Hightension School Jo×Jo   作:尾河七国

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……これ第5部というより第4部でしょ?

そんなテイストになりましたが、お久しぶりの外伝、どうぞ。


外伝その②《黄金の風》

 ━━━━━━2004年、イタリア。

 

 ギャングスターになるべく、パッショーネに加入した少年「ジョルノ・ジョバーナ」。彼は仲間のブローノ・ブチャラティらと共にボスの娘・トリッシュの護衛任務にあたっていた。その最中ボスの思惑に気付いた彼は仲間と共に組織を裏切り、ボスと対峙する道を選んだ。

 

 様々な追手との死闘、仲間の死を経て、彼等は遂にパッショーネのボス・ディアボロと対峙する。

 最強のスタンド『キングクリムゾン』の能力に苦戦を強いられ絶体絶命の中、ジョルノは手にした矢で自らのスタンドを貫く。新たな力『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』を引っ提げ、見事ディアボロを永久に死に続ける地獄へ落とすことに成功したのだった。

 

 

☆☆☆

 

 

「……っはぁ~ッ! 駄目だ、全然手掛かりがねぇ…」

 

 

 DISCを隈無く調べた結果、見えてきたのはスターダスト・クルセイダーズの物語で承太郎が関わった案件ばかりだった。

 

 空条承太郎の姿をした何者かと遭遇から三日後。丈城は彼が消え去る直前に回収したDISCを調べていた。だが内容は漫画やアニメで承太郎が絡む出来事しかなく、特にこれと言って手掛かりが得られず仕舞い。

 

 

「この世界で久しぶりに第三部見れたのは…まぁいいとして、今はそれが知りたいんじゃねぇんだよ。なんで承太郎さんのニセモノがいきなり襲ってきたのかが知りたいんだっての」

 

 

 DISCをぐにゃぐにゃといじってみるが、それで内容が出てくる筈もない。結局唯一の手掛かりである筈のDISCもスカだった。部屋の中央に大の字寝転がり、丈城は若干苛立ち混じりに考え始める。本当はこんな事で解決すればいいのだが現実はそううまくいかない。

 

 すると、彼の視界に紅が写り混んだ。

 

 

「どうしたのかしら? ジョジョ」

「……リアか」

 

 

 寝転がる彼を覗き込むように、リアがいつもの笑みで話しかける。このままの状態も話す体勢としてはあれなので、丈城はむっくりと起き上がる。

 

 

「いや……少し考え事してた」

「それにしては貴方らしくないじゃない。声のトーンも低いし、覇気がないわよ?」

「……お見通し、ってとこか?」

「半分くらいわね。この前だって同じようなテンションでいたから。……何かあったの?」

 

 

 彼のとなりに座り、寄りかかりながら事情を聞き出そうとするリア。このままはぐらかす事は可能である。しかしそれでリアが納得しないのは丈城も知っている。

 

 

「……ちと長くなる。あともう一つ、俺自身も何が起こったのか完全に理解しているわけじゃない。それを承知で聞いてほしい」

「……解ったわ」

 

 

 迷った結果、丈城はリアに承太郎が襲撃してきたあの事件の詳細を話したのだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「そう、丈城以外のスタンド使いが……ね」

「俺自身、何がどうなってこうなってんのか訳がわからねぇ。別に他のスタンド使いがいる可能性だって考慮できる。だけど今回の事に関してはさっぱりだ。謎だらけで頭がパンクしそうだぜ」

「再起不能になってその場に倒れているならまだしも、消えたっているのが引っ掛かるわね……一体正体は何なのかしら」

 

 

 互いに背中合わせでもたれ、言葉を交わす二人。流石のリアもこの異常現象が起きた事には驚いたようだった。

 

 

「……三大勢力の話し合いも近々迫っているし、ひょっとしたらそれを狙った何者かの仕業も考えられるわね。何処かの隠れたスタンド使いを見つけてきたのか、あるいはジョジョの戦いを見て模造した神器(セイクリッド・ギア)の類い……可能性は十分ありそうね」

「スタンドに似た神器……か」

 

 

 まず前者はあり得ない。ここは悪魔やら天使やら存在するファンタジー寄りの世界ではあるが、スタンドとは全くの無縁な世界。自分以外のスタンド使いは存在しない筈である。………多分。

 

 様々な可能性が浮上する中、冷房代わりで開けていた窓の隙間から何かが入ってきた。入ってきたそれはリアの使役するコウモリで、何やら大慌ての様子。コウモリを指の上に着地させて話を聞くと、直後にリアの顔が青ざめ始めた。

 

 

「なんですって!? 街の方に!? ……解ったわ、すぐ向かいましょう!」

「……? どうした? はぐれでも出たか?」

「いいえ。はぐれよりもタチが悪いわ。全く、噂をすればやってくるとはまさにこの事ね……」

 

 

 いつにないリアの慌て様に疑念を抱く丈城。そして次の瞬間、彼女の口からとんでもない報告がもたらされた。

 

 

「……街から急に人がいなくなって、その代わりに突然現れたそうよ。貴方以外にスタンドを使う何者かが、ね……」

「ッ!?」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

 

 彼女━━━アーシア・アルジェントは混乱していた。

 自分の命を救ってくれた恩人である兵藤丈城の持つ力は理解しているし、彼の持つ精神力があのようなとてつもない力を制御していることも当然理解している。そしてそれはいつも自分や彼自身、オカルト研究部の人達に悪意を向ける者達に対して振るわれる事が多い。

 

 

 だが一度も考えたこともなかった事がある。いや、想定すらしていなかっただろう。

 

 

 その力が、その矛先が、よもや自分自身に向けられることなど……。

 

 

「ッ!?」

「君に戦意がないのはわかっている。それでも、君をおめおめと逃がすわけにはいかないんだ」

 

 

 それが今現在彼女に降りかかっている災難である。

 

 アーシアは彼とは初対面。面識などありはしない。ぶっちゃけ何かしたとかいう記憶もないのだ。よって襲撃を受けるほどの心当たりもない。しかし向けられているのは紛れもない殺意。混乱に陥るのは最早必至だった。

 

 

「………………ッ!!」

 

 

 声も出ない。だが助けを呼んだとしても、駆けつけてくれそうな人影はない。今更だが人間とすれ違った記憶もない。つまり、ここにアーシアを助けてくれる人間は無に等しいのである。

 

 

「悪く思わないでくれ。これも全部……『僕の夢のため』だ」

 

 

 一歩……また一歩と、男は近づいてゆく。その隣にアーシアの想い人と同じ力を存在させながら。彼女は藁にもすがる思いでその場で十字を切り、祈った。無論主である神に。そして……思いを寄せる人に。

 

 

(お願いです……来て下さい! ジョジョさん……!!)

 

 

 襲いかかる人物は既に眼前。もう駄目かもしれないと思われた……正にその時。

 

 

「うおあぁぁぁあああおおお!」

「「!!」」

 

 

 バギーのエンジンともとれる音を轟かせ、向かって左側の曲がり角から巨大な犬のような二人に向かって突進してきた。変幻自在な砂のスタンド『愚者(ザ・フール)』である。

 

 

「リア、アーシアを頼む!」

「わかったわ。掴まって!」

「は、はいぃっ!」

 

 

 その背に乗っていた丈城がリアに救出を要請し、すれ違い様にアーシアの手を取って愚者の背へ乗せた。一方の襲撃者は突然の乱入と舞い上がる砂埃に目を覆い、追い詰めたアーシアをみすみす逃してしまう。

 

 

「あっぶねぇっ、ギリセーフだな! アーシアは?」

「大丈夫みたい。よく持ちこたえたわね! 偉いわよ、アーシア」

「はいぃ、怖かったですぅぅ」

 

 

 少し距離をおいて停車し、愚者を解除。改めて丈城達は襲撃者の方を睨み付ける。

 

 

(やれやれ…二人目のスタンド使いはコイツか! しんどいしやりづれぇ相手だぜ……)

 

 

 金髪に前髪のカールヘアー、紺を基調とした衣服や天道虫のブローチを身につけた少年。それは若くしてギャングスターの道を選び、悪の帝王・DIOを父に持つスタンド使い『ジョルノ・ショバァーナ』だった。やはり前回と同じくご本人襲撃事件。こうくればやることはたった一つしかない。

 

 

「二人は下がっててくれ。スタンド使いなら俺の専売特許だ! ぶちのめしてやらぁ!」

「ええ、気をつけて!」

「頑張ってください!」

 

 

 エールを受けて俄然殺る気を増し、丈城は指を鳴らして言い放った。

 

 

「俺らがあんたの言う"追手"ならそう呼びなッ。最初から話が通じねぇンなら戦うことに集中すればいいだけだ!」

「そっちがその気なら僕だって最初からそのつもりさ。僕の夢のために……あんた達を倒す!」

 

 

『ゴールド・エクスペリエンス』と共に迎え撃とうとするジョルノ。だがその気高い精神は所詮オリジナルの複製品。叩けば壊せると考える丈城は先制攻撃に出た。

 

 

「やってみろッ、こンのパチモンがァッ!!」

 

 

 丈城は最初にゴールド・エクスペリエンスの攻略に出た。ゴールド・エクスペリエンスは殴った物体に生命を宿すが、生物を殴った場合意識が暴走させる能力を持つため、これを封じる必要がある。そのためまずは『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を展開してジョルノに殴りかかった。

 

 

「くっ、ゴールド・エクs「かかった! 『キング・クリムゾン』!!」ッ!?」

 

 

 予測通りスタンドで防ぐために腕を交差させようとした。その瞬間丈城が仇敵ディアボロのキング・クリムゾンを発動。驚く間も与えられず強制的に丈城のターンとなった。しかし使用したはいいが、すっ飛ばした時間のなかでは攻撃が封じられている。そこで丈城はそのまま足を止めてジョルノの防御が終了する瞬間まで待機。ゴールド・エクスペリエンスの腕が3分の2程下ろされたタイミングで時間を再始動した。

 

 

「いっ…今のはッ!…ボスの……はっ!」

「ボディはいいが腕の方がお留守だぜ! 『スティッキィ・フィンガーズ』!!」

 

 

 しゃがんで視界から外れていた丈城がアッパーの要領でゴールド・エクスペリエンスの腕を狙い、ジッパーで肘から下を切断。塀の上へ蹴り飛ばした。

 

 

(こいつ……どうしてブチャラティやボスの…ディアボロのスタンドを使えるんだ!? )

 

 

 衝撃のマシンガンに思考が全く追いつけていないジョルノ。だが自らの能力が封じられたことは一番把握しているらしく、ゴールド・エクスペリエンスの腕を見て苦虫を噛み潰したような顔をする。

 一方能力を封じた事で有利になった丈城はすかさずラッシュを繰り出し、更なる追い討ちを試みる。

 

 

「もらったァッ! 『アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリィッ!!』」

「くっ! 『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!』」

 

 

 ところが拳が無理ならと、ジョルノはまさかの足でのラッシュで応戦。その力量はほぼ互角。展開が全くわからない。

 

 

「部長さん…あの方は一体?」

「わからないわ。でも少なくともジョジョと同じスタンド使いであることは間違いないみたい。不思議なのは、彼がどうしてジョジョと同じスタンドを持っているかということぐらいね」

「確かあのスタンドは、レーティングゲームでライザー様を倒した……」

「ゴールド・エクスペリエンス……黄金の経験、ね…」

 

 

 戦う二人の姿をポストの影からそっと覗くリアとアーシア。これまでにもスタンド使い対人外の戦いは見たことがある。しかし目の前で繰り広げられているのは、紛れもないスタンド使い…もとい人間同士の戦い。誇り高き者同士の勝敗が知れないのだ。

 ラッシュが続いてから数十秒後、ここでジョルノが動きを見せた。

 

 

『無駄ァッ!!』

「うおっと!?」

 

 

 それまで蹴りを放っていたゴールド・エクスペリエンスが、いきなり不意打ちとばかりに踵落としを繰り出したのだ。流れの急変に驚いた丈城はギリギリで回避したものの、一瞬の隙を作ってしまった。

 

 

「! ヤベッ、本体が逃げる!!」

 

 

 踵落としに気をとられている隙にジョルノが電柱を器用に登って塀の向こうへ姿を消してしまう。その瞬間丈城は悟った。その塀の向こうにあるものは…

 

 

(いや違う! ジョルノの奴、腕を戻す気だ! 自分の能力を解き放つために!!)

 

 

 焦った丈城はジッパーで塀を抜けて先回りを図る。だがこの判断によって、運は彼に背を向けてしまった。

 

 

『無駄ァッ!』

「ぶぐぅっ!? し、しまっ…たァ…ッッ!」

 

 

 ジッパーが開いた次の瞬間、中から拳が飛んできて丈城の顔面にクリーンヒット。直後意識が暴走を始め、恐れていたゴールド・エクスペリエンスの能力が発動してしまった。惜しいことにジョルノの両腕接合の方が一手上を行ったのだ。

 

 

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!』

「うばああァァァァ━━━━━━━━━━━ッッ!!」

 

 

 痛覚が増した状態のラッシュは超がつくほどの激痛を伴う。チョコラータ程ではないものの、丈城は復活したゴールド・エクスペリエンスの拳を受けてぶっ飛ばされてしまった。

 

 

「「ジョジョ(さん)!」」

 

 

 アスファルトで一回バウンドし、リア達のいるポストへ叩きつけられた丈城。二人はまさかの劣勢に驚愕しつつ、彼に駆け寄り介抱する。

 

 

「あ━━━━━だだだだだっ! い━━━っで━━ェェな━━畜生ッ!!」

「ジョジョさん、しっかりして下さい!」

「みょええええっ!? ア、アーシアァッ、やめてっ! ちょっち今だけはあだだだだだッ!?」

「はううぅっっ!? すっすみませぇぇん!」

 

 

 全身にラッシュの影響が残り、その激痛から丈城は悶絶。『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』で回復を試みたアーシアだったがうっかり手が触れて大ダメージが追加されてしまう。これでは手がつけられない。

 丈城をこんな目に遭わせられ、ここでリアの怒りが一気にヒートアップ。ジョルノの前に立ち塞がった。

 

 

「あなた…よくも可愛い私の契約者をこんな目に遭わせたわね。例えスタンド使いであっても、ジョジョを傷つけることは万死に値するわ!!」

 

 

 麗しい紅の髪は同色のオーラとともに揺らめき、彼女の怒りを象徴している。だがそれだけの敵意を向けられているにもかかわらず、ジョルノは毅然とした態度で対峙する。

 

 

「あなた達…"覚悟してきてる人達"…………ですよね。人を始末しようとするってことは、逆に"始末"されるかもしれないという危険を常に"覚悟してきてる人達"ってわけですよね…」

 

 

 ゴゴゴ…と互いに睨みあう両者。譲る素振りは見られない。

 

 

(不味い……俺達を殺る気だ。マジだ……ニセモノのくせに俺達を始末しようとしてやがる……ウソだとは思えない! コイツにはやるといったらやる"スゴ味"があるッ!)

 

 

 痛みを堪えながら、丈城はリアに目を向けた。悪魔であるリアなら滅びの一撃で事足りる戦いだ。しかし怒りは時に自らの枷となりうる。もし彼女が周りを把握できない程怒っているのであれば、先に冷静さを取り戻させるのが先決だ。

 加えてこのジョルノは前回同様、最終決戦時のステータス持ちと考えていい。もし『矢』を使われてしまえば一気にこちらが不利になってしまう。

 

 とどのつまり、今回の勝利条件は三つ。ゴールド・エクスペリエンスの能力をこれ以上食らわない事、矢を使う暇を与えない事、そしてジョルノの覚悟を上回る程の精神力をもって挑む事、である。

 

 

(俺が戦ってもいいが……能力の影響で痛みが引くよりも先に負けるかもしれない……。危険な賭けだが、この状況で戦えるのはリアしかいない! この際だから試してみるか……!)

 

 

 丈城は前々から考えていた新境地を試すべく、リアに小声で呼びつけた。

 

 

「…?」

 

 

 声に気が付いたリアはジョルノの動きを警戒しつつ、丈城の元にしゃがむ。

 

 

「どうしたの? ジョジョ」

「現状、ゴールド・エクスペリエンスに挑めるのはリアしかいない。だがあのスタンドは自分自身でも厄介なスタンドの一つだ。油断すればライザーや俺みたいになる。やるなら奴の攻撃には十分注意しろ」

「わかったわ。そr」

「あ、あともう一つある。使えるかどうかわからないけど、これ貸してやる。『ホワイトスネイク』ッ、俺からスタンドのDISCを抜き取れ!」

 

 

 その声と共にホワイトスネイクが出現。丈城の頭に手をかけて、とあるスタンドが映ったDISCを抜き取った。が、その反動で頭を塀にぶつけて再度悶絶。余韻も重なって動けなくなってしまう。

 

 

『……トリアエズ、自己紹介ハ省イテオキマショウ。コレヲドウゾ…』

「え、えぇ…。どうも」

 

 

 リアはホワイトスネイクからDISCを受け取った。

 

 

「何これ…CD? にしては柔らかい……」

『ソレハ"DISC"。タッタ今、兵藤丈城カラ抜キ取ッタ"スタンドガ記録サレタDISC"デス。ソレヲ使ッテ、アノスタンド使イヲ倒スノデス』

「ス、スタンド!? 私がスタンド能力を!?」

『心配ハイリマセン。吸血鬼ヤ動物デモ扱エルノデスカラ、悪魔ニモキット……。デハ』

 

 

 それだけを言い残しホワイトスネイクはその場から姿を消した。

 正直リアは丈城の言いたいことを理解していた。恐らく「自分のスタンドを貸すから、あのスタンド使いを倒してくれ」という意味合いでこのDISCを託したのだろう。しかしいきなりスタンドを使えと言われたところで使える訳がない。覚悟より動揺の方が勝っていた。だが現状戦えるのは自分しかいない。

 

 

(確かに丈城の代わりに戦うつもりでいた……。でも彼の力まで使役するなんて想定外よ! スタンド能力は時として諸刃の剣と化す。能力が悟られれば形勢逆転される事も。見方によっては大きなリスクが伴う選択肢……でも!)

 

 

 チラリ、と悶絶する丈城を見るリア。

 

 

(あなたは今まで、私達眷属を信じて手の内を明かしてきた。それはかつてジョジョが口にした"信頼"の証! だから彼はスタンドを私に貸し出した。なら…このリアス・グレモリーには! その信頼に応える義務があるッ!)

 

 

 彼女は未知なる力を受け入れることを決意。立ち上がり、託されたDISCを自らの頭に挿しこんだ。

 刹那、リアの頭の中にとてつもない量の情報が雪崩れ込んできた。その内容は記録されたスタンドの概要やそれに関する戦いのデータが多数。何故か丈城とは関係ない情報ではあったものの、次第にリアの深層心理に共通する部分が見え始めた。

 

 

 やがて……その共通は徐々にリアの覚悟をねじ曲げ、それまで抑えていた想い人への好意をとんでもない方向へと導いた。

 

 

 

 

「……フフッ、フフフ……ウフフフフフ……ッ!!」

 

 

 

 

 幽鬼のごとく体を揺らし、不気味な含み笑いをし始めるリア。そのあからさまな異様さにその場の誰もが戦慄を覚えた。そしてジョルノに向き直り、まるで文楽人形の鬼女と相違ない表情の変化を繰り出した。

 

 

「……てンめェェェェッッ!! さっきから舐めた態度とりやがって! そのクソスタンドごと吊るしてやるから覚悟なさいッ!!」

「!? なんだ…? いきなり性格と口調が変わったぞ…!?」

「ふええっ!? ぶ、部長さん!?」

 

 

 変貌とも呼べるリアの変わり様。そして急な口調の乱暴さ。そう、丈城が託したスタンドは第4部のプッツン由花子こと、山岸由花子の髪を操作する『ラブ・デラックス』だったのだ。

 より強い精神力で伸びるこのスタンドであれば、今のリアにきっと扱える。そう丈城は考えて渡したかもかもしれない。だがこの様子を見る限りでは正解を通り越して不正解である。

 

 通常よりも何倍の長さまで髪を伸ばしたリアはジョルノをキッと睨み付けると、その膨大な紅の髪を連獅子の如く振って投擲した。

 

 

「ゴールド…!」

 

 

 防御が得策と睨んだジョルノ。だが飛び退くよりも先に髪が追い付き、その四肢をゴールド・エクスペリエンス共々グルグル巻きに縛り付けてしまった。

 

 

「ケッ、鈍くせぇんだよ! このマヌケ!!」

 

 

 だが単純に猪突猛進しているわけではないらしく、ちゃんとアドバイス通りゴールド・エクスペリエンスの拳を上へ縛り上げている。完全な暴走ではないようだ。

 

 

「あっ…が、あぅ…うぐぅっ……ぐっ…!」

「し、締め上げる力がハンパねぇ…リアとラブ・デラックスの波長がここまで合うなんて!」

 

 

 痛みを直してもらった丈城が復帰し、現状を見て唖然とする。彼自身もこんな展開になるとは想定外だったようだ。ジョルノはそこから脱しようと試みるも、能力の根本である腕を封じられては動くことができない。加えて縛り付ける力も強力。身体のあちこちから悲鳴があがっている。

 それを容赦なく振ってアスファルトに何度も叩きつけ、リアは更にダメージを加算させてゆく。

 

 

「フン! でいっ! そぉぉぉりゃあああっっ!!」

 

 

 本来の彼女からは想像もつかないような声で背後へ投げ飛ばし、髪をかき上げて元の髪に戻した。

 

 

「愛は無敵なのよ。覚えておきなさい……」

「「……………………」」

「うあああ━━━━━━ッッ!!」

 

 

 至るところから血を吹き出し、ゴム毬のようにとんでゆくジョルノ。その時、彼の体から金色に輝く物体が転がり出てきた。

 

 

(! あ、あれは…ッ! まさか……)

 

 

 その物体にいち早く気づいたのは丈城だった。

 

 特徴的な加工が程された矢尻に矢羽がない奇妙な物体。それは第4部で明かされたDIOのスタンド覚醒の謎であり、それ以降の登場人物にスタンドを宿らせていったキーアイテム。人体にスタンドを宿らせる"矢"だったのだ。

 矢が出たとなれば、この先の展開は火を見るより明らか。丈城はすぐに行動を開始。距離を一気に詰めて先手を打った。

 

 

「くっ…こうなれば、矢を……矢で先へs「『エコーズ・3FREEZE』ッ!」ぐあっ!?」

 

 

 丈城の接近を察知したジョルノが最後の手段に出ようとしたが、射程距離内にまで到達した丈城の『エコーズ ACT3』によってあっけなく阻止。伸ばした手がアスファルトにめり込んだ。

 

 

『射程距離5メートルに到達しました! S・H・I・T!』

「リア、奴を空へ放れ!!」

「任せて! ラブ・デラックス!!」

 

 

 再びリアが髪を伸ばしてジョルノの体を宙へ投げ飛ばす。そしてエコーズを解除した丈城が塀、電柱、民家の屋根を順に掛け上がって跳躍。赤龍帝の籠手を展開してフィニッシュに入った。

 

 

「うおおおおりゃああああああああああっ、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄……」

 

 

 先程の仕返しとばかりに8ページにまで渡る勢いでラッシュを叩きつける。その表情はいつになく憤怒の色が強く出ていた。

 

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYッ、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

Transfer(トランスファー)!!』

「無駄ァアアアアア!!」

「うぉああああァァ━━━━ッ!」

 

 

 ラスト一撃に『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』のブーストが加わり、通常の三倍の力が上乗せされた拳がジョルノの顔面に突き刺さる。丈城とジョルノの直線の二点上にあったゴミ収集車の中へぶっ飛ばした。

 

 

「うっしゃあァッ! 超・エキサイティング!!」

 

 

 晴れ晴れとした満面の笑みでガッツポーズ。丈城は見事二人目の襲撃者を撃破した。あとは着地だけなのだが……

 

 

「………ラブ・デラックス」

「へ?」

 

 

 何故かリアが髪で彼の体を支えたのだ。そのまま丈城を自分のところまで引き寄せ、とんでもない行動に出た。

 

 

「よくやったわ、ジョジョ。流石私の見込んだだけあるわ」

「お、おう…ってかどしたの? なんつーか蛇に睨まれた蛙の気分なんスけど……」

「よく頑張ったわ……これは、私からのご褒美よ」

「え? あ、ちょ、おま……ムグゥッ!?」ズキュウウゥン

「!?」

 

 

 なんとリアが丈城の唇を奪ったのである。しかもそのまま舌を奥まで突っ込んでディープな方面へ進み、これには流石の丈城もフリーズ。アーシアに至っては口から魂が顔を覗かせるオマケつき。

 

 一通り丈城の唇を堪能したリアの表情は、前髪や伸びた髪のせいで目の辺りに影が射している。そのため目だけが異様に輝いていて一層不気味さが増している。

 

 そしてその直後、彼の耳に彼女の口が近づけられた。

 

 その時の一言を……丈城は一生忘れないだろう。

 

 

 

 

「……今度ハ、私ノ愛デ貴方ヲ、縛ッテア・ゲ・ル………♪」

 

 

 

 

「う……うわあァァァ━━━━━━━━━━━ッッ!!」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 …気がつくと、全てが終わっていた。

 

 気絶しているリア、放心状態のアーシア、肩で息をするホワイトスネイクと自分自身。

 

 

「『ハァー……ハァー……』」

 

 

 その手にはちゃんとラブ・デラックスとジョルノのDISCが。どうやら知らぬ間にやるべきことを全て終わらせていたようだ。……その時の記憶は一切残っていないが。

 

 

『デ、DISCハ取得シマシタガ…リアス・グレモリー二、ラブ・デラックスハ危険過ギルノデハ……?』

「そ、そーだな……俺はこの経験を永遠に心の片隅に留めておくよ。リアに今後一切ラブ・デラックスは使わせないって……」

 

 

 ジョルノの襲撃よりも更に恐ろしい事。それを引き起こしたのが他ならぬ自身なのだから尚始末が悪い。今回ばかりは反省したほうがいいだろう。

 

 とりあえずジョルノを追い詰めたのは自分ってことにしておこう。そう静かに思う丈城だった。

 

 

(←To Be continued…)

 




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