ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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三十九話 effort/それが変身

 神原は、目の前で起こっている光景に、ひどい苛立ちをおぼえていた。

「だからっ、我々警察はですね、あんたら自衛隊みたいに訓練が行き届いているわけでもないし、装備が揃っているわけでもないんだ! その上あの……化け物の腹の中に警官を送って人間を救助しろなんて、馬鹿げている!!」

 今、目の前にいるのは防衛省のキャリアと警察庁のキャリア。さっきからずっとこんな感じで、タイラントの腹の中に連れ去られた人たちの救助をどちらが行うのかで揉めている。

「SATがあるだろSATが、なんのために特殊部隊があるんだ!! ここで自衛隊をだしてしまったら、何かあった時に大切な戦力がなくなるんだぞ!!」

「SAT、SATと……彼らの力を過大評価しないでもらいたい!! 彼らはあんたら自衛隊と違って万能部隊ではなく、あくまで人質を救出する部隊だ! 第一、こんな作戦が成功するはずがない! 全員死ぬぞ!!」

「ならこのまま国民が化け物に食われるところを黙って見ていろとでも言うのか!?」

「それを言うなら警察官だって国民だ! 隊員たちを死にに行かせるような真似など私にはできない!! 自衛隊でどうにかしてください。こちらは逃げ遅れた人の捜索だけで精一杯だ」

「逃げ遅れた人の捜索だと? そんなのを本当にしているのか!?」

「なんだとぉ!」

 俺は、今まで何のために働いてきたのだろうか。決して、こんな光景を見るために自分は自衛官になったわけではないはずだ。

 思えば、今までこの手をたくさん汚してきてしまった。今まで、考えようとしなかっただけで、俺はたくさんの人の人生を狂わせてしまってきてしまった。中でも印象的なのは、あの生け贄の少女だ。

 少女に銃口を突きつけたあの時、本当は怖かった。もしも少女が抵抗してきて、誤ってトリガーに手をかけてそのまま引いてしまったら、俺はどうしようか、と。何の罪のない人に、なんで俺は銃口を突きつけているんだろうかと。未来の担う子どもに、あんなことをしてしまっている自分を、本当は心の底で恨んだ。やりたくなくても、その気持ちを強引にないように振る舞って、俺はそのまま拷問までしてしまった。そんなことをしてしまう自分が怖かった。自分は実は悪魔なんじゃないかと思った時もあった。

 だが、今、冷静に考えると、俺はとんでもない悪人だ。こんな時だからこそわかるのかもしれない。もしかしたら、俺は明日にでも死ぬのかもしれないから。だから、望みが叶うのなら、自分が今までにしてきたことすべてを謝りたい。許されるとは思っていない。でも……こんなこと俺のが思っていいこそなのかどうかはわからないけれど、謝れない人間は、本当に最低だと思うんだ。

「だからSATがいきゃいいんだよ!!」

「自衛隊から出してください。だいたいあんたら自衛隊だって監視監視で何もしてねぇじゃねぇか!!」

 その後、遂に二人の間で取っ組み合いが始まってしまう。

 自分には、謝る前に、まだやることがあったようだ。

「お二人ともいい加減にしてくださいッ!!」

 そのテントの中に、神原の声が響き渡り、取っ組み合っていた二人の動きがピタリと止まった。

「今は警察も自衛隊も協力すべき事態のはずです! タイラントの件で熱くなるのはわかりますが、現場はもうパンク寸前です!! あなたたちが指揮をしてくれなくては、彼らはパニックになりますよ!!」

 あーあ、これで俺は減給……もしくは依願退職を迫られるのだろうか。しかし、もうそれでもいいかもしれない。自衛官をやめて、いろいろなところに謝りに行く。俺にはそれがお似合いかもしれない。でも、願うことなら、俺は変わりたい。罪は消えることはないが、俺は変わりたい。こう思えるようになったのもお前のせいなのか? ウルトラマン。

 

 人間とは、いつ、いかなる状況であっても、生きなければならない。例え死刑執行直前だとしても、例え戦地に行ったとしても、待っている人がいる限り……いや、自分が生きたいと思った時の気持ちを裏切らないために、生きる。苦しくても、生きるのが嫌でも、生きていれば、その内きっといいことがある。そう思って頑張るしか、道はない。綺麗事がすべてではないが、自分はそれでも綺麗事を言いたい。決してそれは、綺麗事を言っていれば楽だからではない。綺麗事を言うことで、誰か新たな希望や、生き方を教えられるかもしれないからだ。他の誰かに、自分のような苦しみを味わってほしくないからだ。今の世界は……すべての時代の世界は、おかしいと自分は思う。自分たちにいじめはダメだといっている教師が、他の教師に対していじめをしている。教員として、人に何かを教える見本とならなければならない人がだ。愚かだろう? しかし、それに目を背け続けている自分たちも、また同じように愚かなのかもしれない。でも、人間はそうやって生きていくのだ。それが楽だから。でも、自分はそんな生き方はしたくない。相手が誰であろうが、自分は決して怖じ気づくことなく、それは間違っていると言いたい。誰かがそうすれば、世界が変わるからだ。それははたから見れば、ただの愚行なのかもしれない。ただのバカなのかもしれない。でも、いいじゃないか。笑われても、バカにされても、それは俺の信念だ。俺の、俺だけの持つ正義だ。

 だから、俺は警察官を目指したんだ。犯罪が許せなくて、被害者の心を助けてあげたくて、その一心で、俺は警察官になったんだ。一人の人として誰かを助けたかったんだ。これ以上、誰かが泣く姿も、誰かが傷つく姿も、俺はもう見たくなかったんだ。

 だが、俺の心もいつしかその信念を忘れてしまっていた。大勢という波の流れに流されるままになり、俺はずっと、自分の正義をなくしていた。自分の心をどこかに忘れていた。だが、今の俺はもうそうではない。波にはもう流されない。俺は自分の正義を掲げて俺の目指した世界を造るために最善を尽くす。そのために俺の命をかける価値はある。それが俺の本当にやりたいことだ。命はいかなる状況でも大切にしなければならない。しかし一つだけ例外がある。誰かを助けると決心した時だ。自分よりも弱く、臆病で、小さい。今の時代をこれからつくっていくのは子どもたちだ。しかし、今の子どもたちは果たして未来に夢を、希望を、光を見ているのだろうか。この最悪の時代、最悪の世界で子どもたちは未来なんてものを考えられるのだろうか。あっちに向けば変態がいて、逆を向けば最低の奴らがいる。そんな時代、子どもたちに夢を見る素晴らしさ、希望というものの素晴らしさ、光というものの暖かさを教えなくてはならないのは俺たち大人だ。そんなことすらやれない大人は勉強しなおしてこい。ただ簡単なことだ。自分の理想を、自分の夢を、この世界の素晴らしいことを、少しでもいいから教えるのだ。しかし、その時に相手に押しつけてはいけない。それはただの自己中心的な考えをもった人のやり方だ。カッコ悪くていい。弱くていい。大切な人を守れ。自分を利用するだけのくそ野郎ではない。人間性、裏の顔を含めて自分が一番好きな人。愛している人。それを守るのが力を与えられた俺の正義だ。

 宇佐美は拳をギュッと握った。すると、どんどんやる気がわいてくる。絶対にやってやると思える。

「おい」

 そんな声がして、宇佐美はバッ、と後ろに振り向いた。すると、そこには神原というあの陸上自衛隊の隊員がいた。

「俺は今まで上からの命令で最悪なことをしてきた。それのせいで悪夢も見た。なぁ、教えてくれウルトラマン……いや、宇佐美翔夢。こんな俺でも、変わることができるのか? 今までずっと悩んでいたんだ。こんなんでいいのかって。……でも、その時は考えないようにしてた。でも、お前がウルトラマンとして戦う姿を何度も見ている内に、俺はこのまま最悪な人間として死ぬのかと思い始めた。なぁ、俺はこのまま変われないのか?」

 その声は、本当に悩んだ人の顔だった。

「……人間が変われるか変われないかは本人次第だ。だから本気で変わろうと努力し続ければ、人間はいくらでも変わるこのができる。悪いようにも、良いようにも。俺たちは変わることができる」

 だから、俺は変わりたいんだ。臆病な俺ではない元々の俺に。

「俺も、お前も……人間は誰も変わろうとしているんだ。そして、大きな壁にぶち当たる。でも、そこで諦めちゃだめなんだ。そうすれば、俺らは変われる」

 神原は何も言わなかった。

「タイラントの腹の中に人がいるんだろ?」

 神原は一瞬遅れて慌てながら頷いた。

「俺に任せろ」

「……できるのか?」

「俺はウルトラマンだ」

 そう言う彼の顔は凛々しく、また、覚悟に決まったものだった。もう、彼の心の中に少しの迷いもありはしなかった。




 いや~、毎度毎度こんな読みにくい文で申し訳ありません。なんか最近自分の書いたやつを読んでると、どうしてもどんどん劣化してる気がします。作者の自分でもこう思うんですから読んでいるみなさんは本当に退屈だと思います。本当にすいません。
 そして、やっとゼロを出すかどうか決められました。まぁこの暗い作品にあそこまで明るいキャラを入れて大丈夫なのか考えましたが、たぶん出ると思います(今は出すつもりで書いていますが、いろいろな事情によりでなくなることもあります)。
 それでは、今度がいつになるのかわかりませんが。

 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。また、感想お待ちしています。

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