火星。
地面の色は大気中のちりや地表にある岩石にふくまれている酸化鉄のせいで少し赤っぽく、岩石がゴロゴロと転がっている。
ここはそんな火星の日があたっていない場所だ。
そしてその場所に一体の怪獣がいる。
顔は竜巻怪獣シーゴラス、耳は異次元宇宙人イカルス星人、胴体は宇宙大怪獣ベムスター、背中は液汁超獣ハンザギラン、両腕は殺し屋超獣バラバ、足はどくろ怪獣レッドキング、尻尾は大蟹超獣キングクラブ。
暴君怪獣タイラントだ。
よほど余裕なのだろう。突っ立ったまま瞼を閉じて寝ている。そしてその足下には何やら金属か何かの部品が散乱――どこかの国の国旗が描いてある。
タイラントは今、餌となる生物を求めて地球を目指している。数十年前にも同種の個体が地球を目指した時があったが、その時はもっと遠い星の方からウルトラマンという者たちの邪魔が入ったが、今回はそうではない。タイラントを邪魔する者はまだいない。ここではおやつのような物もあったが、食べるのは後の楽しみだ。腹の中、ずっと生きた心地がしないまま数日も過ごした人間はさぞかし美味なのだろう(あくまでタイラントの気持ちである。また、法において食人は許されていない)。
と、その時突然タイラントが目を開いた。
何かの気配を察したのだろうか。辺りをキョロキョロしている。
タイラントは何も見えないことがわかると、目を閉じて耳を澄ます。
何かが聞こえる。火星の空気を切るような音。
カッ、と目を見開いた。
咆哮し、腹を天に向ける。
その直後、二筋の光の光線が天からタイラントに向かって降ってくる。あのタイラントのことだ。当たったところでどうせ大したことはないのだろうが、おそらくこれには自分の強さを見せつけ、相手を牽制する意味でもあるのだろう。
光線はタイラントの腹に吸い込まれるように吸収される。
そして吸収が終わると、タイラントは満足そうに腹をさすった。奴の前では光線すらも餌であることに変わりなし。
そんなタイラントに向かって、今度は二人の巨人が隕石の如く蹴りを入れようと上から降ってくる。
さすがにそのスピードは速すぎて対処できずに、タイラントはその二人の攻撃をモロに受けた。
地面に倒れて、後頭部を激しく強打するも、致命的なものにはならず、タイラントはすぐに立ち上がり、その両腕の恐ろしい武器を使って二人に襲いかかる。
対してその二人……ジャックとエースはバク転をしながらその派手で重そうな攻撃をかわしていく。
それを見てタイラントは不快感を感じたのか、左手の鉄球の先っちょからワイヤーロープのようなものを二人目掛けて発射して、それが見事ジャックの体に巻き付く。ジャックはバク転の最中で巻き付かれたためにバランスを崩し倒れる。そこでワイヤーがメジャーのように鉄球に戻っていく。
エースがジャックの腕を掴んでそれを阻止しようとするも時既に遅し、ジャックは地面を引きづられながらタイラントの下へ行く。
エースはワイヤーに向かってホリゾンタル・ギロチンを放つが、得意の切断技ではワイヤーは切れずに少し怯むだけだった。
タイラントは自分の足下まで来たジャックを足で思いっきり、憎しみをこめて踏む。ジャックは足下で呻いているが関係なしだ。まるで容赦がない。
そこにエースが走ってきてタイラントに対して体当たりを行う。しかしタイラントは怯まずにそのままの態勢のままピクリともしなかった。
チョップチョップチョップ。と連続したり、蹴ってみるが効いている様子はない。それどころか、タイラントの左手の鎌による攻撃を受けて盛大に吹っ飛び、ゴロゴロと地面に転がった。
仕方ない。エースはそう思い、両腕をL字型に組んでメタリウム光線を放とうとした、その時だ。
タイラントの口から火炎放射が放たれてエースを包み込む。エースはもがき苦しみ、なんとか火を消そうと地面を転がる。
酸素が極端に少ないこの星。そんな惑星でなぜ火がつくのかはわからないが、タイラントにはもしかしたらそういう特性でもあるのかもしれない。
二人のカラータイマーは青から危険を告げる赤へと変わり、音がなり始める。
火はなんとか鎮火したが、すっかり力を失ってしまって立てないままジャックの方へと手を伸ばすエース。そして踏みつけられ続けるジャック。
もはや勝機は絶望的だった。
タイラントは踏みつけていたジャックを蹴り飛ばし、ワイヤーから放すと、そのワイヤーを今度はエースの右手に巻き付ける。
そしてそのまま左腕をグルングルンと回す。エースは遠心力で中に浮き、回される。そしてそのまま勢いよく地面に叩きつけられ、カラータイマーの光を消した。
そして蹴り飛ばされた後、なんとか立ち上がったジャックがタイラントに向かって走ってくる。しかし、そんなジャックにタイラントは腹から冷気を出してその体をカチコチに凍らせてしまった。
ウルトラ兄弟二人を打ち破ったタイラントは、睡眠を邪魔された怒りと、ちょっとした運動で腹が減ったことを理由に、地球へ向かうのを早めて、今、この瞬間に地球へと向かって空をとんだ。
タイラントがいなくなった後、ジャックは最後の力を振り絞ってウルトラサインを空に送った。
その頃、東京都霞ヶ関にある警視庁では、牢屋のような部屋にずっと入れられていた楓が釈放されていた。
久しぶりの外。宇佐美があんな目にあっているとは知らない彼女は、実に呑気なものであって宇佐美の家に向かっていた。なんで宇佐美の家? そこしか帰る場所がないからだ。野宿なんてしたら危ないことになるのは目に見えているし、最悪死ぬこともある。ホテルに泊まるという手段もあるが、女の子が一人で泊まると、ドアロックを解除できるホテル関係者襲われるかもしれないし、第一、お金を持っていない。
これらの理由から楓は宇佐美の家に向かっているのだ。
交通手段は、電車で。
楓はこの後自分の身に起こることを知っていたのなら、きっと電車という手段などは使わなかっただろう。
その場所は真っ暗で、姿は見えるものの顔立ちすら見えない、そういう真っ暗な場所だ。
音はない。とても静かだ。
そこで数人の、人間の姿をしている者たちが議論していた。
「タイラントが地球に接近しているようですが、どうしますか?」
日本人風の体格をした人間の姿をした何かが他の男に言う。
「アメリカに迎撃してもらうのはどうだ? 人間はたくさん死ぬだろうが不可能ではないだろう」
丸メガネをかけた、中国人系の男がそう言った。
「それでは人間のパワーバランスが崩れてしまいます。ここはタイラントを利用して邪魔なウルトラマンを始末したほうがいいと思われます」
長い金髪の白人の女がそう言った。
「なるほど……しかしウルトラマンが出現するという確証はあるのか? 現れないという可能性もあるだろ」
丸メガネがそう言った。
「現れます」
金髪白人女そうは断言した。
少しその場がざわめく。
「あれだけ人間を大切にし、あれだけ怒りっぽい男なら、必ず現れます」
「だとして……勝機はあるのか? 話によると火星でジャックとエースと交戦したと聞いている」
その質問が出て、金髪白人女はフフッと笑みをもらした。
「勝てないのなら、相手が
※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。