ISー天廊の番竜ー   作:晴れの日

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ただいまぁぁああ!!!

そしてお待たせしてすんませんしたぁぁっっ‼


第六話:神隠

「旨かった。」

 

「うん、良いネタ使ってたな。アサリの味噌汁も絶品だった。」

 

 海鮮屋から出てきた二人は、とても満足していた。オススメと云うだけあって、海鮮丼の具はどれも新鮮で、旨味を確りと抱いた味だった。卓上にあった自家製醤油がこれまた絶品で、思わず一夏は、一本700円もする醤油を買ってしまっていた。自分の固い財布の紐をほどかせたのだ、この醤油は間違いなく本物だと、一夏は確信して疑わなかった。

 そしてなによりも、アサリの味噌汁。これが一夏にとって最高の一品だった。アサリの旨味に味噌の風味、どれをとっても不満が浮かばないほど、一夏はあの味噌汁に惚れ込んでいた。

 海鮮屋大旗(たいき)。一夏は、鈴と蘭、弾を連れ、またこの店に来ることを内心静かに決心した。

 

「それで、次はどうするのだ?」

 

「まぁ、このショッピングモールの中で買い物かな。そうじゃないなら、ゲーセンか映画。とりあえず、ゆっくり見て回ろう。」

 

 二人はまず、映画館に足を運んだ。映画を見るなら、先に何を見るか決めて、チケットを取っておく事にしたのだ。ラインナップとしては、邦画が三本、洋画が四本であった。洋画はアクション物三本とミステリーで、邦画は良くあるアイドルを起用した恋愛物二本に、ホラー映画だった。

 

(ホラー映画は勘弁してくれよぉ)

 

 なんて事を一夏は内心願っているが、対してラウラは、祖国を発つ前に自身の部下であるクラリッサの言葉を思い返していた。

 

『隊長、かの国に降り立ったならば、是非とも日本のサブカルチャーにも触れて頂きたい。特にアニメやマンガ、ライトノベル……それにジャパニーズホラーは是非一度見ていただきたい!(その見ている様子を、叶うことなら横から眺めていたい!やべっ…想像したら涎が…)』

 

 何故だろう。自分を敬愛してくれる、家族のような優秀な部下を思い出しただけなのに、彼女は寒気が止まらない。

 ひとまずラウラは、邦画の恐怖映画である、『神隠し』を一夏に提案する。

 さぁ、ホラーは勘弁と願っていた一夏からすれば、最も見たくない映画の一つ。近年、欧米と同じようなパニックホラー化していた日本の恐怖映画だが、『神隠し』は原点回帰を銘打ち、精神的に来る恐怖、スプラッタ表現一切無し。だが、今世紀最大の恐怖と宣伝している。しかし、その評判は最悪だ。というのも、怖すぎるからである。

『この映画のせいで、一人で個室トイレに入れなくなりました(29歳女性)』

『毎晩毎晩、映画の夢を見るせいで、寝起きが最悪です(42歳男性)』

『見る価値はある、しかし一生恐怖を背負う必要がある。(映画評論家)』

 ホラー映画とすれば、この反応はむしろ好評価なのだろうが、いくらなんでも見たくなくなる。大の大人が一人でトイレに行けなくなったり、毎晩うなされたり、とても尋常とは思えない。一夏からすれば、なんとかしてこの映画だけは避けたいところだった。

 

「どうした、チケットを買わないのか?」

 

 しかし、ラウラはもう列に並んでいる。小首を傾げ、一夏の事を待っていた。が、青ざめた一夏の顔を見て察したのか、彼女は悪い笑顔を浮かべる。

 

「なんだ、怖いのか。そうかそうか。じゃぁ仕方ないなぁ、別の映画にするか?」

 

 今世紀最大のドヤ顔。

 そう銘打っても差し支えない、良い顔をしてラウラが一夏をからかう。当然一夏も男だ、妙な反抗心に燃えて、「怖くなんかねぇ、映画なん屁でもない」と意地を張り、列に参入する。

 流石に休日ということもあり、かなり長蛇の列だ。家族連れやカップル、熟年夫婦にご老人。老若男女問わず多くの人々が、これから観る映画に胸を踊らせていた。五分ほど経ち、二人がレジの前にやって来る。レジの数は五つ。その真ん中で、一夏達はチケットを購入する。

 

「いらっしゃいませ。本日はどちらの映画をご希望ですか?」

 

「神隠しで。」

 

 違和感を覚えた。一夏が『神隠し』の名を口にした瞬間、突然音が消えたのだ。さっきまで、五月蝿いくらい喧騒が響いていたのに、喋り声がしない。

 

「いやぁっ!もうやだぁ!」

 

 突然の悲鳴。驚いてそちらを見れば、大学生のカップルだろうか、女性が頭を抱え半狂乱になっていた。男性の方が、「大丈夫、俺たちが観るわけじゃないから!」と彼女を落ちつかせようとしている。しかし、その表情は真っ青だった。

 良く良く見れば、体を小刻みに震わせ、恐怖と戦っている者。泣き出す者。連れ添い人に抱き付く者。多種多様だったが、皆一様に怯えていた。

 異常と云う他ない。

 

「か、神隠しですね。お時間の方が、六時からの上映に限定されていますが、よろしいですか?」

 

 店員の案内に反応し改めて、一夏は映画の上映予定を確認する。神隠しは夕方の六時からのみ。上映終了が八時となっている。気になるのは、神隠しの上映予定はその一回だけだった。前の時間も予定無しで、明日も明後日も、ずっと夕方の六時固定のようだった。もし、これも演出の一つなら、趣味が悪いと云う他ないだろう。

 

「では、座席をお選び下さい。」

 

 レジの横のディスプレイに、シアターの座席が映し出される。が休日にも関わらず、一つも埋まっていない完全な空席だった。それがより一層、不気味さを冗長するようだった。

 

「お、空いているなぁ。さて、何処にするか……。」

 

 暢気にラウラは、座席を選んでいる。やがて、何故か右端の上から五段目という中途半端な席を選んだ彼女。当然俺達は隣同士だ。

 レジを後にし、六時まで何をするかとラウラが話す横で、思いきって尋ねてみた。何故、あんな中途半端な席を取ったのかと。

 

「……そういえば……何でだろうな。」

 

 彼女も、指摘されて初めて気が付いたらしい。全部空席だとは分かっていたのに、何故か他の席は選べなかった。その理由は、彼女自身も分からなかった。だが、「さして気にすることでも無いだろう」と彼女は言い切り、ショッピングモールの中を散策していく。

 やがて時間が迫り、二人は映画館へと足を伸ばす。ラウラが、NO MORE映画泥棒に面食らったりしていたが、午後六時きっかりに、『神隠し』の上映はスタートした。

 そして八時。寮の門限まで残り一時間というタイミングで、二人は映画館から出てきた。

 映画が始まる前、始めて観るホラー映画に、少しばかり心踊らせていたラウラと、前評判からかなり気の沈んでいた一夏だったが、出て来た二人は入った時と一変していた。

 ラウラよりもダメージの小さかった一夏ですら、顔面蒼白で生気の抜けた眼をしている。ラウラに到っては、一夏の腕をギュッと掴んみ、目を固く閉じたまま一夏を頼りに歩いている。

(因みに、気配を消して一夏とラウラ二人を監視していた千冬も、追跡する身の上から神隠しを観賞したのだが、二度と見ないと吐き捨て、しばらくの間不眠症に悩まされることになる。)

 

「ら、ラウラ。大丈夫だよな、居るよな?」

 

「…大丈夫、だ。絶対に、…絶対に離さないから、お前も私から離れないでくれ……。」

 

 まだ明るいショッピングモールから出てもいないし、自身の腕に抱き付いているラウラの存在を確認するところを見るに、一夏も相当参っているのだろう。二人は、時間も時間だからとこのままIS学園に直通のモノレールに乗るため、歩いて10分程度の駅へと向かうことにした。ラウラは、宣言通り決して一夏の腕から離れない。

 と云うのも映画『神隠し』は、その名前の通り登場人物が一人、二人と次次に失踪していくのだが幽霊が出てくるでも、残酷な描写があるわけでもない。ただただ消えていく。主人公である二人の警察官は、連続失踪事件として真相に迫るが、判ったことは人間の仕業ではないということ。『神様』と呼ばれる存在の気紛れで、崩壊していく人の心をただただリアルに描いていた。最後には、主人公の残った1人が老人となり、『神隠し』の真相をその身で味わうというのがオチ。後味のすこぶる悪い映画というのが、一夏とラウラ。それに千冬の率直な感想だった。

 

「日本の映画は……こんなにも趣味の悪いものだったのか……。」

 

「コレは特殊な例だ、今度となりの○トロを見よう。」

 

 ラウラの、間違った日本映画観をこのままにしてはいけないと、一夏は決意を新たにした。

 二人は、そのまま口数少なくくっついて歩いている。駅に着き、モノレールを待つ間も会話はない。ただ、ラウラは一夏の腕から離れはしなかった。

 この時、彼女は今回の目的をすっかりと失念していたらしい。ただただ不安で、一夏に抱き付いていないと、どちらかが神隠しに会ってしまうのではないかと、本気で怖がっていた。つまり、一夏に謝罪しなければいけないという条件が、すっぽりと頭から抜け落ちていたのだ。

 そのままやって来たモノレールに乗り込み、何事もなくIS学園まで戻ってきた二人は、各々の自室にそのまま戻っていく。

 

「あっ、一夏お帰り。」

 

 自室に戻った一夏を出迎えたのは、何故かスカートを穿いたシャルルだった。その顔は少し赤く、立派な胸の膨らみもあった。一夏がラウラと出掛けていた間に、何かあったのは確実だろう。そう、シャルル・デュノアは本当は女性だったのだ。彼女は、一夏にどんな反応をされるか、内心ビクビクして過ごしていたのだが、一夏は「ただいま。」と短く答えただけで、そのまま布団に倒れ込んだ。

 

「え?…あ、あの一夏。わ、私の格好見てなんか言うことない?」

 

「ゴメン。明日起きたら全部まとめて突っ込み入れるから、今日は休ませて。」

 

「え、……えぇ…。」

 

 シャルル。否、シャルロットは自分が不安に思っていたのが馬鹿らしくなるような一夏の態度に、思わず言葉を失ってしまっていた。

 

コンコン

 

 だが、急なノックの音に一夏はガバッと反応する。シャルロットはシャルロットで、今の自分の格好を見られるのは、一夏にとって良くないと悟り、急いで布団に飛び込みスカートを隠す。一夏も、そのシャルロットの様子に頷きつつ、玄関へ向かう。だが、彼のその内心は映画のせいで妙な緊張感に苛まれていた。

 ドクンドクンと、心臓が早鐘を打つのを一夏は感じながらドアノブに、ゆっくりと手を掛ける。

 

「……その、織斑一夏……。」

 

 ソコには、灰色一色の寝巻きに着替えたラウラが佇んでいた。一夏は直ぐに「どうした?」と尋ねると、彼女はとんでもないことを口走る

 

「……映画が頭から離れん。その…一緒に寝てはくれんか?」

 

「えぇぇぇっ⁉」

 

 一番早く、一番先に驚いたのはシャルロットだった。あの一夏大嫌いです感全開のラウラが、なんだその可愛らしい台詞はと目が飛び出さんばかりに仰天していた。

 

「あ、あぁぁ。だけど俺と同じベッドじゃなくて、シャルルと同じベッドの方が良いだろう。」

 

 一夏は何を言っているのかな⁉

 シャルロットは、声に出掛けた言葉をグッと飲み込む。しかし、今ラウラが女子の格好をしているシャルロットを見ればどんな反応をするのか。

 部屋に入ってきたラウラが、小柄な体で枕を抱き締めながら入室する。シャルロットは、それを少し青い顔で見守る。

 

「しかし、何故デュノアの方なのだ?」

 

「シャルルは実は女の子だったみたいだからな。」

 

「なぁんで、そんなホイホイ喋っちゃうんですかねぇえ一夏さぁん⁉」

 

 無神経等では説明できない理不尽が、彼女の秘密を事もなく晒した。だがラウラは驚いた様子もなく、「なんだ、バレたのか?」と事も無げに云う。

 

「ウェッ⁉知ってたの⁉」

 

「ドイツ軍の諜報力を嘗めるなよ。男のIS適合者となれば、その身辺を徹底的に調べ上げるに決まっているだろう。」

 

 自慢気に言い切りながら、ラウラはシャルロットの布団にもぞもぞと入ってくる。シャルロットはシャルロットで、自分の努力が最初から無駄だったのだと気が付き、涙目で落ち込む。

 

「というか、ラウラはなんで此方の部屋なの?ルームメイトと一緒に寝れば良かったんじゃ?」

 

 シャルロットは、もっともな疑問をラウラに投げ掛ける。

 

「……居ないのだ。私達が編入する前に退学してしまい、実質1人で部屋を使っていたのだが……映画の恐怖が頭から抜けん……。」

 

「……一夏、いったいなんの映画みせたの?」

 

「俺じゃねぇ。ラウラが見たいって言ったんだよ。神隠しっていうホラー映画。」

 

「一時期話題になった作品だね。そんなに怖かったの?」

 

「「怖かった」」

 

 コレは相当のものだったのだろうと、シャルロットは察すると、ラウラがシャルロットの胸に顔を沈め、抱き付いてくる。

 

「ウェッ⁉ら、ラウラ⁉」

 

「すまない……何処にも行かないでくれ。私を行かせないでくれ。」

 

 完全にトラウマと化していた。だが、だがしかし、シャルロットはそのラウラの行動を外面は母性的に優しく抱き締め、「大丈夫だよ」と声を掛ける。では、その内面を少し覗いてみよう。

 

 あぁ~、可愛いんじゃぁ。もうマジ無理、私の娘にする。

 

 ………はい。

 朗報(?)シャルロット・デュノアが母性に目覚めました。




無事退院しましたが、期間が長かったために携帯契約切れてて焦ってました。

とりあえず、またのんびり再開しますので、これからもご贔屓のほどよろしくお願いいたします‼

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