Ace Combat side story of ZERO - Skies of seamless -   作:びわ之樹

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第11話 出会い

 轟音と砂埃を撒き散らし、戦闘機が滑走路を走ってゆく。

 頑張れよ、ベルカの奴らに一泡吹かせてやってくれ。見送りの整備兵や留守居の傭兵たちの声の中で、青年――カルロスは掌を頭上に翳して、静かにその翼を見送っていた。

 細めた眼と、噛み締めた唇。額に包帯を巻いたその横顔には、言い表せない無念が滲んでいる。敗北の事実と乗機を失い出撃できない無念、そして何よりベルカのエース部隊『ゲルプ隊』の前に何一つできなかった不甲斐なさ。性能差、技量差の一言では片付けられないそれらの結果を受け入れるには、4日という日数はあまりにも短かった。

 時に1995年、5月17日。曇天の合間に時折陽の顔が覗く、5月の最中のころ。

 

「ふー……。…早いなぁ…」

 

 胸に固まる悔恨を紛らわすように大きく息一つ。加速して急上昇してゆくエスクード2のF/A-18C『ホーネット』を目で追いながら紡いだ呟きは、その実、別の方向へと向けられたものだった。

 早い。目まぐるしい戦況と情勢の流れは、最早そう評するしかなかった。

 日を遡ること4日前、5月13日。サピン空軍による支援は多くの犠牲を払ったものの、オーシア・ウスティオ連合軍は本作戦たるウスティオ首都ディレクタスの解放に成功。これを機にウスティオ領内のベルカ軍は一斉に撤退を開始し、実に3月の開戦から1ヶ月半を経て、連合軍は領土の回復に成功したのだった。

 

 あの日、全てが終わった後に知った情報によると、ディレクタス制空戦には例のベルカ軍エース部隊『ゲルプ隊』も出現したのだという。各地における情勢の推移から考えるに、おそらく我々を壊滅させてからその足で向かったのだろう。

 ――そして信じがたい事に、そのゲルプ隊はたった2機のウスティオ軍機によって撃墜されたという。171号線奪還戦、そしてフトゥーロ運河の攻防の折に見かけた、2機のF-15Cで編成された傭兵部隊がその正体らしい。華々しい戦果とベルカに屈せぬ象徴的な姿に、人々は彼らを連合の希望と慕い称えた。

 

 この戦いによって一月半前まで戻った、国境線という名の時計の針。

 しかし一度流れ始めた時代の流れは、一度脚を踏み留めて全てを省みる余裕をも、人々に与えてはくれなかった。

 5月17日、すなわち今日。ベルカ軍による核兵器および大量破壊報復兵器『V2』開発の情報を受け、連合各国は核査察を目的に、ベルカ国内への侵攻を決定。その第一段階として、ベルカ南方を守る防御線『ハードリアン(ライン)』へ向け大規模な攻撃部隊を派遣するに至った。たった今目の前を離陸していった航空機は、そのための第一次攻撃隊という訳である。おそらくウスティオ、オーシア各国の基地からも、ベルカ領内へ向け攻撃が始まっていることだろう。

 核兵器の査察。もっともらしい題目を掲げてはいるが、その背後には報復の文字が透けて見える。領土を蹂躙され多くの人命を奪われた各国は、ベルカを許す気は到底無いのだろう。少なくともカルロスにはそう思えた。

 

「国境が元の鞘に戻ったからって、戦争まで終わる訳じゃあないんですね」

 

 わだかまった思いが、自ずとカルロスに口を開かせる。文字に表すならば憤り、あるいは不満と言うべきだろうその感情。…もっともその根源はと探ってみれば、それは各国の成し様に対する義憤や憤懣といった高尚なものではなく、乗機を失い出撃できない不満と、先の戦闘における不甲斐なさという、多分に個人的な感情によるもの――ありていに言えば八つ当たり――だった。一足飛びに世界を俯瞰して考えるには余りにも気が乱れ過ぎた折でもあり、何より戦争やら国家の思惑を否定しては、傭兵はやっていけるものではない。

 言葉が向いた先、見送りの声援が納まりつつある人々の中で、カークス軍曹は不機嫌そうに鼻息一つ。フィオンは聞いているのかいないのか、憮然とした表情で、遠ざかっていく『ホーネット』を見送っていた。

 

「ま、そりゃそうだ。どの国だって、落し前分だけ分捕ろうって考えてるだろうしな」

「分捕る?」

「要は…だ。この戦争、もともとベルカがウスティオに仕掛けたのは資源が目当てだろ?その逆さ。エリアB7R…『円卓』や五大湖近辺なんかにはその資源がたんまりとある。ベルカを押し返したどさくさに紛れて、誰がどんだけ分捕るか…残ってるのは味方同士での角突き合いだけだろうさ。…もちろん、報復の意味合いだって幾分はあるだろうがな」

「資源の、奪い合い…」

 

 けっ、と感情の吐露一つ、カークス軍曹が口にしたのは思いがけない『資源』の側面だった。

 ベルカの経済的窮乏、旧ベルカ南郡の独立志向、そしてオーシアの拡張戦略。戦争の根本は数多あれ、確かに資源の争奪がその要因の一つであることは疑いようがない。先の敗退でカルロスに冷静に考えるゆとりがなかったと言ってしまえばそれまでだが、これまでの背景を考慮すれば、その予測は当然の帰結だった。

 連合国が分配する余裕があるほどに資源を確保し尽くすか、あるいはベルカが資源地帯まで押し返すか。いずれかに至るまで、戦争は終わらないだろう。

 

「はっ、いい気なもんだぜ。偉ーい人達にゃ、俺らや兵の命なんて資源と交換してもすぐ湧いて来るとでも思ってるんだろうさ。…ま、仕事がなくなっちゃ俺らも生活できない。あんまり大きな声じゃ言えないがな」

「ま、まあまあ…。いずれにせよ、まだ俺達も失業せずに済むってことですよ。…もっとも、戦闘機がなけりゃ何もなりませんけど」

「はふ。僕達にはどーでもいいですよ、資源だとか大義だとか。そんなことより、早くしないと戦争が終わっちゃう。…あーあー、Su-27(フランカー)欲しいなー」

 

 資源を求める戦争。ベルカも連合国も何一つ変わらないその立ち位置に、カークス軍曹の言葉は荒い。かつて母国とユークトバニア連邦の戦いで職を失ったというカークス軍曹は、傭兵という仕事ではあれど、戦争が依然続くことに微妙な思いもあるのだろう。

 片やフィオンはといえば、戦争の理由はどうでもいいとばかりに調達機体の件をもっぱらに口にしている。先の戦闘で戦力のほぼ全てを失ったニムロッド隊において、喫緊の問題は何よりそれである。アンドリュー隊長が昨日から代替機の受領に出ているが、それとて十分な数が手に入る保証は無い。フィオンならずとも気になるのは無理も無かった。

 物事の見方や考え方に違いはあれど、カルロスも意識としてはフィオンに近いものがあった。傭兵が大義や戦争の目的やら、目に見えない大きなものに思いを馳せてもきっと何も変わることはないだろうし、戦争を否定しては自分たちのいるべき場所は無い。

 だがその観点は――ないし諦念は――、本当に正しいことなのか。ふと心に萌したその引っかかりに手を伸ばし、カルロスが向かいかけた内省は、背からかけられた男の声にかき消えた。

 

「ははっ、青いねぇ諸君。大義だ理想だと口に出してるようじゃ、傭兵としてまだまだだぜ?」

「へ?………誰です、オジサン」

「おいおい、これでもまだ32だぜ。おじさんは無いだろ?」

 

 振り向いた先にいたのは、精悍な顔つきの男だった。邪魔にならない程度に短く切りそろえられた黒い頭髪に蓄えた顎鬚、適度に着流したサピン軍の制服。衣服だけで判断すればサピンの軍人という所だろうが、その纏う雰囲気には、どうにも兵隊にはそぐわない印象が感じられた。そのアウトローで自由な空気は、軍人というよりも自分達傭兵に近い。少なくとも、只の軍人には見えなかった。

 フィオンが向けた失礼な言葉にさえ、鷹揚と応じる様。そこには、経験豊かな大人の余裕が滲み出ていた。

 

「いやいやオジサンでしょ。…誰ですアンタ、ここの傭兵です?」

「ま、そんなトコだ。同業者のよしみもある、よろしくな。…そうだな、『トレーロ』とでも呼んでくれ」

「『トレーロ』…?」

 

 『トレーロ』。確か、この国の言葉で『闘牛士』の意味だっただろうか。傭兵という男の言葉を引くに、それもTACネームなのだろう。何かで目にした名のような気もするが、整った顔立ちにざっくばらんながら落ち着いた男の物言いは、その名前の印象にしっくりと合っている。

 

「…なあ、どういう意味だ?傭兵がいろいろ考えちゃ駄目だって言うのかよ」

「そうは言ってねぇさ。どうせ傭兵が何言った所で国が変わる訳はない、それなら無駄なことを口にする前に戦いに没頭する方が、傭兵としてよっぽど上分別。俺たちゃ純粋に空を思ってりゃそれで飛べるのさ。できる男ってのは、余計な事は言わないもんだ。そうだろ?」

「でもよ…!」

「お取り込み中ごめんなさい?アルベルト、そろそろ出撃準備よ。整備班長が呼んでるわ」

 

 戦う事を専一に、余計なことは考えない。その姿勢は先のカルロスの思考と通じ、その言葉を聞く限りではカルロスも心に頷くものがあった。おそらく、その点はフィオンも同感だっただろう。

いつになく食い下がるカークス軍曹の言葉を断ったのは、新たにかけられた女性の声だった。

 サピン系らしく彫の深い、鼻梁秀でた凛々しさすら感じる顔立ち。意志と女性らしい優しさを感じさせる、力強くも流麗な眉と眼差し。艶のある美しい黒髪。思わずカルロスが息を飲むほど、その人は綺麗な女性だった。

 

「げ、まだいいだろう?こうして出撃前に英気を養うってのも大事な時間で…」

「男は余計な事は言わないもの、でしょ?ほら、皆待ってるわ」

「は、っはは。マルセラには敵わないな。…んじゃあ行ってくるぜ諸君。戦果を祈っててくれ」

 

 マルセラという女性と、『トレーロ』。傭兵としてのコンビらしい二人の間には、仕事上のパートナーというだけでない、どこか親しみを持った距離感が感じられる。それは仲が良いというだけでは説明できない、言うなれば恋人同士のような印象とでも言うべきだろうか。鉈で立ち割ったような性格の『トレーロ』と、大人の女性らしい落ち着きで支える『マルセラ』。少し変わった、それでいて調和した、お似合いの二人。短時間の邂逅ながら、カルロスが感じたのはそんな印象だった。

 それにしても、『トレーロ』…いや、アルベルトとマルセラ。初めて会ったにも関わらず、その名はどこかで聞いたような気がする。心の妙な引っかかりは、二人を見送った先の光景で、確信と驚愕に変わった。

 

「……。余計なことは言うな、か…」

「…あれ、傭兵コンビ?変わった二人っすね…」

「でもなんだかんだでいい感じだったな、あの二人。………え?………か、カークス軍曹、フィオン、あ、あれ…!」

 

 三者三様の感想を紡ぐ中、一人その後ろ姿を追っていたカルロスが声を上げる。二人が向かったその先の、格納庫の中。そこに納まっていた機体の姿が目に入った瞬間に、その二人の『正体』が脳裏に閃いた為だった。

 向かって手前に見える、燃えたぎるような赤を基調として、それを裂くような黄色を加えた派手な塗装の機体。小柄な機体に反して、不釣り合いなほどに大きいダブルデルタ翼は特徴的なシルエットを形作っており、その機種――J35J『ドラケン』の判別を、ここからでも容易にしていた。奥側の機体は全容がよく見えないが、同じく主翼が赤を基調に塗装されているように見える。小柄な機体に、機首に見える空中給油口は、それが第4世代に属する新世代機――『ラファールM』であることを物語っていた。

 『アルベルト』と『マルセラ』、そして赤いドラケンとラファールMのコンビ。これらの条件が揃えば、数日前に新聞で読んだ記事が脳裏に去来するのに、時間は要さなかった。

 

「…あ、あれ…っ!あの『エスパーダ隊』ですよ!アルベルト・“トレーロ”・ロペズ大尉とマルセラ・“マカレナ”・バスケス中尉!サピンの誇るエース部隊の…!」

「エースぅ?今のがー?」

「嘘だろ、本物かよ!…やっべぇ、今完全にタメ口だったぜ俺…!」

 

 サピン空軍第9航空陸戦旅団第11戦闘飛行隊、通称『エスパーダ隊』。サピンでは珍しい傭兵部隊でありながら、ベルカの攻勢に苦しむサピンの空を守り抜き、先日もフトゥーロ運河攻防戦で赫々たる戦果を上げたという押しも押されもせぬ撃墜王(エース)。謳われるように語られるその名は、連合軍内でも希望を集める随一のものだと言っていい。

 直に触れたエースの実像、空を一心に愛するその心、そして好感を抱かせて止まない睦まじい二人の姿。その全ては、カルロス達3人の心を刺激してやまなかった。

 

 オステア空軍基地の至る所で、エンジン音が甲高く響き始める。ここもそこも、そしてエスパーダの2機も。連なり響くそれは、まるで堰を切って鳴き始める獣の遠吠えのようにも、復仇の時を待つ報復の女神(ネメシス)の羽ばたきにも聞こえた。

 曇天の低い空に発つべく、サピン空軍のF/A-18D『ホーネット』2機が滑走路へと進んでゆく。

 その爆音の陰に、基地へ向け翼を翻す4機の機影があることに、3人が気づくのにはしばしの時間を要した。

 

******

 ハードリアン線への第二次攻撃隊が発進し、オステア基地がようやく静寂の空気を取り戻しつつある頃、アンドリュー隊長以下ニムロッド隊各員の姿を格納庫の中に認めることができる。

補充された戦闘機を背に整備員まで揃った一同の顔は、一様に複雑な表情を見せていた。

 

「……なんつうか、単純に喜べない状況だな」

 

 ぽつり、とカークス軍曹が呟く。悲喜こもごも、機体の配備も含め一斉に動き始めた情勢。軍曹のみならず全ての人間が抱く複雑な気分は、首尾よく戦闘機が配備されたことと、それと同時にアンドリュー隊長によってもたらされた情報に起因していた。

 『喜』――すなわち、補充機の配備。『ゲルプ隊』との交戦でカークス機とカルロス機を失い、アンドリュー隊長のMiG-19Sも損傷した。そのためニムロッド隊は当日の内に補充を要請してはいたのだが、その見通しは暗いものだった。緊迫した世界情勢では中古兵器市場は引く手数多、機種はおろか機数すら揃うとも限らない。せいぜいこれまで通りのMiG-21『フィッシュベッド』シリーズか、下手をすればMiG-19等の旧式機と覚悟していた一同にとって、いざ見えたその姿は望外のものだった。

 角張りつつも、機首へ向けて滑らかに繋がるライン。背びれのように、胴体部からせり上がる大きな垂直尾翼。そして上翼位置に配された固定型の主翼基部と、そこから連なるやや細身の可変翼。サンドブラウンとカーキグリーンの迷彩色に彩られ、識別のために翼端を黒く染め抜いた機体色も、その機体を代表する塗装パターンの一つである。

 

 MiG-23MLD、通称『フロッガーK』。MiG-21『フィッシュベッド』シリーズの後を継ぐ、『フロッガー』タイプの中でも後期の量産モデルに属するその機体が、ニムロッド隊に配備された新たな機体だった。近距離の格闘戦能力を除けばレーダー性能、最高速度、搭載量、安定性のいずれもMiG-21bisに優るこの機体は第3世代機の中でも優れたものの一つとされ、MiG-29A『ファルクラム』を除けば現在望みうる最良の機体と言えた。

 同時に、ベルカ軍との戦闘で損傷していたアンドリュー隊長の前搭乗機MiG-27M『フロッガーD』も修理が完了し、今回同時に引き渡しが行われた。これを以てニムロッド隊は機種改変を完了し、新たにMiG-27Mが1機、MiG-23MLDが3機の小隊編制へと移行した訳である。

 

 そして、『喜』の裏返し――『悲』の部分である。

 元来、カルロス達が属するPMC『レオナルド&ルーカス安全保障』は4飛行小隊を有しており、周辺諸国からの派遣要請に従ってサピン王国にニムロッド隊が、ウスティオおよび東部諸国ファトにも各1小隊が派遣されていた。

 アンドリュー隊長の話によると、このうちウスティオに派遣されていた部隊はディレクタス奪還作戦で1機を残して壊滅し、ファトに派遣された部隊に至っては全滅したのだという。後者については4月中旬の時点の出来事らしく、4機のJAS39『グリペン』で編制された部隊により全滅したとの情報もあるが、その真偽は定かでない。

 これを受け、本社は損失回復に躍起になっているらしい。唯一残ったニムロッド隊に奮発してMiG-23MLDを回したのも、少しでも生残性を高めるとともに、少しでも多くの報酬を上げて来いという無言のメッセージと受け取れた。他の二部隊に資金や機体を回さなくて済む分、余っていた予備機から選りすぐって派遣したというのも要因の一つではあるだろう。

 少しでも性能のいい機体を得られることは当然嬉しいが、その反面、それは同僚の犠牲と前にも増した責任との引き換えである。そう思えば、素直に諸手を上げて喜べないというのが正直な所だった。禍福は糾える縄の如し、とはよく言ったものである。

 

「そう言うな、過ぎたことだ。…当面のことだが、この状況だ、慣熟訓練に回す時間はせいぜい5日しか取れん。本社からも早く戦果を上げて来いとせっつかれてる所だしな」

「…い…5日!?たった5日ですか!?」

「はー、冗談でしょう。かー、これなら使い慣れたMiG-21の方がまだマシだったぜ」

 

 5日。緊急時ということは理解しているが、あまりにも短いその期間に驚きを隠せないカークスとカルロス。只でさえこれまでの乗機MiG-21とは操作特性が異なる機体である上に、1週間も経たない内に実戦に赴くとは、無謀であることこの上ない。

 ふーん、といつも通り飄々と聞き流すフィオンと裏腹に、カルロスは思わず多難な前途に頭を抱える。迷える若人に、止めは隊長直々の言葉で放たれた。

 

「泣き言を言うな、無いものは無いんだ。とにかくお前ら、この5日間で『フロッガー』の特性を完全に理解しろ。カルロス、特にお前はこの5日間みっちり訓練漬けだ。いいな」

「ぐふぅ。……い、いえ、はい!こうなったらもう、いっそ最高に厳しくお願いします!」

 

 そうだ、どうせない時間なら、せめてできる限りのことはしてやる。またあんな惨めな思いをするくらいなら、目の前で人が死ぬのを成すすべなく見るくらいなら、可能な限りのことは全て。これまでの戦闘と敗北、無念に裏打ちされたその思いは、自然とその言葉を紡いていた。

 意外な反応だったのか、かはは、と笑うカークス軍曹の声を背に、雲間を割いた斜め陽が格納庫内を照らしてゆく。

『フロッガーK』の尾翼に刻まれた、まだ新しい蝙蝠(ニムロッド)のエンブレムが、白い光に映えていた。


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