器物転生ときどき憑依【チラシの裏】   作:器物転生

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【あらすじ】
タダオと体を共有する心眼は、
肉体が死ぬと、タダオの母親から生まれた瞬間に飛ばされてしまう。
しかし赤ん坊のタダオは記憶を失い、心眼のみが全てを記憶していた。




<210回目>

 私の与える知識によって、タダオが受けるテストの成績は常に満点だ。答えを書く場所を間違えるなどのミスも、タダオの視界を共有している私がチェックして防ぐ。授業の1時限45分を使ったテストであれば、10分で書き終わり、35分ほど時間が余ってしまう。その間、タダオは暇そうにしているのだ。テスト用紙は落書きで埋め尽くされてしまう。

 その小学校にタダオが場違いなのは、教師や生徒の誰が見ても明らかだった。そのためタダオは小学校を卒業すると、教師に推薦された東京にある高学力校を受験する事になる。タダオも地域から離れたい気分だったため、話はスムーズに進んだ。

 それと言うのも、タダオが好意を抱いていた女子が、タダオと仲の良かった親友に学校の屋上で告白されているというショッキングなシーンを見てしまったからだ。いわゆる親友によるネトラレ的な展開は、タダオにトラウマ級のダメージを与えた。例え話ではなく本当にタダオのトラウマになりそうだ。このままでは「愛されたい」と思いつつも「他人に愛されるとは思えない」という矛盾を抱えた精神を形成してしまう恐れがある。もしも、また死んで繰り返した時は、タダオが告白シーンを見ないように調節しよう。

 そういう訳で東京へ引っ越したものの、タダオの死亡率は跳ね上がった。これまでと違って、どこに悪霊が居るのか分からないからだ。私が霊力を抑えているにも関わらず、まるでタダオに発信機が付いているかのように悪霊と遭遇してしまう。これまでも霊が原因で、1年に最低3回は死んでいたのだ。前から疑ってはいたものの、霊力だけではなくタダオの肉体も、霊を誘引する性質を持っているのだろう。そうでなければ地上に溢れた悪霊によって、すでにタダオ以外の人類は死滅しているはずだ。

 

<300回目>

 人生を繰り返すついでに、親友によるネトラレ告白シーンを回避した。なので、タダオは思い人への恋心を維持している。しかし結局、教師の熱心な薦めで、タダオは東京へ引っ越すことになった。お前は何故それほど熱心に薦めるのだ、と私は教師に突っ込みたくなる。

 もしや「タダオは私が育てた」とか何とか言いたいのだろうか。そうは言わせない、タダオは私が育てたのだ。教師はタダオにとって無駄な宿題やテストを作って、鉛筆を握るための握力を鍛えていただけではないか。しかも東京への進学は、タダオの意志とは言い難い。どうせ東京へ行けば再び繰り返すのだから、教師を論破する方法を考えよう。

 東京は死亡フラグの乱立する魔都だ。まるでゲームのバグ取りのように、悪霊を回避すると次の悪霊が現れる。一日に一体ほどの遭遇率だが、悪霊の力量が高い。霊に対して情報不足であると感じたため、仕方なくタダオに頼んでゴーストスイーパーに関する本を見てもらった。

 どうせならば今回は問題の解決に重視し、タダオよりも私の都合を優先する捨て回にした方が効率は良いのだが・・・それでは今回のタダオが捨石になってしまう。これまでに死を共にしたタダオも私の護るべきタダオなのだ。タダオを捨石にする事は、私の根底にある存在理由を覆してしまう。それに、タダオを捨石にした回で繰り返しが終わってしまえば、私は私を許せない。

 

<400回目>

 東京への進学を薦める教師の説得に成功した。と思ったら次は隣のクラスの教師と共に来たので同じように説得した。と思ったら小学校の教頭が来たので頑張って説得した。と思ったら校長が来たので何とか説得した。と思ったら教育委員会の刺客が来たので無理して説得した。と思ったら役所の連中が5人組で来た。

 なんと大人気ない連中だ。私がセリフを用意しているとは言っても、こんな連中の訪問を受けていればタダオの精神力が擦り切れてしまう。最後の役所から来た連中には、そんなに仕事が無いのかと言ってやりたい。言ってやりたかったがタダオの精神力が限界だ。もはやセリフを読み上げる気力はない。代わりに言ってくれたのはタダオの両親だった。

「いい加減にしてください。タダオが行かないと言ってるんです。これ以上は、何度来ても誰が来ても、私達が行かせません」

 私もタダオの親を、ちょっと見直したかも知れない。わざわざ5人組で来たのが不味かったのだろう。タダオの親の逆鱗に触れた連中は家から押し出され、その後タダオの説得を試みる者はいなかった。100ループ以上掛けて、ようやく魔都行きが中止になったのだ。あまりの執念深さに、宇宙意思か何かが邪魔をしているのかと思ってしまったくらいだ。東京へ行きたくないというタダオの意志を護れた事で、私の心は達成感に満たされる。

「近い内に引っ越す予定やったけど、タダオが嫌がるんなら止めなあかんね」

 おお・・・少しでも見直した私がバカだった。お前らがラスボスか。親の言葉を聞いたタダオは(ワイを置いて行くつもりやないよね)と私に尋ねる。

 (そんな訳はない。今のは『タダオと一緒に居られないのならば引っ越しなんてしたくない』という意味だ)

 (なんで引っ越さなあかんの?)

 (タダオが東京へ行くのならば、父と母も引っ越さなければならないという話だ。タダオが引っ越さないのならば問題はないのだよ)

 これで誤魔化せたか、と思いつつタダオの反応を待つ。するとタダオは、私ではなく父親に「なんで引っ越さなあかんの?」と聞いた。

「オレの仕事の都合で、近い内に東京へ引っ越す予定やったんや。でも、タダオは何も心配せんでええからな」

 誤魔化せなかった。女性に話し掛ける時と同じくらいタダオの父が気を使えば、「父親の仕事の都合で引っ越す」という事をタダオに気付かれずに済んだのだが・・・バカ者め。おかげでタダオは微かな罪悪感を抱いてしまった。自分のせいで親に迷惑を掛けてしまったと思っているのだ。

 常識で言うと、小学校で女子のスカートを捲るなどの問題行動の方が、親に迷惑を掛けているのだが・・・そちらはタダオにとって「本能に逆らえない仕方のないこと」に分類される。女子の着替えを覗くことはタダオによって、命よりも大事なことなのだ。そのためタダオは母から叱られようとも、痛みを与えられようとも、命を失う恐怖に晒されようとも、自身の煩悩に従い続けるだろう。

 さて、タダオは精神が不安定になっていた。大人達による連日の訪問で精神力を削られ、大人達を家から押し出す母の姿に恐怖し、心配した父の言葉で止めを刺される。タダオは「自分のせいで、こんな事になったんやないか?」と不安に思っていた。その不安が少しずつタダオの心を蝕む。子供の心を病ませるには、一つの不安で十分なのだ。

 (タダオのせいでは無い)と私は伝える。しかし、タダオの不安は無くならない。今のタダオに言葉を伝えるだけでは足りなかった。肉のある体で抱き締めてあげなければ、タダオの心が休まることはない。だが、私には肉体がなかった。ならば、タダオが両親に抱き締めて貰えるように仕向ければいい。仕向ければ良いのだが・・・私は気が進まなかった。タダオを抱きしめる両親の姿を想像する事さえしたくない。

 ここはタダオの自立を促すためにも・・・いや、私は何を言っているのだ。そんな事を言っている場合ではない。魔都へ引っ越すことを防ぐ以上に優先する事はないからだ。タダオが東京へ行きたく無いと願うのならば、その願いを私は叶えなければならない。しかし、魔都にある高学力校へ行けば、タダオは高収入の仕事に就いて楽ができる・・・いや、私は何を言っているのだ。それをタダオが望まない限り、私が決めてはいけない。

 そもそも、まずはタダオの精神に傷が付く今の事態を回避するべきだ。そうなると、この事態は無かった事になり、魔都行きは避けられない。その後、近くの中等学校へ進学することになったが、入学する前にタダオは悪霊に襲われて殺された。

 

<410回目>

 親友によるネトラレシーンを回避し、タダオに思い人への告白を促し、東京へ引っ越した後も文通を交わすことに成功した。今ならば一週間も専念すれば、思い人のタダオに対する好感度を上げて婚約まで交わせる。

 しかし400回目から、たったの10ループほどで攻略できるとは簡単過ぎるのではないか。タダオの親友に告白されていた事から、思い人の浮気を私は心配している。思えば、最初からタダオに対する思い人の好感度は高かったのだ。タダオの思い人は「誰もいいから愛されたい」という願望を持っていて、「愛されていない」と不安に感じれば浮気に走るタイプなのかも知れない。私としてはタダオに、浮気の心配がある相手と付き合って欲しくはない。だが、タダオが望むのならば、思い人との関係を維持する事に協力しよう。

 いや、待てよ。もしや、最初から両思いだったのではないか?

 

 よく考えてみると、学校の屋上で「親友が思い人に告白していた」というのはタダオの思い込みかも知れない。「親友に思い人を盗られた」という認識を否定できる事実があれば、タダオの精神に傷が付く事態は防げる。さっそく調べてみよう。

 思い人の気持ちを確かめるために最も簡単な方法は、思い人に親友が好きか否かを聞くことだ。しかしタダオには、そのための勇気が足りない。勇気が足りなければ、私の用意したセリフも声に出せない。こんな時に、教師・教頭・校長・刺客を撃退した400回目のタダオがいれば・・・いや、400回目のタダオでも言えないか。少しずつ追い詰められた時と違って、タダオではなく「ギンちゃんが好き」と思い人に言われたら、その一撃でタダオに止めを刺してしまう。

 なんと恐ろしい。思い人に直接聞くのは禁止だ。ならば人を使うか、手紙を使うか・・・そうして私が練った計画をタダオに伝えた。

(やだ)

 嫌がるだろうと思っていたが、やはりタダオに嫌がられた。そう言うだろうと思っていたので、タダオに気付かれないような方法を実行する。要するに、思い人の名前を出さなければ良いのだ。タダオが「女の子ってギンちゃんのこと好きなんか?」と思い人へ尋ねるように私は誘導した。

「私らのスカートを捲ろうとするあんたよりも持てるのは確かや」

 タダオの受けたショックが私に伝わる。それほどショックを受けても、懲りずにスカートを捲ろうと試みるのがタダオだ。「ちくしょー! どうせ顔が良い奴は何しても許されるんやー!」とギャグっぽく無様に泣き喚き、自身の心を誤魔化そうとする様が痛々しい。

 しかし、これで分かった。親友を好きか否かを聞かれた思い人は、発言するまでの間に迷っていたからだ。わずかな間だったものの、思い人の様々な会話を200ループほどの間に2万時間以上記録している私には分かった。さきほどの言葉はタダオに対する皮肉ではなく、そうなって欲しいという期待の混じった言葉だったのだ。

 

 様々な方向で物事は分析しなければならない。例えば女子更衣室に鏡があると思ったら、隣の男子更衣室から見るとマジックミラーで、女子の着替えが丸見えだったという事もあるのだ。思い人がタダオに行為を抱いているという証拠が、もっと私には必要だった。

 そのため、いつものように思い人のスカートを捲るタダオが「(パンツが)好きだから捲るんや!」と言うように誘導する。どうやったのかと言うと、自分の気持ちを伝えれば女子もパンツを見せてくれるようになると、美化加工済みのイメージ映像付きで伝えたのだ。

 私の伝えるイメージは現実に沿ってるとは限らない。タダオの性欲を発散するために、タダオが見たことのない同級生の胸や割れ目のイメージを用意しているのは私なのだ。

「パンツが好きだから捲るんや!」

 その結果、タダオは思い人によって暴力的に叱られた。これも思い人の気持ちを知るための貴重なサンプルだ。

 

 現在、私の考えるべき事は2つある「魔都へ行く前の魔都に対する回避方法」と「魔都へ行った後の悪霊に対する手段」だ。引っ越して一ヶ月は生存できるようになったものの、追尾能力の高い難敵に狙われているため逃げ切れない。おそらく人ではなく犬の霊だろう。アレを何とかしない限り、また東京で死ぬことになる。

 悪霊に対する手段と言えばオカルトグッズだ。すでに、神社で買える御守り系は効果が無いと分かっている。あれらは未だ訪れていない災難を避けるためにある物であって、すでに訪れた災難を防ぐことは出来ないからだ。

 分かり易く言うと、悪霊に狙われる原因を持っている人には効果がない。例えば、他人から金を借りようと思っている人の心を「借りたくない」と思うように誘導する事はできるものの、食費すら無ければ結局借りなければならない。

 霊を誘引する性質を持つと思われるタダオの肉体が、悪霊に狙われる原因だ。ついでに言えば、私が抑えている霊力を開放すると、霊を誘引する効果が倍増しになると思われる。とは言っても、タダオの身の安全のためにも、悪霊を追い払う時以外に霊力を開放した事はない。

 この誘引を防ぐためには結界が必要だ。誘引している原因は分からないものの、その原因を遮断する効果が期待できる。そう思ってタダオに頼み、小学校の図書室にある本を読み、公共図書館の本を読み、テレビを見て、オカルトグッズの価格を調べてもらった。こんな時に、キーワードを入力すると検索結果を出力してくれるマシンがあれば便利なのだが・・・そんな便利な物はネコ型ロボットのポケットに限って存在する物だろう。

 タダオに頼んで調べて貰った結果、結界を敷くために必要なオカルトグッズは10万円を下らないことが分かった。しかも使い捨てだ。引っ越し先で毎日結界を敷いていたら、3ヶ月で最低1000万円を消費する事になる。千切れるまで何度も使える呪縛ロープという物もあったが、こちらは50万円だ。今のタダオに、そんな収入も貯金もない。人生を繰り返した際に、今までに死んだタダオの所持金を持ち越せたとしても、1年ほどしか維持できないだろう。

 タダオの霊力を使い、悪霊と戦うという手段もある。しかし、初めて物理的な破壊力を持つ悪霊によってタダオが殺された時にも言ったが、タダオを戦わせるのは私の気が進まない。そもそも私に肉体の操作権は無いのだ。肉体であるタダオが動くと、私の狙いがズレる。タダオは動かない方が、悪霊に対して霊力を当てやすい。

 と思い、そこで私は気が付いた。タダオの霊力を使って、私が戦えば良いのだ。なぜ私はタダオを戦わせたくないと言いつつも、タダオが戦うことを前提に考えていたのだろうか。私が霊力を抑えればタダオに霊は見えない、その状態のまま悪霊を一撃必殺で撃退できれば良いのだ。そこで問題になるのは、霊力を用いて悪霊にダメージを与えられない事だろう。

 

 オカルトグッズの価格をタダオに見てもらう過程で分かったのは、私には霊能力が足りないと言う事だ。霊力を剣の形にしても弾丸のように飛ばしても、それは形を真似ただけで悪霊にダメージを与える事はできない。霊力とは波のような性質を持つのだ。攻撃的な意思で霊力を整え、例えるならば粒子のような物に霊力の性質を変化させなければ、悪霊のような霊体に干渉できない。霊力のままでは音波のように悪霊を擦り抜けてしまう。それでも今まで霊力を放つことで悪霊を追い払えていたのは、光や音を使って動物を追い払うのと同じ事だ。それが通用しなくなるから困っているのだが・・・。

 現在、タダオは公営の図書館にいる。小学校の図書室よりも本の種類と数が多い、2階建ての図書館だ。私の願いに応えて、わざわざ図書館まで遠出してくれたタダオには申し訳ない。ここで私の読みたい本をタダオに見てもらったので、必要な情報は記憶できた。私の用事は終わったので、タダオの予定に戻って構わないと伝えたものの、タダオは図書館に長居している。その手には『暗黒魔闘術』というタイトルの本が握られていた。

 マンガのようなネーミングセンスがタダオの心を刺激したのだろう。圧縮した魔力を用いた格闘術で、相手を両断する斬撃・殴りつけて粉砕する衝撃・広範囲を攻撃する衝撃波が奥義として紹介されている。さらにブックカバーを外してみると『裏暗黒魔闘術』という魂を削って武器を作る方法が紹介されていた。こんな物をブックカバーの裏に隠すとは、子供心が良く分かっている作者のようだ。その本の筆者はジル=ハーブと、日本語の片仮名で記されていた。まさか本名という事は無いだろうし、ジル=ハーブというのはペンネームだろう。

 この本の内容は、なかなか参考になる。とは言っても暗黒魔闘術で用いる強大な魔力に耐え切れず、人の体は壊れるそうだ。裏暗黒魔闘術も魂を削るため、魔族専用の技と考えた方が良い。参考になるのは裏暗黒魔闘術の使い方だ。裏暗黒魔闘術を使用するためには強靭な魂と、それを加工する強い精神力を持つ魂が必要と書かれている。霊能力に言い換えれば、強靭な魂の発する霊力と、それを加工する強い精神力を持つ魂が必要なのだ。

 人生を繰り返す度に、タダオの霊力は少しずつ上がっている。これは繰り返す事によって、魂が鍛えられているのかも知れない。魂が逆行しているのか、同じ世界ではなく類似している世界へ移行しているだけなのか、タダオの魂と私以外の物が巻き戻っているのか。もしくは私の記録した経験に魂が影響されて、霊力の出力が上がっているのか。様々な理由が考えられる。

 それは兎も角、タダオの霊力に不足はないだろう。足りないのは私の精神力なのだろうか。繰り返しによって2000年以上も生きている私に精神力が足りないのならば、人は霊能力を修得できないに違いない・・・いや、精神力とは何を指すのだろうか。私が霊能力者に至れない理由として、欠けている物が存在するのではないか。

 

<500回目>

 100回ほど前から、どうしても引っ越し後の1ヶ月先へ進めない。両親と共に引っ越した家ごと破壊されてしまうのだ。その日は外出するように誘導しても、外出先に悪霊が現れる。追尾能力の高い犬の霊だ。家ごと破壊されたという言葉の通り、大型トラックほどの大きさがある。というか体形が犬に似ているから犬の霊と思っているだけなので、犬ではないのかも知れない。そもそも、あんな大きさの犬が存在するとは思えない。

 自力で対応するのは諦めよう。面倒を掛けるので気は進まないが、タダオに頼んで電話を掛けてもらう。無料で霊を祓ってくれるという評判のゴーストスイーパーがいるのだ。結界を敷くためのオカルトグッズが10万円を下らない事から察せられるように、並のゴーストスイーパーに依頼しようと思えば最低でも100万円を用意しなければならない。

 無料で霊を祓ってくれるというゴーストスイーパーに断られた場合、ゴーストスイーパーではない霊能力者に頼むという方法もあるが・・・あの巨大な悪霊を並みの霊能力者が何とか出来るとは思えない。ゴーストスイーパーへ掛ける電話の内容は、私がセリフを用意してタダオが読むため、説得力の低下は避けられないだろう。最悪の場合、私について説明する必要がある。それは問題だ。だから私は、これまで霊能力者に頼ろうとしなかったのかも知れない。

「おかけになった電話番号は、お客様の御都合により、使用できません」

(通じねーぞ、心眼。電話番号が間違ってるんじゃねーか?)

 それは妙な話だ。テレビ番組のドキュメンタリーで放送されていた電話番号を、タダオが見た上に聞いたのだ。それを私が記憶したので間違えるはずがない。というか、この自動音声は電話料金の滞納で流れるガイダンスではないか。まさか電話料金を払えていないとでも言うのか。と思ったものの、よく考えてみると無料で除霊していれば金銭に困るのは当然の話だ。それからタダオが悪霊に殺される日まで掛け続けたものの、電話が通じる事はなかった。

 

<501回目>

 ゴーストスイーパーの協力が必要だ。そのため東京へ引っ越す前に電話を掛けたものの、やはり電話は通じなかった。あいかわらず、電話料金を滞納した際のガイダンスが流れている。テレビ番組で電話番号が放送される前後に、電話を掛けても通じない。何時かけても何度かけても通じない。これは、さすがに有り得ない。ゴーストスイーパーへの通話を、何者かに妨害されているのだ。

 

<502回目>

 500回目にして、このループが意図的な物である可能性が浮上した。この状況を詳しく調べる必要があるだろう。まずは、何者かの妨害で電話が通じないゴーストスイーパーに会う必要がある。そのためには、ゴーストスイーパーのいる教会まで、タダオに遠出をして貰わなければならない。

 しかし、最近のループではタダオに無理を言うことが多くなってきた。その事は自戒しなければならない。私はタダオのために存在しているのだから。

(タダオよ、私には会いたい者がいるのだ。タダオが良ければ、その人の下まで私を連れて行って欲しい)

(心眼の会いたい人って誰や?)

 私の存在は誰にも知られてはならないと、タダオに忠告していた。うっかりタダオは話してしまう事があるので、両親が人質に取られるというイメージで脅している。そんな誰にも存在を知られてはならず、誰にも話してはならないと言った私が、誰かに会いたいと言うのだ。当然のように、タダオは相手が気になったのだろう。

(ゴーストスイーパーだ。昨日テレビに映っていただろう。彼ならば私の抱える問題を解決できるかも知れない。何よりも、相手によっては無料で相談を受けてくれると言うのがいい。私やタダオのような子供ならば、快く受けてくれるだろう。無料で)

(無料でかー。そりゃええな)

 タダオは了承してくれたものの、ここからが本番だ。私が共にいるので、タダオは一人でも東京へ行ける。しかし、タダオの親が行かせてはくれないだろう。隠し続けた伏せ札を、私も明かさなければならない。死ぬと人生を繰り返す原因を知る機会かも知れないのだ。どうしても私は、ゴーストスイーパーに会いたかった。

「おふくろ、おやじ。昨日テレビに映ってたゴーストスイーパーの唐巣って神父さんに会いたいんやけど、東京まで一緒に付いて来てくれんかな?」

 ちなみに、いつものように私が伝えたセリフを、タダオは読み上げている。棒読みによる説得力の低下を不安に思うものの、タダオ自身の意思で親を説得する方が難しいのだ。

「ゴーストスイーパーやて? なんでゴーストスイーパーに会いたいんや?」

「ワイの中にいる、もう一人のオレが抱えている悩みを、解決してやりたいんや」

「あんたの中にいる、もう一人のあんたやて?」

 聞き流すことなく、タダオの親は話を聞いている。しかし私が思うに、私の存在を信じている訳ではない。タダオの抱える心の問題として話を聞いているのだ。始めは棒読みだったタダオのセリフも、今は感情が込められていた。私の望みを解決してやりたいという、タダオの思念が私に伝わる。

「そいつはワイの中にいるんや。そいつは生まれた時から一緒にいて、そいつはずっと身動きが取れなくて、そいつはずっとワイを通して外を見ていた。だから何とかしてあげたいんや・・・ワイは、こいつを外に出してあげたいんや!」

 タダオは涙声で、母親に訴える。

 ああ、なぜ御主が泣くのだ。私のために泣く必要などないと言うのに・・・私は御主のために涙を流した事などないと言うのに・・・なぜ私のために泣いてくれる。私は御主のための道具でいい、御主のために私は存在するのだ。だから私のために泣いてくれるな。

 

 タダオの母親と共に東京へ向かう。事前に母親がゴーストスイーパーへ電話を掛けると、当たり前のように電話は通じた。どういう事なのだろうか。電話を繋げるための条件でもあるのだろうか。母親と一緒に来ることが条件なのか、母親が電話を掛ける事が条件なのか。私に人生を繰り返させる者は、いったい何を求めているのだろう。

 なぜ私はタダオの中に存在している。なぜ私はタダオが死ぬと再び生まれる。私は自分の意思では指一本も動かせず、私はタダオを通して世界を見ている事しかできない。何のために私は生まれた。何の目的で私は人生を繰り返す。私を見ている何者かは、私に何を望んでいるのだ。知りたい、答えて欲しい、私の声が聞こえるのならば、どうか私に教えてくれ。

 

「どうしたんや、おふくろ。そんなに腕を引っ張ったら痛いで」

「いいから走るんや! 振り返ったらあかんで、タダオ!」

 母親と共に魔都へ入ったタダオは悪霊に追われていた。当然の事だろう。この辺りには今まで来たことが無いため、悪霊の出現パターンが分からない。意図して回避しなければ、悪霊に必ず遭遇してしまうのだ。魔都と呼んでいるのは伊達ではない。もしもタダオが東京で育っていたら、何百回と人生を繰り返しても生き抜くことは出来なかった。

 振り返ってはいけないと言われれば、振り返りたくなるのがタダオだ。しかし、私が霊力を抑えているため、タダオの目に悪霊は映らない。悪霊の物質に対する干渉の影響で、せいぜい景色が歪んで見える程度だ。だからタダオは今まで霊を見たことが無い。タダオが霊を見るという事は、霊力を開放するという事だ。そんな事を魔都である東京で行えば広範囲の悪霊を誘引し、集まった悪霊の群れに包囲されてタダオは死ぬだろう。

「父と子と精霊の御名において命ずる! 悪霊よ、去れ!」

 男の声と共に悪霊が弾き飛ばされる。母親に手を引かれて逃げるタダオを助けたのは、異変を察知したゴーストスイーパーだった。私が会いたいと願っていた神父だ。神父と言っても、異教の儀式を使ったためキリ○ト教は破門になっている。

 神父の住居である教会に、タダオと母親は案内された。まずはタダオの母が礼を伝え、こちらの事情を説明する。それは、「タダオの中にいる私を調べて欲しい」という物だ。タダオの母親としては、そもそもタダオの中に私が居るのか否かを疑っているのだろう。神父に悪霊と判断されれば、そのまま私の除霊を依頼するつもりに違いない。せっかく此処まで来たと言うのに、このまま終わらせるものか。そう思っていたのだが、母親の願いを聞いた神父はタダオに話しかけた。

「タダオ君。君の中にいるのは、どんな人なんだい?」

「どんな人っていうか・・・うーん」

 私の姿を想像したイメージが、タダオから私に伝わる。それはタダオにとって優しい姉のような存在であり、厳しい女教師のような存在であり、胸の大きな女性であった・・・いや、ちょっと待て。それはイメージじゃなくてタダオの願望だろう。と言うか女性なのか。御主の中で私は女性扱いされていたのか。

「いつから君の中に、その人が居るのか分かるかな?」

「ワイ・・・じゃなくてオレは覚えてないけど、心眼が言うには生まれた時から一緒にいるらしいです。あ、心眼って言うのはオレの中にいる奴の名前です」

 「その名前は心眼君が名乗ったのかい?」

 「いいえ、オレがギンちゃんっていう友達と相談して決めました」

「そうか。その名前を心眼君は喜んでくれたのかな?」

「うーん、よく分かりません。心眼は喜んだり怒ったりしないんです。いつも遠くから語りかけてくるような感じで、なんだかフワフワしてて、やる気のない感じです。あ、でも最近はゴーストスイーパーに会いたいって言い始めて、少し元気になりました」

 御主は何を言っておるのだ。ほら、ちゃんと私の伝えるセリフを読んでだな・・・。

「どうして心眼君は私に会いたいと?」

「外に出たいって言ってました。オレの中にいると、体は自由に動かせないし、喋れないし、オレが代わりにやらないと何も出来ませんから」

 いや、それはタダオの親を説得するために考えた理由で、私の本当の望みは・・・。

「タダオ君は心眼君のことを、どう思っているのかな?」

「好きです。いつもオレの知らない事を教えてくれて、オレが頑張ったときは褒めてくれて、危ない事があったら教えてくれます。朝は毎日おはようって起こしてくれるし、夜は心眼がいるので怖くありません。オレにとって心眼は、姉ちゃんみたいなものなんです」

 もう穴に潜って冬眠してしまいたい。

 

 

 

loop number 210 → 502




<if よこしまハーレム>
 タダオは心眼のサポートを受け、クラスメイトの女子を攻略する。
 まずは思い人であるナツコだ。心眼のサポートがあれば一週間で攻略できるぜ!
 次は一番胸の大きい子だ! 一ヶ月かかったけど攻略できたぜ!
 次は二番目に胸の大きい子だ! やっぱり一ヶ月かかったけど攻略できたぜ!
 次は三番目に胸の大きい子だ! 同じように一ヶ月かかったけど攻略できたぜ!
(なー、心眼。このままじゃ全員攻略する前に卒業しちまうよ)
(仕方あるまい。ならば二股だ)
 次は出席番号五番と六番の子だ! 一ヶ月かかったけど一気に2人攻略できたぜ!
 次は出席番号七番と八番の子だ! やっぱり一ヶ月かかったけど攻略できたぜ!
 次は出席番号九番と十番の子だ! 同じように一ヶ月かかったけど攻略できたぜ!
(まだ10月だけど余裕だな! 3分の2は攻略した! 後は5人だ!)
(安心するのは早いぞ、タダオよ。
 攻略したからと言って放置していれば好感度は下がってしまう。
 たまには攻略済みのメンバーも面倒を見てやらねばならん)
 次は出席番号十一番と十二番だ! 一ヶ月かかったけど2人とも攻略できたぜ!
 次は出席番号十三番と十四番だ! やっぱり一ヶ月かかったけど攻略できたぜ!
 次は出席番号十五番と十六番だ! 同じように一ヶ月かかったけど攻略できたぜ!
(ふぅ、春休みの間に全員攻略できたな・・・おや、あそこに居るのはナツコじゃないか)
「どうしたんやナツコ。雪も降ってるし、電柱の影になんていたら風邪を引くで」
 なぜか電柱の影に隠れてタダオの様子を探っていたナツコに対して、タダオは肩に手を回してナツコの体を抱き寄せる。すると、ナツコの隠し持っていたノコギリの刃が、タダオの首に当てられた。
「ひどいなぁ、ヨコシマ。クラスの皆に手ぇ出すなんて・・・これはお仕置きせなあかんね」
「落ち着くんや、ナツコ。切れてる切れてる。ちょこっと首が切れてる」
「なぁ、ヨコシマ。うちな・・・お腹の中にヨコシマの子がいるんよ」
「え?」
 ノコギリが引かれ、タダオの首から鮮血が舞う。降り積もった雪が血に染まり、タダオから熱を奪い去った。力を失ったタダオの体が崩れ落ち、冷たい雪の上に倒れ伏す。ナツコは倒れたタダオの体にノコギリを当てて、ギーコギーコと音を鳴らした。

<if ペルソナ3>
 東京へ引っ越したタダオだったが、深夜0時と共に世界が一変する。月から降り注ぐ青緑色の光に照らされた世界は、無数の棺が立ち並ぶ異世界へ変貌した。父親や母親が物言わぬ棺と化したため、不安に駆られたタダオは両親の姿を探して家の外へ出る。すると、白い仮面を付けた黒い生き物が襲い掛かかり、タダオは暗い夜道を泣きながら逃げるはめになった。
「ぎゃー! だーれーかー、たーすーけーてー!」
 その時、タダオの脳裏に言霊が浮かぶ。きっと心眼が助け舟を出してくれたのだ。そう思ったタダオは無我夢中で、走り過ぎて荒い息を絞りつつ、その言霊を唱えた。
「ぺ ル ソ ナ !」      カッ!
 タダオの体が青い光に包まれ、その中から赤い少女が姿を現す。腰まで伸びた血のように赤い髪、一糸纏わぬ寸胴な体、そこまでなら全裸の変態少女で済んだのだが、その少女の顔に目は一つしか付いていなかった。赤い輝きを秘めた瞳がタダオを見つめる。その少女の名を、一つ目少女といった。
 一つ目少女は地面を蹴る。すると道路が陥没し、その反動で少女の体は打ち出された。タダオの後を追っていた黒い生き物に飛び蹴りを食らわせ、大きく弾き飛ばす。黒い生き物は道路の上を凄まじい速さで跳ね飛び、民家の外壁に突っ込んで粉砕すると、二度と動かなくなった。
「ちがうんやー! ワイはロリちゃうんやー! ・・・いや待てよ、今はオレもロリじゃなくてショタか。うーん、でも乳もないし、尻もないし、太股もなぁ・・・」
「御主は何を言っておるのだ。このバカ者め」
 「うん? あれ? もしかして、お前、心眼か!
  バインバインだったのに、なんて変わり果てた姿になっちまったんだー!」
 「それは御主の妄想だ。そもそも、つい先程まで私に肉体は無かったのだぞ」
「ちくしょー! 裏切ったな! オレの気持ちを裏切ったな!」
「早く安全な場所へ移動するぞ。バカを言うなら、そこで聞いてやる」
 「おい、心眼。オレを置いて行くな・・・って、よく見たら裸じゃねーか!」
 「服なんぞ持っていないからな。気にするな。どうせ近くに人などいないだろう」
「ちがうんやー! ワイはロリちゃうんやー!」
「落ち着け、話を聞け、置いて行くぞ」
 タダオのバカ騒ぎに気付いて集まった特別課外活動部のメンバーが、全裸の少女と怪しさ満点の少年を発見し、思い込みの激しい少年が必死に冤罪であることを主張し、全裸の少女が少年の服を「あーれー」と脱がして着込み、ようやく話が進むと思ったら少女の目が一つしかないことに特別課外活動部のメンバーが今更になって気付き、悲鳴を上げる者や気絶する者が続出し、「シャドウか!」と勘違いして攻撃してしまった者は心眼の非常識な腕力で叩きのめされ、その場の混乱が治まるまで10分ほど掛かるのだった。



追記:410回目のネトラレ解決辺りに誤字報告が来てたけど、何のことか分からないでござる。よく分からんけど、可能な限り書き加えておきました。

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