ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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 風邪ひいて自分がなにしてるのかよくわからない。


六十話

 一人取り残された宇佐美は考える。

――お前が言おうとしてることはつまり、辛いから死にたい。誰か俺の気持ちをわかってくれ~。ってことだろ?

 果たして、俺はそうなのだろうか。

――そんな生半可な覚悟で戦いを始めたのか?

 生半可……そうだったかもしれない。

――お前は誰かを守りたいからウルトラマンになったんだろ?

 多分、そんな気持ちがあってウルトラマンになったんだと思う。

――お前の守りたいって気持ちはそんなもんか?

 仕方ないじゃないか。俺ではもうどうにもならない。

――お前が救ってきた人たちはお前のことをヒーローだと思っている。わかるか?

 ならなぜみんな俺を殺そうとするんだ。俺がヒーローならみんの応援してくれるじゃないか。でもみんな真逆だ。政府も何もかも、俺を悪人にしたてあげた。それはヒーローと呼ばれる存在のやられることではない 悪い奴らがやられることだ。

――助けられた女の子は、お前をなんだと思ったと思う?

 なんとも思っているわけがないだろう。なにせ一度もお礼を言われた記憶がない。それにもしもそれが違うとしても、今となっちゃ楓は死んでるかどうかもわからない。本当のことなんて聞けない。

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 再びあの言葉が甦ってくる。

 お前は逃げているだけだ。そう言うかのように。

「俺は……逃げているだけ……なのか?」

 怖くて辛いことから逃げているだけなのか? 楽な生き方をしようとしてるだけなのか?

 わからない。

 死にたいというこの思いも、もう無理だというこの思いも、すべては逃げたいという俺の心の表れなのか?

 俺はどうすればいい? できれば逃げたい。でも、逃げたくない自分がかすかにいる。このどろどろに溶けきってしまった心はどうすれば再び固まってくれる?

――その力がなんのためにあって、あなたがなんでその力を欲しがったのか、もう一度思い出して。

――よく考えろよウルトラマン。誰でもウルトラマンになれるわけじゃない。なのにお前がなぜウルトラマンに選ばれたのか。なぜお前がウルトラマンになろうと思ったのか。

 …………。

 俺がウルトラマンを選び、そしてウルトラマンに選ばれた理由。

 世界を変えたかった。そしてウルトラマンと俺の利害が一致した。

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そうだ。利害が一致したからという理由だけではない。

 でも、それがなんなのか、俺にはわからない。

 

 

「にしても、本当によかったんですかね」

 神原が廊下の壁に背中を預けて下を向いていると、誰かから声をかけられた。ゆっくりと顔をあげるとそいつは神原よりも年下の室田だった。

「さっきから奴らからも政府からもウルトラマンを寄越せって連絡が再三来てますよ。それからこの計画をたてた1士も1士だ。こんなハチャメチャでめちゃくちゃな計画よく思い付きましたね」

「やつらもまさかお仲間の自衛隊がウルトラマンを助けるなんて思わないと思ったからな」

 そう言い、神原は廊下の小さな窓から青く澄みきった大空を仰ぎ見る。

 雲一つない。なんとも気持ちのいい青空だ。

 この平和に見える光景は、地球の歴史から見ればただの一瞬ですらないのかもしれない。この一瞬後には世界は終わり、みんな死んでしまうかもしれない。

 しかし、だからこそだ。

 俺は今のこの一瞬の平和を護りたい。

 たった一人の人間にできることなどたかが知れている。なんてことはわかっている。しかし、何もしないよりかはいいはずだ。

 そうすれば、平和は長くなる。一瞬か一秒……もしかしたら10分にのびるかもしれない。そう思って、俺は、戦う。平和を守ってくれるウルトラマンを護るために。

 あいつ一人に全部を背負わせることなんてさせない。

「で、ウルトラマンはどんな人だったんですか?」

「ああ。バカ野郎だ」

 神原は室田からの質問に即答した。

「なんにも背負うことできねぇくせにウルトラマンなんてもんになりやがって、苦しいくせにそれを誰に言わねぇ。誰にも助けてくれって言わない。とんでもねぇバカ野郎だよ」

 そう言いながら神原は鉄帽をかぶり直す。なぜ被ってるのかと言われれば、いつでも戦えるようにだ。

 鉄帽を被りなおすために隠されたその表情は、どこか笑ってるように見える。まるで友達のことを話す少年のように。

「そりゃ……バカですね」

 室田もそんな神原の表情に気づき、微笑んだ。

「だから、俺たちが守ってやるんだ。あいつ一人に無茶させないように。大切な未来を守るためにな」

 そう言う神原の顔は、まるで今の大空のように清々しかった。




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