彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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ベッドルームではっちゃけて、星空見るだけの話

 

 

 

 メリエルはドキドキ・ワクワクと興奮が収まらなかった。

 それはひとえに、ナーベラルとソリュシャンを自分付きのメイドにできたからに他ならない。

 

 彼女の自室は広い。

 第9階層の一部分を自分専用の居住区としている。

 部屋ではなく、居住区。

 それくらいに広い。

 ひとえにそれは、彼女がギルドに大きく貢献していたから。

 熱素石集めの際は集まってくるプレーヤー達をその軍勢で蹴散らし、1500人侵攻の際もまたその軍勢で蹴散らし――

 

 基本、彼女が単体で戦うということはPvPを除けばあまりなかったが、それでもその軍勢は彼女のみが扱えた為に彼女の貢献だ。

 

 そんなわけで彼女はギルドにおいても、中々に融通が利いた。

 

「……そういや、こうなってからここに来るのは初めてね」

 

 メリエルの自室はとても広い。

 部屋数も、一つ一つの部屋の広さも、そしてその種類も。

 カラオケ部屋からボーリング部屋、果ては拷問部屋まで何でも揃っていた。

 

 とりあえずベッドルームへと赴いて、豪華な天蓋付きのベッドに思わず唖然とする。

 

「しばらく眠れないかもしれない」

 

 アンデッドではないメリエルであるが、そもそも人外である。

 とりあえず性欲はあることは確認できたが、睡眠や食事もとってもとらなくても問題ないかもしれない、とそこまで思い至った時だった。

 

 扉がノックされる。

 入るようメリエルが伝えると、ゆっくりと扉が開き、待望の2人がいた。

 

「ナーベラル及びソリュシャン、至高の御方であるメリエル様のお傍に仕えさせていただきたく参上いたしました」

 

 ナーベラルがそう口上を述べた。

 随分と堅苦しいが、これを受けるのもまた特権である、とメリエルはポジティブに考えることにした。

 

「うむ、構わない……ところで、ここは生活スペースであって、あなた達はメイド、という認識で良いかしら?」

 

 ナーベラルとソリュシャンは内心不思議に思いながら、肯定する。

 

「じゃあ、私の威厳とか色々なものをここで出す必要はないわね」

 

 そう宣言して、ひゃっはー、とベッドにダイブするメリエル。

 突然の行動にナーベラルもソリュシャンも唖然とするが、そこは優秀なメイド。

 すぐさま再起動を果たす。

 

 メイドとして最高の冷静さをもって、目の前ではしゃぐ至高の御方を見ながら、メッセージでやり取りする。

 

『……ねぇ、ナーちゃん』

『無邪気な御姿を晒せるのはここだけであり、それを見る資格を有するのは我々のみ……』

『実にいい状況ね』

 

 表情には全く出さず、しかし、その心は非常に興奮しているメイドの2人。

 

「そういえば、人間ってどう思う?」

 

 唐突に飛んできた質問。

 しかし、2人はすぐさま答える。

 

「ゴミです」

「とても楽しめるものです。6ヶ月くらいの無垢な存在とか特に良い声を上げてくれます」

 

 なるほど、とメリエルは頷く。

 

「人間は脆弱で、愚かで、矮小で、無駄に数が多い……だからこそ、もし一致団結したとき、その多様性から極めて強力な敵となりうる。我々が人間を1人殺している間に、人間は1000人くらい生まれる」

 

 しばらくは息を潜めた方が良いだろう、とメリエルは呟くように言った。

 

『ちょ、ちょっと、メリエル様は何を仰られたいの?』

『私達に人間の強さを教えたいのだろうか?』

『……良く分からないわ』

 

 2人がメッセージでやり取りしているが、メリエルは告げる。

 

「分からないわよね」

 

 どきり、とナーベラルとソリュシャンは飛び上がりそうになった。

 

「簡単な話よ。人類というのは生まれてからずっと、数百万年くらい戦争をしながら発展してきたのよ。たかだが数千年とかそこらの、ぽっと出じゃ、そんな戦争のプロフェッショナル相手に戦っても、敵わないのは当然よ」

 

 ナーベラルとソリュシャンは思わず身を震わせた。

 

 まさしく賢者――

 

 先ほどの無邪気な姿も何かしら意味があるのではないか、と2人は考えてしまう。

 

「でもまあ、モモンガがなんかやりたいって言ったらやろうかな。世界征服とか。彼の性格からそれはないでしょうけど」

 

 さらりと言ってしまうところにナーベラル達はまたまた戦慄する。

 きっとそれはこの方々にとっては容易いことなのだろう、と先のシャルティア戦を見ていれば強く思わざるを得ない。

 

「あ、ちなみにだけど、私は集団戦とか単体戦闘とか強いけど、モモンガはどっちかというと撹乱とかそういう搦め手系が得意なのよ。真っ向勝負なら私が勝つけど、それ以外なら向こうが勝つんじゃないかしらね」

 

 メリエルがそう言った直後、モモンガからメッセージが飛んできた。

 

 ちょっと外に行きませんか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 誘われてナザリックの外へとやってきたモモンガとメリエル。

 ナーベラルとソリュシャンもまた2人からやや離れて付き従う。

 

 もうすっかりと日は落ちたらしく、満面の星空が広がっている。

 現実世界では到底見られなかった光景だ。 

 

 

 夜空には美人が似合う、とモモンガをメリエルが真顔で説得した為、2人でちょっとでかけたかったモモンガも首を縦に振らざるを得なかった。

 ちなみに美人と言われて、ナーベラルとソリュシャンは狂喜乱舞しそうになったが、メイドとしての意志の強さで何とか抑えこんだという2人の知られざる戦いがあったりする。

 幸いなことに、プレアデスの2人を連れていた為、第一階層にいたデミウルゴスも自分がついていくといったことは言わず、モモンガとメリエルを送り出していた。

 

 

「本当に宝石箱のようですね」

 

 フライにて空を飛びながら、モモンガは口を開く。

 

「確かに。世界征服とかする? 超がつくほど、手間と時間がかかるし、した後にどうするかって問題が出てくるけど」

 

 そう言ってくるメリエルに、本当に現実的だよなぁ、とモモンガは思いながらも苦笑する。

 

「メリエルさんはどうしたいですか?」

 

 問いにメリエルはナーベラルとソリュシャンへと顔を向ける。

 

「美人の嫁が欲しい。あと、軽く戦ってみたい」

 

 ナーベラルとソリュシャンは何を思い描いたのか、ふらふらと蛇行した。

 

「……俺、何でアンデッドにしたのかなぁ」

 

 遠い目でモモンガは空を見つめた。

 綺麗な星々だった。

 

「アルベドが何とかしてくれる。たぶん、きっと、おそらく……」

 

 メリエルは一応のフォローを入れてみる。

 彼女とて具体的にどうするか想像はつかない。

 人化ができるアイテムを使えば何とかなるかもしれない、という程度しか思いつかない。

 

「さっき、アルベドと話していたんですが、ちょっと目がやばかったです。貞操の危険を感じました」

「いいじゃない。羨ましい。リア充死すべし慈悲はない」

 

 そう言ってリアリティ・スラッシュを唱えようとするメリエルにモモンガは切り返す。

 

「ナーベラルとソリュシャンって十分リア充じゃないですか。アルベドと違ってこう、危険さがないし」

「……何か人間やめた方が充実しているっておかしくないかな」

「おかしい気がします」

 

 2人揃って溜息を吐く。

 

「ま、まあ、ともあれ、もし人間とかと関わる機会があったらどう関わる? 恐怖の大王的に? それともちょっと不気味な隣人として?」

「……ケースバイケースとしか言えません。何か良い知恵はありますか?」

「相手の文明レベルにもよる。もしリアルと同じ程度だったら、友好をアピールしないとバッドエンド間違いない。だけど、それ以前の、例えば中世レベルだったら……経済を握って、裏から支配するのも良い」

「明日からはより情報収集に努めねばなりませんね」

「適当な隠密に向いたシモベ達を複数チーム作って、効率的にやらないと……」

 

 メリエルさんがいてよかった、そう強く思うモモンガだった。

 

 

 この後、ナーベラルとソリュシャンにより、メリエルとモモンガのやりたいことがアルベドをはじめとした守護者達に伝えられ、盛大に勘違いされて、この世界をお二人に! という風になってしまったのは余談である。

 

 

 


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