「は・・・?」
私は呆然としていた。自分が力込めて突こうとした刀をただ肩を抑えられただけで下にそらされてしまったのだから。
私はいま、目の前のサイタマという男に恐怖を感じていた。なぜ自分の全力が軽くいなされているのだ?!何故だ!何故なんだ!なぜあんなそうでもなさそうな男にいなされているのだ!
私は自分に自信があった。誰よりも自信があった。どれくらい自信があったかと訊かれれば、この月の中では一位に入るくらい強いと自負するくらいには自信があった。
その自信が今、一気に崩れ去った。この目の前の一人の男の手によって!このなにも実力のなさそうな腹立つ間抜け面の男の手によって!今!打ち砕かれた!
「お前はいったい何者だ!どこでその力を手に入れたんだ!」
「何者かって?俺の名はサイタマ。
趣味でプロヒーローをやっているものだ。
あとこの力をどうやって手に入れたか、だって?知りたいのか?」
私はコクリとうなずいた。
「そうか。つらいぞ。俺が歩んできた道は」
そして目の前の男は腕組みをして言った。
「お前、今何歳だ?」
「覚えていないな」
「俺は今25だが、トレーニングを始めたのは22の時だった」
この時、鈴仙が「ああ…」という表情をした気がした。
「そして俺がやった内容はこれだ!
毎日、腕立て100回、スクワット100回、腹筋100回、マラソン10㎞欠かさず行う!そして、精神を鍛えるためにどんな日でも暖房器具や冷房器具を使わない!そして飯の三食はきっちり食う!朝忙しかったらバナナだけでも構わない!これだけだ!」
・・・・は?
「それはないだろう!それだったら私のあの長い月日の修業はどうなるんだ?!!!」
「知らん」
「;;';`;:(;゚; Ж ;゚;;)ブフォ!一蹴されただとぉ?!!」
「おい、なんて顔してやがる」(;゜-゜)
「い、いや?冗談だろう・・・?なんでたったそれくらいでそんな力が手に入れることができるんだ?そんなの、ただの強めの筋トレだろう?それは。冗談はやめてくれ。本当に頼むから、頼むから………」
私は狼狽する。自分の中で何かが崩れていくような音がした。
「依姫様………」
鈴仙が悲しそうな目で私を見る。
「・・・俺は」
男は口を開ける。
「俺は、これ以外に知らない」
次の瞬間、私はその男の胸倉をつかんだ。視界が歪んで、霞んで見えた。
「そんなことないだろ?!そんなに・・・、そんなに・・・、すごい力を秘めてるんだから、もっと何か強くなれる秘訣があるんだろ?!なんなんだよ!なんなんだよ!教えてくれよ!お前、ヒーローなんだろ?!お前にも何か信念とか、そういうものはないのかよ!!なんなんだよ!教えてくれ!この私に!教えてくれよぉ!」
「・・・」
男は困惑したような顔をした。私は崩れ落ちた。
「あぁ・・・あぁ・・・あぁぁ・・・うわぁ・・・・・うぅ・・・・」
嗚咽を吐く。私は泣いた。いつしかぶりの涙だろうか。
男はただ黙って私の背中を撫でた。
私は泣いた。ただ泣いた。悔しかった。
そして気づいた。
ああ、私は、私は・・・
『ヒーロー』に憧れていたんだ
と。
続く