ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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四十一話 救助開始

 タイラントが仰向けに寝ている。その腹の上で準備は着々と進められていた。腹の中から人々を救出するのは消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー)の隊員二名以下。タイラントが起きるかもしれないという危険の上ではそれが限界だった。

 救助方法はヘリコプターを使った救助によく似ている。ヘリコプターなしの、更に生き物の腹の中に入るということだけが違う。つまりは消防隊員が腹の中にロープを使って降下し、一人ずつ消防隊員の体に固定してそのまま上に引っ張ってもらうのだ。この作戦の問題点はいくつかある。一つ目は時間がかかる。二つ目は消防隊員の体力が消耗することを予測して予備の消防隊員がたくさん必要になるということだ。しかもこの……いまだ壊れたビルなどによって生き埋めになっているかもしれない人がたくさんいるこの状況で、高度な訓練を受けたハイパーレスキューの大人数がこちらに集中してしまうということだ。それにタイラントの腹の中にある宇宙船の乗組員はこの方法では救助できない。

「…………」

 そして宇佐美は万が一のために待機していた。場所はとあるビルの屋上。タイラントに何か異変があったらすぐに気づくことができる場所だ。

 近くには誰もいない。当然だ。タイラントが目を覚ました時、ここが一番危ないのだから。

 タイラントが目を覚ましたらまた何人かが死ぬ。女も子どもも。しかし、そんなことはもう考えない。考えすぎたら人はバカになるということを宇佐美は学んだ。

 宇佐美はその万が一が起きないことを願った。しかし、頭上で曇りゆく天気を見ているととても不安になる。何か悪いことがおきる前兆のような気がした。そよ風が吹いた。その風は冬がもうすぐで訪れることを伝えるかのように、少し冷たい。しかしそれが気持ちいい。少なくとも真夏のじめじめしたやつよりかは、マシだ。

 宇佐美は気を紛らわせようとポケットに入れたままだったスマホを取り出す。数日前に電源をきって以来使っていなかった。そもそも家族もいなく、友達もいない宇佐美にスマホはいらないものだった。

 電源をつけると画面に入りきらないほどの着信履歴があった。その光景を今まで一度も見たことなかったものだから宇佐美は思わず怯んだ。

 しかし、それはどれも一人の人物からの着信だった。

――榊原楓。

 どれもあの子からだった。

 確かに緊急用としてスマホの番号を教え、スマホもケータイも持っていないと言うから腐るほどある金の一部を使ってスマホをかってあげていたが、今に気づくまで一度も連絡があったことはなかった。それゆえに金の無駄遣いをしたなと思ったことがあったのだ。

 宇佐美はその番号に電話をかけた。

 あの子が今、どこにいるのか、宇佐美はまだ知らない。

 

 タイラントの腹の中で着信音がなった。

 静寂の闇を切り裂くようにけたたましく。

 その音を聞いて楓は両手で祈るように握りしめていたスマホを急いで通話にきりかえた。

『もしもし』

 ああ、懐かしい。頼もしくて、かっこいい。間違いなくあの人の声だった。

『おい、聞いてるのか? もしもし? 今どこにいるんだ』

 最初はただただ嬉しかった。生贄に選ばれた私を気にかけてくれたただ一人の人。この時代、生贄に選ばれた人を守ろうとした人がどうなるかわかっていたはずなのに。家に石を投げ込まれた人がいた。仕事を失った人もいた。殺された人さえもいた。それなのに、あの人は助けてくれたんだ。

「わ、わかりません。電車に乗ってたら、何かに食べられました」

 私はあの人がウルトラマンではないかと疑っている。いや、絶対にそうだと思っている。世間ではウルトラマンはまるで悪人みたいに言われているけれど、あの人がウルトラマンなのだ。だからそんなのは嘘だ。

 あの人はヒーローだ。誰がなんと言っても、あの人はヒーローだ。

 スマホの向こう側で宇佐美が息をのむ声が聞こえた。どうやらやはりヤバい状況におかれているらしい。と楓は思った。

『そうか。……でも安心しろ。ハイパーレスキューが今そっちに向かってる。時期に救助されるはずだ』

 そう言われると、安心して、心の底から嬉しかった。

 

 救助活動は困難を極めていた。普通なら重傷者、女子どもから救助を開始するが今回は違う。いつ救助不可能な状態になるかわからない現状では、救助できる者から救助する。というものだ。

 つまり早い者勝ちだ。そんな状況での救助は危険を伴う。我先にと人々が自分に集まってきて、ただでさえ時間が足りないのに余計足りなくなる。こんな時ほど拳銃を携帯できる警察官が羨ましい。威嚇射撃でもすればまだマシになる。

 頼むから何事もなく終われよ。

 一人の隊員はそう思いながら腹の中へ侵入した。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。また、感想お待ちしています。

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