彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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そうだ、ドワーフの国へ行こう!

 

「ドワーフの国ですか、いいですね、それ」

 

 メリエルがナザリックに帰ってすぐ、ウキウキ気分でモモンガにその成果を報告する。

 そうすると、彼は冒険の匂いを嗅ぎつけたのか、そう返してきた。

 

 この世界の一般的冒険者が単なるモンスター退治屋兼便利屋と知った彼はそういう未知なるものに対して敏感だ。

 

 魔導国の方針の一つとして、未知を探索する冒険者の育成を推し進めたいとしているのが彼だ。

 メリエルを始めとした、デミウルゴス、アルベドの三者に対し、冒険者の育成について、プレゼンテーションしたときなどはとても生き生きしていたのはメリエルの記憶にも新しい。

 

「リザードマンの件も無事に済みそうですし」

 

 リザードマンの件はコキュートスが軍勢を率いて攻めるも、決死の抵抗により、一度目は頓挫している。

 二度目の失敗を許されぬとばかりにコキュートスは悲痛な思いで、友人であるデミウルゴスに胸の内を明かした結果、デミウルゴスは快く彼に協力することになった。

 

「流石はモモンガ様ってデミウルゴスが言ってたわね」

「買い被り過ぎなんですよね……何をやっても私やメリエルさんの手のひらの上ですよ」

「主人公補正というか、ご主人様補正ってやつよね。リザードマンの件はノータッチだけど、結局、どうするの?」

「デミウルゴスの策によれば、メリエルさんの真似をするそうです。今度、私も行ってくるんですよ。ナザリック全軍を率いて、リザードマンの集落を攻めます」

「ちょっとそれ私は聞いていないんだけど」

「メリエルさんが来たら、物理的に色々無理でしょう。万単位の軍勢なんて、あんなところに展開できませんし、したとしても身動きが取れない単なる案山子になりますよ。ですので、私が参加は必要ない、と止めてあります」

 

 ホムンクルスの軍勢は森とか沼地とか苦手でしたよね、とモモンガの指摘にメリエルは拗ねたように口を尖らせる。

 

「基本、軍隊っていうのはそういうところは苦手なの。レッドコートだけでなく、別の軍隊も作ってるけど、基本的には草原とか平原でぶつかり合うのが得意ね。フランスの老親衛隊とかローマの軍団とかもあるわよ?」

 

 メリエルはそう言って、一度言葉を切り、更に続ける。

 

「他にもファンタジーなやつも作ってる。どれもレッドコートに比べると数は少ないけど。どうせなら、カッツェ平野での戦いでは帝国の庶民とか一般の騎士達にも分かりやすいように圧勝してみたりとか面白いかもね」

「私も軍勢、出しましょう……メリエルさんは天使、出さないでくださいよ? アレは世界崩壊とかそういうノリになってしまうので」

「天使は、さすがによっぽどのことがないとやんないわよ。カッツェ平野でも出さない」

 

 モモンガは胸を撫で下ろす。

 しかし、その効果や見た目を語るのは何も問題はないが故に、彼は弾んだ声で告げる。

 

「あれは本当にかっこいいですよね。セフィロトの樹が大空に描かれて」

「設定からすると、あれ世界の裏側にいても見えるらしいわね。世界中から見えるって書いてあった気がする」

「……すごいですけど、後始末がとんでもなく面倒ですよね」

 

 超位魔法の天軍降臨《パンテオン》ではなく、メリエルがこれまでその種族スキルとして持つ最上位天使作成を始めとした各位階の天使作成スキルで作りに作って溜め込んだあらゆる種類の天使の一斉召喚だ。

 

 ホムンクルスの軍勢とはまた違った壮大さがあり、文字通りラグナロクやハルマゲドンといった趣がある。

 モモンガも似たようなものを作りたくて真似したが、どうにも壮大さでは負ける。

 不気味さでは勝っているのだが、モモンガ本人としてはあんまり嬉しくはない。

 

「まだ私が作り出した、不死軍団の方が使いやすいでしょう。カッツェ平野ならより映えること間違いないですね」

 

 ふふふ、と自慢げに告げるモモンガ。 

 彼もまたメリエルに触発されて、似たような軍勢を作っていた。

 ユグドラシル時代から上位アンデッドなどの作成スキルを駆使して、毎日毎日作り貯めたアンデッド達。

 

 メリエルと同じように異空間に保管してあり、特定の魔法を唱えることによって一斉に召喚できる。

 ユグドラシル時代に彼はそれをナザリックに攻め込んできた連中に使おうと思っていたが、結局それを使うことはなかった。

 

 うまくいかない、と彼がかつてナーベラルに語ったが、それは見た目の問題だ。

 メリエルの天使軍団やホムンクルス軍団と比べて、美しくないのである。

 

「それとやっぱり、現地人で構成した部隊を作る。クレマンティーヌとレイナースとあと蒼の薔薇の連中と適当なワーカーとかエルフとかダークエルフとか……」

「現地からすると豪華なんでしょうが、我々からすると寄せ集め感が半端ないですね。それと、番外席次は入れないんですか?」

「番外が組むとするなら私。性格的な意味で」

「戦闘狂でしたね。お似合いですよ」

 

 うんうんと頷くモモンガにメリエルは不満げな顔だ。

 それを見なかったことにして、彼は告げる。

 

「それはさておき、ドワーフですね。私とメリエルさんは決定として……正直、2人だけでいい気がしますが、プレイヤーの存在や他の不確定要素を考えると、守護者を何人か」

「あるいは、私とモモンガでパーティーを分けるっていうのもアリね。どちらもワールドアイテム持ちだし、転移も使えるし」

「ふむ……それはそれで良い案ですね。ではメリエルさんが先行して、進路警戒をしながら、私が進むというのは?」

「よくやった手ね、それでいきましょう」

 

 ユグドラシル時代、未知のマップを探索する際にやったやり方だ。

 前方警戒の偵察班を配置するだけのことだが、このような大したことないものであっても、モモンガにとってもメリエルにとっても楽しい思い出だ。

 

「どうせなら、蒼の薔薇あたりに依頼を出す? それなりに関係を結んだから、たぶん受けてくれるわよ」

「かっこいいところを見せようと思っているんですね、分かります」

「それもあるけど、私をアピールしておこうかと」

「あれ、民衆の憎しみを煽って云々って言ってませんでしたっけ?」

「それはそれ、これはこれよ。主人の実力は見せておかないと」

 

 犬とかの躾と同じか、大変だな、とモモンガは思う。

 

「分かりました。メリエルさんのことですから、クレマンティーヌとレイナースと番外席次あたりも連れていくんでしょう?」

「番外席次は、ちょっと遠慮したいけど、いつまでも逃げるわけにも行かないから連れていく。ちょうどいいから、そのタイミングで正式にこっちに移す」

「いやー強いって大変ですねー」

 

 棒読みのモモンガにメリエルは「ぐぬぬ」と悔しげな顔だ。

 

「で、なんで嫌なんですか? 好きでしょ、ああいうの」

「あそこまで明け透けだと何か萎えるのよね。ほどほどの恥じらいってやっぱり大事」

「あー……確かにそれはありますね。恥じらいがないと」

「まあでも結局食べるけどね」

「ですよねー」

「ああ、そういえばなんだけど、モモンガは人化のアイテムを使えばって条件つくけど、私もあなたもデキるらしいわよ? 低確率で」

 

 メリエルの言葉にモモンガは数十秒の時間を掛けて、その言葉を理解した。

 

「……はい?」

「アルベドにこの前、聞いてくれってデミウルゴスに頼んでおいたのよ。ほら、私がナザリックの戦力拡充と八欲王や竜王についての情報云々って言ってたとき。アルベドって淫魔だから、そういうことが分かるんじゃないかって思ってね」

「ああ、あのときに」

「それから少しの間をおいて、デミウルゴスが結果を持ってきたわ。聖王国に行く直前に寄ってくれたのよ」

 

 なるほど、とモモンガは頷きながら、喜んで良いのかどうか、困惑する。

 相棒を失って寂しいが、その相棒が復活できるのだ。

 だが、問題は相手である。

 

 いっそのこと、メリエルさんみたいに適当な輩を捕まえて……いやいや娼婦に頼んで……

 

 そんな思考にモモンガは包まれるが、それを見逃すメリエルではない。

 

「モモンガ、童貞は誰に?」

「……恥を忍んでお尋ねします。ぶっちゃけ、相手、どうすればいいですか?」

 

 その振る舞いと声色から、どうやら本気で悩んでいるらしいとメリエルは感じ取る。

 

「一番後腐れがないのは私で済ますことだけど……まあ、無理ね」

「ええ、無理ですね。たぶん魔法を叩き込みます」

「奇遇ね、私も魔法を叩き込むわ。まあ、それはさておいて、ヒルマに頼んで高級娼婦を回してもらう? それとも奴隷で済ませるとか、あるいは適当なやつを捕まえるか」

「碌な選択肢がないんですが……」

「黙れ童貞。そんなんだから童貞なんだぞ」

「誰彼構わずに抱きまくるヤツには言われたくないですね」

 

 それをきっかけに悪口の応酬が始まるが、いつものこと。

 5分もすれば元の話題に戻ってくる。

 

「まあ、ぶっちゃけた話、ナザリックの誰かとか。デミウルゴス配下の淫魔とかなら本当に後腐れないわよ?」

「あー、その手はありますね。見た目も好みですし」

「巨乳好きだったわよね。私もちょろっと見たくらいだけど、巨乳から貧乳、無乳に加えて、ツインテールやらポニーテールやらロリやら色んな属性の子がいたわよ」

「ユグドラシルのモンスターも色々いましたからね。エロいのを見つけるとテンション上がりました。あと一応、自分ではサドだと思ってます」

「モモンガは絶対にマゾだと思うわ。間違いない」

「またまたご冗談を……」

 

 モモンガの声色は明るい。

 悩んでいた問題の一つが解決できそうだからだ。

 

「で、結婚相手は? 私の予想だと、初めての相手に情が移って、名もなき淫魔を愛して大事にしちゃって、向こうも当然その気でそのままゴールインってところまで予想できるんだけど」

 

 ありえそうな未来にモモンガは固まった。

 

「ど、どうしましょう、メリエルさん!」

「狼狽えるな、モモンガよ。別に妃は一人である必要はないのだ」

「全力で駄目な方向へ持っていくのはやめてください!」

「まあまあ、いいじゃないの。向こうも玉の輿だし。あ、ご祝儀は8トンくらいの金塊でいいかしら? 末広がりって言うし。あなたが好きになったなら、誰も文句言わないわよ。勿論、私だって素直に祝福する」

 

 最後のほうは真面目な顔でメリエルはそう言った。

 

「……ありがとうございます。私だって、メリエルさんみたいに女の子とイチャコラしたいんですよ」

「ねぇモモンガ。世界征服のついでに、嫁探しってどうかしら? 悪くないと思うけど」

 

 メリエルの提案にモモンガは悩みに悩む。

 悪くはない、悪くはないのだが、どうにも一歩を踏み出せない。

 

「とりあえず、モモンガさんや」

「何でしょう?」

「あなたの支配者ロールプレイではなく、内面を見てくれる子で、胸が大きくて、包容力があって、悩みを聞いてくれる、そんなお姉さんタイプがいいと思うんだけど?」

 

 モモンガの心にその言葉は響いた。

 確かにそれだ、と彼は直感する。

 

 悩みを打ち明けられる相手はメリエルさんしかいない現状。

 それだけでも非常に有り難いし、なんだかんだでメリエルさんは内面を正確に見抜いてくるし、ふざけて包容力らしきものを示すこともあって――

 

 

 そこまで考えて、モモンガはまじまじとメリエルを上から下までゆっくりと見た。

 

 全部当てはまっているの、メリエルさんじゃないの?

 

 思わず、そんな言葉を発しそうになったが、モモンガはぐっと堪えた。

 

「俺はノーマルなんですよ。メリエルさんと違って」

「おい何を考えた? そして微妙に距離を取るんじゃない!」

「いやいや、まさかメリエルさんが……うわぁ……」

「この骸骨野郎! ぶっ殺してやる!」

「もう死んでるわ! この変態野郎!」

 

 互いに魔法を発動する直前までいき、そして互いにキャンセルする。

 モモンガは呟く。

 

「俺としては、やっぱりお姉さんタイプがいいな……」

「ついに一人称を崩してきやがった」

「メリエルさんが変なこと言うからですよ……その条件に当てはまるの、メリエルさんでしょ?」

 

 問いかけられ、メリエルは少しの間を置いて、一気に離れた。

 

「うわぁ……モモンガって……やっぱり私の身体が目当てだったのね!」

「え、素で言ってたんですか?」

「気づかなかった」

「どうでもいいところでうっかり属性をつけにくるとか、この天使汚い」

「いいじゃないのよ。で、それらを考えると、やっぱりナザリックの外だと難しそうなのよね。内面を見てくれる、悩みを聞いてくれるっていう部分が最難関。正直、色々と表に出すとマズイことが多いし」

 

 確かに、とモモンガは同意する。

 

「やはり、ナザリックの中ですか」

「ユリがおすすめ。たぶんあの子ならさっきの問題全部クリアできる気がする。他は……言わなくても分かるでしょう」

 

 メリエルの言葉にモモンガは頷く。

 ナザリックのシモベ達は忠誠心が限界突破している上に、カルマが悪に傾いている。

 数少ない例外、カルマが善である一人がユリ・アルファだった。

 

「……いざその時がきたら、本当にどうしようもなくなったら、考えてみます」

 

 モモンガとしては最大限の譲歩だろう。

 彼の言葉にメリエルは微笑んだ。

 

「私は本気で、あなたには幸せになってもらいたいわ。これまで、そしてこれから、アレコレと迷惑掛けてきたし、掛けるでしょうから」

 

 そう真正面から言われると、モモンガとしてもなんとなく気恥ずかしい。

 とはいえ、言わないわけにはいかない。

 

「そう思うなら、もう少し自重してください。俺としても、大変なんですよ?」

「できると思う?」

「無理ですよね、知ってますよ」

 

 深く、それはもう深くモモンガは溜息を吐いてみせる。

 

「ドワーフの国、近日中にやりましょう。そっちのリザードマンが片付いてから」

「1週間以内には確実に終わります。メリエルさんは好きなようにパーティーの編成を。こっちも好きなようにやりますので」

「いつも通りということね」

「ええ、いつも通りです」

 

 紆余曲折を経て、ようやく本来の話が纏まった。

 

 

「ところで、ドワーフの国ってどこにあるんですか?」

「……ニグレドというとてもこういうことに最適な存在がいる。ニグレドが発見するまでお預けにしましょう」

 

 モモンガはメリエルの返答に生暖かい視線を送った。

 

 

 


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