器物転生ときどき憑依【チラシの裏】   作:器物転生

22 / 44
思い返してみると、これまで書いた物語の転生者は女性が多い。
多いと思ってチェックしてみたら、女8:男1でした。

番外の化物語以外、全員女じゃねーか!
その阿良々木君も最後は女装してるしぃ。
なので今回は、転生者を男性にして書いてみました。


【転生】我は影、真なる影【リリカルなのは】

 やあ、始めまして。上で作者が言っていた男性の転生者だ。

 物語の登場人物が作者を認識しているなんて、おかしな話だろう。

 もしかすると僕は、いつでも神様と話せるラインを持っているかも知れない。

 まあ、「持っているかも知れない」のであって、実際に持っている訳じゃない。

 作者が神様として物語に乱入する事はないから安心して欲しい。

 

 これは僕の語る物語だ。転生者である僕の紡ぐ物語だ。

 長い時間、転生者として人生を繰り返してきた僕の話だ。

 生きて死んで、生きて死んで、そうして死んでいるのに生きている僕の話だ。

 とは言っても「君が主人公だ!」と名指しされても、僕自身はティンと来ない。

 胃の痛くなるような主人公なんて役目は、僕には向いていないからな。

 

 それに「僕が主人公だ」なんて、作者も言っていない。

 あくまでも「転生者」であり、「主人公だ」なんて一言も言っていない。

 主人公は原作の主人公であり、僕はオリジナルキャラという名称の捏造設定だ。

 この物語を語る役割を負っているけれど、どこにでもいる平凡な脇役だ。

 主人公組から離れた場所で、コソコソと悪事を企てる小物だった。

 

 宇宙を破壊する力も、時間を行き来する力も、僕は持っていない。

 僕の能力は、せいぜい他人の無意識を引っ張りだす程度のものだ。

 目玉からビームを撃てるけれど、町を廃墟に変える程度の力しかない。

 それに「目玉のような形の本体」で姿を現し、力を行使するのは最終手段だ。

 下手に姿を見せれば闇の書のように、数の暴力でフルボッコにされるからな。

 

 ぶっちゃけて言うと、『ペルソナ4』の巨大目玉アメノサギリだ。

 ただし、僕を産んだ母親(イザナミ)はいない。

 正確に言うと、この世界にはいない。

 僕のアメノサギリは、「他の世界のアメノサギリ」だ。

 『ペルソナ4』の世界から転生する際に持ち越した能力だった。

 

 

 さて、話をしよう。この世界の話だ。

 ここは『魔法少女リリカルなのは』の世界だった。

 なぜ、そんな世界が存在するのかなんて知らない。

 そこに在るのだから、在るとしか言えない。

 それは専門家ではない、僕みたいな素人が考えても仕方のない話だ。

 

 現在、僕が居るのは海鳴市だ。

 『リリカルなのは』の舞台となる町だった。

 ジュエルシードや闇の書のせいで、崩壊の危機に陥る世界だ。

 でも、この世界から脱出しようという気はない。

 もうすぐ原作が始まる時期なのに逃げ出すなんて、もったいないじゃないか。

 

 僕は見ていた。人を観察していた。

 公園で一人遊ぶ、孤独な高町なのはを見ていた。

 母親から虐待されるフェイト・テスタロッサを見ていた。

 体が不自由にも関わらず、一人暮らしをしている八神はやてを見ていた。

 ついでに、父親を失ったクロノ・ハラオウンも見ていた。

 

 そのまま彼等は成長する。

 不自然に落ち着いた、大人っぽい子供になった。

 我がままを言わず、真面目で大人しい、そんな子供だ。

 大人とっては都合がよく、大人に面倒をかけない。

 とても子供とは思えない優秀な子供達だ。

 

 だが、そんな彼等は歪みを内包している。

 その歪みから目を背けて、自分を偽って生きていた。

 今は秀才と持て栄されてはいるものの、いずれ破綻するのは目に見えている。

 苦しいのに「苦しい」と彼等は言わない。

 悲しいのに「悲しい」と彼等は言わない。

 

 彼等に必要なのは、自分の話を聞いてくれる人間だ。

 閉ざされた心の扉を開けるラフメーカーだ。

 冷たくて誰もいないお城から、自分を連れ出してくれる王子様だ。

 そんな存在を彼等は待っている。

 しかし自分の力では、その扉を閉める事しかできない。

 

 僕にとって、彼等は好ましい存在だ。

 自分の心を押し殺す存在を、僕は好ましいと思う。

 僕の能力は、彼等のような人間に対して有効となる。

 正常な人間に対しては、逆に力を与えてしまう恐れがあった。

 しかし原作が始まれば、そんな彼等の歪みも解消される事だろう。

 

 だから待っていた。

 この日を、ずっと待っていた。

 彼等が失われる前に、彼等の影(シャドウ)を収穫する。

 

 僕は彼等が嫌いな訳じゃない。

 さっきも言ったように、好ましいと思っている。

 彼等が耐え抜いた努力を、僕がたたえよう。

 彼等の努力は無駄ではなかったと、僕が認めよう。

 その苦悩を、痛みを、無駄にはしない。

 

 がんばったね。

 えらいね。

 

 と言って、抱きしめてやる。

 だから僕の胸に、思いっきり飛び込んでくるといい。

 

 

 

——我は影、真なる我

 

じゃあ、そろそろ始めようか。

彼等の物語りを始めよう。

 

 

 

 

 

次回から


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告