「…………」
宇佐美は瓦礫に覆われた千代田区の町を、片足引きずりながら歩いていた。
その手は腹に添えられており、その周囲にはじんわりと赤く染まってしまっている。
町は所々から大小さまざまな大きさの火の手があがっており、稀に、もはや原型をとどめていない、ただの肉片が散らばっている。
そんな町を歩く彼の表情は、見る人が見れば戦いに負けて悔しがっているように見るし、町をこんなにした奴らへの怒りの表情にも見える。
なぜなら彼が泣いていたから。
今まで考えたことはあったが、ここまでしっかりと現実を見たことはなかった。
自分の救えなかった者たちの末路。こんなただの肉片になって、誰が誰かなんて、それこそDNA検査を調べなければわからない。
歴史には光と影があるという。一見輝かしい明るい過去でもひっくり返せば、所詮そこあるのは人間の哀れな欲望と、希望なんてどこにもない人々のかわいそうな姿だ。
自分たち宿命を背負ったものは絶対に忘れてはならないのだ。そこにいつも犠牲があることを、決して平和ボケしてはならないのだ。その瞬間足元をすくわれるから。
この者たちの死はどのように発表されるかはわかっている。
どうせ全部俺のせいになる。彼らが死んだ真実を知っているのは俺と、現場にいた人たちだけだ。だから特に俺はあの者たちの最後を忘れてはならないのだ。それが俺の責任だから。
なぜこの世界はこうなってしまったんだ。
こんな世界は間違っている。正義が悪と呼ばれ、悪が正義と呼ばれる。
なんで救おうとする俺を人間は拒むんだ? 自分に従えというつもりはないが、こんなのあんまりだ。
なぜ人間はこんなにも愚かになってしまったのだ。
子供が乱暴されてもなにもできない、なにもしない警察。それどころか、乱暴すらする警察官。この間までの俺ならなにもしなかったと思うが、もしもこの惨状を見た今、それに遭遇したら自分はそれを命がけでやめさせられる、と断言できる。
だってそうだろう? こんな惨状を見ればこの世界がどれほど腐っているのかがわかる。自衛隊、それから特に米軍は日本国民を見捨てて、奴らを命がけで守った。
もはやこの世界には一刻の猶予もない。誰かが行動しなければならないのだ。
しかしそれには危険を伴う。現に行動した警視庁航空隊は落ちた。あれでは生存者はいないだろう。
これから何人の犠牲がでるのか、それは神ではない宇佐美にはわからない。そもそも、この世界に神などはいないのだ。いたらこの世界がこうなることはなかったのだ。もしも神が本当にいたらこんなひどい世界になるはずがない。神のいる世界に争いなんてないはずだ。
「継夢! 継夢! お父さんの声聞こえるか!? お母さんも家で待ってるからな、絶対に死んじゃダメなんだぞ!!」
どこかで見た自衛官の声が遠くの方から聞こえてきた。
その声は心のそこから喜んでいる声だった。宇佐美とは真反対のなき方だ。
少しホッとした。あの自衛官が大切な誰かを失わずに済んで。このとき宇佐美は知らなかったが、その自衛官はエボルトラスターを持ってなかった。
宇佐美はこれからも、戦い続ける。その先に確かな平和があると信じて。
しかし、今になって思い返せば、このときの自分は、まだ本当の最悪を知らなかった。ゾフィーが言っていた奴らの強さのほんの一片も、戦いとはどんなものなのかも、まだこのときの自分はわかっていなかったのだ。
今になってこのときの自分を責める。
人は結局自分のことしか考えられない愚かな生き物で、その善意の裏にはすべてその人にとっての得があって、簡単に人を信じてはいけないのだと。そして何よりも、敵は外からだけではなく、ありとあらゆる所から、ありとあらゆる方法を使って攻めてくるのだ。
メガリュームクラスタの絵はまだ書き途中です。
※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。