その日は、あいにくのどしゃ降りだった。
「…………」
「やみませんね。雨」
宇佐美がずっと外を眺めていると、いつの間にか楓が横に来ており、少し残念そうにそう言った。やはり人間の大半は雨を嫌うのかもしれない。
日本は現在、秋という季節にあり、さらに台風という厄介なものが近づいてきていてその影響でここ数日間は雨が降っている。
そして、ここ数日でわかったことを言いたいと思う。まずは楓は普通に料理ができるということだった。洋食は自分より少し程度だが、和食の腕はなかなかのものだ。将来結婚するならこんなお嫁さんが欲しいなぁ、と思うほどだ。
後は楓は親のことをあまりよく思っていない、ということだ。親の場所とか聞いてもすぐに話をはぐらかしてしまうのだ。これは何かあるにちがいない。
そして最後にわかったことは、やはりウルトラマンは受け入れられていないということだった。町を破壊して死者を多数出したのもすべてウルトラマンメビウスとゾフィー、つまり自分たちの仕業ということになっていて、バードンはあくまでそのウルトラマンを倒すためにあそこにきたということになっていた。日本政府はそういうことに事実を改変し、それにより連日死者の遺族たちがデモ活動を、どこにいるのかわからないウルトラマンに向かって行っていた。テレビでもウルトラマンのことを悪く言い、今までウルトラマンがやってきたことや、破壊したビルや、その時に出た死者などについても事細かに報じていた。助けたのにこの様とは結構悲しい。
「……なぁ」
宇佐美のその言葉に楓は「なんですか?」と返事する。
「ウルトラマンってどう思う?」
そう言われ、楓は少しの間指を顎の部分に置き、「うーん」と考えこむ。
「やっぱ悪い奴なんかな」
「それは違うと思います」
楓はそれについては即答した。宇佐美は「なんで?」と尋ねる。
「私は生け贄としてバードンに食べられる予定でした。でもウルトラマンはそんな私を助けてくれました」
「……じゃあウルトラマンは良い奴なのか?」
「わかりません……みんなは悪い悪いって言ってますし……。でも、助けてくれましたから……いい人のはずですし……」
「そうか。悪かったな。変なこと聞いて」
やはり、ウルトラマンは受け入れられないのだ。自衛隊にはミサイルぶちこまれるし、デモ活動はされるし、それでも怪獣とは戦わなければならないし、ブラック企業に近い何かが感じられる。
「そういえば、お巡りさんはいつになったらお巡りさんに復帰するんですか? いつまでも働かないでここにいるわけじゃないですよね?」
グサッ!
何か鋭い槍のようなものが心臓に突き刺さったような気がする。その言葉の破壊力は抜群だ。
宇佐美は胸の辺りを痛そうにおさえる。
わかってるんだ、こっちだって。このままだと給料が出ないなんてこと。まぁ金に苦労してないからまだいいけど。でもなんだ? 楓のその言い方はまるでニートに向かって『早く仕事してくれません?』って言ってるみたいじゃん。宇佐美君はニートじゃないんだよ誤解しないで。後、宇佐美君の心は結構もろいんだよ? ニートとか言わないで。
「どうしたんですか?」
「……まぁ、その内どっかの警察署か交番に行くことになると思うけど。後数週間はこのままかな」
と、突然ダイニングテーブルに置いておいた宇佐美のスマホが着信音を出す。
宇佐美はすぐにダイニングテーブルの上に置いておいたスマホを手に取ると、電話に出る。
「もしもし?」
『……………………』
「? もしもし?」
『両手を上げ、外に出てこい』
「? お前誰だ?」
『忠告はしたぞ』
そう言うと、相手は一方的に電話を切る。
玄関の方から爆発音がしたのは次の瞬間だった。それを初めとして、宇佐美の部屋の窓ガラスが割られ、そこから何かがほおり投げ込まれたと思うと、それが爆発し、強い音と光が宇佐美と楓を包み込む。それにより一時的に宇佐美も楓は目と耳が使い物にならなくなる。
「――ッ!?」
誰かに強引にねじ伏せられる。そして頭を割られたような頭痛がして、宇佐美の意識は途切れた。
目を覚ますと、そこはどこかの警察署の取調室らしき場所で、自分はパイプ椅子のような物に座らせられていた。。しかし、自分が今受けている拘束の仕方は、一般的な犯人のそれとは違う。背中の方にある手首には現在の警察官があまり使わない鋼鉄製の手錠がつけられ、その上からロープで腕をぐるぐる巻きにされているらしく、また、更に上半身をロープで縛られている。そして足首も同様にロープで縛られている。
気配から察するに自分の後ろ側には二人の男が立っているっぽい。状況からして何らかの武器を所持しているはずだ。
「目が覚めたか?」
机を挟んでパイプ椅子に座って足を組んでいる五分刈りの男がそういった。
「誰だあんたら」
「警察だよ。宇佐美巡査……いや、ウルトラマンメビウスと言ったほうがいいか?」
「…………」
別に宇佐美は驚かなかった。現在の警察の捜査力は警察官である宇佐美自身が知っている。いつかはこうなるということはわかりきっていたのだ。
「これから俺をどうする気なんだ。殺すのか?」
「だったらどうする?」
「お前らを無力化して逃げる」
宇佐美はマジメに言ったのだが、五分刈りの男は微笑した。
「無力化? そんなことができると思ってるのか? 過去のデータからメビウスに変身するためには左腕にメビウスブレスといわれる物を出現させなければならないということがわかっている。果たして腕をぐるぐる巻きにされた状態でメビウスブレスを出現させられるのか? それともまさか生身のままここを制圧するのか? 今お前の後ろにいるのはSAT隊員だ。お前のようなしたっぱの抵抗など無意味だ」
「……楓は無事なのか?」
「生け贄の少女のことだろう? 無事に決まってるだろう。我々は一般市民に手を出したりはしない」
「なら俺の扱いはなんだ。殺されんだろどうせ」
「いや、殺さんさ」
「……?」
「お前は我々警視庁が全力でサポートする」
「どういう理屈だ?」
「お前がウルトラマンだからだ」
「……?」
「日本政府の中でもウルトラマンをどうするのかでは意見がわかれている。一つがお前の味方につくこと、もう一つがお前を殺すことだ」
「味方……? 味方にくせにあんな荒々しい方法を使ったのか? 信用できないな」
「荒々しい? なら逆に聞くが、巨大化すれば手がつけられなくなる奴に対して他にどんな手段を使えばよかったんだ?」
その言葉に宇佐美は少し考え込む。
考えれば五分刈りの男の言っていることは正しい。普通の警官をあそこに向かわせてもし俺がメビウスになれば警官はもちろん民間人にも被害が出る。
「はいはいわかりましたよ。あなたは正しい」
「ところで、お前は25年前、いったい何があったか知ってるか?」
「は?」
そんなこと知らないわけがない。宇宙人が地球に攻めてきて、人類はそれに白旗を上げたのだ。そして人類が助かるためにウルトラマンを見捨てた。
「これは俺を含め、各国の政府の一部。それから現場で実際にそれを目にした軍や自衛隊、警察しか知らなかったことだ」
しかし五分刈りの男は、急に背筋が凍ってしまうのではないかという位恐ろしい顔をした。
「……どういうことだ」
とても恐ろしい話を聞かされるように気がして、少し震え初める宇佐美を無視して、五分刈りの男は話初める。
後に、その話を聞いた宇佐美の表情に希望などはなく、嵐の中一匹怯える子羊のようだったと、その場にいたSAT隊員は証言したという。
※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。