ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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 SNS怖い。


六話 バードン/eruption

「あの、すみません。この子見ませんでしたか?」

 陸上自衛隊員の神原1士は住宅地でインターホンを鳴らしては、生け贄である榊原楓の写真を見せるということを今日一日中していた。

 今出てきたのは三十代後半くらいの主婦で、開かれたドアの向こうからは赤ちゃんの泣き声が聞こえた。

 既に時刻は午後二時。上司に報告をしてから二十時間が経っていた。つまり残りのタイムリミットは残り二時間余りとなっていた。その時間を過ぎれば何かが暴走するとのことだ。

「いえ、見てませんけど……」

 主婦は写真をじっくり見た後に、少し首をひねってそう言った。

「そうですか。ご協力ありがとうございます」

 神原はそう言ってお辞儀をして、また次の家……表札に宇佐美と書いてある家の前に来て、インターホンを鳴らす。すると、すぐにガチャリとドアが開き、中から二十代前半の若い男が出てくる。

「この子見ませんでしたか?」

「ぅえ!? え、えーっと……おたくはどちら様?」

 男は急に来た自分に対して慌てたような対応をする。

「陸上自衛隊です。生け贄の捜索にご協力ください」

「え、えーっと……見てないなぁ」

「そうですか……ご協力ありがとうございます」

 ハズレか……と思い、神原はまた次の家に向かった。

 

 自衛隊員がどこかに行き、家の扉を閉めたところで、宇佐美は心臓がある辺りに手を置いて「ほぅ……」と、安堵の息を漏らした。

 自分自身、まさかあそこまでパニクるとは思っていなかった。自分では気づかなかったが、言ってることは全部怪しく聞こえたはずだ。それなのにあの自衛官が何も言ってこなかったのは、仕事にあまり熱心ではないか、もしくはただ単にバカなのだろう。

「お巡りさん、どうしたんですか?」

 楓がそんなことを言いながら玄関の方まで来ていた。自衛官が来たことに気づかなかったのか、その表情に不安とかそういうものは一切感じられない。

「自衛隊が来た。君を見てないかってね。ま、見てないって言ったらそのままどっか行っちゃったし、バレてないと思うよ」

 宇佐美は一瞬、不安にさせない方がいいかな? と思い、何も言わないということも考えたが、やはり後々のことを考えると現状を正しく説明した方がいいと思い、今起こったことをそのまま説明した。

「そうでしたか……今さらですけど、迷惑ですよね?」

 少女の言葉を聞いて、本当に今さらだ。と宇佐美は思った。

 宇佐美は「うーん」と考え込む。なんと答えるべきかよくわからない。確かに迷惑ではあるが、結局のところ少女を助けて、この場所に匿っているのは他の誰でもない自分である。そんな自分が今さら「迷惑だ」などと言える権限がないことは宇佐美にもわかっている。だから正直に、「わからない」と返した。

 そして、そこで話が終わらないように宇佐美は続ける。

「そういえば、富士山が噴火しそうっていうニュース知ってるか?」

「あ、はい。知ってます……でも、それがどうかしたんですか?」

「もしも――」

 と、宇佐美が言いかけた時だった。

 リビングでつけっぱなしだったテレビがなにやら騒がしくなる。

 宇佐美が気になってリビングに向かうと、そこには灰色っぽい煙をもくもくと出している富士山の姿があった。

『たった今噴火しました! 富士山が噴火しました!』

 三十代に見える男性キャスターが片手でヘルメットをおさえ、片手にマイクを持ってそう言っていた。

 男の背景では富士山が赤い液体を爆発的に放出している。

 だが、しかし、その量は明らかに多すぎるような気がする。噴火してからまだわずか数秒しか経っていないのに、溶岩は富士山をすっぽりと包み込んでしまっている。

 異常に気がついたニュースキャスターたちが慌ててワゴン車に乗り込み、その場から猛スピードで逃げる。しかし、車の中が一瞬暗くなり、何か大きな生き物のような物がカメラに映ると、直後映像が砂嵐へと変わった。それもつかの間、画面にはすぐに『しばらくお待ちください』という文字と森林の画像が映し出される。

「どうなってるんだ……」

 宇佐美は思わず口にしてしまった。今までの状況を整理すると、“富士山爆発→あり得ない量の溶岩→カメラに一瞬何か巨大な生物が移った→映像途切れる”こんなことが一瞬の内に起こって理解できる人がいるなら教えてもらいたい。

「お、お巡りさん。別のチャンネルにしてみましょう」

 いつの間にか隣に来ていた少女がそう言った。

 宇佐美は、お、おう。と答えて別のチャンネルに変える。

 その番組では、車からの映像がまだ映っている。

『ご、ご覧ください。怪獣です。か、怪獣が空を飛んでいます』

 車に乗っている若い男のキャスターが、その方向に指を向けながらそう言っていた。

 その方向に見えるのはニュースキャスターの言う通り、空を羽ばたいている怪獣の姿が確認できる。

『ば、バードンだ……』

 映像を撮っている車の中で誰かがポツリと言った。

 別名火山怪鳥。体長:62メートル、体重:3万3千トン。過去にウルトラマンを殺した怪獣として知られている怪獣である。その大きなくちばしからは高熱火炎を吐き、くちばしの横にある毒袋には致死性が高い猛毒が蓄えられている。そんな恐ろしい怪獣が今、この地球上で目を冷ました。それが何を意味してるのかは誰にでもわかるはずである。ウルトラマンを裏切り、更にはGUYSも存在しない今、あの化け物を止められる者はいない。

「……ッ!」

 そう、彼以外は。

 宇佐美は急いで家から飛び出そうとする。今あの怪獣を止められるのは自分だけなのだ。止めない以外の方法はない。

「お、お巡りさん!?」

 後ろで少女が自分を呼び止めた声が聞こえるが、関係ない。

 宇佐美は走り、外に出る。

「君は家から出るな! わかったな!!」

 宇佐美はそう叫び、後ろを振り返ることなく人気のない場所を探す。

 そして、人気がなく、薄暗い高架下に来ると左腕を構えてメビウスブレスを呼び出し、右手でその中心にあるクリスタルサークルを回転させる。

「メビウースッ!!」

 叫ぶと同時に左手を上に掲げる。

 宇佐美の叫び声はちょうど通りかかった電車の音にかき消されたが、直後まばゆい光が宇佐美を包みこんだ。

 

 楓は、お巡りさんの言うことを聞くはずもなく全速力で走る宇佐美に必死で着いていった。あまりにも距離が離れているせいなのか、お巡りさんがこちらに気づくことはない。

 そして、お巡りさんが人気のない高架下に来た時だった。彼は急に足を止める。楓も足を止めて、慌てて看板の裏に隠れながらお巡りさんを見る。

 お巡りさんは変なポーズを取って何かをしている。

 なにをやっているんだろう?

 楓はそう思いながらも、さすがに目の前に行く度胸はなかったのでただただその様子を見ていた。

「――ッ!!?」

 直後だった。まばゆい橙色の光がお巡りさんを包み込み、姿を消したのだ。

 どこに消えたのか、楓が血眼になって周囲をキョロキョロと探すと、それは上にいた。

 赤い球体だ。まるで太陽のように赤い球体。

 それは楓が発見した直後に、どこかへ向かってものすごいスピードで移動した。それが消えた後も、しばしの間赤い球体が飛んでいった方を見続ける楓であったが、それは後ろから来た人間により終わる。

「……手を上げろ」

 自分が今追われている身であり、服装もものすごく分かりやすい物だと思い出した時にはもう遅かった。

 背中にピタリとつけられた銃口の意味は動いたり、怪しげなことを少しでもしたらすぐに撃つというサインだろう。

「陸上自衛隊だ。生け贄、これよりお前を拘束する」

 銃口を突きつけたのは、先ほど宇佐美の家に来ていた神原1士だった。

 小銃を守るべきはずの日本国民に向けるその姿は、自衛隊というよりも、テロリスト的な何かが感じられた。




 ウルトラマンXにネクサス出るんですかね? 出たないいなぁ。


 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。

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