ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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 書いてる内になんで自分はクリスマスにタコの勉強をしているんだろう、と思った。


二十二話 最強のタコ/a weak point

「……来たか」

 磯崎は山から海を眺めてそう言った。

 その視線の先にいるのは自衛隊との戦いに勝利したタガール。愚かにも日本政府は避難警報すら出さないまま奴の上陸を許した。もっとも避難警報なんて出たら磯崎が困ってしまうのだが。

 タガールは磯崎が呼び寄せた怪獣だった。

 すべてはメビウスを戦わせるためだ。手負いの状態で奴が怪獣に勝てるのか、気になるところだ。

「――――!!」

 町の方で人々が怪獣に気がつき、逃げ惑う姿が見えた。

 そんな人々を、タガールは次々とその触手で捕まえ、食っていく。

「タガール……」

 タガールが人を食べる。その光景は悪魔と、それから逃げ惑う人間のそれだ。

 と、誰かが寄ってくる気配がした。俺は振り返る。

 そこにいたのはモロボシダンだ。表情からして怒っている。

「磯崎君……いや、ヒカリ。その人間との融合をとけ。それ以上融合していると、君は本当に後戻りできなくなるぞ!!」

「後戻りできなくなる? そんなことは承知している」

「君はべリアルのようになりたいのかッ!!」

 モロボシは続ける。

「今の君たちは融合した反動で自分の心の制御ができなくなっている。このままでは心を闇に飲み込まれるぞ!!」

「そんなことよりもこの光景を見ろ。素晴らしいこの光景を」

 磯崎はタガールに襲われている町を指差して、冷静に言った

 町は所々から火の手があがっている。

「素晴らしい? こんなもの地獄以外のなんでもない!! いい加減目を覚ませ!!」

「目を覚ますのはあんたの方だろ。いつまで人間の味方をしてるつもりだ」

 磯崎は冷静にいい放った。

「君はこんなことをして楽しいのか! 昔君が守ろうとした人間を、今君は殺しているんだぞ!」

「……ッ」

 磯崎の表情が一瞬崩れた。しかし一瞬でまたすぐ元通りになった。

「それにヒカリ、どうせ聞いているんだろ? 聞いてくれ。君は人間が好きだったはずだ。君だって意地をはってるだけで本当は人間を助けたいんじゃないのか?」

 その言葉を言われると、磯崎はモロボシに近づき、胸ぐらをつかむ。その手を離そうとモロボシは磯崎の手をつかむ。

「……クソジジイは黙ってろ」

 そう吐き捨てると、磯崎はその場から立ち去った。

 そして、その後ろ姿を見ていたモロボシの手には、一枚の紙切れのようなものが握られていた。

 その内容を見て、モロボシは磯崎の立場を理解したと共に、悔しそうな表情をした。

 

 ほったて小屋の中で、宇佐美はタガールが大地を踏みしめる音を耳にしていた。

 東鈴夏は疲れたのか、隣ですやすやと寝てしまっている。

 宇佐美は左肩を押さえながら外に出る。町の方から煙があがっているのが見えた。

「…………」

 宇佐美は痛む左腕にメビウスブレスを出現させ、それを見つめる。

「教えてくれ、メビウス……。俺に怪獣を倒す力なんてあるのか? 俺に誰かを守れる力があるのか? その答えを……教えてくれ!」

 瞬間、メビウスブレスが淡いオレンジの光に包まれ、その光が徐々に宇佐美すらも包み込んでいく。

 

 町。

 食を楽しむタガールの横に一筋のオレンジ色の光が現れる。

 それを地上の人も見ていたし、その明るさからタガールも気がつき、果たして何が起こったのか、とそちらを見る。

 そして光が徐々に消えていくと、そこにはメビウスがいた。

 ウルトラマン。その姿を見ただけで人間たちは絶望した。なぜならこの世界ではウルトラマン=悪だからだ。本当に死んだ。人間たちはそう思った。

 だからこそメビウスの次の行動は人々を感動させた。

「――セヤッ!」

 メビウスはまだたくさんの人を掴んでいるタガールの触手を掴むと、左手からメビュームブレードを出現させ、その触手を斬った。

 タガールは斬られた痛みで大きな悲鳴をあげる。

 怪我をしているせいでいつもと比べると全然力が入っていないが、今回は今までと違って生物。斬れやすかった。

 メビウスはそのようにして切り取った触手から人々を自分の手で掴み、戦闘地域から少し離れた場所に優しくおろした。

「ピュアァアァアァアァ!!」

 タガールがメビウスに向かって走る。

 メビウスはそんなタガールに向い直し、そして地面を蹴って一気に近づくと、メビュームブレードで真横に斬った。

 やった! 誰もがそう思った。

 しかし、

「ピュアァアァアァアァ!!」

「!?」

 斬られたその場からタガールは再生を開始し、元通りになっていた。

 そして次の瞬間、斬ったはずのタガールの触手がメビウスを首に巻き付く。そんなメビウスに触手で攻撃をする。

「テェアッ!」

 メビウスはタガールの触手が首に巻き付きながらもメビュームブレードを構えてそれを防ぐ。足は斬れる。そのはずだった。

 ――キンッ!

 なぜか聞こえるはずのない音がした。見るとタガールの触手が剣のように変化していた。これも以前のタガールにはなかったものだ。

「ハッ!」

 メビウスは最悪にも、わざわざ自分が怪我をしている左腕を使って戦いをすることになってしまった。

 メビウスはタガールに斬りかかる。しかしそれはタガールの触手によって簡単に防がれてしまう。そして次の瞬間驚愕した。

「ピュアァアァアァアァ!!」

 タガールの咆哮と共に、その触手が次々と剣に変化していく。その数6本。剣が一本のメビウスには圧倒的に不利だ。

 6本の剣が、次々とメビウスを斬りかかる。

 メビウスの体からは火花が散り、苦痛の声がもれる。

 なんとか剣を構えて防ごうとするのだが、数には勝てない。

 メビウスは距離をとって、タガールから逃げる。

 どうすればいい。どうすれば奴に勝てる。何か弱点はないのか。このままではメビウスのカラータイマーがなってしまう。

 その時だった。誰かの声が聞こえた。

「目と目の間だ! 目と目の間を狙って!! ウルトラマン、タコの弱点は目と目の間だ!!」

 鈴夏だった。

 もともとあのほったて小屋が町に近い場所だったから(それでも地元住民に助けを求めなかったのは、被害者を増やさないため)戦っている音を聞いて、起きて町に来たのだろう。

 メビウスは鈴夏の方を向いて大きく頷いた。

 切っても再生し、腕は凶器。そんな奴でも弱点さえわかってしまえばこちらのものだ。

 メビウスは自分のメビュームブレードを中間辺りでポキリと折った。

 そしてウルトラ念力を使ってそれを空中に静止させる。

 タガールは触手を振りながらこちらに向かって走る。

 メビウスはたち膝となり、両手を握手するように組んで、そのまま腕を頭の後ろに引く。狙いをタガールの目と目の間にすると、それを勢いよく前に突き出す。それと同時に折れたメビュームブレードにメビュームスラッシュを発射し威力を上げる。ウルトラマンメビウス版、ウルトラノック戦法だ。

 折れたメビュームブレードは光の速さでタガールに迫り、邪魔する触手は斬り、弱点を外れることなく撃ち抜いた。

 タガールの動きがとまった。

 そう思ったかと思うと、地面に倒れて爆発した。

 その瞬間、地上からは割れんばかりの拍手がメビウスを包み込んだ。その所々からありがとう、などといった感謝の言葉も聞こえてくる。

 メビウスは感謝に答えるかのように、人々にサムズアップする。

 ――ドガーン!!

 宇佐美がつかの間の幸せに浸っている時、何かがメビウスに命中した。

 左肩だ。

 メビウスは左肩を押さえながら攻撃された方向を見る。そこにいたのは自衛隊のF-15J。そしてイージス艦みょうこうだった。しかしメビウスは反撃しない。今の彼には彼らの表情が見えていた。

 どこか悔しげな表情。本当はやりたくないのにやっている時の表情だ。

 第一線で戦っている彼らにはウルトラマンが味方だということはわかっているのだ。しかしそんな彼らも政府の役人からの命令には従うしかない。宿命だった。

 宇佐美は静かに、まるで忍者のように巨大化を解き、人間の姿に戻った。




 ヒカリは一体誰の味方なのか。ヒカリは頭いいですからね。

 ※普通のタコはどこを斬られても再生するということはないです。
 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。

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