベドの連携訓練が狙いとより絶望を相手側に与える為に……」

「あー、そうね。それとかもあるけど、もっと単純で、アルベド、ずーっとナザリックにこもりっきりだから、その気晴らしもあるわ」

「なんと慈悲深い……」

 

 デミウルゴスは感動に身を震わせる。

 

「それにアルベドにカッコいいところを見せたいという私の個人的欲望もあるの」

「アルベドも喜ぶでしょう」

「だからデミウルゴス。私と対峙した際は立場を抜きで、全力できなさい。蒼の薔薇の連中が私を崇拝するくらいにまで全力でやりたいの」

 

 にんまりと笑みを浮かべ、デミウルゴスは頭を下げる。

 

「畏まりました。アルベドや配下の者にそうお伝えします」

「ええ、そうして。ところで、途中からモモンガも参戦したほうが面白いかしら?」

「畏れながらメリエル様。モモンガ様がここで参戦なさると、少々刺激が強すぎるかと……当初の予定通り、カッツェ平野における段階で……」

「そう、残念ね。今度、私とモモンガ対守護者全員でPvPでもしましょうか。連携の訓練にちょうど良いわ」

 

 なんと、とデミウルゴスは驚愕する。

 彼が言葉を失う中、メリエルはにっこり笑って更に告げた。

 

「そのくらいでなければ、訓練にならないでしょう」

 

 デミウルゴスはその自信に満ちた言葉に喜びに身を震わせる。

 

 なんという強大な御方々――

 その方々が、これほどまでにシモベに慈悲を掛けてくださるとは――

 

「ところで襲撃場所に関してだけど、なるべく平原がいいわ。適当な場所を見つけたら、教えて頂戴。連絡は密に。あなたのことだから、抜かりはないと思うけど」

「畏まりました。全てご期待に添えるように致します」

「詳しい作戦計画については、あとで書面にまとめて提出して頂戴。場合によっては多少変更を加えるから」

「畏まりました。聖王国の件も含めて、書面にて改めて提出させて頂きます」

 

 デミウルゴスの返答にメリエルは満足げに頷いたのだった。

 

 

 


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