彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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捏造あり。


急変する態度

 

 

 

 メリエルはウキウキ気分だった。

 

 

 昨夜、ソリュシャンと合流したルプスレギナ、そしてクレマンティーヌ。

 彼女らと4体のエイトエッジアサシン、20体のシャドウデーモンを前にメリエルは情報収集活動を行う旨を宣言した。

 とはいえ、彼女が自分で動くというのをソリュシャンらは良しとしなかった。

 そのような些末事で至高の御方の御手を煩わせるわけにはいかない、と彼女らが言ってきた為、メリエルはソリュシャンらに情報収集を丸投げすることにした。

 となるとメリエルは当然に暇となる。

 

 メリエルはクレマンティーヌをお供に、王都のあちこちを観光することにした。

 クレマンティーヌをお供としたのは彼女は漆黒聖典時代に何度も王都へ来ており、王都に関して良く知っていた為だ。

 彼女を情報収集役にした方が効率としては良かったが、メリエルはクレマンティーヌにそういう裏社会的なところも案内してもらえば良い、と考えた。

 

 とはいえ、まずはカネである。

 世の中、大抵はカネがあればうまくいくのである。

 

 

 そこでメリエルはモモンガの許可を取った上で、あるハッタリをかますことにした。

 裏社会の連中が群がってくるように。

 

 

 

 

「……本当にここで合ってるの?」

 

 メリエルはジト目でクレマンティーヌへ問いかけた。

 彼女が欲したのは裏側の換金屋である。

 クレマンティーヌがいつも利用しているところがあるというので、やってきたら大通りにある3階建ての白亜の館。

 どう見ても、裏側の換金屋というものではない。

 

「そうよ。ここは表も裏も等しく取り扱う、リヴィッツ商会。王国の偉い人達も利用しているから安心できるわ」

「……夢も希望もないわね」

 

 メリエルとしては現実でも似たようなところがあったのを知っている為に、何とも言えない微妙な表情だ。

 彼女としては裏通りにある目立たない、ボロいお店で……というありがちな光景を予想していた。

 

「裏で扱って欲しい場合は受付で担当を呼び出すのよ。ちょっと見ててねー」

 

 クレマンティーヌに先導され、メリエルはリヴィッツ商会へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 扉を開けると、中は一言で言えば銀行そのものであった。

 窓口には幾人もの職員が詰めており、また、待合スペースのソファには大勢の客がそれぞれに時間を潰している。

 入ってきたクレマンティーヌとメリエル、特にメリエルに視線が集まるが、いつものことだった。

 

 受付、と書かれた札がぶら下がった窓口へとクレマンティーヌは迷うことなく行く。

 メリエルは映像でしか見たことがない昔の銀行の光景を新鮮に感じながら、クレマンティーヌの後を追う。

 

「こんちわー、ウェルネスいるー?」

「ウェルネス、ですか? 少々お待ちを」

 

 受付の職員が奥へ引っ込んだ後、クレマンティーヌはメリエルの耳へ口を寄せて囁く。

 

「ウェルネスって言えば大丈夫よ。そいつら、裏担当だから」

 

 グループ名みたいなもんか、とメリエルな僅かに頷く。

 そうこうしているうちに、受付の職員がウェルネスを連れて戻ってきた。

 今回のウェルネスは壮年の男性だった。

 

「私がウェルネスです。本日のご用件は?」

 

 丁寧な態度だが、探るような目であった。

 しかし、クレマンティーヌは勿論、メリエルも全く動じない。

 クレマンティーヌはいつもの笑みを崩さずに告げる。

 

「換金したくて来たんだけどさ」

「お名前をどうぞ」

「クレマンティーヌ」

 

 クレマンティーヌの名前を聞いた時に男性は納得したように頷き、こちらへ、と2人を奥へと促した。

 

 

 

 

 通された部屋はソファが2つ置いてあり、それ以外は何もない、簡素な部屋だった。

 ウェルネスに座るよう促され、クレマンティーヌとメリエルはソファに座り、対面するようにウェルネスも座る。

 

「それで、何をお持ちに?」

 

 クレマンティーヌは猫のような笑みを浮かべ、メリエルへと甘えるように抱きつく。

 

「メリエル様、見せちゃってくださいよー」

 

 メリエルもまた不敵な笑みを浮かべ、指を鳴らす。

 すると、2つのソファを取り囲むよう、眩い黄金のインゴットが山と積まれた状態で出現した。

 

 ウェルネスは目をぱちくりとさせ、周囲に目を配り、信じられないような顔で、両目を手で擦って、再度、周囲を見た。

 黄金の山は変わらずにそこにあった。

 

 単純にメリエルが無詠唱化して、物品を取り寄せる魔法を使用しただけであるが、効果は抜群だった。

 

「私はメリエル。とりあえず、これを換金したい」

「しょ、少々お待ちを! メリエル様!」

 

 ウェルネスは慌ててソファから立ち上がり、深々と頭を下げる。

 

「ね、念の為に魔法で鑑定をさせて頂きたく!」

「好きなだけ鑑定しなさい」

 

 メリエルは鷹揚に頷くと、ウェルネスは転がるように部屋から出て行った。

 おそらくは魔法詠唱者を連れてくるのだろう。

 

「ぷっ」

 

 あははは、とクレマンティーヌが吹き出した。

 彼女は盛大に笑い、メリエルに言う。

 

「金持ちってやっぱ素敵よねー、ああいう態度を取らせることができるんだから」

「あなたも、その気になれば金持ちになれるんじゃないの?」

「んー、私は戦うことが好きだからねー、まあ、帝国あたりの闘技場とかで稼げるだろうけど……正直、金持ちになると戦闘じゃ解決できない面倒事も増えるから嫌だわ」

 

 メリエルは確かに、と同意する。

 彼女は外貨を獲得できれば、別に八本指を殲滅する必要はないのではないか、という思いがないわけではない。

 無論、良いお付き合いをして、色々と貢いでくれるよう、お願いするのは確定事項だ。

 その為に一戦交えることになるだろうが、それは別に問題になるようなことではない。

 クレマンティーヌによれば、アダマンタイト級冒険者に匹敵するとかだが、漆黒聖典の隊長程ではなく、一般隊員クラスとのこと。

 

 ぶっちゃけた話、メリエルが軽く小突いただけでミンチにすることができる存在だった。

 

「……頭脳戦を仕掛けられると拙いかしら」

 

 急にそう言い出したメリエルにクレマンティーヌはきょとんとした顔になる。

 どう見ても人類超越している頭脳も持っている癖に、何言ってるの、とクレマンティーヌは思う。

 

「不測の事態に備えるのは戦争の常識でしょ?」

「何でも、戦争を基準に考えるのはやめたほうがいいんじゃないかな。私が言うのもなんだけど」 

 

 戦闘狂に諭される戦争狂。

 どっちもヤバイ度合いは傍目には大して変わりはない。

 

「あら、これでも私は臆病者よ。いつ、私より強いヤツが現れるか、そんなことを考えたら、毎日8時間しか眠れないし、三食、どんぶり2杯しか食べられない」

「いやいやいや、十分だし」

 

 クレマンティーヌがツッコミを入れたところで、扉がノックされ、ウェルネスともう1人の男が入ってきた。

 彼らはおっかなびっくりに、手近な金塊を調べ――

 

「……本物です」

 

 魔法詠唱者の言葉にウェルネスはごくり、と唾を飲み込みながら、メリエルらへ深くお辞儀をする。

 

「メリエル様。どの程度の金額になるか、お時間を頂きますが、よろしいでしょうか?」

「ええ、いいわよ。面倒くさいから、掛かる税金とかそういうのも全部そっちで差っ引いといて。あ、これあなたへの手間賃ね」

 

 メリエルは掌の上に金のインゴットを1つ、出現させるとそれをウェルネスへ放り投げた。

 彼は慌てた様子でそれを受け取ろうとしたがあまりの重さに取り落としてしまう。 その様子にクレマンティーヌは大爆笑し、メリエルはやれやれ、と溜息を吐く。

 ウェルネスは平謝りしながら、しっかりと両手で持ち、腰をいれてインゴットを持ち上げる。

 苦労しながら持ち上げ、そして、そのまま傍にいた魔法詠唱者に調べてもらう。

 

「本物です……」

 

 魔法詠唱者も信じられない様子だった。

 おそらくは彼は無詠唱で物品を手元に召喚する、その魔法技術とメリエルの財力に二重に信じられないことだろう。

 

「あ、ありがとうございます!」

「いいのよー、私はここで待ってるから……あ、そうね。全部差っ引いた後に、私が王都に来た記念として、ここの商会の職員に特別手当つけてあげて。私の金庫から出して上げていいから。金貨10枚くらい上げて頂戴よ」

「あ、あの、メリエル様、差し支えなければ、貴女様はどのような事業をされていますか、教えて頂けませんでしょうか?」

 

 問いにメリエルは不敵に笑う。

 

「ここらじゃないんだけど、ちょっと表には出せないものを経営していてね。王都には観光に来たのよ」

「そうでありましたか……当商会をお選びくださり、誠にありがとうございます」

 

 再度、頭を下げるウェルネスに鷹揚に頷く。

 

「そう、それと、なんか良い物件を紹介して頂戴。広くて豪華なところがいいわ。多少郊外でも構わないから」

「畏まりました、メリエル様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メリエルがクレマンティーヌと共にリヴィッツ商会ではっちゃけている頃、モモンガはモモンとして、ナーベことナーべラルと共にモンスター討伐の任務についていた。

 とはいえ、現れるモンスターはそう多くもなく、また、強いわけでもない。

 剣の一振りでオーガもゴブリンも等しく物言わぬ骸となる。

 

 同じ任務を受けた漆黒の剣という、冒険者パーティーはそれを見、モモンガを信じられない表情で見てくるが、モモンガは全く気にしていなかった。

 

「……うーむ」

 

 しかし、モモンガ本人としてはどうも納得がいかない。

 何が納得いかないかというと、自分の動きにあった。

 彼もこっちに来てから、メリエルが剣で戦ってる姿を見たことがある。

 

 それはコキュートスとの模擬戦だ。

 念の為に、とこっそりアウラにスクロールでの記録をお願いし、後で見てみたら、流石というか惚れ惚れするような動きだった。

 そんな動きを見様見真似で再現しているのだが、どうにも微妙であった。

 

『ナーべ、どうだ?』

『大振りです。隙だらけです』

 

 そんなわけでモモンガはモンスターを倒しながら、ナーベラルに動きを見てもらっていた。

 

 メリエルさんには及ばないよなぁ、とモモンガはしみじみと思うが、何とか最低限の動きはできるようになりたいとも彼は思う。

 

 そんな風に退治して回っていると、モンスター達は当然ながらあっという間に全滅してしまう。

 体の一部の剥ぎ取りを漆黒の剣に任せ、モモンガは今回の戦闘から当然過ぎる結論に達する。

 

「稽古、つけてもらおう」

 

 魔法詠唱者としてのプレーヤースキルならメリエルにも引けを取らない、とモモンガは自信がある。

 しかし、戦士としては全く自信はない。

 素直にメリエルから教えてもらった方が早いのは道理だ。

 

「いや、凄いですね、モモンさん」

 

 漆黒の剣のリーダーであるペテルが声を掛けてきた。

 

「それほどでもありませんよ」

 

 モモンガの言葉にペテルはご謙遜を、と返す。

 

『モモンガー? なんか予想以上に王都で受け入れられたから、ちょっと金持ちやるわー』

 

 メリエルからメッセージが入ったのはそんなときだった。

 

『メリエルさん、そんなに大金になったんですか?』

『ほんのちょこっとだけ換金するんだけど、頭ペコペコ下げられていていい気分だわ。これ、持ってきてるの全部換金したら、王国買えるわね……たぶん。経済的には大丈夫とはいえ、大丈夫なのかしら……』

『マジですか? それでどうします?』

『とりあえず拠点持つ。あと八本指に接触したり何だりで王都に楔を打ち込む。換金は程々にしておく』

『了解しました。そちらは任せます』

 

 メッセージを終え、モモンガは周囲を見る。

 幸いにもペテルは先程のやり取りの後はモンスターの剥ぎ取りに参加しており、モモンガがメッセージでやり取りをしていたことに気がついた様子はない。

 

「良いパーティだ」

 

 モモンガは素直に称賛した。

 チームワークが良く、また個々人のレベルもこの世界でみるなら比較的高い部類だ。

 彼の計画である、冒険者モモンの知名度を広める為にもぜひ、彼らには強くなってもらいたい、とモモンガは思った。

 

 

 

 

 

 

「モモンさんは強いですね」

 

 その後、休息を取ることになり、適当な場所に腰を下ろして一息ついていると、ニニャがそう切り出してきた。

 ニニャはモモンにやたらと話しかけてきており、モモンガとしてはそんなに好かれる理由があったかな、と首を傾げるばかりだ。

 

「いえ、自分よりも強い人は大勢いますよ」

 

 すっごく身近に1人いますし、と心の中でモモンガは付け加える。

 

「そうなんですか?」

「ええ、そうですよ。私も正面からでは敵いませんし」

 

 モモンガも過去に何度もメリエルとPvPをしたことがある。

 一度も勝てたことがなかったが、死力を尽くして戦えた為に思い出深いものだ。

 

「どうやったら強くなれますか?」

 

 ニニャの問いにモモンガは顎に手を当てる。

 

「一朝一夕には無理ですから、地道に辛抱強くやっていくことが大事ですね。どんなに困難な壁でも乗り越える、と諦めない心も大事です」

 

 ありきたりなものであったが、ニニャにとっては十分だったらしく、満足気な顔だ。

 ペテルらの、他の面々も聞いていたらしく、うんうんと頷いている。

 

「モモンさんが言う、強い人はどんな感じの人ですか?」

 

 ニニャの問いにモモンガは困惑する。

 素直に変態です、とはさすがに言えない。

 

「意志が強い人ですね」

 

 あれこれ悩み、結局出た言葉はそれだった。

 最強を求める、というのは確かに意志が強くないとできないことであり、あながち的外れというわけでもない。

 

 おお、とニニャも含めた漆黒の剣一同は感嘆の声を上げる。

 

 モモンガはその光景を見、これ絶対勘違いされてるよなー、もし実物見たら落胆するよなー、と思うのだった。


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