ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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 はい。今回は、いつも以上にとてつもなく自信がありませんが、どうぞ。


十二話 25年前の真実/story of the past

「この本、知ってるか?」

 五分刈りの男はそう言って有名な情報誌を見せてきた。

 宇佐美は首を立てに振る。

「……5年位前、この本を出してる出版社に一つの物語のようなものが届けられた。そこに書かれていたのは25年前の真実だ。出版社はその内容を見て、25年前の真実だと気づかないまま本にその内容を載せることに決めた。しかしそれがやられることはなかった。なぜだかわかるか?」

 宇佐美は首を横に振る。

「そこに今の政府にとって都合の悪いことが書いてあったからだ。政府がそれが掲載されないように圧力をかけ、その作者を殺した」

 五分刈りの男は続ける。

「それを書いたのは宇佐美宗太郎。つまり君の父だ。俺はあの時の光景を見てないからよくわからんが、お前の親父が書いたやつの方はかなり簡略化されてるが、俺が説明するよりかは多少わかりやすく書いてある」

 無論そのことを言われている間宇佐美はずっと目を見開いていた。意味がわからなかった。この男の言うことが本当ならば自分の父は政府に殺されたことになる。

「読め」

 そう言われ、宇佐美は原稿用紙に書かれたその内容を読む。

 

 その日、それは25年前。

 その日、それは人類がウルトラマンを裏切った日。

 たった一日で人類はウルトラマンを裏切るしかなくなり、宇宙人の命令に従った。

 しかし、それは政府による情報操作が行った結果に人々……一般市民に植え付けられた偽りの記憶であり、事実はまったく違うことがその日起こっていた。

 まず行われたのが、地球上全国各地にあるGUYS基地への一斉攻撃だ。それにより全GUYS基地は無力化。これにより人類はほぼ無力化された。

 だが、人類にはまだウルトラマンが残っていた。人類は残ったすべての兵器をウルトラマンの援護に使った。すべての人が信じていたのだ。人類はウルトラマンと手を合わせれば鬼神の如く強く、例えどんな強大な敵だろうと倒すことができる、と。

 しかし現実は非情だった。

 ウルトラマンは敗れた……。と、ここまでなら普通に知ることができるものだ。しかし唯一違うのは人類が宇宙人の命令に従った訳ではないということだ。

 人類がウルトラマンを捨てて、宇宙人寝返るまでは3週間の時間があったということだ。そして、今回は、その時の状況を説明したいと思う。

 これはウルトラマンが敗れた日の次の日、我々が実際に現場で見たことだ。

 

 その日の朝、それはいつもと違った。

 地下シェルターに避難している人たちを護衛及び治安を守る目的でそこにいた警官たちは、それを見て絶叫した。

「撃てーッ! 撃てーッ!」

 一般警官と機動隊が人型の何かに向かって一斉に射撃をはじめる。

 胸を撃ち抜かれて、その周囲の肉が吹き飛んでも、頭の一部が吹き飛んでもなお進撃を続ける奴ら。

 見ただけで嘔吐してしまいそうなくらい気持ち悪い見た目をした、人型の化け物としかいいようのないそれは、かつて人間だった者たち。そう、彼らは人間なのだ。

 しかし警察はそんな『元』人間たちに向かって容赦なく銃弾を浴びせる。

「すでに警官が60名死んでいる! なんとしても奴らをここでくい止めろ!!」

 と、その言った直後に誰かが悲鳴をあげた。

 見ると、一人の一般警察官が奴らに取り囲まれていた。

「撃て撃て撃てーッ!! 警官を救出しろッ!!」

 そこの指揮をとっている警備部長の指示に従い、警官たちが一斉に一般警察官を取り囲んでいる化け物に向かって発砲する。

 何発もの弾丸を受けて肉片となり、奴らが動かなくなる。

「救出開始!!」

 数名の機動隊員が取り囲まれていた血まみれの警察官を引きずってバリケードの内側に入れる。

 現在そこの指揮をとっている男……宇佐美警備部長はなぜこのようになったのか、それを思い出す。

 

『こちらA-3ブロック! こちらA-3ブロック! 指令部へ緊急事態発生の報告!! 市民による大規模な暴動……いえ、市民が怪物となって暴動をおこしています!! すでに警官5名以上が死亡!! 至急応援を要請します!! ――!? く、来るな!! う、うああああああッ!!』

 その後、グチャリグチャリ……と、生肉をいじくるような音がして、『ザーッ!』という、テレビの砂嵐みたいな音がなり、通信が途絶した。

「こちら指令部、A-3ブロック応答せよ! A-3ブロック!!」

「部長! A-3ブロック通信途絶!」

「A-1、A-2、D-1、F-2通信途絶! すべての簡易交番(シェルター内にある簡易的な交番。その仕事は地上のものとそう変わらず、治安維持など)から非常事態発生の報告があがってきています!!」

 指令部がこんなに騒がしくなったのはほんの数分前だった。

 最初はA-1ブロックから市民による暴動が起こっているとの情報だった。暴動なら簡易交番の職員だけで大丈夫だと思い、自分……警視庁警備部部長、宇佐美宗太郎はそっちに応援をよこさなかった。しかし、その数秒後A-1ブロックからの通信が途絶した。他のブロックからも暴動が起こっているとの情報がどんどんこちらに流れてきて、それをまとめると、どうやら市民が化け物に変わって警官に襲いかかっているとのことだった。それも警察官と子供以外すべて。

 何が起こっているのかわからない子供たちはそれから必死に逃げる。逃げるが奴らに捕まり、文字通り……『捕食』される。ある者は首筋を食われ数秒で絶命。ある者は足から食われ、永遠に続くかと錯覚するほどの痛みを感じた後に、骨のみを残して食い殺された。との報告が来ている。

「くっそッ!! いったい何がどうなってんだッ!!」

 一人の警官が怒りを込めてそう言い、机を思い切り叩いた。

 聞きたいのはこっちも同じだ。人間が恐ろしい、グロテスクな化け物となって人間を食っている。こんなことが起こるなど誰も考えていなかったはずだ。というかそんなことが起きるなど普通あり得ない。

「全警察官をここ周辺に集めろ! バラバラに散ったまま戦うのではこちらが不利だ! 自衛隊にもただちに応援要請!!」

 自分がそう言うと、通信係がすぐに各簡易交番に連絡する。

 そして、警官たちがここに集まり、現在に至る。

 

「おいっ! しっかりしろッ!! おいっ!!」

 一人の警官がバリケードの中に入れられた血まみれの警官を揺さぶるが、肝心のその警官は返事をしない。喉元にはえぐりとられたような後があり、そこからまだ血が流れている。

「宮田、そいつはもう無理だッ!! さっさと戦闘を再開しろッ!!」

 宇佐美はそう叫ぶが、宮田と呼ばれたその警官はもうすでに死んでいる警官を揺さぶったまま戦闘に復帰しない。仕方ないだろう。宮田とその警官は同期で、親友と呼び合えるほど仲がよいのだ。

 死んだ警官は一人の子供を救おうとしてバリケードの外に突っ込んで行った。正義感がとても強い奴だったからおそらく、バリケードの外で必死に逃げる子供たちを見過ごせなかったのだろう。

 しかし、警官も、子供たちも仲良く食われた。最悪だ。胸くそ悪い。警官たちも機動隊員たちも、自分の命を守るために戦っているが、おそらく全員迷ってる。何せ相手は同じ人間。同じ存在を躊躇なく撃てるほど人間は強くつくられていない。だからこそ宇佐美は命令する。

「全警察官に告ぐ。襲ってくる者はすべて殲滅せよっ!!」

 そう言った直後、ふと、視線の先で何かがむくりと立ち上がるのが見えた。

「――ッ!!?」

 それはあの警官と共に食われた子供だった。幸運にもそのすべてを食われることがなかったその子供は奴らと同じようにグロテスクな化け物へと変わっていた。まるでゾンビのようだ。

 『子供』だった。それが警官たちの脳を一瞬麻痺させる。

 今までは相手がまだそれなりの大きさだったからなんとか殺すことができた。しかし目の前にいるのは紛れもない『子供』の姿をしている。

 麻痺させられたのは、宇佐美も同じだった。

 歯ぎしりをする。どちらにせよ殺さなければならない。殺さなければならないという事実が無性にイラついた。

 警官たちは子供相手に撃てない。

――カチャリ……。

 だから責任を持って宇佐美は子供に照準を合わせる。

 指揮官である自分がここで撃たなければならないと、直感で感じとったからだ。

 なぜ? なぜ我々警官が守るべき市民を、子供を殺さなければならない? 俺たちは市民を守る警察官じゃなかったのか? なぜ? なぜ? なぜ?

「――ッ!!」

 宇佐美はそう叫びながらそんな理不尽を吹き飛ばすように引き金を引いた。

 銃弾はまっすぐ、脳天を突き抜け、子供はそのまま倒れた。

 その光景を見て数秒後、思い出したように警官たちが奴らに攻撃を再開する。こうして、奴らの第一波を警察は退けることができた。保護できた子供の数はたったの50人。このシェルターにいたもともとの子供の数は560人あまり。殺したと思われる人間の数は1000をこえる。

 

 その日の夜。

「警備部長。政府からの報告が届きました」

 今日のことでもう心身共に疲れはてている警官がそう言って紙を渡してきた。宇佐美はそれを読む。

 それの内容をまとめると、どうやらこれはすべて宇宙人の仕業で、各国でおこっていたらしい。そして人類はこれから各国首脳を集めて国連で話し合うということだ。

 国連でどうなるのかはわかりきっている。人類は宇宙人に降伏するということなのだ。

 何もせめるつもりはない。これが最善策だ。こんなにも強い力を見せつけられては人類は降伏せざるを得ない。

 そして三週間後、人類は宇宙人に降伏した。そして化け物と化した市民たちは、化け物となっている間の一切の記憶をもたず、元の姿に戻った。

 しかし、あの時現場で戦っていた我々の記憶からあの日の記憶が消えることはない。人を殺してしまったあの事実が消えることはない。

 あの日の被害者は、宇宙人による人類への攻撃で死亡したことになっていた。自分が殺してしまったあの少女は、生きていれば今日で30歳になる予定だった。今でもあの少女の表情が簡単に甦る。これを読んだ者はどうか信じてほしい。あの日あの時、我々の想像を絶するようなことがおきていたということを。

 

 読み終えた宇佐美は震えが止まらなかった。文章は最悪だが、書いてあることはおそらく本当のことだ。父は昔からおふざけをしない人だったからそのはずだ。

「わかったか? これが真実だ。人類は自分たち自身を人質にされてたのさ。そして政府がウルトラマン……お前の敵をするのは、お前を支援してあのお方たちが怒ったらシャレにならないからだ。あのお方たちはいつでも人類を滅ぼすことができるのさ。それに警察が何千人……いや、何万人もの一般市民を殺したなんて口が裂けても言えるはずがない。だから政府は事実を捏造するのさ」

「……お前がさっき言った、俺の父が政府に殺されたってのはどういうことなんだ」

 そう言う宇佐美の声には怒りと共に怯えも感じられた。

「そのままの通りさ。事実を公表された時点であのお方たちが怒ったらどうしようもない。だから危険分子を殺したのさ」

「……ならなぜ警察は俺の味方をするんだ。奴らが怒るんじゃないのか」

「もうこの世界が腐ってく姿を見たくなくなっただけだ。それにあのお方たちはお前がいる間は人間を滅ぼさないはずだ」

 五分刈りの男の言葉に宇佐美は「なぜ?」と尋ねた。

「人間を化け物の姿に変えた後、あのお方たちは相当なエネルギーを消費したらしく、弱体化したのさ。だからウルトラマンがぴんぴんしてる間に人間を滅ぼすことはない。もし滅ぼすならウルトラマンを倒した後だ」




 やっぱダメですね。本当は昔パートをもっと長くする予定だったのに、長くする前に作者の心が限界に達しました(だいたい12行目くらいで)。話が暗すぎて書いている自分の心がごりごりと削られて……。まぁ、そのうちその気になったら書き足すことがあるかもしれません(あくまで『しれません』です。90%の確率で書き足すことはありません)。
 もっとおもしろく書きたかったなぁ。

 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。

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