ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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 も、文字量が……。という感じですが、今回も読んでいただければ作者は喜びます。


十五話 絆/Nexus

「ここは……?」

 真木が目を覚ますと、そこはどこかの森のような場所だった。

 しかし今の地球と違って空気がすみわたっている。

 空の色は夕焼けのような、しかし夕焼けとはどこか違う神秘的な色をしていて、その空には鳥が群れをなして飛んでいる。さらに遠くには大きな遺跡のようなものが見えた。そんな光景は、なぜか真木の心を落ち着かせた。

 落ち着いたところで真木はここがどこなのか考える。

 自分はF-16に撃墜。最後は怪獣に特攻して死んだはずである。

 死んだ。そのはずだ。ならここはどこなのか? 天国なのか?

 そう考えた途端、とある光景が真木の頭の中に浮かぶ。

 それは、黒い巨人が町を破壊する光景。見たこともない戦闘機がその黒い巨人に向けて無数のミサイルを発射するが、黒い巨人はバリアのようなものを張って防ぐ。そして次の瞬間。戦闘機が黒い巨人の放った光線に落とされた。

 そして視点は紺色の戦闘服のような物を着た青年に変わった。彼の手には小型の棒のような物が握られている。そしてそんな彼を見つめているのは女性だ。

 男が何かを言った後、まるで日本刀を鞘から抜くようにしてそれを前につきだし、雄叫びをあげながらそれを空に向けた。

 次の瞬間に現れたのは光の巨人だった。

 彼は戦闘機をキャッチ、地面におろすと黒い巨人に向かっていく。体の色を赤に変え、青に変える。しかし黒い巨人にはかなわない。青い姿となった巨人が放った黒い光線から身を守るために張ったバリアが壊れかけたその時、巨人はその姿を神々しいものへと変えた。彼は圧倒的な強さで黒い巨人を倒した。

 と、光景が終わった時、誰かが木々の間を膝辺りまである草の中を歩き、真木の正面から近づいてきた。

 特撮とかに出てくる変な紺色の戦闘服のようなものを着ている……青年という時期を少し過ぎていて、真木よりかは明らかに年下の男だった。その男はさっきの光景に出てきた青年だった。少し年をとっているが間違いない。そしてその表情は優しい。

「お前は……? ここはどこなんだ?」

 真木は訪ねるが、男は答えない。代わりに青年が光の巨人になる時に使っていたあの棒を差し出してくる。

「光は絆なんだ……僕にはそれしか言えないけど、真木さんが一番守りたいものを守りたいものを守れる力がこれです。だけど、これを使うかどうかは真木さん次第だし、時間がなかった分正式な選び方もしてません。だから本来の力は出せない。それでも守りたいなら、使ってください」

 真木はまるで何かに操られているかのようにそれを受け取った。そしてその途端、男は光の粒子となって消え、この世界も光の粒子になって消えてしまった。

 

 米軍からの攻撃を受けたからか、少し良くなった形勢も逆転され、メビウスはメガリュームクラスタMark IIに追い詰められていた。カラータイマーは赤く点滅。今にも消えてしまいそうだ。

「ゼヤァァッ……!!」

 メガリュームクラスタMark IIに踏みつけられ、メビウスは痛みのあまり声をもらす。

 そこに追い討ちをかけんようにして米軍機のミサイルがメビウスの体に命中する。警視庁という唯一の味方すら撃墜されたメビウスに、もはや味方などいない。完全な孤独。守るべき存在に攻撃される哀れなウルトラマンの姿がそこにある。

 ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!

 メガリュームクラスタMark IIがメビウスを踏む度にその音が鳴り響く。

「――ッ!!」

 メガリュームクラスタMark IIがメビウスを蹴った。それによりメビウスは吹っ飛び、ビルに衝突してようやく止まり、その場に落ちる。

 そして間髪入れずにメガリュームクラスタMark IIのキャノン砲と破壊光線がメビウスを襲う。

「――っ!!」

 しかしメビウスもそれをくらう訳にはいかない。

 立ち上がったメビウスはそれから自分の身を守るために、ビルを後ろに隠れる。つまりビルを盾にする。

 ビルは爆発。しかしメビウスはなんとか無事だった。

 メビウスは最後の力を振り絞ってメビュームシュートを放つ。オレンジ色の光線がメガリュームクラスタMark IIに当たり、火花を散らす。しかしたじろがない。むしろメビウスに向かって歩いてくる。

「ハァァァァ……!!」

 メビウスはさらに力を込め、メガリュームクラスタMark IIを倒そうとする。

 メガリュームクラスタMark IIが倒れるのが先か、メビウスが倒れるのが先か。

 答えは後者だった。

 カラータイマーの光が消えたメビウスは光の粒子となって消えた。

 

 真木は瓦礫の山の中、奇跡的にも無傷だった。

「夢……だったのか?」

 その時、手の方からドックン、ドックンという心臓の鼓動のような音が聞こえた。その音に引かれて右手を見ると、自分が、あの青年に渡された棒を持っているのに気がついた。

 それは音に連動して光っている。

「――――ッ!!」

 目の前にはメガリュームクラスタMark IIがいて、町を容赦なく破壊している。メビウスはいなかった。

 米軍も自衛隊も何もしない。

「…………」

 これを使えば自分はおそらくあの銀色の巨人になることができる。そうすれば自分はもちろん米軍からの攻撃を受けることにもなるし、せっかく拾った命をどぶに捨てるようになるだろう。

 しかし、自分にはやらなければならない理由がある。自衛官……いや、一人の父親として、やらなければならないことがある。例えそれで命がなくなってもそれは本望だ。それにあのバカ正直のイーグルパイロットたちがこれ以上あの化け物を野放しにしているとは思えない。そろそろ堪忍袋がきれて攻撃しだすだろう。そうなれば即秘密裁判の即ブタ箱だ。そんなことを見過ごすわけにはいかない。

 真木は棒……エボルトラスターの鞘の部分を左手で持つ。

「うおおおおおおおおおおっ!!」

 真木はまるで日本刀を抜くようにしてエボルトラスターを空高く上げた。

 多くの適応者(デュナミスト)がそうだったように、その姿はとても凛々しく見えた。

 真木は光に包まる。それはとても懐かしい気がした。

 

 メガリュームクラスタMark IIの進撃は止まらなかった。行く手を邪魔するビルは破壊し、地上に人を見つければ、両肩のキャノン砲で、躊躇なく殺す。中にはまだ小学生くらいの女の子もいた。中には赤ちゃんを抱き抱える女性もいた。中には救助活動中の自衛官の姿もあった。

 対怪獣用の兵器を失い、頼みの自衛隊や米軍からも見捨てられた彼らの姿は、見ているだけでも言い様のない怒りが立ち込めてきた。

 隣では米軍が、日本の領空を我が物顔で飛び回っていやがる。昔は仲が良かった米軍が日本人が死ぬのを見て何もしないでいやがる。

 真木たちと共にここに出動してきた自衛官はそう思って一人、怪獣にミサイルを発射するかどうか迷っていた。

 いつでも発射することができる。メガリュームクラスタMark IIにも、真木を落とした米軍にも。

 だいたいこの世界は間違っている。人権がなくなった世界、それに住んでいる人類はもはら知的な生命体ではなく、ただの獣だ。今まで何人もの性的被害の現場を、まさにその行為が行われているその時、目にしたことがあった。だけど自分には何もできなかった。その中には小学生もいたというのに、だ。なのになぜ自分には何もできなかった? それが正しいと思っているから? 違う。なら、自分が言っても無駄だと思ったから? 違う。答えなんて簡単だ。自分に度胸がないのだ。最近では在日米軍も、更には自衛官、警察官、海上保安官でもそういう行為をしてる奴がたくさんいる。そんな中、ただ一人違ったことをしたくなかった。だから自分だけがその行為をしない。それが自分にとって一番いいと思った。

 そうやって、自分はいつも事実から目を背けて、自分を守る方向でやってきた。しかし、目の前に広がる光景はなんだ? これは自分たちが戦わなかったからできた地獄のはずだ。これは完璧な侵略。昔も今も、この日本という国は交戦権がなかった。それゆえ自衛隊もほぼ無意味といってよかった。考えてみろ。交戦権が憲法で違反だといわれている国はこの国ぐらいだ。だが、憲法は人の心まではしばれない。悪い話、法律と同じだ。いつの時代になっても電話しながら車を運転する奴はいるし、他人をいじめる奴はいる。

 だから、今自分は自分の意思で行動したい。例え後になって秘密裁判にかけられようがそんなこと知ったことではない。今の自分はやりたいことを好きなようにやる。

 自衛官はミサイルの発射ボタンに手を置く。

 殺してやる。絶対に。

――日本国民の、怒りを知れッ!!

 そして、ボタンを押そうと力を入れたその瞬間、千代田区に一筋の光が現れた。

 

 一筋の光は数秒たつと消え、その中からは銀色の巨人が姿を表した。

 ウルトラマンネクサス、アンファンス。

 ネクサスの中では最も弱い姿だ。突如現れた、見たこともないウルトラマンに、自衛隊も米軍も、一瞬気をとられた。

「シュアッ……! ハッ!!」

 アンファンスはそういいながらジャンプ、空中で一回転すると、町を破壊するメガリュームクラスタMark IIめがけてキックをくらわした。

「――――ッ!!?」

 突然のことに何の反応もできなかったメガリュームクラスタMark IIはバランスを崩して、その場に転倒した。しかし一瞬でメガリュームクラスタMark IIは立ち上がり、咆哮でネクサスに威嚇する。

「シュアッ!」

 しかしネクサスはそんな威嚇に屈することなく、メガリュームクラスタMark IIに構えた。

「キュュアァァァ!!」

 そんなネクサスにメガリュームクラスタMark IIは恐怖のようなものを感じたのか、距離をとったままいきなり両肩のキャノン砲で攻撃してくる。

「セヤァッ!」

 ネクサスは自分の目の前に水の波紋を思わせる、サークルシールドを展開し、その攻撃を完璧に防ぐ。

 適応者(デュナミスト)の中でも最もネクサスと適応レベルが高い彼のシールドは強かった。攻撃が何発も当たるが、まったくバリアが破られる気配はない。

「ギュアァァァァァァ!!」

 そんなバリアにメガリュームクラスタMark IIは更に破壊光線を加える。

「――!?」

 さすがにこれは防ぎきれなかった。

 ネクサスは吹っ飛び、中に舞う。

 宇佐美辺りなら、きっとそのまま地面に激突して終わりだっただろう。しかし真木は考えた。吹っ飛ばされたなら、翔んじゃえばいいさ、と。

「シェアッ!!」

 ネクサスは吹っ飛ばされた勢いを逆に利用し、いつもよりも速いスピードで空を飛ぶ。

 それ目掛けてメガリュームクラスタMark IIはキャノン砲を次々と発射する。

 ネクサスはそれを右に左に、上に避ける。避けられないものにはパーティクル・フェザーを使って相殺する。

 らちが明かないと思ったのか、メガリュームクラスタMark IIは自身の背中にある機械的な羽を使って空に戦場の場を移す。

 雲の上に出る。ネクサスはパーティクル・フェザーを次々と放ち、メガリュームクラスタMark IIはキャノン砲で応戦する。空を音速の二倍、三倍、あるいはそれ以上の速さで駆け抜けながら戦闘をする。

 雲の中に突っ込み、夜だということもあって、余計視界が悪くなっても戦闘は続けられる。そして、雲から出た。

 勝負は五分五分か? そう思われた次の瞬間、ネクサスの背後からミサイルが接近、爆発した。それは米軍機のミサイルだった。

「――シェアッ!?」

 そこへメガリュームクラスタMark IIの長いしっぽが、ネクサスを絡み取るかのように巻き付き、ネクサスを捕まえた。そして勢いよくしっぽが引かれ、ネクサスはメガリュームクラスタMark IIに、背中を向けて密着した。

 その体制からメガリュームクラスタMark IIはネクサスに破壊光線を放つ。それも一瞬ではない。ずっとだ。更にネクサスにしっぽで殴る攻撃をする。

 ネクサスのカラータイマーが点滅する。

「――シュアァァァ……ッ!?」

 それだけではなかった。そこに米軍機から攻撃が加えられる。もうダメだ。

 真木がそう思った時、どこからか発射されたミサイルがメガリュームクラスタMark IIに着弾した。

 

 そして、ミサイルを直撃させた張本人であるイーグルパイロットは、フン、とバカにするかのように微笑した。

 この状況なら何が起こっても誤射したとかそういう言い訳が使える。

「――――ッ!!」

 米軍機からすぐに罵声がとんでくる。

 うるさい耳障りだ。俺たちの仲間を撃墜させておきながらどの面してるつもりだ、うざったらしい。しかし一応、誤射だということを伝える。

「エルボー3(スリー)、あの化け物にお前の怒りをぶつけてやれ」

 すぐにラジャー、と聞こえ、エルボー3から数本のミサイルが発射され、全弾がメガリュームクラスタMark IIの背中の羽の付け根に直撃する。

 もちろんこれも誤射だ。誤射なのだから仕方がない。しょせん日本の自衛隊とはその程度だ。そう思ってくれ。

 と、メガリュームクラスタMark IIの羽は、付け根から折れて、飛ぶための羽をなくした哀れな怪物は、ネクサスを離し、そのまま千代田区の町へと落ちていった。

 ネクサスもそれを追っていった。

 やっちまえ、ウルトラマン。

 

――ズドーン!!

 その地響きと共にメガリュームクラスタMark IIは地面に落下した。

 対してネクサスは静かに町に降りてきた。

 メガリュームクラスタMark IIはすぐに立ち上がった。

「シェェェェェ……」

 ネクサスは立ち上がったにメガリュームクラスタMark II対して光線をうつ準備動作を行う。

「シェアッ!!」

 そしてクロスレイ・シュトロームを放った。

 光線はメガリュームクラスタMark IIに直撃、一瞬にしてメガリュームクラスタMark IIを光の粒子に変えた。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。

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