用賀駐屯地。
「生け贄の少女はウルトラマンについて何かしゃべったか?」
神原1士は少女に取り調べという名の拷問を行っている同僚に声をかけた。
「いえ、何も話しません」
それを聞いて神原は顔を曇らせた。今のところウルトラマンと繋がっている唯一の人間が何も言ってくれないのだ。それに生け贄だからもう時間がない。どんな方法を使ってでも奴の居場所を吐かせなくてはダメだ。
「わかった。取り調べを変わろう」
神原はそう言ってドアノブを回し、まるで独房のような室内に入ると、そこには身体中を鎖でぐるぐる巻きにされ、中に吊らされている少女の姿があった。連行してきた時にはまだあった目の光はなく、死刑執行を黙って待つ死刑囚のような感じだった。
それにしてもこれは相当な苦痛だろう。重力によって体全身に痛み、それが永遠と続く。生きた心地がしないだろう。
「痛いだろ」
神原は試しに話しかけてみるが、少女は何の反応も示さない。
「……お前は渋谷にウルトラマンが降ってきたあの日、とある警察官に命を救われた」
少女が少し反応したような気がした。
「そして助けた警察官は奇跡的にほとんど怪我をしていなかった」
神原は続ける。
「知ってるか? 今までウルトラマンと合体した人間の多くは瀕死の重傷をおいながらも、その後何事もなかったかのように生きている。その時はたんなるラッキーですまされていたが、今は違う」
神原は更に続ける。
「その警察官がウルトラマンメビウスなんだろ」
それは、尋ねているのではなく、そうだろう? と、確認をしているようだった。
「言えば楽にしてやる。その警察官は今どこにいる…………答えろッ!!」
しかし少女は何も答えない。しかしその代わりに、目からたっぷりの涙をぼろぼろと流していた。
「言えっつってんだッ!!」
神原は何も答えない少女にイラついたのか、少女の腹を力一杯殴った。
自衛隊員の訓練で鍛えられた拳は、普通の人間のそれよりも遥かに強く、少女の腹にめり込む。
少女は目と口を大きく開き、本当に痛そうだ。
良心がチクリと痛んだが、我慢する。ウルトラマンを見つけて殺さなければおびただしい数の死人が出てしまうのだ。
そんな時、取調室のドアが勢いよく開かれ、神原の後輩の自衛官が入ってくる。その緊迫した表情からして何かあったようだ。
「神原1士ッ! バードンが現れました。上がすぐにそこに向かって生け贄を捧げろと。そして迎えのヘリが現在待機中です」
「……わかった。よかったな生け贄。お前はもうすぐ楽になれる」
助けてくれ。誰か助けて。少女がそう思っても誰も助けにこない。ここには希望も何もなかった。
東京都上空。
それは空自のレーダーサイトにうつることもなく、それゆえ避難活動を開始してすらいない東京都の真上にきた。
――ドゴーンッ!!
町行く人たちはその音がすると同時にその音がした方向を見て、一斉に逃げ出した。
「キュァァァァァァァァ!!」
誰かが叫ぶ。「怪獣だ!!」と。
誰かが叫ぶ。「逃げろ!!」と。
富士山の噴火と共に暴れだし、ウルトラマンメビウスを倒したバードンは、いとも簡単に首都東京に降りたってしまったのだ。
「…………」
宇佐美はその様子の自宅のテレビで見ていた。少女がどこにいるのかわからない今、彼にできることは情報を集めることで、それにもっとも適しているのがテレビだと思ったのだ。しかし、バードンが東京に現れたことでそれは変わる。彼はウルトラマンとなった人間としてバードンを倒さなければならない。今、少女のことを考えている余裕はないのだ。
その左腕に現れたのはメビウスブレス。彼は家から出て、人通りのないところに行く。
「ヒビノ。お前の兄さんの忠告無視するからな」
「大丈夫です。僕もゾフィー兄さんの言うことを聞くつもりはありません」
ヒビノのその言葉に宇佐美は「そうか」と答えた。そして、覚悟をきめて叫ぶ。
「メビウースッ!!」
左腕を天に向ける。すると彼の体はメビウスへと変わり、マッハ10の速さでバードンが暴れている場所へと向うと、そこには破壊された町と、バードンがいた。
「セヤッ!」
地上に降り立ったメビウスはバードンに向けて構える。
バードンもメビウスに気がついたのか、メビウスの方に体を向けた。
「ピュキャァァァァァァァ!!」
バードンは咆哮し、それだけで高層ビルのガラス窓は振動、粉々に割れ、地上に降り注ぐ。ガラスの破片は地上でまだ避難途中の人々に降り、容赦なく刺さっていく。
ある者は頭に刺さり、ある者は首に刺さって絶命し、またある者は無数のガラスが体中に刺さりながらもなお生き続けている。
「ヤッ!」
そんな光景を見続けることなどメビウスにできるわけもなく、何の策もなしにバードンに向かって走り、右手を降り下ろすようにしてその頭を殴る。
しかし改造されて、硬くなったバードンにメビウスの攻撃は効果がないように見える。バードンは頭を上げてメビウスに火炎放射をくらわせようと、口の中に火を貯める。
「セヤッ! タァッ!」
しかしメビウスはそんなことをさせまいと、何度もバードンの頭を殴り、そしてくちばしを両手で掴み、火炎放射をできないようにする。だが、それでも暴れ続けるバードンにメビウスの体は右に左に振り回され、つい手を滑らせてしまい、くちばしを離してしまった。
「ピュキャァァッ!」
瞬間、咆哮と共に出されたのは火炎放射。
「ゼアァァッ!?」
メビウスはバリアを出す間もなく、その炎に包まれる。しかし、その被害はそれだけではない。その炎はバードンからかなり遠いところにいた人間たちもメビウスと同じように包み込む。
もがき、苦しみ、絶命する。
その光景は空襲にあったかのようにひどいものだ。
そして、火炎放射は青かったメビウスカラータイマーが赤く点滅し始めたころに終了した。
「――ッ!?」
バードンは全身が焼かれ、まだ苦しんでいるメビウスに強烈な蹴りを入れる。
メビウスは転がり、それを追いかけてまたバードンがメビウスの腹を蹴り、メビウスが転がり……それが三度ほど繰り返されたころだ。メビウスの目には空を飛行する航空自衛隊のF-15Jが見えた。
それにメビウスは一つの希望のようなものを感じる。きっと人間は見方してくれる。きっとそうだ。メビウスがちょうどそう思い、同時にバードンの攻撃も収まった。ここぞとばかりにメビウスは立ち上がり、バードンに構える。数秒後には自衛隊のミサイルがバードンを攻撃する。そんな淡い期待を持ちながら。
「――ッ!?」
しかし現実はそうではなかった。自衛隊のミサイルが狙ったのはメビウス。F-15Jが発射したミサイルはすべてメビウスに命中し、その一発もバードンを狙っているとは思えない。
メビウスは痛みのあまり、その場にしゃがんで地面に手をつく。
そして、バードンの攻撃がやんだ理由もその時明らかとなった。
「――ッ!!」
バードンはメビウスの方向を向いておらず、まるでメビウスがただの空気であるかのように別の場所を見ている。その視線の先にあるものを見て、メビウスは口から心臓が飛び出そうになる。
メビウスは思わずその方向に手を伸ばした。
なぜか、理由はいたって簡単。そこに楓がいたからだ。
バードンの視線、それはたった今飛んできたであろう自衛隊特有の迷彩柄をしたヘリコプター……UH-60JAがそこにあった。メビウスの驚異的な目はヘリコプターの壁を透視して中にいる人物を見たのだ。
そのヘリはとあるビルの上に行くとホバリングをして、数秒後に一人の自衛官が少女を抱え、ロープをスルスルと降りてくる。そしてビルの屋上に少女をおろした後に、ヘリコプターは少女を残し、どこかへ去ってしまった。
「ピュキャァァァァァァァ!!」
しかし、ヘリの音が嫌なのか、バードンはヘリに向かって火球を吹き出す。
火球は勢いを弱めることなくまっすぐ、猛スピードでヘリコプターに迫る。当然ヘリコプターも回避行動に移るが改造バードンが吐き出した火球はどこに避けても必ずどれかが当たるように出されており、これでは間に合わない。
火球はどんどんヘリコプターに迫る。
ヘリコプターの乗組員が死を覚悟したその時だった。何かが火球とヘリコプターの間に入った。
「グアァッ!!」
直後聞こえたのはうめき声にも近い何か。
「う……ウルトラマン」
ヘリコプターに乗っていた自衛官がそう言った。
そう。メビウスは自分の大きな背中で、バードンの攻撃からヘリコプターも守ったのだ。自衛隊は今までウルトラマンメビウスを敵視し、攻撃していたというのに。
――ドサァン。
その音と共にメビウスは力なく地面に横たわった。
あんなことをすれば、もう限界がくるということはメビウス――宇佐美にもわかっていた。しかし、助けずにはいられなかったのだ。それにあの瞬間は、自分だけの意思が働いたようには思えなかった。きっとヒビノも助けることを望んでいたのだ。
そう考えてる内に、メビウスの目の光が弱くなった。
「ピュキャァァァァァァァ!」
しかしそんなことなどバードンにとってはただの自然現象でしかない。今バードンが考えていること、それは自分の餌のことだけだ。バードンは餌が目の前にあるからなのか、いつもにまして大きな足音をたてながらそのビルの屋上にいる少女の元へと急ぐ。少女はただ単に寝ているのか、それとも自衛官に何かをやられたのか、気を失って、ぐったりとしていた。
「ピュキャァァァ!」
そしてビルの目の前にきたバードンは大きく口を開け、少女を食べようとする。
「ピュキャァ!?」
その時だった。空から謎の白い光線が発射され、バードンに命中する。
いや~、自分で書いといてあれですけど、この作品の自衛隊はえげつないですね。本当の自衛官の方々はこんな人たちではないので、安心してください。
そして白い光線を出したのは一体誰なのかw やっぱりバードンといえばタロウよりもあっちの方が印象に残ってるんですよねw(ヒント)
それではまた次回更新するときに。
※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。