Hightension School Jo×Jo 作:尾河七国
読者の皆様、課題のレポートは早めに取りかかって終わらせましょう。
それでは皆様、よいお年を。
とっくに日は暮れ、辺りの路地は暗くなっている。その中を『ハイウェイ・スター』、丈城、裕斗、ゼノヴィアとイリナの順で駆けてゆく。あの二人はいつの間にこんな距離を逃走したのだろうか。人間と言えど、丈城とは違ったスペックの持ち主はこの世界に存在するようだ。
「…しっかし、妙な気分だぜ」
「妙な気分って?」
ふと漏らした丈城の呟きに裕斗は聞き返した。
「ガキの頃、俺悪役ばっかしてたじゃん? 反対にイリナはヒーロー役でさ、学芸会の時なんかは結構ウケたわけよ」
「どういう配役だったんだ?」
「んー、確か最初の時は私がちょっと厳つい学生役で、ジョジョ君が吸血鬼、その次がツッパリ系の不良と殺人鬼、幼稚園最後の学芸会が新入りのギャングの少年とそのボスだったかな?」
「……それ幼稚園の学芸会にしては内容濃すぎない?」
因みに発案者は丈城本人だったりする。
「そうそう。でさ、そーやって俺は悪役のベテランにも関わらず、今はこうして悪事を企てる奴を叩く"ヒーローの立場"にいる。なんか矛盾してんなぁと思ってサ」
「…私はちっともおかしくないと思うよ。だってジョジョ君、本当は根っからの友達思いで優しい人だって知ってるし。それに……」
一呼吸置いたイリナは丈城に向き直り、満面の笑みでこう口にした。
「こうやって"正義のヒーローとして"、ジョジョ君と肩を並べられるだけで私嬉しいもん」
こうもはっきり、そして心底嬉しそうな顔で言われれば、誰だって照れる。丈城もそうだ。一瞬顔がボフッと赤くなり、直ぐ様そっぽ向いてしまった。
「…ジョジョ君、ひょっとして」
「それ以上言うな……頼むから」
何処と無く上ずった声。これ以上聞けば聖剣よりも先に粉々にされると踏んだ裕斗は、この後に言おうとした言葉を飲み込んだ。幾ら仇敵と戦っていても、このチートの逆鱗に触れれば復讐どころではなくなってしまう。
意外にも小悪魔的な一面をもつイリナだった。
☆☆☆
それから数分後。『ハイウェイ・スター』と丈城一行は潜伏先とおぼしき場所へ到着した。到着するや否や、丈城と裕斗はその場所を「またか」といった具合で睨み付ける。そう、そこは……
「ジョジョ君、ここって……」
「あぁ、忘れもしねぇ。あのレイナーレが潜伏していた廃教会だ! ここに来るだけで嫌でも思い出すぜ…あの胸糞悪い事件をよ……!」
かつて丈城が最初に関わった堕天使事件。その主犯であるレイナーレと仲間が潜伏していた場所だった。恐らくフリード辺りから聞いていたのだろう。事件から日にちが経過しているここなら問題はないと。
「時間がない。思い出に浸るのはあとにしてくれ。行くぞ!!」
「浸りたくねぇ思い出だがな! All right!!」
多少毒づいて、四人は中へ突入した。当時の爪痕はそのままで、焼け焦げたロードーローラーや粉々のステンドグラスも手付かず。教会内の時間は止まっていた。
「いるとすればここか…地下だけだね」
「いや、地下への入り口は塞がれてる。きっとリアの奴、中の神父どもを始末した後に封鎖したみてーだ」
しかし教会内には丈城達以外の姿はない。『ハイウェイ・スター』に至ってはしきりに辺りを徘徊して臭いを辿っている。そこいらに臭いが染み付いているとでもいうのだろうか。
だがその時だった。
「!? ぐああァッ!」
「「「ッ!?」」」
突如丈城の二の腕から血が吹き出し、あまりの苦痛に膝をついた。
「ジョジョ君! 一体どうし……ッ!?」
いきなりの非常事態に裕斗が駆け寄ろうとしたとき、全員の背筋にゾクッと走るものが。そして感じる第三者の存在。全員が恐る恐る顔を向けると、丈城以外のメンバーが一気に凍りついた。
宙に浮遊する一人のシルエット。だがそれは人間ではない。背に生えているのは10枚の黒い翼。黒いローブを纏ったその人物は男と見える。握られたその手には……
「フン。コソコソネズミが嗅ぎまわっているかと思えば、こんな小賢しい神器を手にしていたとはな」グシャッ
「ノアアッ!?」
「あれは…『ハイウェイ・スター』の手形!?」
「あ…あれ…多分…左二の腕の…部分…ッ」
「! そうか、『ハイウェイ・スター』の一部が握り潰されたから、ジョジョ君の腕が!」
「裕斗…何なんだアイツ? レイナーレと同じ堕天使みてーだが……?」
激痛に耐えつつ、丈城は目の前の堕天使を睨み付ける。刹那ゼノヴィアの口からとんでもない名前が飛び出た。
「堕ちた天使の幹部…『
「!? コカビエルだとッ!?」
そう。今回の聖剣強奪事件の黒幕であり、聖書にもその名が記された堕天使中枢組織『神の子を見張る者』幹部・コカビエルが、今まさに目の前で『ハイウェイ・スター』を握り潰しているこの男なのだ。
しかしこれで全てが繋がった。やはりこの廃教会が連中のアジトだったことから、丈城の読みは当たっていたのである。
「フム、この匂いは…成程。そこの小僧は人間か。下等な生物がこんな神器を持っていたとはな。アザゼルが知ったら欲しがるだろう。アイツのコレクター趣味は異常だからな」
「くっ…も、戻れ! 『ハイウェイ・スター』!!」
これ以上ダメージを食らってたまるかと、丈城は『ハイウェイ・スター』を急いで戻す。しかし先のダメージが響いているのか、膝をついたまま動くことが出来ない。
「仕方ねぇ…三人共、俺は一旦援護に回る! メインを頼む!」
「わ…わかった! やってみるよ!!」
一旦丈城は戦線を離脱し、『
「堕天使コカビエル! 神に背いた貴様の愚業、今ここで成敗してくれる!」
「聖剣使いか。その程度でこの俺を切れるとは思えんが…まぁいい。やってみるがよい」
浮遊していたコカビエルは降下し、手に光の槍を生成して突き出す。彼にとってはただの肩慣らしとしか思っていないだろう。そんな余裕があるほど、この男がいかに強大な存在であるかがよくわかる。
「…ッ! ウオオォォォ━━━━━━ァァッ!」
覚悟を決めた裕斗が先陣を切り、『
「うわァッ!?」
弾き飛ばされ、長椅子に叩きつけられる裕斗。それを飛び越えてゼノヴィアとイリナが突撃するも、
「「てやぁぁッ!!」」
「甘いな」ブゥゥン!
「キャアアッ!?」
「ゼノヴィア!!」
即座に生成された光の槍にゼノヴィアが吹っ飛ばされ、それに気をとられたイリナはコカビエルのネックハンギングツリーを食らってしまう。
「がっ…ぐ、うぐう……っ!」ギリギリギリ…
「ヴァチカンからの使いや神父ごとき、昔からよく殺していたわ。そう、昨日の事のように覚えている。それにしても神のために死にに来たとは…相変わらず聖職者の考えることは理解できん」
その手にどんどん力が込められる。イリナも心底苦しそうにもがくが、あまりの力の大きさに拘束が解けない。そして彼女の意識が聖剣を手放す程遠退きかけたとき、
(ガウンガウンガウンッ!)
「!?」
「忘れてんじゃねぇぜクソ堕天使が! これは4対1のバトルなんだぜ!」
イリナを締め上げるコカビエルの腕に三発の弾丸が打ち込まれ、血が吹き出した。驚いた拍子で彼はイリナを手放し、一気に気道が確保されたことでイリナは大きく咳き込む。
長椅子や柱の陰を隠れ蓑にしながら、丈城はコカビエルに攻撃したのだ。先程の攻撃は『皇帝』の能力による援護射撃で、彼がイリナから意識を移すための陽動策だったのである。
「チッ…こざかしいハエごときが!」
それを目障りに感じたコカビエルは多数の光の槍を丈城に放つが、柱や長椅子を盾に回避し、その僅かな合間に『皇帝』や常備の投擲ナイフで応戦。プロのサバイバルゲーマー顔負けの立ち回りを披露してゆく。
「くっ…! これ以上、やらせてたまるものですか!!」
ここで体制を立て直したイリナが聖剣を構え、コカビエルの懐に狙いを定めた。彼女は内心、丈城に意識を向けている今なら倒すことができるかもしれないと考えていた。……しかし、現実は上手くいかなかった。
「邪魔だァッ!」
「キャアァァッ!?」
「イリナ!!」
コカビエルはイリナの反撃を意図も容易く弾き、追い討ちとばかりに光の槍をその体に撃ち込んだのだ。レイナーレの時もそうだったが、光の槍は触れただけでも人体に悪影響を及ぼす。胴にそれをまともに食らったイリナはステンドグラスを突き破って外に吹っ飛ばされた。恐らくこの時点で彼女は既に再起不能であろう。
丈城は考えた。この狭いフィールド内では活動に制限がかかる。尚且自分は二の腕を負傷している。あまりにも相手に有利な環境なのだ。
(仕方ない…! 再起不能のイリナを連れて、裕斗とゼノヴィアと共に生きて撤退するっきゃねぇか…。その前にこの事を早く二人に伝えないと!)
戦略的撤退を選んだ方が得策と睨んだ丈城は、その場でもう一体のスタンドを放ち、『皇帝』を握り締めて近くの柱の陰へ飛び込んだ。
☆☆☆
「ハァ…ハァ…こ、これが聖書に記された堕天使の力か……!」
「悔しいが…歯が立たない…!!」
一方、前線で戦い続ける裕斗達だったが、コカビエルの絶大な力の前に苦戦を強いられていた。光の槍を凌ぐだけでも一苦労だというのに、繰り出した攻撃は全て弾かれてしまう。主導権を完全に乗っ取られてしまっていた。
コカビエルが疲弊している様子は見られない。むしろどう動くのか楽しそうに笑っている。つくづく不愉快な堕天使である。その態度がより一層二人の怒りを逆立てていた。
「ジョジョ君を最初に抑えられたのは痛手だったね…彼のスタンド能力は三大勢力問わずに高いダメージを与えられる。しかも人間は下等な生物と見下している連中が多いから、油断しきっている箇所も当然出てくる」
「隙をつきやすい、有利な立場にいるということか。しかしうっかり敵の攻撃を食らいでもすれば……」
「負うダメージは大きいし、意識していたダメージならある程度は耐えられる。でもさっきみたいに不意打ちされた場合は意識していない分痛覚が響く。スタンドを介してなら尚更…ね」
気分を紛らわせるために互いに話し合う裕斗とゼノヴィア。あれだけいがみ合っていた者同士がここまで冷静に語らえることに対して不思議に感じるが、今はコカビエルをどう倒すかを考えなくてはならない。すると
『悪かったな。不意打ち食らって』
「「!」」
二人の会話に割って入るように、クワガタムシのような小さな昆虫が一匹飛来してきた。ゼノヴィアは怪しい虫として切り払おうとするが、そこに裕斗が待ったをかけた。
「その口調…ジョジョ君かい?」
『あぁ。ちっと合流は難しくてな、こーゆー風にしか伝えられねぇんだ。裕斗、ゼノヴィア、今から俺が言うことをよく聞いてくれ』
「あ、あぁ…(赤龍帝…一体いくつの能力を持ち合わせているというんだ?)」
クワガタムシ、もといグレーフライのスタンド『
『現状からいって、この狭い空間内で戦闘を続けるのは不可能だ。イリナも光の槍を食らって再起不能状態だし、このままじゃ全滅は免れない。だからここは戦闘を中止して撤退しよう』
「……戦略的撤退、か」
「やむを得ないな。これでは何も出来ずに犬死にする未来しかない」
悔しそうな表情を浮かべる二人。しかしそれは丈城も一緒だ。みすみす敵に背を向けて逃亡するなど、普段の彼では絶対にしない。だが今回はケースがケースである。彼にとって苦渋の決断だった。
脱出までのフローチャートを二人に伝え、丈城は自分の持ち場に戻ろうとする。
「いいか二人とも、チャンスは一度きりだ。これをミスれば死あるのみだと思ってくれ」
「了解した、赤龍帝。お前も死なないようにな」
「こんなとこでノコノコ死んでられっかよ! 行くぞ!」
互いに検討を祈り、裕斗とゼノヴィアは再び剣を手に取った。長椅子の背もたれを乗り越えて姿を現し、再度コカビエルと対峙する。
「呆れたものだ…まだ抗うというのか?」
「あぁ、元よりそのつもりさ。だけど今は…」
口元を上げる裕斗。だがその手の魔剣は先程使用していたもの…ではなく、筒に刃を取り付けたような特殊な形状の魔剣。
そして裕斗はその切っ先をコカビエルに向けて、それを大きく振りかぶると
「"撤退"だけどね! 『
上一文字に降り下ろした。すると筒の先端から黒煙が勢いよく吹き出し、コカビエルの周囲に立ち込めた。突然の噴煙にコカビエルは驚き、毒煙と勘違いしたのか口元を押さえた。
「!? 煙だと!?」
彼は当初先程のように切りかかってくると思っていた。だが噴射された煙に不意打ちを食らい、見事に足止めをされてしまったのだ。
「チィッ、こざかしい真似をッ!」
コカビエルは苛立ちを覚え、すぐに二人を攻撃しようと煙を払おうとする。しかし煙の外では延々と煙を噴射し続ける『噴煙剣』がコカビエルのいる方向に立て掛けられているだけで二人の姿はない。
一方二人は隙をついてイリナを救出していた丈城と合流し、教会の外へ脱出していた。そう、裕斗とゼノヴィアの役目は丈城がイリナを救出するための囮だったのだ。
「ジョジョ君ッ! イリナさんは!?」
「レスキュー完了! ただ光の槍によるダメージと傷が思ったよりひどくて……一応治療を施したんだが意識もねぇし、かなりの重傷だ」
「イリナ…何という無茶を」
「時間がない! もうそろそろ離脱すっぞ!」
イリナを裕斗に託し、丈城は路上駐車してあった一台の車に駆け寄って手をかざした。すると車は異様なオーラを纏って姿形を変えてゆき、ものの数秒で車は至るところにスパイクが飛び出た、狂暴そうな車へと変貌した。
「乗れ! これなら全員で脱出できる!」
「車!? ジョジョ君運転できるのかい!?」
「フィーリングで何とか! ひとっ走り付き合えよ!」
そして丈城はポケットから一枚のコインを取り出すと、それを教会のなかに投げつけて、変形した車『ホウィール・オブ・フォーチュン』に颯爽と乗り込んだ。裕斗もイリナと共に後部座席に乗り込み、ゼノヴィアも続く。
エンジンをかけてハンドルを握り締め、丈城達はアクセル全開で教会から撤退に成功したのだった。
「……コカビエル、てめーにピッタリの置き土産を残しておくぜ。有り難く受けとれよ」
☆☆☆
「フン、取り逃がしたか……」
走り去る『ホウィール・オブ・フォーチュン』の姿を目で追いつつ、コカビエルは悔しそうに舌打ちをした。全員を抹殺、あわよくば丈城を生け捕って生体実験のモルモットにしようと企んでいたのだろう。いくら下等な生物である人間とはいえ、未知の能力には彼にも多少なりとも興味があった。
「まぁいい。いずれ始末する連中であることに変わりはない」
しかし彼の計画は暇がない。次の段階に取りかかるべく、彼は教会の中へ戻ろうとする。その時だった。
(そういえば……煙の中のあの輝き。あれはなんだったのか)
彼の脳裏にふと浮かんだ、煙中を横切る輝き。その直後に「チャリーン」という音がして、車で走り去る音が響いた。
音からして硬貨なのだろうと推測されるが、コカビエルはこれが無性に気になった。今までに感じたことのない好奇心に、彼はかられていたのである。
(……ん、あれか)
教会の床に落ちていたのは、日本で流通する一般的な百円硬貨。翼を畳んで地に降り立ち、コカビエルは百円玉に近付いてゆく。
(ただの硬貨一枚…しかし何なんだ? なぜこんなものに気がひかれる……)
何かがあるのはわかっている。わかっていながらも、その手は徐々に百円玉へと伸びてゆく。
そして遂に、百円玉に手が触れた……次の瞬間
「ッ!?」
(カチッ、ボグオォォオンッ!!)
スイッチが入った音と同時に、コカビエルの体に衝撃波が襲いかかった。さらに百円玉から火の花が開き、その体が後方に吹っ飛ぶ。教会内には雷よりも大きな音が轟き、ステンドグラスが次々と粉々になってゆく。コカビエルは違和感に気付いて咄嗟に飛び退いたもの、伸ばした右腕は爆発に巻き込まれて消し飛んでしまった。
消えた自らの二の腕の先を見て、終始黙り混むコカビエル。
真っ先に思い浮かんだのは、不適な笑みを浮かべてこちらを見、どうだと言わんばかりの態度をとるあの人間。そしてその後ろに立つ猫を模したスタンド。この瞬間コカビエルは悟った。この置き土産はあの人間が置いていったものだと。
「……フッ、クククッ」
堕天使相手に平然とこのような真似をする人間。それは今までの長い年月の中で彼が経験したことがなかった。それ故彼の好奇心のメーターは振り切れていた。
「フッフフ、ハハハ…ハ━━━━━ッハッハッハッハッハッハァッ!!」
一角が崩落して丸見えの教会に、まるで新しい玩具を与えられた子供の気分で。
聖書に記された堕天使・コカビエルは高らかに、そして狂ったように笑い出すのだった。
(←To Be continued…)
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