ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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四十六話 セブンVSタイラント

 タイラントが人を襲う。そんな光景は、今までの怪獣よりもマシだったのかもしれない。

 足元にいた自衛官たちを蹴散らしていく。口から火を吹き、人間を殺していく。しかし、殺されるのは民間人ではない。なぜなら、彼らの避難は既に済んでいる。だから、殺されるのは救助活動の支援などをしていて、なおかつ逃げ遅れた自衛官、警官、消防隊員だ。

 空は灰色に包まれている。雨は先ほどよりも強くなりビルの窓に強く叩きつけられる。そして、ピカッと光ったかと思うと、雷がおちる。

 そこに君臨し、力の限り暴れるタイラントはただの悪魔でしかない。まるで人の心を鏡に写したかのように、奴は暴れる。高層ビルを叩く壊す。二階建てのアパートを踏み潰す。高架を蹴り飛ばす。駅を破壊する。

 雷がおちる。

 タイラントは暴れる。あのお方たちのために、ただただこの星の知的生命体の財産をすべて破壊する。

 上空を飛行していたF-15Jがミサイルを発射する。それは真っ直ぐタイラントに向かって飛行する。風をきり、雨をきる。

 轟音とともに直撃。しかしタイラントにそんなもの、効きやしない。無意味。人間に奴を止めることはできない。人間にできるのは、ただ怯え、逃げ惑う愚かな姿を見せることだけだ。命乞いをしても関係ない。女だろうが子供だろうが関係ない。全員殺す。人間は絶滅させる。

 タイラントが咆哮する。空気はビリビリと振動し、雨粒は破裂する。真っ直ぐ向かっていたミサイルは爆発する。

 F-15Jのバルカン砲が火を吹く。しかしそれは通常ではあり得ない固さをするタイラントの皮膚に傷一つ負わせることはできない。それどころか、バルカン砲の弾はタイラントに弾かれて更に地上の建物を削っていく。

 タイラントはビルを器用に掴み、持ち上げる。そしてそれを投げる。

 地面に落下したビルの破片がそこら中に飛び散る。川の水が何mも跳ね上がり、破片があたった民家はただの瓦礫とかす。

 奴は暴君。すべてを破壊する。

 雷鳴と咆哮が重なる。

 奴は悪魔。止まることはない。

 その時、突如として赤い閃光が町を飲み込んだ。それにタイラントも驚き、顔を背ける。

 その姿は、何も知らない現代の人類が見たらタイラント以上の悪魔の姿。あのお方たちから見れば面倒な敵。知る者が見ればそれは救世主。

 しかし、それはこの状況での話ではない。怪獣が暴れていないときの話であり、強い雨、そして雷鳴が響き、タイラントが町を壊している時ではない。

 人々は彼を知っている。

 人間が、あのお方たちがどんな情報操作をしていようが関係ない。

 赤いその体は、情熱の色。頭のてっぺんに装着されたそれは、すべてを切り裂く宇宙ブーメラン。胸のプロテクターは太陽エネルギーを吸収するためのもの。

「デュアッ!」

 彼は両手をグーにして構える。タイラントはそんな彼を威嚇するかのように吠えて、ドタバタと走ってくる。

 モロボシダン――ウルトラセブンの戦いが今、始まった。

 

「デュアッ!」

 倒す敵は前方にいる。今こちらに向かって走ってくる暴君。ボクが倒さなければならない相手だ。

 セブンも走る。タイラントに向かい、全速力で。

「ジュアァッ!!」

 そしてそのまま身を低くしてタイラントにタックルをくらわせる。それにより、タイラントは少しばかり怯むが、倒れはしない。セブンは急いで、今度はタイラントを殴る。

 しかしタイラントも黙っていない。巨大な鉄球のような腕で殴りかかる。しかしセブンは迫り来るタイラントの腕を掴み、そのまま一本背負投をする。それによりタイラントは地面に叩きつけられる。

 セブンはタイラントの体の上に股がってその体を殴る。

 だが、タイラントの力は強い。セブンははね除けられ、宙を舞う。そしてそのまま高層マンションに激突する。セブンが激突した高層マンションは一部分がぽっかりとへこんだように半壊した。

 セブンが地面に落ちる。そして片膝になり、そのまま立ち上がろうとしたその時。

「――ッ!?」

 セブンはタイラントの突進を受けて再び高層マンションに激突する。しかも今度は半壊なんてものではない。マンションは全壊した。

 目の前がふらふらして立つことができないセブンに、タイラントは鉄球で殴る。セブンはまたも吹っ飛ばされ、地面に横たわる。

 再び暴君が動き出す。セブンに向かってゆっくりと。

 どうにかそれを阻止しようとF-15Jがミサイルを発射するが、まったくの無意味。タイラントは止まることがない。

 セブンもどうにかしようと、アイスラッガーに、両手を合わせてそのまま前にスライドするように両手を突きだし、アイスラッガーをタイラントの首めがけて発射する。しかし、これもカキンッ、という音とともに弾かれて再びセブンの頭に戻ってくる。

 セブンはどうすればいいのかしばらく悩んだ後、再びアイスラッガーを発射する。

 何のつもりなのか、タイラントにまともな知性があるのならそういっただろう。

 アイスラッガーはタイラントに向かって直進していく。確かにタイラントは強力だ。しかし、一つだけ弱点……ではないが、弱い場所がある。

 アイスラッガーはタイラントに向かっていき、

――スパンッ!

 と、その部位を切り落とした。

 そこは耳だ。

 そうタイラントの耳はあのイカルス星人の耳だ。いくら他の部員が固くても所詮、怪獣の寄せ集め。それに、わざわざ首なんて上品な場所を狙うことはない。相手はまさか耳を切り落とされるなんて思わないはずだから、パニックになる可能性もある。

 予想通り、タイラントは耳があった場所をおさえてその場でもがく。

 しかし、それとほぼ同時にセブンのおでこにあるビームランプが点滅を始める。

 タイラントを追撃するかのように、F-15Jがミサイルを発射する。

 セブンはもがくタイラントを見て、少し躊躇い、ワイドショットを放とうとしたその手を硬直させた。

 やはり倒してしまっていいのだろうか。もしもボクが倒したら大変なことになるのではないか。

 セブンは迷った。自分の中の疑問を曖昧にしたまま戦いを始めた結果だ。もっとよく考えるべきだった。

 考えてしまい、まったく周りを見ていなかったセブンは、狂ったようにこちらに走ってくるタイラントに対処できなかった。

 タイラントは走ってきた勢いのままにセブンを押し倒した。あまりの重さにセブンはそれを退けることはおろか、もがくことすらできない。戦場でうまれた一瞬の迷い。それがセブンの優勢を破壊した。

――ウルトラセブン。彼は人を思う優しさが強すぎるあまりに勝てなかった。




 はい。セブンが勝つと期待してくださった皆様、どうもすみませんでした。
 理由を言わせてもらうと、最後にある通り人間に優しすぎたからです。最初はセブンが勝ってハッピーエンドでいいかな、と思ったんですが、前回の話でも書きましたが、今のセブンは人を守っても守れない立場にあるんです。見てるだけなら人が死ぬ。でも守ろうと怪獣を倒せば、あのお方たちが本格的に動き出して人が死ぬ。今回は今までためてきたものが爆発して変身しちゃったけどいざ倒すとなると、あ、これヤバいんじゃね? みたいな感じでどうすればいいのかわからなくなってしまったという感じです。
 そういうことで、セブンがかっこよくタイラントを倒すと思っていた皆様、こういう事情があってセブンはタイラントに勝てませんでした。本当にすみませんでした。

 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。

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