彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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捏造あり。

クレマンティーヌとブレイン・アングラウスが戦うところを見たかった_(:3」 ∠)_


クレマンティーヌvsブレイン・アングラウス

 

 

 デミウルゴスは優雅な一時を第九階層にあるバーで過ごしていた。

 コキュートスもここにはよく来るのだが、今日はまだ来ていない。

 

 デミウルゴスは多忙だ。

 しかし、最近、幾つかの案件が解決した為、彼は時間に多少のゆとりができていた。

 

 もっとも大きいのはスクロールの為の、羊皮紙の量産。

 当初こそ人間や亜人等の皮膚を使ったほうが、という案も出たのだが、待ったを掛けたのがメリエルだ。

 しかも、その待ったを掛けたのが今日の午前中、たまたまスクロールの為の羊皮紙作成について、アルベドと話していたのを聞いていた為だった。

 

「……生物の皮膚を使っては量産性が低い、か」

 

 デミウルゴスはメリエルの言葉を思い出す。

 

「あの御方とモモンガ様では偉大さの方向性が違う」

 

 彼はそう言葉に出して、それで大いに納得した。

 だから、メリエル様ではなくモモンガ様が至高の41人を率いていたのか、と。

 

 デミウルゴスは既に図書館にあるスクロールで、メリエルの戦いっぷりを閲覧している。

 ただただひたすらに圧倒された。

 

 まさしく至高、否、至高という言葉すらでも生ぬるい。

 純粋な力においてメリエル様を凌ぐ存在など、この世にはいないだろうとデミウルゴスは確信した。

 

 だが、組織の運営というのは力が強ければ良いというものではない。

 無論、デミウルゴスとてメリエルの叡智は自らを遥かに凌ぐレベルであることを知っている。

 しかし、モモンガは更にその上をいくのだ。

 

 デミウルゴスは体を震わせる。

 彼を支配するものは歓喜。

 

 神をも凌ぐ、至高の御方達に仕えることができている。

 自らの全身全霊でもって、御方達の役に立てる。

 

 これよりも勝る歓喜をデミウルゴスは知らない。

 

「メリエル様の御手を煩わせるのは非常に問題があるが……」

 

 羊皮紙はメリエルが職業:パラケルススの持つ道具作成スキルでもって、最高品質の羊皮紙を作り出すことができたのだ。

 

 とりあえず、羊皮紙の供給の目処はついた。

 

「悩ましい」

 

 デミウルゴスからすればまさに痛し痒し。

 至高の御方であるメリエルの御手を、たかが羊皮紙作成の為に煩わせるのだ。

 しかし、メリエルのように、羊皮紙をポンポン作れる存在はナザリックにはいない。

 

 メリエルは全く気にしたようには見えず、二つ返事で了承してくれたが、デミウルゴスには不甲斐ない自分達の穴埋めをさせているようで、いたたまれない思いだった。

 

 かといって、生物の皮膚の量産性の低さ、それもまたメリエルから教えてもらったことだ。

 デミウルゴスはその一言で、メリエルの言葉を理解できた。

 

「メリエル様はたった1度の戦で、数千、数万の兵士と付随する膨大な物資の損失を経験しておられる。戦争とはそういうものだ」

 

 様々な魔法を込めることができるスクロール、その為の羊皮紙は10や20作れば良いというものではない。

 ましてや、100、200でも足りない。

 最低1000、できれば万単位で量産せねば、押し負ける可能性がある。

 

 そして、最低レベルの1000単位であっても、とてもではないが素材が足りない。

 1000単位で人間なり亜人なりを攫ってきては、瞬く間に人間も亜人もいなくなってしまうだろう。

 それに、羊皮紙が出来上がるまでの工程にも時間が掛かる。

 

 メリエルのように、スキルで一瞬というわけにはいかない。

 

「おや、デミウルゴス1人でありんすかえ?」

 

 後ろから聞こえた声に、デミウルゴスは座ったまま振り返ると、そこにはシャルティアがいた。

 彼女がここに来るのは比較的珍しいことだった。

 

「シャルティア、あなたがここに来るのは珍しいですね」

「まあ、たまにはそういうときもありんす」

 

 よっこいしょ、とシャルティアはデミウルゴスの隣に座り、マスターに注文をする。

 

「……私、御方々のお役に立てていないんす」

 

 デミウルゴスは察した。

 それはコキュートスからも度々、相談を受けていたからだ。

 

 彼もシャルティアも、戦闘に特化している。

 現状、ナザリックが戦火に晒される可能性は極めて低い。

 

「あなたもコキュートスも、必ず必要とされる。それが今日じゃない、というだけで」

 

 デミウルゴスはそう言いつつも逡巡する。

 彼も又聞きであるのだが、メリエルがシャルティアを連れていこうとしていた、ということを。

 

「そう、でありすんかね……」

「そうだとも。それにもし万が一に、何かの緊急事態が起こった場合、君には即座に動いてもらう」

 

 おおよそ万に一つもあり得ないが、緊急事態とはモモンガもしくはメリエルの身に何か起こった場合だ。

 デミウルゴスとしてはあり得ないと思うからこそ、あり得る事態であると最悪のパターンとして考えていた。

 

 シャルティアも緊急事態の意味を察したのか、ごくり、と唾を飲み込んだ。

 

「重大な任務でありすね」

「ああ、そうだ。重大だ。それで、浮かない顔をしているのはそれが原因かね?」

「いえ、実はもっと大きいものがありんす」

 

 もっと大きい悩み、とデミウルゴスは思わず身構える。

 役に立てていないこと以上に、大きな悩みがあるのだろうか、と。

 

「……私はモモンガ様とメリエル様、どちらの妃になればいいんでありんしょうか?」

 

 デミウルゴスは言葉に詰まった。

 こればかりは御方々の御心だ。

 彼が軽々しく答えるわけにはいかない。

 

 とはいえ、解決策はあった。

 

「モモンガ様もメリエル様も、妃を一人に限定する必要はないだろう。それにソリュシャンとナーベラルから聞いた話によれば、メリエル様はそういったことに積極的で、美人の嫁が欲しいと発言されている」

「美人の嫁……」

 

 うひひ、とシャルティアから不気味な笑い声が漏れた。

 デミウルゴスはそれを聞かなかった振りをする。

 

「時にデミウルゴス。メリエル様は人間の女を傍に置いているんす。アレは何でありんす?」

「この世界独特の武技という、戦士のスキルが使える上、人間としてはそこそこ強いとのことだ。その観察とメリエル様のご趣味であるのではないかな」 

「あのようなモノがご趣味で……」

 

 言いかけて、シャルティアは止まった。

 そして、何かを思い出したのか、にんまりと笑みを浮かべる。

 

「……シャルティア、どうかしたのかね?」

「昔、ペロロンチーノ様とメリエル様がお話をされていたとき、まさにあのようなモノの話題が出たんでありんす」

「それで?」

「そのとき、メリエル様は仰られたでありんすよ。下品なモノも高貴なモノもすべからく、私は好みである、と。何と器の大きい方でありんしょうか」

 

 シャルティアの感動の邪魔にならないよう、デミウルゴスは相槌を打つに留める。

 

「デミウルゴス、モモンガ様とメリエル様はいつ、お戻りに?」

「具体的な日程は流動的だが、予定ではそこまで長期間ではない。御二方がナザリックを長期に空けるというのは安全上の観点から問題がある」

 

 これはデミウルゴスもアルベドも譲れないところであり、また他の守護者も同様のものだ。

 

「お待たせ致しました」

 

 すっ、とシャルティアの前にグラスが差し出された。

 血のように真っ赤な液体が並々と注がれている。

グラスの端には翼を象った、カットレモンが添えられている。

 

 いかにデミウルゴスが優秀な頭脳を誇っているとはいえ、カクテルや酒の種類全般まで詳しいというわけではない。

 

「それは一体何という飲み物かね?」

「ブラッディー・メリーでありんす。メリエル様をイメージしたカクテルでありんすよ」

 

 デミウルゴスが思わずマスターへと視線を向ける。

 するとマスターは意を察したのか、すかさずに答える。

 

「御許可は頂いておりますので、ご安心を」

「他にも、メリエル様がご提案された料理とかもありんすよ」

 

 知らなかった、とデミウルゴスは驚きながらも、このようなことをわざわざご提案なさるのは自らのことをよりシモベ達に知って欲しい、というメリエル様のお気遣いなのでは、と彼は思う。

 

 何と慈悲深い御方だろうか――

 

 

 

 

 

 

 盛大な勘違いが行われているが、メリエル本人が知ったら、ただ自分が飲みたいだけ、食べたいだけだったのに、と言うに違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまんなーい!」

 

 クレマンティーヌは死を撒く剣団の拠点となっている洞窟を進みながら、そう叫んだ。

 彼女の他にはメリエルがいるのみ。

 

 ソリュシャンは周辺警戒を行うよう、メリエルが命じている為、洞窟前で別れていた。

 

 クレマンティーヌがつまんない、と叫ぶのはひとえに、雑魚しか出てこないからだった。

 

「スッとしてドスンで済んじゃうんですけどー」

「まあ、でも、そろそろ来るんじゃないかしら」

 

 メリエルの言葉に、クレマンティーヌは血塗れのスティレットをゆっくりと舐めて見せる。

 

「本当に私が戦っていいのー? 後でやっぱりダメとかなしだよー?」

「いいわよ」

 

 あっさりと許可を出すメリエルにクレマンティーヌは無邪気な笑みを見せる。 

 とてもとても純粋なものだ。

 

 そのとき、前から規則正しい足音が聞こえ始めた。

 目当ての人物の登場にクレマンティーヌもメリエルもほくそ笑む。

 

「これはこれは……随分と可愛らしいお嬢さん方だな」

 

 そう軽い口調で話しかけながらも、まったく油断した様子は見られず、それどころか2人を鋭く睨みつけてくる男が現れた。

 腰には刀を吊るしている。

 

「ブレイン・アングラウスで合ってるわね?」

 

 スティレットを向けながら、クレマンティーヌは問いかけた。

 問いに対し、男――ブレインは頷く。

 

「少し前にスレイン法国から王国にやってきた、元漆黒聖典の女ってお前だろ?」

「あーら、よく分かったわねー、私ってもしかして有名人ー?」

 

 きゃー、と声を上げるクレマンティーヌにブレインはくつくつと笑う。

 

「強いヤツの情報には敏感でね」

 

 ブレインは体をやや前に倒し、抜刀の態勢をつくる。

 そして、彼を中心として半径3メートル程の円が展開された。

 

「抜刀術? それなりに、やるようねぇー」

 

 キャハハ、と笑いながらも、クレマンティーヌはゆっくりと、体を屈めていき、突撃態勢を形作る。

 

「武技、か。その円、ヤバそうね」

 

 彼女はそう言って、素早く自らの持つ武技を発動させる。

 

 疾風走破、能力向上、能力超向上、超回避――

 

 それを見、ブレインは舌打ちする。

 

「どんだけ武技を使えるんだよ。ったく、さすがは元漆黒聖典か? 後ろにいるお嬢さんも、よくこんなのと一緒にいるな」

「こんなのって失礼ね。コレは私の猟犬よ」

 

 ブレインはメリエルから返ってきた言葉に思わず苦笑する。

 大方、後ろのお嬢さんは金持ち貴族の令嬢か何かで、スリルを楽しみたいとかそんな理由なんだろう、と。

 

「んじゃ、いっくよー」

 

 クレマンティーヌの緊張感のない声にブレインは「おう」と応える。

 

 そして、刹那――

 

 クレマンティーヌが突撃した。

 まるで一陣の風のように一瞬にして、数mはある距離を詰め、ブレインへと迫り――

 

 秘剣、虎落笛――

 

 キィイイイン、と甲高い金属音が響き渡る。

 

 スティレットの刀身部分で、ブレインの刀――神刀を受けていた。

 

「……へぇ、中々やるじゃないの」

 

 それはクレマンティーヌなりの賞賛だった。

 彼女はそのまま後ろへと跳び、再び距離を取る。

 

「なんつー速さだ。知覚はできるが反応がギリギリなんて初めてだぞ」

 

 そう言いながらも、ブレインも納刀し、再び抜刀の構えを取る。

 そのときだった。

 

「殺しちゃダメよ」

「えー!」

 

 メリエルの声にクレマンティーヌはあからさまに不満な声を上げる。

 

「でも、死なない程度ならやっていいから」

「しょうがないわねー」

 

 そう言いながら、クレマンティーヌは2本目のスティレットを鞘から引き抜き、両手で持ち、再度突撃態勢を取る。

 

 ブレインは予感する。

 必ず、この女には切り札がある、と。

 

「じゃ、いっくよー」

 

 わざわざ宣言してくれる彼女にブレインは集中し、武技である領域を再度発動させる。

 

 それを見、クレマンティーヌは地面を蹴った。

 疾風の如く、彼女は迫る。

 瞬く間にブレインの領域へと侵入し――

 

 捉えた瞬間、ブレインは抜刀。

 その神速の刃はクレマンティーヌへと迫り――

 

「流水加速」

 

 さながら貂のように、彼女は軽い身のこなしで迫る刃をくるりと避けて見せる。

 ブレインは驚愕のあまり、目を見開いた。

 迫り来るスティレットの刃。 

 

 抜刀術の弱点は一撃目を避けられたら、無防備な体を晒すことにある。

 彼に刃を防ぐ術はない。

 

 迫るスティレットは妙に遅く感じ、ブレインは死を予感した。

 

「はい、ここまでー」

 

 クレマンティーヌはにこにこ笑顔でそう宣言した。

 スティレットは喉元直前で止められている。

 

「……どういう、ことだ?」

 

 ブレインは思わず問いかけた。

 

「んー、だって飼い主が殺しちゃダメって言うし」

「ちょっとくらい傷めつけてもいいのよ?」

 

 後ろからのメリエルの声。

 

「やめたー、こういうヤツは下手に嬲るよりも、こういう態度の方が面白そうだし」

 

 ねー、とブレインに笑いかけるクレマンティーヌ。

 ブレインはその正確な洞察力に驚愕すると同時に、怒りが湧いてくる。

 

「それじゃ、可哀想だから、少し私が戦ってあげるわ」

 

 予想外の言葉にブレインは怒りが急速に冷め、目をパチクリとさせた。

 彼はメリエルを見る。

 ただの胸元が開いた真っ黒なドレスを着ているだけの、どこからどう見ても単なる女性にしか見えない。

 

「あー、えっと、お嬢さん? 剣を持ったことはあるのか?」

「それなりには持ってるんじゃないかしら」

 

 そう言って、何もない空間に手を突っ込んで、メリエルは自らの剣を取り出した。

 一見、何の変哲もないロングソードだ。

 

「私の剣はレーヴァテインっていうの」

 

 鞘から引き抜かれた刀身は透き通っており、ガラスのようであるが、刀身の中央部分には複雑な文様が描かれている。

 メリエルは切っ先をブレインへと向ける。

 

「頂点を見せてあげるから、かかってきなさい」

 

 ブレインは頭を切り替える。

 メリエルは軽く構えているが、まったくの自然体であった。

 まるで柳のように。

 その域に達するには、どれほどの修練が必要なのだろうか。

 

 俺よりも明らかに歳下であるのに、俺よりも腕が上ではないか?

 

「……分かった」

 

 ブレインは再度、領域を発動させ、抜刀の構えを取った。

 メリエルはにっこりと笑う。

 

「私の猟犬は捉えられたけど、私は捉えられるかしらね」

 

 どういう意味だ、とブレインは思ったが、気にせずに目の前に集中することにした。

 

「行くわよ」

 

 その声と同時にブレインの視界からメリエルが掻き消えた。

 ブレインは思わず目を疑った。

 幻術系の武技か、と思考したが、彼女がどこにいるか、すぐに知覚できた。

 

 

 

「やっぱり、捉えられなかったわね」

 

 間近で声が聞こえた。

 

「……なん、だと」

 

 まるで、反応できなかった。

 

 メリエルはブレインの真横に立ち、レーヴァテインを横向きにし、刀身を彼の喉元に突きつけた状態であった。

 彼女はゆっくりと剣を下ろし、ブレインに問う。

 

「どうかしら? 頂点を見た感想は?」

 

 ブレインはただ呆然とした面持ちのまま、問いかける。

 

「……お前はいったい、何者なんだ?」

「異形の者よ。人間じゃないから、安心なさい」

 

 ブレインは絶望した。

 圧倒的なまでの力の差。

 才能とかそういうレベルではない、根本的な生物としての存在の差。

 

 彼はゆっくりと、膝から崩れ落ちた。

 

「俺は……いったい……」

 

 強さを追い求めていた。

 ガゼフを超えたい、とそう願って剣の腕を磨いていた。

 

 だが、現実はどうだ?

 こんな、化け物が存在する。

 ガゼフなど歯牙にもかけない、それこそ虫と同じ程度にしかこの化け物は思わないだろう。

 

「ブレイン・アングラウス、お前に更なる絶望を叩きつけよう」

 

 ゆっくりと、彼はメリエルへと視線を向ける。

 メリエルは残酷な笑みを浮かべ、すっと手を前へと伸ばす。

 伸ばした先は洞窟の奥。

 

「マキシマイズマジック、ワイデンマジック、ブリアルウィンド」

 

 黒い風がメリエルの掌から洞窟の奥へと吹いていった。

 

「……魔法詠唱者、だと?」

 

 ブレインは震える声で、そう問うた。

 

「ええ、そうよ。戦士であり、魔法詠唱者でもある。それがこの私よ」

 

 ブレインは笑いがこみ上げてきた。

 なんだろうか、この化け物は。

 ここまでデタラメだと逆に清々しい。

 

「ところで、今使った魔法は何なの?」

「第9位階のブリアルウィンドっての。黒い風で複数の対象を即死させる、まあ、簡単に防げる魔法よ。範囲と威力を強化して使ったわ。野盗程度にはちょうどいいでしょう」

 

 クレマンティーヌは聞かなきゃ良かった、と後悔した。

 第6位階どころか第9位階とか、と思いながら、もしやと思って尋ねてみる。

 

「もしかして、もしかすると、第10位階も……?」

「っていうか、第10位階くらい使えて当然じゃないの?」

 

 首を傾げて問い返された。

 クレマンティーヌは乾いた笑いしか出てこない。

 先ほどのメリエルはクレマンティーヌでも目で捉えきれなかったのだ。

 魔法やスキルを一切使っていない状態で、それだけの速度を出せる。

 もしエ・ランテルの墓地で、全ての魔法・スキルを使用した状態で戦っていたら、と思うと震えが止まらない。

 

 

 対するブレインは衝撃が強すぎて、逆に冷静になってしまった。

 

「なぁ、そこまで凄いんならよ……死者蘇生とか回復魔法とかも使えるのか?」

「使えるに決まってるじゃないのよ」

「……もうお前一人で世界征服でも何でもできるんじゃないのか? 何でお前、こんなところで人間の相手なんてしてるんだよ」

 

 ブレインの心からの疑問だった。

 

「そりゃあ、暇潰しだからに決まってるじゃないのよ。ブレイン・アングラウス、よぉく覚えておきなさい。最強の存在になるってことは、同時にすんごく退屈になるってことなのよ。同格の者がいないから。弱くて這いずり回っているときが一番楽しい」

 

 ブレインはストン、とその言葉が腑に落ちた。

 もはや彼にとって目の前のメリエルは見た目がどうとか全く気にならない、ただただ強大な存在という認識だ。

 

「……俺がそこの性悪女とまあ、何とか戦えていた。だけど、あんたにはそういうことができる存在がいない、そういうことか?」

「そういうことよ。真っ向勝負なら、私に勝てるヤツはいないでしょうね」

「性悪女って誰のことよー」

 

 クレマンティーヌの抗議の声を、2人は華麗にスルーする。

 

「んで、話の流れ的に、なぜだか俺を見逃してくれる気がするんだが?」

「ええ、そうよ。理由は簡単で、強いヤツを見たかったから。あと、あなたの武技、中々面白いわね。どこまで伸びるか楽しみ」

「……お前が友好的で良かったよ」

「今から戦利品を漁るから、ついでに手伝いなさいよ。どうせ、仲間意識とかそんなのないでしょ?」

 

 俺は荷物持ちか、とブレインは思いながら、承諾するのだった。

 

 

 


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