ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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 555のコンセレ予約してきましたよ。いや~、いつの間にか一次受注が終わっててびっくりしましたけど。


四十七話 バーニング/Burning Heart

 宇佐美はタイラントの腹の中を慎重に進んで行った。

 タイラントが暴れているのだろうか、先ほどから壁が床になったり床が壁になったりする。もしもここが広い空間だったのなら、宇佐美は既にお陀仏だっただろう。

 それにしても、腹から吸収された物は胃に行くのだろうか? それとも怪獣には胃という概念はないのだろうか。

 宇佐美の頭の中を疑問が横切る。しかしそれはこの状況で油断しているのではない。むしろ逆だ。こんなバカなことでも考えていないと気がおかしくなりそうだからだ。というのも、宇佐美は暗くて狭い場所が苦手なのだ。あのなんとも言いがたい圧迫感。あれが大嫌いなのだ。それは危なくなったらウルトラマンになれるという今の状況でも変わらない。

「…………」

 それにしても気味が悪い。壁はヌメヌメ、たまに滑って転びそうになるし、生臭いし、なんとなく人間の食道に似ている……そんな場所は懐中電灯がなければ一目散に逃げたくなる。

 少し小走りの速さになった自分の足を、宇佐美は遅くさせた。ここで焦ったら最悪死ぬ。冷静に落ち着いて行かなければならない。例え楓が死ぬかもしれないとしても。それにこんな場所で走ったりすればすぐさまヌメヌメで滑ってそのままずっと滑っていってしまう。滑りすぎて気がついたら電車を追い越していたなんてことは絶対に嫌だ。

 と、その時、タイラントが転んだのかどうかわからないが、壁が床になる。宇佐美は右肩を少し硬い、けれどぶよぶよとした壁に叩きつけられた。宇佐美はすぐに立ち上がって、何事もなかったかのように歩く。

 ヌメヌメの粘液のせいで気分は最悪だ。この場に女子でもいたら世の中の男どもは歓喜のあまり発狂でもしただろうが、残念ながら俺は男だ。残念だったな。

 宇佐美はなるべくバカなことを考えて歩いていく。しかしそれと対照的に息は荒い。こんな状況で体力をたくさん消費していることもあるし、なんとなくここは酸素が薄い気がする。

 しばらくその調子でしばらく歩くと、それは突如現れた。

 電車は第一車両のドアが手動で開かれたらしく、開けっ放しになっている。宇佐美は真っ暗な車内を懐中電灯で照らしながら進む。

 そんな調子で最後の車両に着いた。奥の方を照らすと、そこには床に力なく横たわる少女がいた。宇佐美は心臓が飛び出るような気持ちで走った。

 宇佐美は願うような気持ちで呼吸確認をする。

 ……呼吸なし。宇佐美は思わず楓を抱いた。その体にはまだほのかに温もりが残っていて……いや、それしかなかった。

 宇佐美の目尻に涙がたまる。

 かける言葉はそれよりもショックが強すぎてでなかった。

 すぐ側には楓のスマホが落ちていた。

 宇佐美は目の前の現実に、ただ泣き叫びたくなる。しかしそれを堪える。まだ希望はある。まだ諦めてはならない。

 そう考えて怒りを抑えようとしても、もう止められない。奴らに対する憎悪が煮えたぎる。奴らを殺せと脳が命令してくる。絶対に許さない。絶対に殺す。

「ぶっ殺してやる……」

 そんな宇佐美の思いと同調するように胸ポケットに入れっぱなしだったウルトラバッジが、まるで怒りの炎のように赤く輝く。

 宇佐美は左腕にメビウスブレスを出現させる。それは炎のように燃え盛るみたいに光った。

「うあああああああああ!!」

 宇佐美は叫びながら変身した。ぶっ殺す。その思いを胸に、彼は変身した。

 

 

 

 

 彼らは、テレビの前でその戦いを見ていた。

 暴君と、赤い巨人の戦い。25歳以上の人々はそれを見てなぜだか父親のどっしりとしたどこか力強い背中を見ているような気分になっただろう。そう。彼らは覚えているはずだ。彼がウルトラセブンであり、地球を守るために戦った正義のヒーローであることを。

 それは三沢基地から飛び立ち、はるばるここまでやってきた在日米軍のF-16戦闘機パイロットたちも同じだっただろう。

 セブンはタイラントにされるがままの状態だ。蹴り飛ばされ、踏みつけられる。しかしそれでも人々を守ろうと彼はタイラントの進路を妨害する。

 彼らは思うだろう。ウルトラマンを助けなければと。

 避難者たちは避難していた、比較的現場から近い体育館から飛び出た。雨が降っていることなんて関係ない。彼らはそうした。

「頑張れー! ウルトラマン!!」

 子どもが叫ぶ。それに続くようにして人々がウルトラセブンを応援し始める。その応援がセブンに届いているのかは彼らにはわからない。でも、届いていると信じて彼らは叫ぶ。

 それは勝手なことかもしれない。昨日まで殺せ殺せだったウルトラマンを、自分たちの命が危なくなれば応援することなど。しかし、もしかしたらそれでもいいのかもしれない。この件に関わった者は、奴ら以外全員被害者なのだから。

 そして、次の瞬間、彼らは目撃することだろう。

――それはタイラントの腹の中から小さな赤い炎のような球体となって飛び出てくる。そして腹から出ると少しずつ、少しずつ大きくなり、空中を飛び、セブンに襲いかかるタイラントを払いのけた後、地上数十mの高さで静止したかと思うと、炎が爆発して、花火のような淡い光が辺りを赤く染め上げる。

 悲しくも、ヒビノミライとは違い、仲間などいなかった彼が、タロウの力を借りたその姿。

 胸と背には、彼の情熱。怒り。人間を守ろうという気持ちの熱さを表すかのように、金色のファイヤーシンボルが描かれている。

 その姿はまるで燃える勇者。

 セブンはその姿を見るとメビウスに頷きかけ、タイラントはその姿を見て驚愕した。そして地上でその姿を見ていた磯崎――ヒカリは少し頬を上げ、ニヤリと笑う。

 人々はその姿を見て歓喜する。

 そこには、メビウスバーニングブレイブがいた。




 この世界は宇佐美に厳しすぎたかなぁ、と今さらながらに最初らへんの設定を作った自分を怒ってます。すみません。毎度毎度、夢も希望もない暗い内容で。
 人たちが歓喜するけど実は宇佐美の心の傷口に塩をぬっているだけという……
 それからお気に入り121件ありがとうございます。本当は120件の時に言いたかったのですが、いつの間にか増えてて嬉しい限りです。これからもウルトラマンが、降ってきたをお願いします。

 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。

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