ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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六十九話 演習にあらず

 渋谷に現れた2体の巨人。

 始まりの地、すべてはこの場から始まった。

 あの日、ここで俺がウルトラマンになって世界が変わった。

「…………」

 メビウスは黙って構える。

 頭上で輝く太陽は、一瞬強く輝いたかと思うと、すぐに分厚い雲に隠され、町は灰色へと変わる。その暗さまるで夜のようで、メビウスの目の光り、そしてカラータイマーの光りがよくわかるほど。

 今日の天気は晴れ後雨。関東と東北全域に強い雨が降るとの予報だ。

 ぽつり、ぽつり…………ザーッ、と雨がすぐに降りだす。その雨の冷たさのあまりメビウスは一瞬鳥肌がたつ気持ちだったが、この肌じゃどうやら鳥肌はたたないらしい。

 この戦い。すぐに終わらせようかと思っていたが、ちぃとばかしヤバいかもしれない。

「…………」

 ハンターナイトツルギからあふれでるそのオーラは、はっきり言ってヤバい。

 前に戦った時よりも明らかに強くなっている。下手したら自分よりも……。一体こいつに何があった?

 最初に動いたのはヒカリだった。

 ツルギが右腕を天に掲げると、禍々しい闇がナイトブレードに集まっていく。

 すべてを飲み込む闇。雲に隠され、残りわずかとなった光りがすべてその闇に吸収されていく。メビウスは直感する。これは決してウルトラの一族の力ではないということを。

「お前一体何をした……?」

「お前に不利な状況をつくっただけだ。この闇の中では貴様は丸見えだ」

「そういう意味じゃない。その闇は……なんだ」

「答える義理は、ない」

 そこから攻撃までは一瞬だった。

 一寸先すらも見えない闇の中、ハンターナイトツルギはまったく気配を感じさせることすらなく、どこからか攻撃を仕掛けてくる。まったく何も見えない中、メビウスは好き放題にやられ放題に攻撃をされる。

 ツルギはウルトラマンの弱点を知っている。目の光りとカラータイマーの光り。これは闇の中では目立ってしまって仕方がないのだ。それはウルトラ戦士全員に言えることのはずだった。しかしツルギだけは例外だ。ハンターナイトツルギとなったやつは鎧を纏うことによりその弱点を見事に克服している。

 勝てる要素が一つもない。

 いかにウルトラマンが強かろうと、こんな反則技に勝てるわけがない。

 右から、左から、前から、後ろから、まったく攻撃が見えない。だが、メビウスにはわかる。磯崎という男はバカだ。チャンスは必ず来る。

 体を捕まれて腹を膝で蹴られる。その時だった。今までまったく抵抗らしい抵抗を見せなかったメビウスは、ハンターナイトツルギの体を掴んだ。そして左足だけで体重を支え、右足でツルギの横っ腹をおもいきり蹴った。

「ッ⁉」

 ヒカリから息が漏れたような声が出る。

 やはりこいつはバカだ。肝心なところで油断する。だから女の子を助けようとしたあの日だってあんな奴らにやられたんだ。

 ツルギはメビウスから逃れようともがくが、こんなチャンスをみすみす逃すほど宇佐美はバカじゃない。逃れようとするツルギとそれを許さないメビウス。だが、そのあとだった。

「ゼヤァッ⁉」

 メビウスは後ろから何者かに襲撃を受けてヒカリを放してしまう。

 ツルギはその隙にメビウスから距離をとる。

 何が起こった? そう思い振り向くと、そこにはもう見慣れたメガリュームクラスタが立っていて、その右腕の鎌からは白い煙が立ち上っている。

 そしてメビウスはその時初めて闇が消え去っていることに気が付いた。

「形勢逆転ってやつだ。ウルトラマンメビウス。……いや、宇佐美。大人しく死ね」

 ナイトブレードを突きつけて来るツルギに、メビウスは命の終わりを感じざるをえなかった。

 

 日本海、第3護衛隊群イージス艦みょうこう。

 CIC(戦闘指揮所)ににてレーダーを眺めていた隊員は、目の前の画面に表示されたそれに驚愕することになる。口をあんぐりと開けてしばらく何も言えない。

「大気圏外より高速で近づく目標探知!」

 その隊員は目の見開きながら力の限り叫んだ。

 その言葉にCICにいる全員が、は? という顔をする。無理もないだろう。誰もが理解できないことなのだから。

「どういうことだ? 隕石か何かか?」

 そんな中、艦長である落合啓介は艦長の席を立ってその画面を見た。

 それは明らかに編隊を組んで降下している数120機以上、もしくはそれ以上の大編隊。艦長の顔が青ざめていくのがわかった。そこに追い討ちをかけるかのように1人の隊員が叫ぶ。

「イージス艦あたごより! 青森の敵機が本艦隊に向け移動を開始ッ! 予想到達時刻○四(まるよん):二三(ふたさん)!!」

 現時刻は4時20分。後3分でやつらは来る。

 何が起こっている? 宇宙から飛行機が? そんなことあり得るのか?

 落合はそう思うが、画面に表示された鳥ほどの大きさのそれらは明らかに意思を持って動いている。事実と認めるより他にない。飛行の仕方などが明らかに弾道ミサイルのそれではない。

「どうなっている。……青森のやつは爆撃機じゃなかったのか!?」

「わかりません!! 情報が不足しています!!」

「とにかくひゅうがに報告! 本艦はこれよりBMDモードを起動し、大気圏外から接近中の敵機の排除の準備をする。護衛はふゆづきにやらせろ! 対空戦闘用意、対空戦闘用意だ!」

 現場は混乱の極みだった。

 

 第3護衛隊群、護衛艦ひゅうが。

「全艦に通達。対空戦闘用意。これは演習にあらず。我々は我々を防衛するために戦闘態勢に移行する。もはや防衛出動を待っている暇はない。武器の仕様については全力をもって敵を排除せよと伝えろ」

 艦長、和泉は静か決断を下した。

 対空戦闘用意。自衛隊創設以来、ただの一度も発令されることのなかった戦闘準備の命令である。

 むろん、今は防衛出動命令ではなく、海上警備行動が発令されているわけだから本来なら相手が撃ってくるまでこちらは機銃弾の一発すらまともに撃つことすらできない。

 それがこの自衛隊という組織の弱みであり強みだ。

 だがしかし、この世には死人に口なしという言葉が存在する。我々指揮官は――少なくとも私は、ただ攻撃するためだけに仲間何百人を殺すことなどできやしない。我々は自衛隊員である前に1人の日本人だ。そして人間だ。仲間数百の命と敵数百人の命の重さは同じかもしれない。しかしそれは平時の話であって戦時の話ではない。今の私からすれば、敵の命など仲間の命よりも軽いのだ。ついでに言うと奴らは宇宙人だ。それを殺すということは野生の生物を殺すことと何ら変わりがない。

 だがその時和泉は自分の手が震えていることに気がついた。

――カンカンカンカンカンカンカン!

 警報音が艦内に響き渡る。

「対空ぅー戦闘ぉーよぉーい! これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではないッ」

 砲雷長の美声がスピーカーを通じて艦内のすべての場所に行き渡る。だが実際ひゅうが自身は大した対空戦闘はできない。むしろ他の護衛艦に守ってもらうことになる確率の方が高い。だが、守ってもらえる確証はない。なにしろ相手は未知の相手。戦闘機の性能すらわかっていない。

 ……待てよ。それよりもなぜ敵はわざわざ青森からも来るんだ? 上からの攻撃だけでも明らかに足りるはずだ。それにまるでこちらを待っていたかのように奴らは一斉に移動を開始した。

 まさか、大規模な爆撃はこの艦隊を動かすための陽動であったとでもいうのか? しかしなぜそんな真似をする必要がある? 普通に個別に撃破していく方が楽なはずだ。だというのになぜ艦隊を結成させてからこちらを狙う? できることは指揮の低下くらいだ。イージス艦二隻にミニイージスが一隻。これらが同時にやられたとなれば自衛隊の指揮の低下。そして国民の不安感は十分に煽れる。だが、本当にそうなのか? 大がかりすぎる。奴らの狙いがまったくわからない。

 この戦い。いったいどうなっているんだ。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。

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