それでは本編をどうぞ。
一話 渋谷の警察官/a policeman
ウルトラマンは僕らを守ってくれるヒーローだ。
自分の星でもないのに、自分がどんなに傷ついてもこの星を護り、この星を愛してくれる。彼らは本当のヒーローだ。
地球人は、昔僕らのことをそう言ってくれた。
M78星雲、通称光の国。銀河系から300万光年離れた所に存在するそこには、多くのウルトラ戦士たちが住んでいるのだ。ウルトラの父、ウルトラの母。そして兄さんたち。
僕たちウルトラマンと人間たちは古くからきってもきれない不思議な絆が存在する。たとえ人間がウルトラマンを裏切った今でも僕はそう信じている。そう。今攻撃を受けているこの状況でも。
地球、東京都上空。
そこには地上に向かう大きな赤い光の玉と、それを追うF-15J戦闘機四機がいた。
航空自衛隊の主力戦闘機、F-15Jは2基の双発エンジンから青白い炎を出しながら、持ち前の機動力で飛行しながらミサイルを発射するが、赤い玉はそれを右に左に高速で避ける。しかししつこいF-15戦闘機は一斉に赤い玉と、その周りにミサイルを発射する。
一見バラバラに発射されたと思われたそれは実は赤い玉がこのままのスピードならどうしても避けられないように発射されていた。無論、地球から遠い星から来た赤い球体のスピードをもってすればそれは簡単に避けられる物だった。しかし今の状態の赤い球体にはそれができない理由があった。銀河系から300万光年。ほぼノンストップで飛んで来たその赤い球体にはもはやそれほどまで速く移動するだけのエネルギーは残っていなかった。そんな状態の今にその攻撃を避けられるはずがなかった。
赤い球体にミサイルが轟音と共に直撃した。
「ヘァ……ッ!!」
すると赤い球体は赤い炎のようなものを周囲に撒き散らしながらその姿を変える。丸かったそれは一瞬にして人型に近い形となる。ウルトラ兄弟の中でもひし形という変わった形のカラータイマーと、左腕にブレスレットのような物を持ったその赤いウルトラマンは、かつてエンペラ星人の魔の手から地球を救った若き宇宙警備隊の戦士。ウルトラマンメビウスだった。
メビウスのカラータイマーは危険信号を伝える赤色で、それは忙しく点滅している。
しかしメビウスはすぐにバランスを取り直し、F-15Jと向き合う。相手は人間、話せばわかるはずだ。
「セャッ!」
メビウスはF-15Jに向かって、やめてくれ、というふうに手を前に出す。だが、F-15Jは一瞬の躊躇すら見せずにミサイルをメビウスに射つ。
「ヘァ……ッ!!?」
しかし、次の瞬間にメビウスを襲ったのは対空ミサイルのそれではなかった。威力がミサイルのそれとは断然違う。
その攻撃を受けたメビウスは今度こそ完璧にバランスを崩し、厚い雲の層を突き破って東京の町へ隕石のようなスピードで落下していった。
東京都渋谷区。
駅前のスクランブル交差点には真夏の夜だというのに多くの人たちがいた。
日本人、外国人、男、女、大人、子供。彼らの中には悩みを持った者もいれば、逆に今日楽しければいいや。という人もいるだろう。そんな中の一人として彼もいた。
世間では爽やか系イケメンと呼ばれる彼が着ている服は警察官が着ている制服(夏服)であり、その額はこの暑さのせいで汗だくになっていた。
彼の名前は
今、この交差点にいる人たちの中で今まで犯罪に巻き込まれた人が一体どれほどいるのだろうか。
25年前、人類が奴らに一時の平和のなめにウルトラマンを売り渡してからというもの世界の治安は悪化した。最初に奴らが要求したのは
ウルトラマンがまだいた時、自分は母親の腹の中にいたが、親たちの昔話を聞いていると奴らが事実上この地球を乗っ取っている今よりもウルトラマンがいた時の方がよっぽど良かったんだと思う。両親がウルトラマンがいる昔のことをあんなに楽しそうに話していて、そう思った。警察は犯人を逮捕でき、世界中すべてのに人権があり、そんな世界など本当にあるのかと疑ったくらいだ。
「はぁ……」
その時、宇佐美はとある物を見てまたかよ、とため息を吐いた。
宇佐美が見てため息を吐いたのはとあるビルに取り付けられた巨大なテレビだ。
『そして明日のあのお方たちの生け贄として選ばれたのは東京都世田谷区にお住まいの榊原楓ちゃん13歳と――』
巨大なテレビの中で美人と話題の女キャスターが淡々と言っていた。
本当に胸くそが悪い。まだ13歳の女子中学生でさえ奴らの餌になるのだ。これを胸くそ悪い以外の何と例えればいい。
宇佐美は右手をギュッと握って行き場のない怒りを殺す。
「あの、お巡りさん」
今のこの世界のことについて考えていると、声をかけられた。
「はいはい、何ですかー?」
宇佐美は先ほどまで考えていたことすべてを頭の隅に追いやり、声からしてまだ中学生くらいだろうか? などと考えながら声がした方向を向くと、案の定中学生くらいのきれいな黒髪をした子だった。しかも整った顔立ちをしていて美人……ではなく、これはかわいいという部類だろう。更にはおとなしそうな感じで、人権がほぼなくなった今の時代だったら即刻犯罪に巻き込まれそうな子。しかし、その少女の服装を見て自分は思わず「あ……」と声を漏らしてしまった。
一見すると、高校とかを題材にしたアニメに出てきそうなくらいかわいい制服は、奴らに補食される人間にのみ支給される特別な服だったからだ(まぁもちろんこの少女が来ているのは十代の女の子用であって、婆さんとか男とかがこれを着るという訳ではない)。
「あの、ここに行きたいんですけど……」
しかし少女はこっちが出した声を無視して大きめの地図を広げてとある場所を人差し指で指す。地図を見てもその場所に行けないということは相当な方向音痴なのだろう。
そこは普通の子供では働くのはもちろん、行ってはいけないところだ。つまりえっちぃサービスを出すお店だ。というかなぜそんな店の場所を警察官に聞くんだよ。まあ普通のそこら辺に歩いてる人に聞くのもアレだけどさぁ。
「あのねぇ、君いくつ? 中学生でしょ?」
人権がほぼなくなったこの世界でも一応こういうことを止めておくことにはなっているので言う。
「どうせ明日死んじゃいますし……」
少女は「あはは……」と明らかな嘘笑いを浮かべてそう言う。
通常、生け贄になる人たちには数日間の自由が与えられる。その間は法的な違反を犯さない限り何をしても自由だ。買い物をするなり、友達と遊ぶなり、自殺するなり……
それにしてもおかしな偶然が合ったものだ。まさに今テレビでやっていた少女が目の前に現れた。宇佐美はこのことに運命的な何かを感じずにはいられなかった。
しかし、同時になぜ目の前にいる少女すら護ることができないのか。とも思った。
「そういえば、お巡りさん名前はなんですか?」
その話にそれ以上何か言われたくなかったのか、少女は話を変えた。
「宇佐美翔夢。宇宙の宇に佐賀の佐、美しいで宇佐美。名前は飛翔の翔に夢って書く。というか君、後少しの人生でも大事にしない?」
「じゃあ、この場所は……」
宇佐美の言葉を無視する少女に仕方ない。という風にため息をついて、宇佐美がその店に行く方法を教えようとしたその時だった。周囲の人たちが騒がしくなる。見ると皆空を見て何か言っているようだった。
宇佐美もその人たちにつられるようにして空を見る。
流れ星だろうか。何かが赤い尾を引きながら猛スピードで落下してくる。それは時間が経つと共にどんどん巨大なものとなっていく。
宇佐美の脳裏に最悪の予感がして、顔が青ざめた。
「に、逃げ――ッ!!」
いい終わる間もなくそれは渋谷の町に落下。駅前の大きなビルをいとも簡単に、大胆に破壊して地面に横たわる。
それが落ちた衝撃でスクランブル交差点にいた人たちは吹っ飛び、道路標識にぶつかって体が真っ二つになった者や、それが壊したビルの破片に潰される人、吹き飛ばされた車に潰された人も多かった。そんな時、宇佐美はとっさに吹っ飛ぶ直前、少女のことを護るように抱き寄せた。そして反射的に目を瞑る。
それが落ちた衝撃で生まれた風は爆弾低気圧のそれ以上の強さで一瞬にして灰色の煙と共に宇佐美たちを飲み込む。
「――ッ!?」
吹っ飛んでから少しするとどこかのビルに右肩から叩きつけられた。
どうやら少女は無事だったらしく、宇佐美の腕の中からうめき声のような声が聞こえた。
目を開けると、周囲には破壊されたビルの物と思われるコンクリートの塊だらけだった。そのコンクリートの塊からは誰のものかわからない手や、足が飛び出ている。少し遠くから今ちょうど車が爆発した音が聞こえた。
宇佐美はとりあえず助かったと思い、本能的に天を見る。
「――ヤバいッ!!」
宇佐美は思わず叫んだ。上を見ると車ほどの大きさのコンクリートから小石程度の大きさのコンクリートまで、大小様々なコンクリートが数えきれないほど降ってきているのがその目にうつったのだ。
宇佐美は自分の正義感から、本能的に少女を強く押し出していた。少女は宇佐美に押されたことにより、少し離れたアスファルトの地面に転ぶ。
たくさんのコンクリートは一瞬にして宇佐美に近づく。
時がゆっくり進むように思え、コンクリートがゆっくりと迫ってくるのが見えた。
これでは、おそらく自分は死ぬだろう。そう思った宇佐美の心に不思議と後悔はなかった。それよりも今は、こんな時代で一人の少女の命を助けられた自分を誇らしく思った。
ドンッ! ガラガラガラッ!!
最初ということもあってか、書くのもかなり難しくて読み返すとう~ん……という出来ですが、どうもうまく直せずに、そのまま上げました。多分次からはもう少し良い物が書けると思いますので次も読んでいただけると嬉しいです。
そして、超能力犯罪捜査係の方も読んでいただけると嬉しいです。