器物転生ときどき憑依【チラシの裏】   作:器物転生

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【あらすじ】
唐巣神父と接触するために、
隠し続けていた自身の存在を心眼は明かし、
横島の恥ずかしいセリフでメンタルブレイクされました。




<502回目>

 教会にいるのは唐巣神父・タダオ・タダオの母親の3人だ。タダオは「オレの中にいる心眼を外に出してあげたい」と願い、タダオの母親は「タダオの中にいる物を調べて欲しい」と願っている。

 問題となっているのは私をタダオから出すのか否か、そして私を除霊するのか否かだ。私を外に出せるのならば出し、出せないのならば除霊か現状維持となるだろう。そして、母親とタダオの双方から話を聞いた神父は、目を閉じて思案する。私を除霊するのか否かを考えているのだろうか。

「最後に、心眼君の話も聞こうか」

 意外な事に、そう神父は言った。どうやら、私が考えているよりも危機的な状況ではないようだ。わざわざ神父が会話を試みるのは、タダオの中にいる私を調べる方法がないからだろうか・・・いいや、そうでは無い。親の望み通りにするのではなく、タダオにも話を聞き、さらに私にまで話を聞こうと言うのだ。神父は関係者の事情を理解した上で、対処の方法を決めるつもりなのだろう。破門になったとは言え、神父と呼ぶに相応しい人物だ。

「そんじゃオレが心眼の代わりに喋ります」

 タダオが肉体に受ける感覚を共有しているものの、私は肉体を動かせない。なので神父が問い、タダオの肉体を通して私が問いを聞き、私が答えをタダオに伝えて、タダオが神父に答えを言わなければならなかった。それを母親が見れば、タダオの一人芝居に見えるだろう。

 

「心眼君はタダオ君と産まれた時から一緒にいるそうだね。その前の記憶はあるのかな? 例えば夢で、見たことのない風景を繰り返し見たことはあるかい?」

「タダオが産まれる前の記憶はありません。その代わりに、産まれた瞬間から今までの全てを完全に記憶しています。夢を見たことはありません。タダオが寝ている間も、ずっと私は起きているので夢を見ることはありません・・・って、ずっと寝てなかったのか! オレと一緒に寝てるのかと思ってたぞ」

 「それは大変だったね。ずっと眠れなかっただなんて・・・皆が眠っているのに自分だけ眠れないのは苦しかっただろう」

 「私は他人と違って眠る必要がないので苦しくはありません。眠らないという事も、私にとっては当たり前の事です」

「それは凄いね」

 神父と話す中で分かった事がある。神父は気配りのできる人だ。仕事の都合で引っ越す予定だった事を100回以上繰り返しても、うっかり話してしまうタダオの父親とは違う。タダオが気に負わないように、言葉を選んでくれていた。

 例えば「タダオ君が眠っているのに自分だけ眠れなかった」という意味の言葉を「皆が眠っているのに自分だけ眠れなかった」と言い換えているのだ。もしも「タダオ君が眠っているのに自分だけ眠れなかった」と神父が言っていたら、その事をタダオは気に病んだかも知れない。

 それに話の聞き出し方も上手い。タダオと神父が話している時に思った事だが、質問のために会話をするのではなく、会話を行いつつ情報を引き出している。他人の相談を聞くことに慣れているのだろう。まさか、これほど神父のコミュニケーション能力が高いとは思わなかった。タダオの親よりも神父の方が、タダオのために役立つに違いない。

「産まれた瞬間から今までの全てを完全に記憶していると言うのも凄いが・・・もしかして、学校で受けるテストの答えも覚えていて、タダオ君に教えたりしているのかな?」

 冗談を言っているような口調で、神父は私に問う。これが最後の質問だろう。要するに、私の存在はタダオにとって不利益か否かという事だ。会話で私の意思を探るよりも、事実を確認した方が証拠として信用できる。テストの成績ならば、私やタダオだけではなく、タダオの母親も知っているため確認できるのだ。ならば私ではなく母親に「学校でのタダオ君の成績はどうなのか?」と聞いた方が早いのだが、それを後回しにしたのは話の流れを不自然な物にしないためだろう。

 ここで私は、あえて沈黙する。「テストの答えを教えている」と言えば、タダオの不利益に繋がるからだ。今まで満点だったテストの成績が私による物だと知れば、タダオの母親は何と思うだろうか。きっとタダオに「なぜ言わなかった」「カンニングをしたのか」と怒るに違いない。

 そう考えると私は、ここで答えない方が自然なのだ。そうしてタダオのために沈黙している様を、私は神父に見せる。どうせテストの成績は、タダオの母親に聞けば分かることだ。ならば無効な手札になる前に、有効な手札として使える今の内に、使って置かなければならない。

「ふむ・・・ヨコシマさん、学校でのタダオ君はどうですか?」

「テストの成績は確かに何時も満点です。でも、まさか・・・」

 タダオの母親も私の存在を認めつつあるようだ。その様を見ていると、何とも言えない気持ちになる。こんな気持ちを抱くのは、さきほど言ったように、私の存在が知られればタダオの不利益に繋がってしまうからだろう。下手すると、母親がタダオに向かって「あんたの力じゃないでしょ」と言ってしまう可能性もある。そんな事を言われれば、タダオの心は傷付くだろう。それを私は不安に思っているに違いない。

 

「ヨコシマさん、タダオ君の中に心眼君が居ると考えても良いでしょう。心眼君の存在が霊的な物か、それ以外の精神的な物かという事は気になりますが、心眼君が何なのかという事は後回しにしてください。私の見解では、心眼君はタダオ君に悪影響を与えるような人ではありません」

 予想もしていなかった意外な言葉だ。この神父には驚かされる。私を人だと扱ってくれるのか。タダオの物ではなく、一つの個人だと扱ってくれるのか。神父の言葉に私の心が揺れ、その動揺がタダオに伝わる。私の感情を感じ取ったタダオは、それを神父に伝えた。

「心眼が喜んでます」

 その言葉に私は、また驚く。私は喜んでいるのか。神父の言葉を、私は嬉しいと思っているのか。何を嬉しいと思っているのだ。人だと認められた事を嬉しいと思っているのか・・・ああ、それはダメだ。私は人であってはならない。私はタダオの物であらねばならない。私は人でなくていい。私はタダオのために存在しているのだから。

「心眼?」

 私の思念を受けたタダオが困惑している。人であることを私が恐れたからだ。私は肉体の外に、人として産まれる事を恐れた。それはタダオの「心眼を外に出してあげたい」という願いに反する。タダオが望むのならば、私は外へ出なければならない。それは私にとって、とても恐ろしい事なのだ。そもそもの誤りは何だったのか。そうだ・・・私がタダオに嘘を吐いたからだ。だから罰が当たった。

 ああ・・・すまない、タダオよ。外に出たいと言ったのは、神父に会うために口実だ。本当の私の望みは、そんな事ではない。私の人生が繰り返される理由を知りたいのだ・・・いや、それはダメだ。繰り返している事までタダオに伝える必要はない。

 タダオを生き残らせるために、死ぬはずのタダオの代わりに悪霊の餌となった人々がいる。それらの人々に何と言われようと知ったことではない。しかし、タダオが何度も死んでいる事は知られたくない。タダオを何度も見殺しにしてきた事を知られたくないのだ。私が繰り返している事だけは、何としても知られてはならない。

 もしも知られてしまったら、タダオは私に何と言うのだろう。死んでいったタダオは私に何と言うのだろうか。「気にしない」と優しくされるのも、「お前のせいだ」と憎まれるのも、どちらも私にとっては等しく恐ろしい。

 どうしようかと悩んでいた私だったが、いい事を思いついた。霊を誘引するタダオの霊力について相談すれば良い。そのために神父に会いたかったのだ。これは嘘ではない。タダオの霊力について、ゴーストスイーパーである神父に相談する事も私は考えていた。繰り返しの理由を調べるために、そのためだけに神父に会いたいと願ったわけではないのだ。そう考えると、人であると言われて荒ぶっていた私の気持ちは落ち着いた。

「じつは体の外に出たいと言ったのは、両親を説得するための口実で、唐巣さんに会いたいと思ったのは別の理由です」

 私が伝えた思念をタダオが言うと、神父は表情を変えた。怒っているわけではない。私がタダオの視界を通して見た神父は、不信を表していた。タダオが気付かないほど僅かな表情の変化だったものの、少し前までの神父の表情と並べて比べてみれば違いは分かる。

 これは不味い。冷静になって考えてみれば、さきほどの私の発言は話の流れを打っ千切っている。相手に自分を信用させてから要望を言い始める詐欺師ような物だ。さきほどタダオが神父に対して必死に訴えてくれた分、それを不毛にしたような物なので印象が悪い。何かを隠していると思われても不思議ではない。小さな変化も見逃さない、これがゴーストスイーパーという者なのだろうか。味方と思えば頼もしいが、敵と思えば恐ろしい相手だ。

 とは言っても、話を強引に変えた理由であるループに関わる事は話せない。だからと言って嘘を重ねれば、いつか矛盾を暴かれるだろう。この神父を相手に嘘を吐くのは危険だ。ならば話しても良い部分だけ話そう。少なくとも「産まれるのが怖い」と思っているのは本当の事なのだから。

「心眼は産まれるのが怖いそうです」

「そうか・・・安心するといい。人は誰しも、この世に産まれるものだ。それが心眼君は少し遅かっただけなんだよ。君は私が何としても産まれさせてあげよう。この世に君が産まれた時は、私に祝福させて欲しい」

 と言いつつも、神父の持つ不信感は拭われていない。やはり、一度芽生えた不信を取り除くは難しいようだ。もしかすると神父自身も、私に対する不信感を自覚していないのかも知れない。それは直感のような物なのだろう。神父とタダオの話を聞いている母親が、いまだに私の存在について疑っているのと同じ事だ。人は自身が無意識に思っている事を自覚できないのだから。

 

 タダオは霊の存在を知っていても見たことは無い。いつも通っていた通学路に悪霊が現れて誰かを殺しても、私の誘導によって回避していたからだ。それに、私が霊力を抑えて、タダオに霊が見えないようにしている。もしも霊が見えて、それらに狙われていると知ればタダオは不安に思うだろう。タダオは霊を見なくていい。タダオを狙う悪霊達から、私がタダオを護ってみせる。

 私は、そう思っていた。しかし、東京へ引っ越した一ヵ月後に大型の悪霊が現れる。100回以上人生を繰り返しても追跡を振り切れないアレから逃げ切るためには、神父の力を借りる必要があるのだ。その力を借りるためには、タダオが狙われる理由を説明しなければならない。それはタダオの霊力について、タダオに明かすという事だ。

 それは許せない。私はタダオの霊力について明かすことなく、ゴーストスイーパーを引っ張り出すのだ。幸いな事に、悪霊を回避するためタダオに指示を行った実績があるので、信用を得るための下地は整っている。ようは、タダオに霊力が無い物として話せばいいのだ。私がタダオの霊力を抑えている事を、わざわざ話す必要はない。

「タダオは霊に狙われやすい体質と思われます。これまでも私が霊を察知して、回避するように誘導していました。しかし、その影響でタダオは日常生活に不都合な思いをしています。これを解消するために、唐巣さんへの接触を図りました。

 外へ出たいとタダオに訴えたのは、霊に狙われやすい体質だと言っても、タダオの親は信じてくれないだろうと考えたからです。わざわざ悪霊の存在を証明するために、タダオを危険に晒すことは出来なかったので」

「舐めるんやない!」

 突然、タダオの母親が大声を上げる。大人しく話を聞いていると思っていたのに、何だと言うのだ。母親の声に驚いたタダオが、隣に座る母親へ視線を向ける。すると、そこには鬼がいた。ゴゴゴゴゴという擬音が背後に見えそうなほど怒っているのは、タダオの母親だ。思わずタダオは席を立ち、教会の壁側へ退避した。しかし残念、そこは行き止まりだ。というか、何故わざわざ行き止まりの方へタダオは逃げたのだろうか。狭い方が安心できると、タダオは思っているのかも知れない。

「話もせんで決め付けたらあかんで! 話さな何も分からん! 話さんで分かってもらおうなんざ、甘ったれや! タダオも何で、ずっと黙ってたんや!」

「ひぃー! 堪忍してやー! ワイは心眼の言う通りにしただけなんやー!」

 母親に怯えるタダオは、あっさりと私に責任を丸投げした。私の事を隠す必要がなくなったので、容赦なくスケープゴートにしようとしているのだ。さきほど私の事を「好きです」とか「姉ちゃんみたいなものなんです」とか言っていたとは思えない有様だった。

 まあ、それは構わない。私の事を知られないように誘導したのは私なのだから。しかし、一度も試さなかった訳ではないのだ。人生を繰り返す度に何度も何度も説明し、その度にタダオの両親は信じなかった・・・ああ、そう言えば、今回の人生では最初から黙っているようにタダオへ忠告したのだった。わざわざ無駄な手順を踏む必要はないだろうと思って、親へ話す作業を飛ばしたのだ。それが不味かったのだろう。

 次の人生があれば、ちゃんとタダオの親へ話す手順を踏まなければならない。そうしなければ、私だけではなくタダオまで叱られてしまう。しかし子供の頃に話しても、タダオの両親は私の存在を信じてはくれないだろう。今回は私の存在を認めてくれる神父が居るから、タダオの母親も信じようという気になったのだ。

 条件が整わない限り、どうやってもタダオの両親が私の存在を信じてくれないのは、何度も人生を繰り返した私が一番良く分かっている。それなのに「決め付けたらあかん!」とタダオの母親は言うのだ。残念ながら私にとって、タダオの両親は信用に値しない。

 

「タダオ君が霊に狙われていると言ったね。ここへ来る途中で霊に襲われていたのも偶然ではないのかな?」

「タダオの住んでいる地域と比べると、ここは霊の数も質も悪い意味で上がっています。タダオが悪霊に教われる確立は高くなるでしょう。偶然か否かと聞かれても、悪霊に聞かなければ分かりません」

 「ヨコシマさん、このような事は頻繁にあったのですか?」

 「いいえ、今回のように霊に襲われたのは初めてです。それ以前も、タダオが霊に襲われていたという場面は見たことがありません。タダオが霊に狙われやすい体質というのも初めて聞きました」

「お母さんが知らないという事は、これまでは上手く回避できていたという事かな? では、なぜ今回は回避できなかったんだい?」

「東京には初めて来たので、霊の配置を正確に把握できませんでした。そして、さきほど言ったように東京は霊の数も質も上がっているので、今までのようには行かなかったのです。分かりやすく言えば、東京に慣れていませんでした」

 神父は考え込む。何を考えているのだろう。会話の中で気になる事でもあったのか。何が気になったのだろうか。私の中で不安が少しずつ大きくなっていく。これは私らしくない事だ。タダオの体を通して感じる心音が、自分の物のように感じられる。ドキドキと鳴る感覚を受ける度に、私とタダオを分ける境界線が薄くなっているように感じた。

 

「このロザリオを君にあげよう。それを手に持って主と聖霊に祈れば、悪霊から君の姿を隠してくれる。ただし、信じなければ主と聖霊も君を守ることはできない。主と聖霊を信じて祈るんだ。そうすれば主と聖霊は応えてくれる」

 神父は小さな十字架の付いたロザリオの数珠を、タダオの手に巻き付ける。それに対して私は霊力を使って見るものの、不自然な所はない。ただのロザリオだ。これで身を護れるとは思えない。きっと気休めのために渡したのだろう。

「・・・いま何かしたかい?」

 神父がタダオに問う。いや、これは私に聞いているのだ。まさかタダオの霊力を使ったために感知されたのだろうか。これまで霊体に感付かれた事はなかったのだが、そうに違いない。次に霊力を使う時は、霊能力者に注意しよう。

 タダオの視界に、タダオを見る神父の目が映る。神父はタダオを見ているのではない。タダオの中にいる私を見ているのだ。急に様子の変わった神父を恐れるドキドキというタダオの心音が、私の気持ちと同調する。

 ああ、神父は私を見てくれているのだ。タダオではなく、その中にいる私を見てくれている。もっと見て欲しいと私は思った。もっと神父に私を見て欲しい。私は、ここにいる。

 

「タダオ君、ずっと話していたから疲れただろう。後は、タダオ君の御母さんと簡単な話をするだけだから、この教会の中であれば自由にしていいよ」

 そんな事を神父は言う。話に飽きていたタダオは、遠慮なく会話の席を立った。神父と母親が話し合う小さな部屋を出て、長椅子の並ぶ大きな広間へ移動する。タダオの中にいる私は当然、神父と母親の話を聞くことは出来なくなった。きっと、私が霊力を使った時に分かった事があるのだろう。それは私にとって、良くない事に違いない。

 そうしてタダオは母親と共に家へ戻る。タダオは翌月に再び、神父の下へ行くことになった。東京までは私のサポートがあればタダオ一人で行けるものの、次も母親が同行するそうだ。さらにタダオが東京を歩くのは危険なので、わざわざ神父が迎えに来てくれると言う。これは次に会う時、なにか有ると思った方が良い。

 それが分かっていても私の気分は良かった。頭の中で鼻歌が聞こえると、タダオに言われたほどだ。結局、なぜ神父に会うのを妨害されたのか分からなくても気にならなかった。次に会う時、神父に除霊されるのかも知れないと考えても気にならなかった。そんな事よりも、早く神父に会いたくてたまらない。これは、きっと恋なのだ。私は神父に恋をしている。

 ああ、そういえば神父の名前は何だったか。忘れている訳では無いものの、最優先なのはタダオだったので、他人の名前は分かり易いように役割で呼んでいたのだ。例えば『タダオの親友』は銀一、『タダオの思い人』は夏子、『タダオの父親』は横島大樹、『タダオの母親』は横島百合子。そうだ・・・初めて神父を見たテレビ番組のドキュメンタリーで名前は紹介されていた。彼の名前は唐巣和宏だ。

 

 

 

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<if 統合失調症の少年>
 ボクの姉の事です。双子です。
 生まれてから、ずっと同じ家にいます。
 以前から、弟であるボクに対して、エッチな嫌がらせをしたりしていましたが、最近はそれがエスカレートしています。
 ボクの部屋と姉の部屋は、本来続き間ですが、襖を閉め家具を置くことで分けています。建具では、壁のような防音効果は無く、お互いの立てる物音が全て筒抜けになります。平日の姉は、ボクが起きる時間より1時間〜30分早く起きて、ボクの顔を見つめています。
 ボクが起きて階下へ降りると、後から降りてきます。ボクが二階へ上がると、直ぐに二階に上がって来て、ボクの部屋の前で気味の悪い声を上げて笑い、扉の隙間からボクの様子を覗きます。
 朝の支度で、何度も二階と一階を行き来する時も、その度に同じく付いてきます。洗面所を使うと、直ぐ後に洗面所を使います。手が汚れたりして洗いに行くと、直後にまた姉が手を洗いに行きます。
 小学校から帰り、コンビニで買った夕食を独りで摂っていると、キッチンに近い洗面所で、ボクの歯磨きを使って歯磨きをしにきます。食欲の無くなる音なので、磨き終わってから食べようかと席を外すと、歯磨きを止めて、再び私が食事を始めるとまた歯磨きに来ます。
 ボクよりも先にお風呂に入りたいらしく、常にタイミングを見ています。ボクの直前に入った時は、ボクが入ってくるまで出てこなかったり、ボクをお風呂に連れ込もうとしたりと、嫌がらせをします。
 夜中にお風呂に入り二階へ上がると、電気の消えている一階のどこかで姉が待っており、直ぐに二階へ上がって来て、気味の悪い笑い声を上げていきます。夜中に水を飲みに一階へ行き部屋に戻ると、こっそり付けて来ていた姉が一階から上がってきます。
 ボクが休もうと電気を消すと、それまでテレビを見て笑っていても、直ぐに電気を消して、ギシギシと一通り大きな音を立ててから眠るようです。
 小学校が休みの日には、いつにもまして早起きし、早朝からボクの顔を見つめます。ボクが起きるまで、見つめるのを止めません。それでも起きないと、頬を突き始めます。なるべく大きくて嫌な音が出るように工夫しているらしく、頬の上をハアハア言いながら何十分もなぞったり、同じ場所を1時間以上突いていることもあります。
 ドアも、壁にかけてある物が弾むほどの勢いで開け閉めします。ボクが完全に起きると、音は止みます。(ボクは耳栓を使っています)
 そしてボクが休みの日だけ、布団を干します。
 物干し竿を全部使い、ありとあらゆる物を干し、ボクの物が干せないように塞いでいきます。雨上がりでも干しています。またある日は、天気が良くても布団を干しません。ボクが干していると、網戸に張り付くようにして見ており、また気味の悪い声を上げて笑います。
 ボクが掃除機をかけていると、急いでやって来て、その廊下に座り込んで動かなかったりします。
 他にも、毎日細々とした嫌がらせを沢山受けています。
 今は、完全に無視して暮らしていますが、いつまでもこんな事を続けていると、ボクの方がおかしくなりそうです。
 無視していても、何かが姉を激高させて、激しく殴られたり首を絞められたりした事もあります。
 家には姉しかおらず、誰もいさめる事ができません。

<if 神父から見たタダオの霊力>
 教会を訪れたタダオ君の手にロザリオを巻く。
 その時、私は寒気を感じた。冷たい風が吹き抜けたと錯覚してしまうほどの寒気だ。危険を感じ取った私の体は静かに戦闘状態へ移行し、タダオ君やヨコシマさんに気取られないまま意識を研ぎ澄ます。今のは霊気による物だ。誰かが霊力を使い、その霊波が駆け抜けた。しかも、すぐ側で発せられた物だ。
 辺りを見回すものの変化はない。タダオ君の母親であるヨコシマさんやタダオ君、教会の内部にも異変は見つからなかった。そうしている間に警鐘は止み、何事も無かったかのように治まってしまう。しかし、何事も無かったと言うのは有り得ない。たしかに私は感じたのだ。
 それは怒り・憎しみ・悲しみ・呪い、そういった感情の全てを押し潰して固めたような気味の悪い霊気だった。数々の悪霊を祓ってきた私ですら、あんな物は感じた事はない。10年や100年ではない、まるで何千年も掛けて凝り固まったような負の思念が放たれていた。あんな霊波を放出していれば、負の思念に引かれた悪霊が集い、手に負えない規模の霊団を形成しかねない。
 そこで私は思い至った。さきほど、その話を聞いたばかりではないか。霊に狙われやすい体質だと。なるほど、あんな霊波を放出していれば悪霊に狙われるのは道理だ。しかし、負の感情を溜め込んでいるように見えないタダオ君が、強い負の思念を抱いているとは思えない。
 そもそも、さきほどの霊波は生きている人の放てる物ではないのだ。下級魔族の魔力だと言われた方が納得できるほど禍々しい。あれは人ではない、あんな物が人であるはずがない。あれと同等の物を人が放とうと思えば、化け物になるしかないのだ。矛盾している例えだが、やはり人に放てる物ではない。
 人は何千年も生きる事は出来ないのだから・・・いや、居た。そう言えばヨーロッパの魔王と呼ばれたドクターカオスは1000歳を越えているそうだ。なるほど。これほど禍々しい霊波を放つ者ならば、魔王と呼ばれても不思議ではない。彼のドクターカオスも下級魔族に匹敵するほどの力を持っているのだろう。
 そう考えた所で無意識の内に頭を振り、私はタダオ君を見つめた。負の思念を持つ者は、タダオ君の中にいる。タダオ君に心眼と名付けられた何かだ。少なくとも、タダオ君の心から生まれた物ではない。こんな物が人の心から生まれるはずがない。心眼君は外部からやってきたのだ。あるいは、タダオ君の前世と繋がっているのだろう。
 これは良くない。1つの肉体に2つの魂は収まらない。互いに同調して同化するか。もしくは反発して殺し合うか。不味い事に、どちらもタダオ君に良くない影響を及ぼす。あんな禍々しい物とタダオ君が同化して、良い影響が出るはずがない。反発した場合は言うまでもなく、タダオ君の意識は食われるだろう。
 早ければ早い方がいい。タダオ君と心眼君を分離するのだ。分離できないようであれば除霊する。タダオ君の自我が成長するほど、同化や反発の起こる危険性は上がるだろう。そうなる前に対処しなければならない。

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