彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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黄金の姫

 

 深夜、ラナーは自室で、ある人物を待っていた。

 待ち合わせの時刻は0時ちょうど。

 0時まであと数分だ。

 

 ラナーはデミウルゴスから聞いていた。

 そのために、ある程度の情報は頭にある。

 

 事前情報の通りならば、人外の、それも桁の違う輩。

 だが、思考が読めないというほどのものではない、とラナーは予測する。

 

 メリエルのこれまでの動きは、あまりにも人間臭いからだ。

 

 そのときだった。

 0時になると同時に、目の前に唐突に音もなく現れた。

 

 あまりの美しさに普通の者ならば目を奪われてしまうことだろう。

 しかし、ラナーには表面的な美しさなど通用しない。

 

「お邪魔するわ。初めまして、私がメリエルよ」

「こちらこそ、初めまして。ラナーです」

 

 メリエルもラナーもともににこやかな笑みを浮かべ、そう言った。

 見目麗しい乙女同士の談笑に見えるが、そんな甘いものではない。

 

 メリエルは二言目は告げず、じーっと、ラナーの青い瞳を見つめる。

 はて、とラナーは首を傾げる。

 彼女が出している表情は間違っていない筈だからだ。

 

「あの、どうかされましたか?」

 

 ラナーの問いにメリエルは何故か納得したように、うんうんと数回、頷いた。

 

「あなたもつまんなかったわね。もっと私と早く出会えていれば、退屈させなかったのに」

 

 メリエルの言葉の意味をラナーは瞬時に理解する。

 思わずに、ラナーの本来の笑みがこぼれそうになる。

 

 メリエルとて事前に情報を得ているだろうが、それでも出会って数分と経たずにそこまで見抜いてきた。

 

「クライムだっけ? 彼よりも早く私があなたを拾ってれば、とても面白いことになったのに。ああ、表情は本来のものに戻してくれないかしら? そんな仮面はいらないわ」

「ふふ、どうやらデミウルゴス様が仰っていたよりも、もっと凄い御方でしたね」

 

 ラナーはそう言って、表情を一変させる。

 人が見ればそれはおぞましい化物に変貌したと言うものもいるだろう。

 

 しかし、メリエルは軽く溜息を吐いてみせた。

 リアルでの彼女の部下にはこういう輩は何人もいた。

 メリエルからすれば慣れた相手だった。

 

「……思ったよりも普通ね。もっとすごいくらいに豹変するかと思ったけど」

 

 これにはさすがにラナーも本気で困惑した。

 

「えっと、そうですか? この顔を見せると、大抵化け物扱いされるんですけど」

「私からすればそうは思わないわね」

 

 企業内部のアレコレや権力握った人間の仕出かすことやらアレコレ知っていると、大抵のことには動じなくなるものなのである。

 

 人間というのはどこまでもどこまでも汚く黒く残酷になれる、とメリエルは思わず遠い目になってしまう。

 そして、自分の仕事もそういうものだったなぁ、と思い出して苦笑する。

 

 世間的に見れば自分もネットによく書かれていた通りに死刑執行人だ。

 だが、それが自分の利益になるなら、やるのは当然だろう、と。

 

 メリエルは頭を軽く振って、昔のことを遠くへと追いやる。

 

「何にもないのはアレだし、色々持ってきたから食べましょ」

 

 メリエルは無限倉庫の中から諸々なものを取り出す。

 焼き菓子からフルーツの盛り合わせなどなど様々だ。

 

「太ってしまいます」

「そう言いながら、手を伸ばしてるじゃないの。あ、紅茶は?」

「いただきます。申し訳ありません、こちらがもてなす側である筈なのに」

「構わないわ。で、今度、例のパーティー」

 

 ラスクを上品に食べながら、ラナーは軽く頷く。

 

「メリエル様って女好きというか、女狂いというか……変態?」

「あら、愛の形の一つよ。あなたのクライムに対する愛もまたそれと同じ」

「私はクライム一筋です」

 

 もー、と頬を膨らませるラナー。

 それを見ながら、くすくす笑うメリエル。

 

「あなたとの会話は楽でいいわ。ラキュース、もらうけどいいわね?」

「ええ、どうぞ。もう必要ありませんので」

「可哀想なラキュース、友達だと思っていた子に利用されるなんて」

「社交辞令を真に受ける方が悪いのでは?」

 

 ラナーの言葉にメリエルはくすくすと笑う。

 

「計画書は読ませて頂きました。将軍や騎士達の教本にしたいくらいに、よくできていますね」

 

 ラナーはそう言って、メリエルの反応を窺いながら、更に言葉を続ける。

 

「まるで、何回もこういうことをやってきたかのように」

「あら、暇つぶしに勉強の一つでもすれば誰だってそれなりにはなるわ」

「それなり、と評価するにはちょっとよく出来すぎていますね」

 

 メリエルは笑みを深める。

 

「知りたいの?」

「いいえ。知ればきっと、大変なことになりそうですから。ただ、私の気が変わったら教えて頂くかもしれませんが」

「あら残念。つまらないわ」

「申し訳ありません。お詫びに、メイドをお渡しします」

 

 メイドという単語にメリエルはにんまりと笑う。

 

「クライムをバカにされたの?」

「ええ。ですので、始末したいと思いまして。なるべく長く悶え苦しんで、死にたいと願うようにして頂ければ……」

「もったいないわ。死んだら、それ以上の苦痛を与えられないじゃない」

 

 まあ、そうでした、とラナーはうっかりしていたと言わんばかりに驚いてみせる。

 

「虫に内部から食わせるってどうかしら?」

「それは名案ですね。是非そうして頂ければ」

「それじゃあそうするわ。たぶんすぐ死んじゃうから、その後は蘇生して私のペットにしても良いかしら?」

「構いませんよ。私はとても優しいので、それで許してあげましょう」

 

 メリエルは軽く頷き、紅茶を一口飲む。

 少し冷めたが、それでも十分に美味しいものだ。

 それにつられて、ラナーも紅茶を一口飲む。

 

「美味しいですね。茶葉は独自の物を?」

「ええ、そうよ。こうして話してわかったけど、あなたとは仲良くやっていけそうだわ」

 

 まあ、とラナーは嬉しそうに声を上げてみせる。

 メリエルは彼女に微笑みながら告げる。

 

「1人の死は悲劇よ。でもね、100万人の死は単なる数字。そうでしょう?」

「ええ、その通りです。どうにも私の周りの皆さんはそれが理解できないようで」

「正直、クライムと比べたら100万人くらい安いものよね」

「ええ、まったくその通り」

「可哀想に。王国の国民はこれからひどい目に遭うから、せめてその中でたった2人の、身分を超えたラブストーリーがあっても、ハッピーエンドが1つあっても良いわよね?」

「ええ! 全く問題ありません!」

 

 誰のことか瞬時に理解したラナーは、思わずに身を乗り出し、力強く肯定した。

 

「あなたとクライム、くっつけてあげる。クライムが他の女に目移りしないようにもしてあげる。鎖とか首輪とか小道具はほしい?」

「是非に。何を提供すれば?」

「あなたの頭脳。世界征服するからちょっと協力して」

「その提案、のりました」

 

 2人はどちらからともなく、手を差し出し、がっしりと握手する。

 

「クライムとあなたの新居を用意する。夜の生活に必要な小道具も揃える」

「世界征服の為に一緒に頑張りましょう。あ、忠誠はいりますか?」

「一応あると嬉しいけど、どっちでもいいわ。それと、クライムを説き伏せるのはあなたに任せるわよ」

「ええ、勿論です。ふふ、クライムは本当に子犬みたいで可愛いんですよ?」

「それは良いわね。私は簡単な情報しか知らないけど、真面目らしいわね。とはいえ、もし万が一、目移りしちゃったら、ちゃんと妻として躾てあげなさいよ? クライムの目に入る女は私のペットである可能性が非常に高いので」

「はい、当然です。妻として、しっかりと……」

 

 うふふふ、と笑い合う2人の会話はやがて、互いの愛の形について、熱く語り初めていくのだった。

 

 

 


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