ISー天廊の番竜ー   作:晴れの日

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やっと投稿できましたね。
お待たせしました。って一応言うけど、本当に待ってた人いるのかな?まぁ、暇潰しにでも読んでいってください。


第四話 差異

 ドゥレムディラ。通称ドゥレムは、IS学園の中庭で、日の光を浴びながらのんびりと過ごしていた。

 時間は、あれから三日程経っている。ドゥレムは日本語が格段に上達し、既に日常会話にはなんの支障もないほどに理解していた。また、昨日まで続いた事情聴取も、結果的には彼に何らかの責を求める結果にはならず、むしろ今だ開いている空の亀裂から出てくる可能性のある、未確認生命体。モンスターを撃退するため、IS学園に特例的に駐在する許可を取り付けた。その事に、「流石学園長」と千冬が呟いていたのだが、ドゥレムは別段興味があるわけでもないので、そのまま聞き流していた。

 

「はぁ、お天道様って気持ちがいいなぁ。」

 

 ゴロリと草村に横になったドゥレムは、大の字に寝そべり呟く。つい最近まで日の光を浴びたことのないドゥレムにとって、この光は癒しであり、とても心地良いものだった。そのため、やることのないドゥレムは、日がなこうして時間を浪費している。

 

「ドゥレム。」

 

「ん?一夏か。」

 

 が、毎日この時間帯になると来訪者がいる。彼は織斑 一夏。唯一のIS操縦者であり、IS乗り最強の一角である織斑 千冬の実弟である。彼は、いつもの通り、ドゥレムを昼食に誘おうとしているのだ。

 

「それと、セシリアに箒か。もう午前の授業は良いのか?」

 

「あぁ、今は昼休みだ。」

 

 ドゥレムの問いかけに、少ししかめっ面で答えたのは篠之乃 箒。彼女は四六時中あんなしかめっ面をしていると、ドゥレムは感じている。その裏には少し歪んだ乙女の純愛というものがあるのだが、ドゥレムにはそんなこと知りようもないし、理解も出来なかった。むしろ同じ人間の男でも理解できないものが、人間ではないドゥレムに理解できるはずがない。これはそういうものなのだ。

 

「ドゥレムさんは今日もこちらで日光浴を。」

 

「あぁ。日の光というものを浴びていると、心が安らいでいい。生命の力に満ち溢れる。」

 

 今ドゥレムに話を振ったのは金髪縦ロールで、綺麗な青い瞳を持つ少女。彼女がセシリア・オルコットである。箒とは違い柔らかな笑みを浮かべながら喋る彼女は、社交的な部分を見せてくれる。

 

「ふん。府抜けているというのだ、そういうのを。」

 

「そうか?まぁそのところの価値観はそれぞれだろう。元より、俺と箒とでは種として違うのだから、価値観の差は元より仕方がない部分ではあるがな。」

 

「それはありますわね。まさかドゥレムさんは、食べ物を食べたことがないだとか、隙さえ見せればすぐに服を脱ぎはじめるとか、私達とは明らかに考え方が違う一面は何度か見せられましたわ。」

 

「正直、この服というものはいまだ慣れない。」

 

 そう、ドゥレムは最初。事あるごとに服を脱ごうとしていた。勿論、公然猥褻だとか卑猥だとかの価値観を持たないドゥレムならではの行動だ。確かにこれが海外ならドの外れたナチュラリストと捕らえられるだろうが(それでも勿論犯罪であり、ナチュラリストと呼ばれる多くの人物は、全裸でいても問題の無い場所、つまり自宅やヌーディストビーチなどの場所でそれを行っているハズである)、そういった考え方の少ない日本では、それは明かな奇行であり、純心でそういったものへの耐性がなかった箒は、ドゥレムを毛嫌いする要素の1つとなっているのは明確だった。

 

「まぁ、これを着て過ごすのが人の社会のルールであるならば、従おう。」

 

「で、ドゥレムは昼飯はもう食べた?」

 

「いや、まだだ。」

 

「じゃぁ一緒に食べようぜ。」

 

「構わない。」

 

 多分千冬姉のせいだよな。

 一夏が考えたのは、ドゥレムの高圧的な喋り方である。この喋り方の原因は、彼に日本語を教えていた、自らの姉である千冬のせいだとなかば確信している。喋り方がそっくりなのだ。一夏は少し、頭を抱えたくなった。この喋り方では、いらぬところで敵を作ってしまう。それでは少し生き辛いのだ、人の世は。現に、幼馴染みである箒は、ドゥレムに対していい感情は持っていない。

 論理は飛躍してしまうが、即ちドゥレムと箒の仲違いには、千冬にも原因があるのだと、一夏は考え頭を抱えたくなっていたのだ。これから、少しずつでも、直させていこうと、一夏は胸に誓った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「で、なんでこんなことになってんだ?」

 

「知らん。箒に言え。」

 

「気に入らんのだ!その飄々とした態度が!!」

 

 時刻は既に夕方の5時。場所は剣道場において、ドゥレムと箒が向かい合っていた。事の発端は本当に些細なことからだった。

 昼食の時、ドゥレムの昔についての話になった。一夏達も、その過程は覚えていないが、そんな大したことじゃなかったと、一夏は振り返る。何はともあれ、ドゥレムの過去。侵入者を排除し続けていた無機質な日々の話。そんな中、ドゥレムが言ったのだ「自慢じゃないが、その最後の一戦以外は、俺は無敗だ。」この言葉に火が付いたのら篠之乃 箒である。あとは一方的に喧嘩を吹っ掛ける箒に対して、面倒になったドゥレムが折れる形で、この一戦に至ったのだ。

 

「まったく、彼女は昔からあんななのか?」

 

「ぶっちゃけあんまり変わらないけど、あの時より酷くなっている節はある。」

 

「ごちゃごちゃと喋っているな!行くぞ!」

 

 箒が叫び、竹刀を構える。ドゥレムは箒に目線を合わせ、軽い溜め息を吐きながら、そのまま微動だにしない。その態度が、箒の余計な怒りを買うことは、目に見えていた。

 

「ハァッ!!」

 

 掛け声一息に、ドゥレムへの間合いを詰め、防具をつけている頭に向かい、竹刀を降り下ろす。

 

 バシィン

 

 という乾いた大きな音が、道場内に響き渡る。箒は防具に隠れた顔に、幸悦の表情を浮かべた。響き渡る竹刀の音に、自らの力を誇示でき、怠け者へ鉄槌を下ろせたという満足感が、箒にある種の快感を与えていたのだ。だが、その満足感も一瞬にして瓦解することとなる。打ち込んだ竹刀が動かないのだ。急に現実に戻ってきた箒の意識が、自らの竹刀を確認すると、それをがっしりと握り締めるドゥレムの左手があった。

 

「やるからには、それなりに力を込めるぞ。」

 

 ドゥレムの呟きは、静まり返る道場内に静かに浸透していった。それも束の間。箒は自身の腹部に鈍痛を覚えた。

 蹴られたのだと気が付いた時には、既に竹刀から手を離し、方膝をついていた。そして、がら空きになった背中に向かい、ドゥレムが右手に握り締める竹刀を降り下ろそうとしたその時。

 

「わぁぁ!!ドゥレム!タンマタンマ!」

 

「ん?どうした一夏。」

 

 一夏が、ドゥレムを羽交い締めにする形で、乱入してきた。

 

「どうしたじゃない!今のはルール違反だドゥレム!」

 

「ルール?人の社会には闘争にもルールがあるのか?」

 

「じゃなくて、これは剣道の試合なんだから、最初の箒の攻撃で、お前は一本とられてるんだよ。」

 

「剣道?」

 

 一夏はここで、自らの大きな失態に気が付いた。それもそうだ。元が違うドゥレムに対して、人が試合という形に作り上げた剣の模擬戦を、彼が理解しているハズもない。説明を忘れていたのだ。これは間違いなく一夏と箒のミスであり、彼を責めるのは筋違いなのだが、実際に蹴られた彼女はハイそうですかと納得できるほど、大人になってはいなかった。

 

「貴様ぁ!ふざけるな!」

 

 意味もない激情の叫び。言葉の羅列に意味は乗らず、ただ怒りを乗せていると言うことは良く分かる。

 

「うむ、スマンな。知らなかったのだ、許してほしい。」

 

 元が血気盛んな彼女と、何処と無く冷静な彼の対比は、現状においてまさに火と油。生卵と電子レンジだ。ドゥレムにその気はなくとも、箒の怒りは天井知らずに上昇する。

 それ故なのか、それともまだ彼女の内面が幼いせいなのか、怒りに任せたもっとも短絡的な行動を、彼女はとってしまっていた。竹刀をドゥレムの面に降り下ろしたのだ。

 冷静さの欠片もない、ただただ力任せに振り回す箒の竹刀。恐らく、今この道場の中にいる者ならば、いくら速いとはいえ、出鱈目に振り回すだけの今の箒の竹刀を避けたり、いなしたりすることは出来る。それはもちろんドゥレムも含めてだ。だが彼は、その一撃一撃を正面からその体で受けている。回避しようという素振りすら見せない。

 

「おい!箒!」

 

 だが、箒の怒りに一瞬呆気にとられていた一夏は、現実に戻ると同時に、ドゥレムとの箒の間に割って入り、彼女の竹刀を自らの竹刀で受け止める。

 

「うるさい!なんで私の邪魔をする!どうしてこんなにも思い通りにいかない!」

 

 既に箒は、自身が何故こんなにも激情しているのか、分からなくなってしまっていた。混乱していると言って良いだろう。

 だが幸いか、一夏が介入したことで箒はだんだんと冷静になっていく。冷静にはなるのだが、箒は今のこの怒りの引っ込め方を知らなかった。いや違う。彼女は元から剣道しか知らないのだ。

 『要人保護プログラム』という物がある。平たく言えば、要人の安全を守るために、国が24時間365日対象を保護、監視下に置いた上で、所在地を割り出させないために不定期かつランダムに日本各地に引っ越しをさせる。

 彼女はこの六年間。この要人保護プログラムの元に生活してきた。実の姉が、ISなんて作らなければと何度考えた事か。友達も作れず、両親とも無理矢理引き離され、幼いながらも一途に恋い焦がれた一夏と離れてしまう事には、絶対ならなかったと昔から後悔し続けた。それ故に彼女は、ただひたすらに剣道に打ち込んだ。両親に教わった剣道。友と腕を磨いた剣道。一夏と出会わせてくれた剣道。箒の心の支えは剣道しか無かった。

 そうして高一にまで成長した彼女は、他人との間に壁を作り、人として大切なことを、大人になるために必要なことを教えてもらえないまま。成長してしまっていたのだ。だから彼女は、怒りに任せてしまった。

 

「……気は済んだのか?」

 

 微動だにせず、ドゥレムは呟いた。

 

「っっ!!」

 

 箒の味わったものは、圧倒的な敗北感。試合どうのこうのではない。怒りに飲まれ、我を忘れてしまった羞恥心からくるそれだった。彼女は、ドゥレムから逃げるように、剣道場から駆け出してしまった。一夏は、一瞬迷うような素振りを見せた後、「すまん!後で落とし前はするから!」と言い残し、箒を追いかけて行った。

 

「……悪いことをしたな。」

 

 残されたドゥレムは、ボソリと呟き、頭をボリボリとかいた。

 彼は、結局箒の怒りの原因は、全てあの蹴りに起因するものだと考えている。だが、実際の理由はまったく違うし、ここで仮に彼が心の底から謝罪したとしても、このことは解決しない。これは、彼女自身の心の内で解決しなければならないことなのだ。それを理解するには、ドゥレムはまだ人という物を知らなすぎた。

 

「あ、あの。」

 

「ん?」

 

「大丈夫?」

 

 ドゥレムに話し掛けてきたのは、先の事を遠巻きに見ていた剣道部部員の一人だった。少し怯えた目をしているのは、仕方ないことだろう。

 

「あぁ、別段大したことじゃない。気を使わせてしまったようですまない。」

 

「い、いえこちらこそ!部員が失礼しました。」

 

 彼女は、一夏達の一つ上の二年生だと言う。少し小柄な風体のせいで一瞬、勘違いしそうなものだが、山田 麻揶という例を思い出したドゥレムは、見た目で人の判断は出来ないなと考え直す。

 

「あっ、そう言えば防具のはずし方は分かる?」

 

「いや、申し訳ないが手伝ってくれると助かる。」

 

 防具を着るときも、一夏に手伝って貰っていたことを思い出した彼女が、ドゥレムに聞いたところ、案の定というか、防具のはずし方を心得てはいなかった。「じゃぁ、背中を向けて。」という、彼女の指示に従い背中を向け、防具をはずしてもらう。何か会話があるわけではない。彼女は、普段あまり接したことの無い男の大きな背中に、少し驚き、彼は気の利いた言葉を投げ掛けられる程の言葉を持たない。

 気まずさを感じているのは、彼女だけだ。ドゥレムは、走っていってしまった一夏と箒のことを考えているのみであった。

 

「お、終わったよ。」

 

「ありがとう、助かった。じゃぁ俺も二人を追いかけてみる。」

 

「あっ、まだそれは止めた方が良いよ。」

 

「どうしてだ?」

 

「え?えぇと。それが気遣いだからかな?」

 

「気遣い………。そうか、了解した。なら俺はこのまま自室に戻る。騒がせてすまなかった。」

 

「あっそんな気にしないで良いよ。」

 

「あぁ、じゃそろそろ。」

 

「あっ待って、最後の最後であれだけど、私は佐山 現(サヤマ ウツツ)。貴方は?」

 

「俺は、ドゥレムディラ。ドゥレムで通ってる。じゃぁ、またその内に。」

 

 言い残し、彼もまた剣道場から出ていく。

 日は既に傾き、夜が刻一刻と迫ってきていた。

 ドゥレムは、なんとも言えないもどかしさが胸の奥に詰まっていた。原因は分かっている。だが、それをすることは違うのだと教えてもらった。

 

「気遣いか……人とは本当に度し難い。」

 

 彼の胸中を占めるもどかしさの原因は簡単だ。今一夏達と会うのが得策ではない理由が分からないのが原因なのだ。彼は人の心中を、こうして学び少しずつ理解していくのかもしれない。そしていつか、本当の意味で彼が人を理解したとき、どうするのか、決して相容れない存在として壁を置くのか、共に歩める存在として受け入れるのか。まだ、誰にもそれは、分かり得ない。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「箒!待てよ!」

 

 一夏は、剣道場から走って逃げ出した箒を追いかけ、生徒寮の近くの広場まで来ていた。

 

「ハァッ、ハァ、ハァ……うっ、ゴホッゴホッ!うぇ!ごほっ!」

 

 全力疾走をここまで続け、尚且つまともな精神状態ではない箒は疲れ果て、とうとう足を止め手を地面に着いた。レンガで模様が描かれたその地面に、箒の汗だか涙だか涎だかが垂れ落ち、濃い色に塗り替えていく。

 

「オイ!箒大丈夫か!?」

 

 駆け寄り、咳き込む彼女の背中を擦る一夏。実の所、一夏は箒に対してかなりの違和感を抱えていた。それはこのIS学園で、はじめて言葉を交わした時から感じていた違和感であった。そして今日。その違和感の正体を肌で感じた。見た目は美しい女性に育ったが、中身が、精神的な部分が子供のままなのだ、ドゥレムの一件での癇癪や、この逃亡がいい例だろう。

 彼の中では、このことの原因の予測はついていた。箒が転校してしまった日、その時の担当の教師にしつこく確認した時に、用心保護プログラムなる単語を彼は聞き逃さなかったのだ。故に一夏はこれまでの箒の人生がどんなものか想像できてしまったのだ。




いい加減、パソコンが欲しいなぁって思うんですが、なかなか買えないというか、買う踏ん切りがつかないというか、でもこうスマフォで書いてると、ラグが酷すぎてストレスが溜まるのですよ。
多分バッテリーの寿命なんだろうけどね。

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