ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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 なんとか時間がつくれたので。


八話 時すでに遅し/Taro?

「…………」

 宇佐美はゾフィー別れた後、気がついたら都内のごみ捨て場に横たわっていた。これはゾフィーからの嫌みか何かだろう。現在の人間はウルトラマンを嫌っているが、自分がごみ捨て場に捨てられてたことを考えると、どうやらウルトラマンも人間を嫌っているらしい。

 運悪くその周辺の家は前日の夜にごみを捨てる習慣があったのか、自分はごみの上に横たわっていた。長い時間ごみ捨て場に放置されていたらしく、なんか服が臭くなった。人通りが少ないところではあったが、どうせ誰かが自分に気づいていたはずだ。それなのに起こしてくれないとは、人間もなかなか冷たくなったものである。

 宇佐美は自分の家の前に着くと、インターホンを鳴らす。楓が家に鍵をかけていると考えたからだ。

 突然家から出たことをどう説明したものか。などと考えながら中からの応答を待つが、何の応答もなく、辺りはシーンとしたままだ。

 ピーンポピーンポーン。と連続してインターホンを鳴らしても「開けてくれー」と言っても応答はない。

 おかしいな? と思った宇佐美はドアノブを掴み、回してみる。

「えっ?」

 ドアノブは何の抵抗もなく回り、そのままドアは開いてしまった。

 しかし宇佐美はどうせ鍵をかけわすれただけだろう、と自分を強引に納得させ、早足で家の中に入る。

 中は真っ暗で、その中で唯一テレビだけが光っている。宇佐美が今日の朝見ていたチャンネルのまま変わっていない。

 宇佐美は部屋の明かりをつけるが、人がいる気配はない。

「いるのか? いたら返事してくれ」

 返事はない。

 嫌な汗が身体中から吹き出る。

 風呂場だろうがトイレだろうが、ようしゃなくドアを開け、家中のありとあらゆる場所を探す。

 しかし少女はどこにもいない。少女がどこにいるのか、その答えはテレビにあった。

『速報です。生け贄の少女が都内にて発見、確保されていたことが防衛省への取材で明らかとなりました』

 テレビの中の男性キャスターは続ける。

『生け贄の少女は、今後、あのお方たちの餌として使われるとのことです』

「クッソッ!!」

 

「――以上です」

 陸上自衛隊員の神原1士は用賀駐屯地内にて上官に少女を拘束したときの状況について報告していた。

「そうか……今回の君の働きは実によいものだった。なんと言っても数千単位の人間の命を救ったことになったんだからな」

 上司は報告を終えた神原にそんな意味深なことを言う。

「生け贄を拘束することで自分が多くの命を救った? それはどういうことですか?」

「君は今回のことで相当偉くなるはずだから言うけどね。生け贄たちは別にあのお方たちに食べられているわけではないんだよ」

「は?」

「生け贄たちはあのお方たちのペットに食べられているんだ」

「ペット?」

 神原は思わず聞き返す。

「そう。ペットさ。日本でいうならそれは今話題になってるあの怪獣」

「……バードンですか」

「その通り」

 そう言った後に上司は続ける。

「ペットたちも困ったものでね。彼らにとって味とは遺伝子なんだ」

 上司のその言葉に神原は顔を曇らせる。どういうことかわかっていないようだ。

「どういう意味かわかるかい? ペットたちは暴れないことを条件に、今食べたい者を人類に言ってくるんだ。無論、彼らが直接我々に言ってくるわけではない。あのお方たちがペットと我々との間に入ることで彼らが何を言っているのが我々にもわかるようになる。つまりあのお方たちは凶暴なペットたちの主でありながら餌やりは他人に任せて、自分はペットの好みの他人に教えるだけってわけだ」

 人差し指をピンと立てて上官は偉そうに説明した。

 しばらくの間納得できないようだった神原だったが、しばらくしてその意味に気がつくと目を見開いた。

「つ、つまり生け贄たちは怪獣が暴れないように殺されていて、もしも、餌をやらなかったら怪獣たちが暴れだすということですかッ!?」

「そういうことだ。だから君は多くの人を救ったことになる。怪獣はあのお方たちの物、つまり自衛隊は手出しすることができないからね」

「今まで自分はあのお方たちの脅威から人類を守るために生け贄を捧げているとばかり思ってましたけど……まさか生け贄の行き先がペットだったとは……」

「俺は一度生け贄が食われるところを見たことがある」

 上司の表情は険しいものとなる。

「はっきり言って見ているのが苦痛だった。生け贄たちは泣き叫び、我々に助けを求める。それなのに助けられない自衛隊はなんなのかとな」

 最後に、25年前はこんなのではなかったのにな、と上司は付け足した。

 

 

 大きな和風の屋敷。

 袴を着た一人の老人が夜空を眺めていた。

 夜空には多くの星が輝いていて、見てるだけで心が落ち着く。

 男の名前は東光太郎。大昔ではウルトラマンタロウと呼ばれた男だった。

 ウルトラマンだったからという影響なのか、老いるのは遅く、見た目はまだ五十代後半ほどに見える。

 タロウが奴らに負けたことを知らない彼は、地球がある銀河系から300万光年離れた所に存在するM78星雲、光の国をどこか悲しそうな瞳をして見ていた。そして、彼のその手には、

「タロウ……」

 ウルトラマンタロウとの友情のしるし、昔緑のおばさんからもらった大切なお守り……ウルトラバッジが強く握られていた。




 東さんはこの先少し間をあけて再登場する予定です。果たしてその時にウルトラマンタロウになるのか……?

 あと、一応念のために言っておきますが、作者は自衛隊嫌いじゃありませんよ。

 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。

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