ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

5 / 99
 遅れてすみません。
 そして、今回はつまらないかもしれません。


三話 変身/Ultraman

「……」

 メビウスとなった宇佐美が再び目を開けると、そこにはめちゃくちゃになった街が見えた。大きなビルなどからは黒煙が出ており、そこは昨日までの渋谷の町とは思えないほどのひどいありさまだった。

 前方数百m先にはメガリュームクラスタがおり、空中ではF-15Jが高速で飛行している。

 先ほどまで点滅していたカラータイマーも今となっては青く輝いている。力が溢れてくるのがわかった。

「……セヤッ!」

 状況を確認し終えたメビウスは左手のメビウスブレスのクリスタルに右手を交差させ、その後に両手を左右に広げる。

 宇佐美自身、それを映像などで見たことは数えられるほどしかない。だから普通なら覚えていないはずなのだが、なぜか今は鮮明に思い出せていた。

 広げられた両手からは炎のようで強くありながら、どこか優しさを持つ光が漏れる。そう。まるで太陽のような。

 そして、その広げた両手を次は弧を描きながら、頭の上で丸を作る。

 すると、メビウスの頭の上には(インフィニティ)のマークが現れる。

「ヘァッ!」

 その声と同時にメビウスは体の前で腕を十字に構えて、メビュームシュートを発射する。そして、メガリュームクラスタもほぼ同時に口から破壊光線を発射。二つの光線がぶつかり合い、壊れた渋谷の町に衝撃波が飛び散る。

 それにより一時的にF-15Jは戦線を離脱し、崩れかかっていた建物が完璧に崩れる。

 一瞬長引くかと思われた光線の打ち合いだったが、力の差は歴然だった。

「――――ッ!!」

 メビウスの光線が一瞬にしてメガリュームクラスタの破壊光線に押し勝ち、そのままメガリュームクラスタは金属の部品をとばしながら大爆発を起こした。

 メビウスは勝った。しかし、彼の初めての戦いは町をめちゃくちゃにし、更に多数の犠牲者を出してしまった。それだけが、メビウス唯一の不満であった。

 メビウスは両手を空に上げると、そのまま飛んでいった。それを阻止することは誰にも不可能だった。

 

 次の日、東京都内の警察病院。

 宇佐美はそこのエントランスの椅子に座っていた。

 なぜなのか。理由は至って簡単。怪我をしたから入院するはめになったのだ(今から退院だが)。ではその怪我は一体いつしたのか、これも簡単。ウルトラマンが落ちてきた日だ。

 結局ウルトラマンが落ちて来てからメガリュームクラスタを倒すまでに出た死者は4347人。重軽傷者は30000人以上だったらしい。その中にはあの日あの時スクランブル交差点を歩いていた人もいたし、高層ビルの中で仕事をしていた人もいた。他には地下鉄に乗っていた人たちもいた。

 ウルトラマン衝突の影響で高層ビルは折れてそのまま落下し、地下鉄のホームは潰れ、歩いていた人も衝撃波で吹き飛ばされ、更にはその中で生き残った人たちも落ちてきたビルの残骸や、車の爆発などでかなりの人数の人が死んだ。

 『侵略者ウルトラマンメビウス現る! 破壊された渋谷の町、多くの犠牲者!』『渋谷の町を破壊した銀色の悪魔!!』テレビや新聞ではそんなことを報道している。信じられない? しかし現に警察病院のエントランスにあるテレビでもそのことを放送しているのだ。こういうのは本当のことを言っているから余計腹が立つ。

 エントランスのテレビの映像がめちゃくちゃになった渋谷の町へと変わる。

「うっわ、何これぇ! マジでこれ全部ウルトラマンがやったの!?」

「そうみたい。昔は地球人の味方だったらしいけど、今じゃこれかぁ」

――まるで悪魔じゃん。

 宇佐美の近くの椅子に座っている二十代後半位の女二人がそんな会話をしていた。

 まるで自分の悪口を言われているような会話を聞いても我慢しなければならないというのは結構キツイものだ。なんでウルトラマンなんかになっちゃったんだろう。ウルトラマンにさえならなければこんな気分になることなんてなかっただろうし。……いや待てよ。そういえばウルトラマンになったから自分は今でもこうして生きてるのか。ならば自分はこういうときヒビノに感謝するべきなのか? いや、待て待て待て。もとをたどれば俺が死んだのはヒビノが渋谷に落ちたからだ。ヒビノがもっとかっこよくストンと着地してればこうなることなんてなかった。だから悪いのはやはりヒビノだ。間違いない。俺は巻き込まれた被害者だ。うん。

 ところで自分がした怪我だが、特に大したことではない。ただのかすり傷だ。手とか足とかに少し怪我をした程度。それでも入院という処置を取られたのはおそらく、例のあの少女が宇佐美がコンクリートの塊に潰された、などと言ったからだろう。

 まぁ少女が瓦礫を退かすのに力を貸してくれそうな人を探しに行っている間に自力でコンクリートの中から出てきましたよぉ。というふうに瓦礫の近くでぐったりしてればもう完璧。自分がウルトラマンになったということはバレない。現職でその日たまたま非番で渋谷に来ていた男性の救急救命士を連れて戻ってきた少女が瓦礫の山の近くでぐったりしている自分を見つけた時の反応はなかなか面白かった。なんてったって救急救命士が右手の脈をはかってから「生きてる」と言った時に少女は泣きながら喜んだのだ。まさかその日初めて会った少女に泣かれると思ってなくてさすがに少しうるっと来た。そしてその後に自分は少女の泣き声で起きた、というふうにした。

 そして、あの少女。奴らの生け贄と選ばれた少女は今どうしているのだろうか。

 おそらくあの少女の名前は榊原楓というはずだ。今日生け贄として奴らに食われる少女。ほんの少し話した程度の少女が今日、その命の炎を消される。生け贄で周りの人間が死ぬこそなどよくあることだ。自分だって小・中・高校時代で同じ学年の人が生け贄に選ばれることだってよくあったし、それに比べれば少し話した程度の少女が死ぬことなどどうってことないはずだ……ないはずなのだ。

「はぁ……」

 宇佐美は大きくため息を吐く。

 どうってことないはずなのに、胸の辺りで何かがもやもやする。

 そんな時だった。テレビから緊急地震速報の時と同じようにピロォン、ピロォン。ピロォン、ピロォン。と音がした。

『速報です。今日、あのお方たちの生け贄となる予定だった榊原楓さんが逃亡していることが警視庁へと取材で明らかとなりました』

 

 宇佐美は退院手続きを終わらせ、自室に戻ったところで椅子に座り、真剣な表情をして考えている。なんのことかと問われれば、もちろんあの少女のことだ。

 ニュースで言っていたことだと、もう陸上自衛隊が治安維持出動の名目で東京中にうようよいるらしい。このままならもうじき少女は捕まる時間だろう。

「助けないんですか?」

 左手にいつの間にか出現していた赤い変なブレスレット……メビウスブレスとかいうのからヒビノの声が聞こえた。

 このことについて昨日病院の病室でこっそり質問してみると、本人いわく“エネルギーがなくてこの姿でいるのが精一杯”ということらしい。それでもこうして会話はできるし、なんか自分にもいろいろできることがあるらしいし、それにいざというときにはウルトラマンになることもできるそうだ(戦うのは俺らしいが)。

「無茶言わないでくれよ。そんなことしたら俺が犯罪者になるだろ」

 そんなリスクを負ってまで一人の少女を助けることは無茶だ。自分は昨日ウルトラマンになっただけで一生分の勇気とか使い果たした。そんな意味合いを込めて宇佐美は赤い変なのに言う。

 しかし、そう言う宇佐美の心にもまだきっぱりと“助けない”とは言い切れない。彼もまた迷っているのだ。何せその少女は自分が一回死んでまでして助けた少女。そう簡単に死なれてしまえばあの時自分がした行為がなんだったのかわからなくなる。

「それにあの子がいる場所も何もわからない。まさかヒビノは俺に東京中を走って子供一人を探せとでも言うのか?」

「わかりますけど」

 ヒビノが普通に返したその言葉に宇佐美は思わず、は? と返してしまった。

「服の内ポケットにメモリーディスプレイ……変な機械が入っていませんか?」

 そう言われて、俺そんなの入れたっけ? とか思いながら内ポケットを探る。そして、何か硬い物に手が触れる。

「あ……あった」

 こんなものいつの間に入れたのか、とヒビノに思いながらそれを手に取って見る。

 炎のエンブレムが入ったその機械は、画面が一つある以外にはボタンとトリガーみたいなのがあるとしか説明のしようがない。

「それを使ってください。それを使えば女の子も見つかるはずです」

 いや、どういう意味だよ。

 宇佐美はツッコミを入れたくなるが、見たところハイテクそうだしおそらくヒビノが言っていることに嘘はないのだろう。

 しかし、これで自分は少女を助けられることが“可能”になってしまった。まだ顔を見られたらマズイとかあるがどうにかなるだろう。




 前回以上に強引でしたね。特にメモリーディスプレイとか……
 後、戦闘についてですが、今回はまだ最初なのであっさり終わらせました。
 それと、お気に入り10件。感想4件ありがとうございます。最初に上げた時とかは息抜きとして適当にやってればいいや。などと思っていたのでかなりびっくりです。これからも頑張りますのでどうか今後ともよろしくお願いします。

 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。