ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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九十二話

 危機管理センター。

「……いったいどうなって」

 口に出した言葉は、しかし続けようとした言葉は頭のどこかで霧散してしまった。

 画面に映るのは、先日死んだはずの青い巨人――ウルトラマンヒカリ――だったのだから。

 ヒカリは亡霊などには見えない。しっかりとした輝きを胸に持って、ウララに挑んでいる。だが、やつが死んだのは事実だったはずなのだ。あの日、黒い巨人と戦ったヒカリは確かに、青き輝きを失ったはずだった。それがなぜ北海道に……?

 それより前の映像を見る限り、小銃を構えていたあの青年がヒカリなのは間違いない。だが、その青年の特徴は、ヒカリだったはずの磯崎とはまったく違う。それに磯崎の死体は確認されているのだ。彼はいったい誰なのか。

「男が誰だか判明しました。ウルトラマンに変身した男は、クーデターを起こした陸自の神原佑1士と思われます! 彼は陸自基地で拘束されていましたが、逃亡! その時に小銃も1挺奪われたらしいとのことです!」

 なんということだ……。

 クーデターを起こした自衛官がウルトラマンになるとは……最悪だ。

 危機管理センターの面々は信じられない事実に頭を抱えることしかできなかった。

 

「シュア」

 夜の月が、ヒカリと、ヒカリの3倍以上の巨体をもつウララを照らす。

 その黒くて、ところどころに赤いラインが走るウララの姿には、どこか底知れぬ恐怖を感じる。だが、ヒカリはそれには決して屈さない。

 ヒカリなんてたいそうな名前を持っているのだ。あんなカタツムリだかナメクジだかよくわからないやつはさっさとやっつけて、宇佐美を助ける。それだけを胸に

ヒカリはナイトビームブレードを出現させ、地面を思い切り蹴って大地を駆けた。

 行く道には主人を守るかのようにウララ・アネモスが待ちかまえており、ヒカリはそれらをなめらかな動きで切り倒しながら進む。

 倒されたウララ・アネモスたちは青い結晶となって宙に飛び散り、それは地上にいるヒルカワ、楓、そして無人機越しにこの光景を見ている危機管理センターの面々から見たら、幻想的に見えているだろう。

 ウララからはビームが発射されてくるが、それはほとんど当てらず、ヒカリに当たりそうなものは、彼のナイトビームブレードによって斬られる。

 向かってくる触手も、ヒカリは容赦なく断ち切る。

 それによってウララ・アネモスが新たに生まれるが、そんなことはヒカリにとってどうということはない。生まれればまた斬ってしまえばいい。神原の考え方はそんなものだ。

 斬って斬って斬りまくる。

 しかし、なめらかな動きがあるせいでその動きからは荒々しさや、野蛮さといったものは感じられない。

 ヒカリは、一心不乱に剣を振り続けた。

 

 正義とは、何か。

 そんなことを、考えることがある。元警察官として、そんなことは考えてはいけないのかもしれない。警察官にとって正義とはすなわち法律であり、国家だ。そこに自身の正義なるものは存在してはならない。

 だが、それでも考えてしまうのだ。正義とはなにか。正義とはどこにあるのか。そして悪とはなんなのか。

 正義とは、しょせんは自分が正義だと信じることを勝手にそう言っているに過ぎない。つまりは……自分勝手では……ないだろうか。

 そんなものを貫いて得られるものとはなにか。

 自分にはわからなくなってしまった。考えすぎて頭が麻痺してしまったのか、それとももう考えたくないのか。自分にはもはやなにもわからない。

 だから、いっそのことここで死んでしまってもいいのかもしれない。

 恐いのだ。このままなにも考えられなくなってしまうのではないかと。そしてその結果に、わずかに残る常識までもが消え去り、そしていつかとんでもないことをしてしまうのではないかと。こんなことを考えている時点で自分がもう異常だということはわかっている。病院に行った方がいいということも、わかっているのだ。

 しかし、それが俺に許されているだろうか。いつ怪獣が現れてもおかしくない状況。ウルトラマンは二人しかいない。そんな状況で、その内の一人がのこのこ病院で先生にカウンセリングしてもらうなんてこと、不可能なのだ。

 この戦いには、地球の未来がかかっている。ウルトラマンが負けたら、この惑星は終わる。

 だから戦い続けなければならない。しかし自分にはもうなにをすればいいのかわからない。今まで正義のために戦っていたがためにその正義を見失ってしまった自分にはなんのためにどう戦えばいいのかがわからない。

 宇佐美は、まだ答えを見つけられずにいた。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。

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