いや~、やっぱりいいですね。ルーンファクトリー。そろそろ新作を出してほしいくらい……
目が覚めて宇佐美が辺りを見渡すと、そこはまるで……いや、まるでではなく深い森の中だった。
そこは日本の森というわけでもなく海外の森のような雰囲気もしない不思議な場所だった。
小鳥のさえずり、水が緩やかに流れる音、風に揺られた木々の葉がこすれあう音。そんな音が聞こえる。それから地面の踏み心地も不思議なもので、ふかふかしているのだが、宇佐美が知る土のそれとは違う。まるでこけの上に立っているような感覚だった。
そして何よりも不思議だったのが、体がどこも痛くないのだ。
焼けるような痛みも、眼球が裏返りそうになる痛みも、何も感じない。逆に体がどんどん癒えていくような感じがする。
と、鈴のような音が背後から聞こえて振り返った宇佐美の視界に一瞬何かが映った。
それはまるで白兎のような色をしていたような気がした。しかし、慌てて探してもどこにもその姿は見えない。あれだけ目立つ色、この緑色が多い場所では簡単に見つかるはずなのだが。
そして、また鈴の音が聞こえた。さっきよりも音が近くなっている気がする。
しかし音をした方を振り向いてもそこには一瞬何かが見えるだけで、それがなんなのかまったくわからない。
――しゃらん………………しゃらん…………しゃらん……しゃらん、しゃらんしゃらんしゃらんしゃらんしゃらんしゃらん。
音がどんどん近くなり、音と音との感覚も短くなっている。明らかに何かが起こりそうな気がする。宇佐美はその音に翻弄されるままぐるぐるとその場で回る。
――しゃらん!
そして、まるで目の前から強調するかのように鈴の音がなった。
そして気がつくと、目の前に見たことのない白髪の少女が存在していた。服は和装で、顔には狐の面をつけている。宇佐美はいきなり現れたそれに、不思議と警戒心をもつことなく、落ち着いていた。いや、警戒心をもたない自分はおかしいと思う。しかし、なぜか警戒心がでてこないのだ。
君は誰だ? そう言おうと口を開くが、息が吐き出されるだけで音はそこからでなかった。
「……ウルトラマン」
宇佐美は静かに驚いた。そして確信する。普通の女の子ではないと。
心臓の鼓動が跳ねあがり、どっくんどっくんとやかましいくらい音を鳴らす。警戒心はない。しかし、今俺は目の前の子どもの姿をした何かに圧倒されている。
目の前のそれがなんなのかはわからないが、オーラが違う。人間のそれとも、宇宙人のそれとも。もっと巨大で……しかし非力な何か。
「あなたは、その力を使って何をしたいの?」
その言葉に、宇佐美は頭の中が真っ白になった。
わかっているはずだ。人間を守る。しかしそれは考えられなかった。本当は宇佐美もわかっている。自分はいやいや人間を守っているということを。人間にはとっくの昔に失望している。しかしそれでもやらなければならない気がして守っていた。それはこれがしたい。ではなく、仕方ないからやる。だ。
本当にこの力を使ってやりたいこと……もしかしたらそれは人間を殺すことかもしれない。
「その力がなんのためにあって、あなたがなんでその力を欲しがったのか、もう一度思い出して」
少女の言葉を最後に、世界は崩壊を始める。この短時間で、宇佐美が答えを見つけることなどできやしなかった。
だが、彼――いや、ヒビノはメビウスブレスの中で確信する。その少女は、かつて自分が七人の勇者たちと共に戦った時に、その世界まで自分を導いた『赤い靴の少女』と同じような存在なのだと。
目を開けると、そこに広がっていたのは見知らぬ天井で、どうやら部屋は相当暗いようだった。例えるとするなら、真夜中の独房だ。
自分の体を確認したくて体を起こそうとするのだが、体はまったく動かない。どうやら特殊なテープのような物で首から下の体をぐるぐる巻きにされているようだ。どうにかして千切れないかと力をこめてみるが、まったく、うんともすんともいわなかった。
やることが特にない宇佐美は先ほど? のことを思い出す。
――その力がなんのためにあって、あなたがなんでその力を欲しがったのか。
頭の中に少女? の、ひ弱な声がよみがえる。耳に透き通るように聞こえたその声は宇佐美の好きな声だった。
思い出せない。
なんで俺がウルトラマンの力を欲したのか、いろいろ考えすぎてしまって自分の昔の気持ちに気づけないとは……なんとも情けないものだ。
でも、最初はみんなを助けたかったのだと思う。そのために奴らをぶっ殺してやりたかったのだと思う。きっと最初はそんなもんだろうな。と想像することはできても、その時の自分の考えと同期することができない。
でも、やはり何か違う気がする。俺が戦いたいと思ったのには、何か別の理由があったような……。
と、誰かが『独房』の中に入ってくる。足音をたててないのはおそらくそいつが自衛官だから。
そしてようやくその顔がこの暗闇でも見えるほど近づくと、そこにあったのは見知った顔だった。
「っと、確か神原だったっけか?」
「ああ。そうだ。まさか名前すら完璧に覚えられてないとは」
「悪いな。男の名前覚えるのは苦手なんだよ」
その言葉に神原は顔をしかめてみせた。おおよそ、ウルトラマンが女好きなんて……なんてしょうもないことを思ったのだろう。まったく、冗談が通じないやつだ。
「にしてもまたお前なのか。……俺、お前とちょくちょく会ってんだけど。なんでだ?」
「……お前とは他のやつよか話してるからな。お前担当になっちゃったんだよ」
そう言いながら、神原は宇佐美の体に巻かれていたテープを剥がした。いいのだろうか? と一瞬思ったが、たぶん許可がおりているのだろう。宇佐美は上半身のテープが剥がされると体を起き上がらせた。
「そりゃご愁傷さま」
宇佐美はそういうと一度大きくため息を吐いた。それに神原が、着替えの服らしき物を部屋の隅っこにあるハンガーにかけながらどうした? と聞いてくる。
「なんかさぁ……俺が今までやってきたことに何か意味があったんかな。とさ」
「急にどうしてそんなことを」
「俺……殺されんだろ? これから」
宇佐美はそう言った。
やりきれないどろどろとした感情は、不思議と感じられない。それはまるで、宇佐美が死を恐れていない……むしろ喜んでいるようだった。
神原は宇佐美にバレないように奥歯を噛み締めた。こんな男、まるでこの世界では最強になりつつあるあのお方たちに宣戦布告みたいなことをやったことや、あの時タイラントに向かっていった人間と同一人物とは思えない。こんなこと言いたくないが、脱け殻のようだ。
「お前は死にたいのか?」
「……そうかもしれない」
宇佐美は少し間をおいて再びしゃべる。
「お前は、どうしようもない時どうする」
「どうしようもない時って?」
「孤立した状態。武器は小銃のみ。敵はわんさかといてその中には自分の仲間だった奴らがたくさんいる。相手は嘲笑うかのようにトドメはささずに致命傷にはならないところばかりを狙ってくる。……そんな時、お前ならどうする? それでも戦い続けることができるか?」
神原の顔色が曇ったのが宇佐美にはわかった。
「いや、悪い。お前に聞くような内容じゃなかった」
そう言って宇佐美は今の質問を取り消そうとした。みっともなくてあまり人に言えるような言葉ではない。
だからかも知れない。
「……ウルトラマンって、案外弱いんだな」
その声ははっきりと聞こえた。宇佐美は「えっ?」と声をだす。
「そんなことを気にするやつがウルトラマンか……とな。お前が言おうとしてることはつまり、辛いから死にたい。誰か俺の気持ちをわかってくれ~。ってことだろ? お前はそんな生半可な覚悟で戦いを始めたのか? お前は誰かを守りたいからウルトラマンになったんだろ? お前の守りたいって気持ちはそんなもんか?」
一気に言われる言葉に、宇佐美は少し傷ついた。
まさかここまでボロクソに言われるとは思っていなかった。
「お前はな……お前は今、みんなのヒーローなんだ。お前が救ってきた人たちはお前のことをヒーローだと思っている。わかるか? お前は今そんな人たちの期待を裏切ろうとしてるんだ」
言っている意味がわからない。俺がヒーロー? あり得ない。みんな俺を殺そうとしてるじゃないか。いったい誰が俺のことをヒーローだと思っているというんだ。
「確かに、お前自身はお前をヒーローと認めてないかもしれない。でも、お前は最初にあの女の子を助けたんだろ? 助けられた女の子は、お前をなんだと思ったと思う?」
こちらの考えを見透かすように神原が言った。
「……何も思ってなんかない」
「お前バカだな」
それは即答だった。
そして神原はくるりとこちらに背を向ける。
「よく考えろよウルトラマン。誰でもウルトラマンになれるわけじゃない。なのにお前がなぜウルトラマンに選ばれたのか。なぜお前がウルトラマンになろうと思ったのか」
そう言い、神原は重そうな金属ドアを開けて外に出ていく。去り際に、
「お前のことを応援してるやつだっていんだ。それを少しは理解しろ」
そんな声が届いた直後、金属のドアは閉じられた。
だが宇佐美に言葉の意味がわからない。二人の温度差は、予想以上に広かったのだ。
マジでそろそろルーンファクトリーの新作ででくれないかなぁ……
※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。