ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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五十四話 危険な真実

「おいゾフィー」

 光の国。そこにある宇宙警備隊本部の廊下を歩いていると、ゾフィー(本物)は聞きなれた声をかけられた。

 振り向くとそこには光の国で知らぬ者はいない。ウルトラの父の姿がそこにあった。

 ゾフィーはなるべき心を悟られぬように機械的に、

「なんでしょうか」

 と応えた。

「ウルトラマンエースがジャックの手を借りて脱走した件だが、新たにゼロも計画に加担していたことがわかった。これは立派な反逆者だ。光の国の存続に関わる。直ちに全隊員に対して三人に殺処分命令を出せ」

 ゾフィーは一気に言われたことにまったくついていけず、あっけにとられて、はっ? と声を出すことだけで精一杯だった。なぜなら、エースは実ではないものの、実質的にはウルトラの父の子どもだ。それを殺せ?

「ま、待ってください。え、エースはあなたの――」

「そう。子どもだ。だからこそ、その危険性はよくわかる。奴は強い。しかも一人ならまだしも仲間が二人もいる。それも熟練のウルトラ戦士だ。これは危険だ。いいか。もう一度言う。全隊員に殺処分命令をだせ」

 それだけ言うとウルトラの父はゾフィーの肩をポンポンと叩いて過ぎ去ってしまう。

 危険性? ウルトラの父……は何を言っているんだ? 仮にも我が子だぞ。そんなやつに対して危険性とは。それは親の言うことなのか? 仮にもヒッポリト星人の手によってエースが殺されそうになった時に身を投げ出した親父の言うことか? いや違う。私の知っているウルトラの父はこんなことを言うことは絶対にない。例え他のウルトラマンを殺すまでに心を病んでいようともウルトラの父はこんなものではない。

 心の中にほんの少し生まれた疑問は細菌のように増殖し、止まることはない。

 そしてゾフィーは思い出した。

『そう。だから殺処分命令を。……ゼロも含める理由? 反逆に関わったからでいいだろうそんなもん。大丈夫だ。奴らなど簡単に騙せる。……それでは、あのお方たちに、乾杯』

 正直、背筋が凍りつく思いだった。

 そして、慌てて父が去ってった方を向く。

 この言葉を聞いたときなぜ自分はすぐに気がつかなかった。

 この言葉が意味することはたった一つ。

――ウルトラの父は……あのお方たちの仲間。

 嘘だ。そんなの嘘だ。あり得ないあり得ない。あり得ていいはずがない。あるはずがない。私はいったい何を考えている。仮にも私は宇宙警備隊の隊長だぞ。そんなことを考えていいはずがない。ウルトラの父があのお方たちの仲間? バカな。嘘だ。何か……何かこの考えを根本から変えるものはないのか?

 考えている間にも、去ってゆく父の後ろ姿は小さくなっていく。

 ウルトラ戦士の処刑。ヒカリに下したメビウスの抹殺命令。25年前……きっとあの時何かあったはずだ。光の国そのものに何かの異変が。25年前に壊されたには地球だけではない。この光の国、いや強いていうなら全宇宙。そんなことが起こっていながら私たちは今の今まで何にも気づかなかったというのか!?

 考えても考えても思いつくのは父に不利なことばかり。

 ゾフィーは我に返り、自分のために新たに作ったウルトラブレスレットをランスの形にして、ウルトラの父を追う。

 まだ父が敵だと断言できるわけではない。しかしこのままでは気になって仕方ない。

 ウルトラの父はこちらにまったく気づかないように廊下を右に曲がった。走ってその後を追っていたゾフィーは何の警戒もせずそこを廊下へと曲がった。

「――ッ!?」

 しかし次の瞬間起きたのは一瞬では理解できなかった。

 わかったのは、頭を何かとてつもなく硬いものでぶっ叩かれたということ。そして、自分の意識が底のない闇の中へ、ゆっくり、ゆっくり、まるで沈没する船のように沈んでいったことだった。

 最後に見えた光景。それはウルトラの父ではない何かが、吐き気を催す気味の悪い笑みを浮かべていた。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。

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