ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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四十話

 一方、陸上自衛隊の特殊部隊。特殊作戦群でも動きがあった。

 習志野駐屯地から乗用車数台。特殊作戦群の隊員90名を乗せた乗用車が東京に向かい出発した。防弾仕様ですらないただの車というのはけっこう不安になるが、絶対にばれてはいけないのだから、まぁ仕方ないことだ。

 今から自分たち特殊作戦群は都内某所に拠点をおくあのお方たちを叩きに行く。しかし、このことを総理は知らないという噂だ。防衛省のトップが勝手に決めたことらしい。だが、もしこのことについて一言でも総理に言っていたのなら当然こんな作戦は許可されなかっただろう。

 いや、自分個人としては今回の出撃。また、ウルトラマンを援護せよという自衛隊最高司令官殿の決定は反対だ。そんな命令を出せば、これは明らかな外交問題が生じて最悪の場合、戦前の日本のように化石燃料などを輸入できなくなる。そうなればいくら性能の良い兵器も何も使えなくなり、敵国が攻めてきても自分たち自衛隊には何もできなくなる。そんなこと、総理にもわかっているはずだ。こんなの、異常すぎる。これから自分たちはあのお方たちの拠点を潰すわけだが、射殺の許可もでている。つまり見つけたら即、殺せ。だが殺してしまったらあのお方たちはそれを理由にして日本という島国を地図から消しかねない。もちろん、引けない理由もわかる。しかし、それで攻撃してしまったら、まさにそれは第二次世界大戦とまったく変わらない。別にどちらが悪いというわけではないが、あの時、あのアメリカは真珠湾攻撃が起こることをわかっていたにも関わらず、そのことを現地の兵士たちには知らせずに自国が戦争をするための犠牲とした。今の状況も変わらない。日本という耳元でうるさいハエを殺してしまいたい奴らは、必ず自分たちが突入する前に止めるなんてことはしない。そうなったら――、

 そうなったらこの国は終わる。ウルトラマンとはそこまでして守らねばならない者なのか? 確かに今のこの国はどうかしている。しかし、その問題は今日明日で変わるものではない。もっと長い時間が必要だ。自らの罪を滅ぼすためだけに平和を壊していい理由になるのか? いやならないはずだ。今の政府は目の前の出来事に怒りすぎている。怒りが巻き起こした混乱。それにあのお方たちと他国による制裁も予想できる。その結果どうなる? 東京、いや、日本全体があの時の広島長崎のような惨状になるかもしれない。たくさんの罪なき命が消えていくんだぞ? そんな行動を許していいのか? いや許してはならないはずだ。

 だが、自分には何もできない。この問題はもはやこっちで対処できるレベルを超えている。もうこの問題が止まることはないのだ。何かが滅びるまでとまらないぞ。

 

 

 

 宇佐美は考える。

 人間は寝ているうち、知らず知らずの間に虫などを食べていることがあるという。要はそれと同じことをすればいいだけだ。

 つまり、大勢が侵入するのよりも、一人で腹の中に突入すればタイラントにばれる可能性が小さくなる。だがそれには一つ問題がある。それはものすごく時間がかかるということだ。もし救出中に奴が目覚めれば、命の保証はできない。

 宇佐美はその時、ふと考えてしまった。

 そもそも、その人たちを助ける必要性などあるのだろうか。と。

 たかが百数人の人のために、他の誰かの命を無駄にするような真似をさせてしまってもいいのかと。

 宇佐美は慌てて首をぶんぶんと横に振った。

 何を考えているんだ俺は。昔からそういうことをやるのが俺たちの仕事であり、義務であり、最近ではそれが薄れてきて、終いには自ら子供に手を出すバカも出てきてしまったが、人を助けることが自分たちの正義だったはずだ。その警察官だった俺がそんなことを考えてどうするんだ。最近やっぱり俺はおかしくなったみたいだ。昔を思い出せばいいものを、どんどん自分を見失っている。深いことを考えるな。深く考えるからどんどん考えがおかしな方向へと行く。俺は俺の思う正しいことをしろ。そうすればいつか道が開ける。

 自分を信じろ。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。また、感想お待ちしています。

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