ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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 ちょっとスランプ気味で遅くなりました。また、出来はあまりよくないです。


三十三話 カプセル/warn

 彼は、人々が逃げ惑うその地上。その人々の逃げる方向の反対方向を睨み付けていた。

 そこにはメビウスとタイラントが取っ組み合っている。

 耳に届くのは人々の叫び。それは怒りか、恐怖か絶望か。奴が暴れて壊れた建物の瓦礫が数秒ごとに降っている。

 泣き叫ぶ声が聞こえる。大切な人を失った者の叫びが聞こえる。どこに行けばいいのかもわからずにただ泣くことしかできない子どもの声が。避難誘導をしている一部の警官が人混みを掻き分けて逃げ遅れた人たちの救出を行っている。

 そんな中、彼は何もできずにただその光景を見ていた。

 心が痛む。何もしない、できない自分に苛立ちすらおぼえる。

『ウルトラセブン』

 誰かが心に呼び掛けてきた。女の声だ。

『誰だッ』

『ウルトラセブン、今すぐメビウスを止めなければ後悔することになる』

『なに……?』

『タイラントは腹の中にたくさんの人を溜め込んでいる。メビウスがそれを殺したら……どうなると思う?』

『メビウスにタイラントを倒させないつもりか。だが、なぜそれをボクに言うんだ。本人に伝えればいいだろ』

『いや、自分が何も知らずに人を殺そうとしていたと気がついた時、心の脆いメビウスの反応が見たかっただけ』

 その言葉がどうしてそんなに平然と出てくるのか、それを考えるとダンは怒りが込み上げてきた。女はもう語りかけてこない。

 目の前ではメビウスが戦っている。今のところメビウスが有利だ。しかし今回のことに奴らが絡んでいるのなら、あのタイラントは普通のものではない。洗脳か、改造か……どちらにしろあのタイラントは今、手を抜いている。それにメビウスのあの戦いかた、あれではすぐに疲れてしまう。助けるべきか……?

 ダンはそう思って胸ポケットに手を伸ばす。しかしその手は途中で止まった。

 ……ボクには関係ないんだ。

 そう。ボクには関係がないんだ。今ボクが動けば奴らも本格的に、地球に残ったままウルトラの星に帰れないウルトラマンを殺してくる。ボク一人の判断で、仲間を危険にさらすわけにはいかない。

 ボクはいったいどうすればいいんだ。

 動けるのに動けない。助けられるのに助けられない。そんなボクは今どうするべきなんだ。

 と、その時、かつて――遠い遠い昔、一緒に戦った仲間たちを思い出した。一緒に命をかけて地球を守った仲間たち。

 彼らが今生きているかどうかなんてわからない。しかし、彼らが第一に守ろうとしていたものはなんだ? あの時ボクが守ろうとしていたものはなんだ? ウルトラセブンとしてではなく、一人の人間――宇宙人という肩書きを捨て、地球であの時生きていた一人の人間としてボクが守ろうとしていたものはなんだ?

 子どもが泣き叫ぶ。そんな子どもは避難している大人たちによってはねのけられ、地面に倒れる。誰も助けない。みんな自分のことだけで精一杯になってしまっている。これが今の人間だ。助け合う気持ちを忘れ、争いをやめられない愚かな生命体の現在だ。

 憎しみではない何か……怒りの気持ちがわき出てくる。こんな気持ちになるのは久しぶりだ。

 気がつくと、彼の手は胸ポケットの中にしまってある――それを掴んでいた。

『メビウス、攻撃をやめろ』

 彼はメビウスにそう言った。彼は戦いの最中、一瞬戸惑うが、ダンはお構い無しに話続ける。

『タイラントの腹の中にはまだ生きている人間取り残されている。今はひくんだ』

 彼は数秒――あるいは数十秒間目を瞑って何か考えた後、

 こんな世界は、もうたくさんだ!

 そう思い彼は、その手に握っていた一つのカプセルを明日の方向に向けて、全力で投げた。

 それが希望となるのかどうか……そんなもの彼にわかることではない。しかし、そうしなければ一人のモロボシダンという男が許さない気がした。今やるべきことはタイラントと戦って無駄な犠牲を出すことではない。どうやって戦うのかを考えるための時間稼ぎをすることだ。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。

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