ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

83 / 99
 皆様のおかけでこの小説も連載開始から1年を迎えることができました。今まで読んでくださった皆様には感謝してもしきれない思いです。どうかこれからもこの作品をよろしくお願いします。


八十話 ブレイブ

 磯崎は死んだ。

 自分を庇って、奴は死んだ。

 ザギを睨む。そこには、こちらにもう一度光線を放とうとするザギの姿があった。

 左腕には、新たな光が感じられる。見ると、ヒカリのナイトブレスがメビウスブレスとくっつくようにしてあった。

 メビウスは立ち上がる。ザギはメビウスに向けて光線を放つ。

 その光線は凄まじい爆発を引き起こし、メビウスは爆発の中に取り込まれる。

 地上にいた人々たちがはっと息をのむ音が聞こえた。

 しかし次の瞬間、炎の中からメビウスは飛び出した。

 そしてザギに向かって走っている。それにその姿はファイヤーシンボルが描かれているメビウスバーニングブレイブとも、通常形態のメビウスとも違う。

 メビウスブレイブだ。

 彼が一歩大地を踏む度に道路はめちゃくちゃにひび割れ、土が宙を舞う。

 ザギのザギ・シュートがメビウスに命中するが、彼はまるで何ともないかのように走る。明らかに防御力が高くなっている。スピードと超近距離戦に適したメビウスバーニングブレイブとは違う。それに、まるであの時代のメビウスとは違う。あの時代のメビウスブレイブはスピードと近距離戦に特化した姿だったはず。

 これは明らかにあの時代のメビウスとは違う。まさか、中身が違うから、特質も変わっているというのか?

 メビウスは町を走る。舞い上がる土がその質量の重さを表している。

 そしてメビウスは宙に浮いているザギの前方数百メートルのところで思いっきり跳躍、そのままザギをタックルで落とし、ついでとばかりのボディープレスをくらわした。

 ザギがその攻撃をかわせなかったのは、おそらくそんな攻撃を予想していなかったからだろう。メビウスの戦い方は変わった。少し派手になったというところだろう。

 そしてメビウスはそのまま馬乗りになり、ザギを殴る。一発一発に怒りをこめて殴る。だがザギがそのままやられるはずもなく、メビウスをはね飛ばし、態勢を立て直す。

 しかしその時、ザギの後ろから数発のミサイルが命中する。慌ててザギが振り向くと、そこには在日米軍の航空機が飛行していた。

 そこで油断したところにメビウスのメビゥームシュートが叩き込まれる。

 形勢は逆転した。

 ザギはメビゥームシュートをもろにくらったが、なんとか防ぐと、咆哮してからメビウスへと駆ける。

 メビウスはメビュームナイトブレードを出現させる。憎むべき者を殺すために。

 

 某県、某病院。

 個室の病室にあるテレビで楓はその映像を見ていた。

 その映像は、東京で黒い巨人と赤い巨人が戦っている映像だ。なんでも、これはドラマでもなんでもなく、本当に起こっていることらしい。

 黒い巨人はどこか野獣的で、赤い巨人からは、怒り……そしてどこか悲しみのようなものが感じられる。

 頭が痛い。金属を差し込まれたかのような強烈な痛みがする。

 原因はきっと赤い巨人だ。あの巨人を見ると、自分の消えた記憶がよみがえろうと足掻く。

 楓は頭を抱える。

 やめてほしい。こんなにも苦しくて、痛くて辛い記憶なんて思い出したくない。こんなに痛いなら思い出さなくていい。消えてなくなってしまえ。

 だが、頭でそう思っても瞳から涙が流れる。

 止まれ。

 そう頭に命令しても止まらない。

 なくなれ。

 そう思っても脳は思い出そうとあがき続ける。

 そして赤い巨人を見ていると寂しくなる。胸に穴が空いているかのような錯覚に襲われる。あんな巨人、知らないのに。ウルトラマンになんて興味ないのに。

 でも、そうだとしたらこの涙は何なの? この気持ちはなんなの?

――あのねぇ、君いくつ? 中学生でしょ?

 頭の中で誰か知らない人の声が響く。

 顔を思い出そうとしても思い出せない。でも、警察官だった気がする。

――後少しの人生でも大事にしない?

――お汁粉……ま、そのうち作ってくれることを期待してるよ。どうせ俺は何も作れないし。

 知らない……。

 私は、あなたなんて知らない。

――俺は……俺はな、守りたいんだよ。お前を。

 知らないッ!!

 私はあなたを知らない。何にも知らない。もうなんにも知らない。なにも覚えてない。これからも知らない。何も思い出さない。何も思わない。

 なんにも思い出さなくていい。全部消えてなくなってしまえばいい。全部壊れてしまえばいい。

 私はあなたを知らない。命をかけてまで助けてもらったことも何もしらない。何も覚えてない。

 その時、病室の扉ががらがらと引かれる。

「か、楓!? おい楓どうした! 大丈夫か?」

 お父さんのその声も耳に入らず、私は泣き続ける。駆け寄ったお父さんを突き飛ばして、私は気づけば走り出していた。泣きながら、看護師たちが止めるのも聞かずに逃げ出した。何も考えずに、何もわからずに、私は私の心に支配されて、私は病院から飛び出していた。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。