宇佐美はとある場所に来ていた。
渋谷だ。
あれからかなり経っていて、さすがに辺りは更地になっているが、そこに一つだけ建築物があった。
ウルトラマンが降ってきて、メガリュームクラスタと交戦したその事件は『渋谷・スクランブル通り事件』と名付けられ、宇佐美の目の前にあるそれは、事件で死んだ人たちの慰霊碑だ。
宇佐美はその場にしゃがみこみ、目を瞑りそして静かに両手を合わせて亡くなった人たちを弔った。
すべてはこの場から始まった。
俺は一度死んだ。そしてウルトラマンとしてよみがえった。25年前にすべての記録と記憶が書き換えられたこの世界では最も忌み嫌われる存在として、俺は生き返った。
……俺だけが生き返ったのだ。
俺だけがメビウスに助けられた。生きることができたことは嬉しいが、たくさんの人が死んだのだから、喜ぶに喜べないことだ。生き残るとは、きっとそういうことなのだろう。
慰霊碑にはたくさんの花が手向けられている。花を置いていった人たちは、いったいどんな気持ちでそうしたのだろううか。
花を手向けるということは、その人の死を認めるということだ。遺族にとってそれがどんなに辛いか、経験があるからわかるつもりだ。
最愛の人に別れを告げた人は苦しかっただろう。家族に別れを告げた人は寂しかっただろう。友に別れを告げた人は怒っていただろう。
なぜあいつが? なぜお前が? なぜ君が? なぜあなたが? ……いろいろ考えたのだろう。そして憎んだだろう。自分たちから大切な人を奪っていった
あの時、勝手に空から降ってきて人をたくさん殺したのは俺ではなくヒビノだ。しかし、彼らはそのことを知らない。俺がウルトラマンになったその時点で、既にもう彼らの怒りの矛先は俺に向いているのだ。
「……やはり来たか」
宇佐美は目を瞑ったまま背後にいるであろうそいつに言った。
閉じていた目を開き、そして合掌をやめてすくっと立ち上がる。
「磯崎、考えは変わったか?」
宇佐美は振り返りその姿を確認しないまま言った。
もしも振り返る時は、それは磯崎の考えが変わっていたときだ。
「俺の考えは変わらない。この世界を変えるには根元をぶっ殺さなきゃならない」
宇佐美は小さくため息を吐き、「そうか」と小さく言った。
磯崎の右腕にナイトブレスが出現したのが雰囲気でわかった。磯崎は本気だ。
「……お前のその考え方は楽だろうな。背負うべきものは罪人の命だけだ。……俺もその考えに心引かれたことがあったよ」
宇佐美はでも――、と続ける。
「俺にはどうもわからん。お前がそのやり方で作る未来には、希望なんてもんないようにしか思えん」
更に宇佐美は続ける。
「お前の作る未来には破滅しか見えん。人の死が積み重なってできた平和なんてもんはすぐに崩れ去る。そんな作り方で作った平和なんてもんは本当の平和なんかにはならない。必ず悪意ある人間が利用しようとする」
宇佐美は息を吐く。
「もう一度聞くぞ? 考え方を変えないか?」
少しの間、磯崎は黙った。そして、決断を下す。
「俺の考えが変わることはない。邪魔するやつは誰であろうがすべて殺す」
「とても……残念だ。俺とお前は同じウルトラマンだ。そして目指すものは同じだというのに、道のりが違うというだけで殺しあわなければならない。……もしも道のりまでも同じだったら、こんな風に対立することなく、一緒に未来を作れたかもしれないのに」
「……貴様になんと言われようとも俺の意思は変わらない。この間までの俺と一緒にするなよメビウス」
背後でカチャリ、とナイトブレードをナイトブレスに差し込む音がした。
これだから嫌いなんだ。あんだけ実力の差を見せつけられてまだ挑んでくるバカは。こういう奴は徹底的に叩きのめさなきゃ止まることがない。
ドスンッ! 腹に響く轟音とともにハンターナイトヒカリが地上に姿を表した。
でも、まだやっぱりそんな徹底的にやるなんて……どうしても抵抗がある。
ただ単にボコボコにするだけではない。場合によっては骨を折ったり、腕を切り落としたりしなければならないのだ。
「…………」
宇佐美は拳を握る。同時に左腕にメビウスブレスが出現する。
嫌でも、やらなければならない。俺と奴の未来が交わることはもう決してないのだ。
――
「メビウースッ!!」
宇佐美は知らない。あのお方たちが青森県に対して攻撃をしているこそなど、宇佐美は知らないのだ。
もしも彼がそのことを知っていたならば、被害は抑えられたかもしれない。
アメリカ、第3艦隊、ミサイル駆逐艦
艦内にいる隊員の大半は既に就寝しており、起きているのはわずかな隊員のみ。艦は恐ろしく静かで海を切り裂く音がここに響いてくる。
ブライアン中佐は艦長室で左腕に引っ付いたそれを見て、頭を抱えて大きくため息を吐いた。
それが彼の左手首に引っ付いたのは数週間前のことだ。
ブライアン中佐は久々に与えられた休日に、バーで日付が変わるまで酒を飲み続けた帰り道、何かを見つけた。ブレスレットのようなそれは、ブライアンが覗きこむと突然光りだした。ブライアン中佐の記憶にあるのはそこまでだ。朝目が覚めると海軍基地内にいた。
完全な記憶はない。ただ、断片的に何かどでかいスーパーマンみたいになって建物を破壊したような気がした。
だからニュースであのお方たちの基地が青いウルトラマンによって破壊されたと聞いたときは、寒気が走った。なにがどうなっているのかはわからない。
可能性は2つある。一つは未来予知。そしてもう一つはブライアン自身がウルトラマンになっちゃった。そして現在有力なのが、なっちゃった説である。
よく見るジャップのアニメならこのあとにテヘ♥とかつきそうだ。だがさすがに自分が付けたとするなら……うぇっとなりそうだ。
ブライアンは大きくため息を吐いた。事態はそんな軽い出来事ではないのだ。
もしも俺がウルトラマンになっちゃったとして、あのお方たちの基地を壊してしまったとなると、電気椅子の刑は免れないだろう。
どうがバレませんように。
ブライアンは神に祈った。そんな彼の左手首で、青い巨人が「へっぽこの中に入っちまった……」などと嘆いたことは誰も知らない。
ストックは一応10話ほどあるので大丈夫だとは思いますが、体調不良とスランプのため今は小説が書けない状況にあると、この場で報告しておきます。
※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。