ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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 やっとあの地獄から解放される……疲れた一ヶ月間でした。


七十二話 警告

「俺をどうにかしてみろよ。この剣をどうにかしてみろよ。自分が一度は助けた命を守れなかったザコが」

 その言葉を聞いた瞬間、宇佐美の脳裏には楓の姿が浮かんだ。そしてその姿を壊されたような怒りが沸いてくる。

 俺は、お前を殺すッ!!

「――ッ!!」

 メビウスは腹に突き立てられたナイトブレードを手で掴んで引っこ抜く。

 言葉では言い表せないほどの強い電流のような痛みが流れたが、それは腹の底から煮えたぎるようにわき出る怒りによっていくらか緩和されていた。

 ツルギはあり得ない光景を見て目を丸くしていたが、腹からナイトブレードの刀身がずぶりと抜かれると、警戒を高めて……あるいは気持ち悪がって少し距離を開けた。

 そんな中でメビウスは立ち上がる。きっと憎しみに突き動かされるとはこういうことなのだろう。

「……お前が本気ってよくわかったぜ……」

 そのメビウスの声には憎悪が込められていた。

 殺してやる。ぶっ殺してやる。

 メビウスの体は赤く燃え盛る。またあの時のように変身を解除した後に痛みが来るかもしれない。今度は死んでしまうかもしれない。しかしそれでも構わない。ザコだと? 守れなかっただと? ならどうすれば救えてた? 何もかも知らない狂った野郎になぜ言われなければならない。何もせず、ただ楽な道を行った貴様に、なぜそんなことが言える?

 わかってる。こいつはもうかつての磯崎ではないのだ。こいてはもはやただの悪魔なのだ。しかし、俺はどこかでそれを否定していた。まだこいつは磯崎なんだと思いたかっのだ。

 殺せるチャンスなどいくらでもあった。しかしそれーやらなかったのは、自分自身、人を殺すということから逃げていたからだ。それが怖かったからだ。

 正義を掲げた以上、悪は例外なく殺す。それが、正義を持ち、それができるだけの力を持った者の宿命だ。

「…………」

 地が燃え、大気が燃え、空が燃える。

 頭がもう動いてはいけない。これ以上戦ったらいけないと警告する。腹の傷は炎に包まれ、それが消えた後にあったのは傷痕一つないきれいな腹。

「ツルギ……俺はできれば、お前を殺したくはなかった。同じ人間で、同じウルトラマンのお前を殺すことを避けていた……俺たちウルトラマンはっ、人を守るのが役目じゃなかったのかッ!! 貴様はいつまでそうして……ッ! だらしねぇと思わねえのかッ!!」

「……ッ!? …………いや、だらしないのはお前だ。いつまでも下らない希望を追い求めて……一体何が残る?」

「希望を求めない未来に、理想はない」

 メビウスはその後小さく「先に裏切ったのは、そっちだからな」と呟いた。そうでも言わなければ、自分はきっと奴を殺すことはできない。同じ人間であり……『友』であるやつを。

 

 日本海、航空自衛隊那覇基地所属F-15J。

「This is Japan Self-Defense Forces.Unknown aircraft.You are approaching Japanese territory.Turn right immediately.Change your course.(こちら日本の自衛隊。あなたは日本の領空に接近しています。ただちに右に旋回してください。進路を変えてください)」

 そう不明機(おそらく中国)に警告を発しながらもイーグルドライバーの岩間はヤバいな、と思った。このままでは後2分もしない内に日本の領空に入ってしまう。

 青森の方は正体不明の航空機に攻撃を受けたっていうし、いったいどうなってやがる。

 目の前にいるのは中国の戦闘機、J-15だ。こいつは艦載機なのだから当然近くに空母もいるはずなのだが、それが見つかったろうとの報告は入っていない。今、偵察衛星からも情報がないということはおそらく雲の下に隠れていているのだろう。

 その後も何度か警告を発した岩間だったが、無駄だとわかるとこう言いかえた。

「I say again.This is Japan Self-Defense Forces.Chinese aircraft.You are approaching Japanese territory.Turn right immediately.Change your course.(もう一度言います。こちら日本の自衛隊。中国機、あなたは日本の領空に接近しています。ただちに右に旋回してください。進路を変えてください)」

 しかしそれでもJ-15は進路を変えようとはしない。こちらを挑発してくることもない。ただ、我が物顔で日本の領空に向かって飛行を続けている。

 まさかこの機会に乗じて尖閣を実行支配しようとしているのだろうか?

 不気味。そう思わざるをえず。

 

危機管理センター。

「それで、状況はどうなってる?」

 総理の疲れ切った声が部屋にいるもの全員の耳に届いた。そしてすぐに防衛省の担当者が短く返事をし、説明を始める。

「はい。日本海、青森県近くの海域で第三護衛隊群とあのお方たちの航空機が戦闘を開始。また、尖閣諸島付近に中国軍機が領空侵犯、さらには海警が領海侵犯しており、現在空自のイーグルと海保の巡視船が対応に当たっています。そして日本海側に北のものと見られる小型潜水艦……おそらくユーゴ型とみられるものが多数展開。現在こちらの領海に進行中……これにはP-3Cが対応にあたる予定です」

「米軍は? 確か北がせめてきたら助けてくれるんじゃなかったのか?」

「米軍はそれがまだ北だとは断言できないという旨の発言を繰り返しています」

 それを聞くと総理はもう終わりだ。というように深くため息を吐いた。

「そもそもの原因はなんだ? 自衛隊がこないだ殺したあの宇宙人。あれが原因だったんだろ。防衛省長官、幕僚長、君らはどうやって責任をとってくれるつもりだ」

「い、いや、あれはそもそも宇宙人がウルトラマンの姿をしていたからで……我々に非があるわけでは……。それにだいたいあれは現場が勝手に判断したことです。責任があるなら西部方面隊のパイロットかあの場の最高責任者でしょう」

「なら今回勝手にあのお方たちの航空機と戦闘を開始したことは? それは君たちが指示したんだろ?」

 幕僚長はぐぬぬと唸った。

 こいつはなんなんだ? まさか現場の自衛官たちにただ死ねとでも言えばよかったのか? それもあそこにはイージス二隻にミニイージス一隻。さらにはひゅうがだっているんだぞ。それらをいっぺんに失えばそれこそこの国は終わる。

「とにかく、あのお方たちと交戦している護衛艦に早く交戦中止を命令しろ」

「そんなことをしたら撃沈されますよ!?」

「構わん。あのお方たちに逆らって国が滅びるよりかはマシだ。それにあのお方たちに歯向かってみろ。この国が終わるだろう」

 自分の立場が危うくなるから、とはっきり言えばいいじゃないか。と幕僚長は思った。

「とにかく、交戦中止」

「できません」

 幕僚長は言う。防衛省長官は何も言わない。どうしたらいいのかわからないようだった。

「逆らうのか?」

「逆らう逆らわない以前の問題です」

 危機管理センター内の意見は二つに割れた。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。

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