Hightension School Jo×Jo   作:尾河七国

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第29話《聖剣破壊同好会》

 

『……まさか、あの優男が単独行動を取るとはな』

「余程エクスカリバーに負けたことが悔しかったんだろーよ。それこそ自分を救ってくれたリアを守ることよりもずっとな……」

 

 

 ゼノヴィアを噴上裕也のように再起不能(リタイア)にさせてから三日後、この日丈城はある用事のために早朝から町に繰り出していた。

 

 

 道中の二人の会話は裕斗のことについてである。

 ゼノヴィアに破れた裕斗は翌日から学園を無断欠席するようになった。気になったリアと朱乃は彼のマンションに赴いたのだが、部屋の中に彼はいなかった。連絡もつかず、現在位置も把握できない。

 

 この事から裕斗は再び復讐の念にかられ、とうとう単独行動をとったと予測された。この事態にリア達はどう動こうか対策を立てることになったのだが、ただ一人丈城だけは別の対策を立てていた。それが今現在外出している理由なのである。

 

 

『そういえばまだ詳しく聞いていなかったな。今度は一体何を企てているんだ?』

「まぁそんな大それたもんじゃねぇけどさ、ちょいとした手助けだよ。減速させるのが駄目ならとことん加速させてやろうかって話」

『失敗する未来しか見えんのだが……』

「ハハハッ、俺の脳内辞書に「失敗」「常識」「正攻法」なんて御託は存在しない!」

『それはそれで駄目だろ…』

 

 

 物騒な計画であることはともかく、丈城は出勤するサラリーマン達に紛れて駆王駅に向かう。

 

 

 

 その途中の出来事だった……彼女と出くわしたのは。

 

 

 

 

 

「逃ィげるんだよォォォ━━━━━━━ッ!!」

「……逃がしません」

 

 

 町の中を駆け抜けるスタンド使いと『戦車(ルーク)』。先程丈城がコンビニの角を曲がった時、偶然ジョギング中だった小猫とエンカウントしてしまったのだ。

 

 最初こそ理由をつけてはぐらかそうとしたが、小猫が職質並に追及してきたために段々しどろもどろに。こうなればと丈城は決断。十八番の逃走を選択した結果、上記のような鬼ごっこが開始されたのだった。両者が自動車よりも速く走っているように見えるのは錯覚だろうか。

 

 

 

 それから数分後、目的地の駅前にて。

 

 

「…それで、脅しまで使って俺を呼び出した理由って何なんだよ?」

「嫌だなァ、脅しなんて使ってないよォ~?」

「したろうが!! 『七時半に駅前に来ないと生徒会役員全員にスタンドで"ご挨拶"しに行く』って!! ご挨拶って絶対ロクな挨拶じゃねぇだろッ!!」

「『世界(ザ・ワールド)』と『キラークイーン』と『キングクリムゾン』と『スティッキィ・フィンガーズ』を引き連れるだけだよん」

「名前からしてヤバそうなスタンドばっかじゃねぇか!! というか『スティッキィ・フィンガーズ』は100%俺用だよね!? そうだよね!?」

 

 

 そこに現れたのは、シトリー眷属の『兵士(ポーン)』・匙元士郎だった。とあるルートで彼の住所と携帯番号を入手した丈城はいい協力者(?)と位置付け、呼び出したのである。

 

 

「うるせぇなァ、用件はかなりシンプルなんだぜ? ああでも発破かけないとお前来ないだろ」

「それはそうだけど…というか、何でこの娘まで」

「用件話したらついてきた」

「……いくら丈城先輩でも、お二人だけというのは心許ないです」

 

 

 二人の視線の先には、丈城の袖を持って立っている小猫が。どうやらあの鬼ごっこ後に丈城が白状したために、それに賛同してついてきたらしい。

 

 

「よし、ここでグダっても仕方がない。本題に入ろう」

 

 

 胸を張って咳払いをした丈城は、一拍置いてその理由を話した。

 

 

 

 

 

「エクスカリバー破壊を教会の使いから許可とって、俺達で黒幕の堕天使を蹴散らすんだ」

 

 

 彼の立てた対策の全貌。それは裕斗の想いを果たしてあげたいという丈城らしい考えであった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「嫌だァァァァ! 俺は死にたくないィィィィ!」

「こら首、騒ぐんじゃありません!」

「オメーが胴体から切り離したんだろーがァァッ!!」

 

 

 人通りが少ないルートを、泣き喚くサジの首を持ちながら丈城と胴体をひきずる小猫が歩いてゆく。

 

 

 理由を聞くや否や逃走を計ったサジはあっさり『隠者の紫(ハーミット・パープル)』によって捕縛。念のため彼の首と胴体を『スティッキィ・フィンガーズ』のジッパーで切断し、連行する形となり今に至る。

 

 因みに少し前に小猫はこれを聞き、「……私も協力します。裕斗先輩のことですよね?」と口にして協力を申し出た。彼女もまた裕斗を救いたいと心の中で思っていたようだ。

 

 

「ジョジョォッ! なんで俺なんだ! お前ら眷属の問題だろう!? 俺はシトリー眷属だぞ! 関係ない! 関係ないだろォォォォォ!」

「まぁそう言うんじゃねぇよ。男で悪魔に通じてんのは学園内じゃ俺とお前と裕斗ぐらいだ。冷たいことは言い合いっこなしだぜ」

「ふざけるなァァ! 俺は協力なんて御免だァァッ! 殺される! 俺は会長に殺されるゥゥゥッ! リアス先輩はそりゃ厳しくて優しいだろう! でもな! うちの会長は厳しくて厳しいんだァッ!」

「リアか…そういや今日休みだし、まだ寝てる内に出てきちまったんだよなぁ。こりゃ最後俺もシバかれるかもわかんねぇ」

「……乙です」

 

 

 暫く歩いたところで、丈城が対策の詳細を話し始める。

 

 

「裕斗はかつて教会の忌々しい計画で唯一生き残った。同胞達は誰一人として助からず、その無念を晴らしたい一心からアイツはエクスカリバーを憎んでいる。一方の教会コンビは最悪エクスカリバーを破壊してでも取り返そうと躍起になってる。……この二つ、利害が一致してると思わねぇか?」

「……確かに。それで許可をとって裕斗先輩と合流し、聖剣奪還と破壊の二つを果たしてもらおう…ということですか?」

「Excitly(その通り)。でもこれはリア達に話しても100%拒否られる。それならば人間であり、三大勢力のいずれにも属さない俺だけが交渉に行けばいいんじゃないかってな。それなら首を縦に振る確率は高くなる」

「……三日前にボコボコにした当人が交渉に行っても怪しいと思いますけど」

 

 

 ここで言葉を切り、立ち止まった丈城は小猫とサジに目を向けた。

 

 

「アイツらがもしこれを承諾した場合、俺達は今まで以上に危険な戦いに身を投じることになる。仮にそうなったら…お前らだけでもいい。速攻で逃げろ。あとは俺のスタンドとアイツらだけで何とかするから」

「だったら今すぐ逃げさせろォォ! 最悪の展開じゃねぇか! エクスカリバー破壊なんて勝手な事をしたら会長に殺される! ぜってぇ拷問直行じゃねぇかァァッ!!」

 

 

 絶賛パニック状態のサジ。だがその喚きは次の一言で収まることになる。

 

 

「……逃げません。仲間のためですから…!」

「「!」」

 

 

 真剣な眼差しで小猫は反論した。その一言はサジを瞬時に黙らせることはおろか、丈城の心に深々と突き刺さる。

 

 

「…知らねぇぞ? どんな目に遭っても」

「……それでもです」

 

 

 念押しにも動じず、一切意志を曲げない小猫。彼女の心は既に覚悟が出来ている様だ。

 

 そうこうしている内に一行は駅前から離れた通りに辿り着いた。住宅街からも程近く、この時間帯は職場に向かうサラリーマンやOLを多く見かける。丈城曰く、ここが本来の目的地なのだそう。

 

 

「…とりあえず付き合うからさ、そろそろ首を繋げてくれないか? さっきから息苦しいんだよ」

「わかった。ソーニャにメールで『サヨナラ』告げられた後に包丁でメッタ刺しにされないようにな」

「やめてくれマジでそんな未来になりかねないから」

「……そして首を切断されて、それを抱えた会長がボートの上で笑うんですね、わかります」

「やめて!!」

 

 

 どこのスクー○デ○ズだ。

 

 

「ところで、本当にここが目的地なのか? 見たところ店も殆ど閉まってるし…出勤する人達しかいねぇぞ」

「エウリアンっつーのかな。ここら近辺に聖人の下手くそ絵画を売り付ける詐欺師が度々出没するんだと。教会コンビの一人は中々信心深い奴だったし、それに引っ掛かって物乞いでもしてねーかなと」

「いやいやいや…いくらなんでも探し方がアバウトすぎるだろ」

 

 

 あまりにも適当過ぎる探し方に嘆息する二人。そしてサジが「ここにその二人がいてそうしていたなら信じるけどさ…」と続けた時だった。

 

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

「どうか、天の父に代わって哀れな私たちにお慈悲をォォォォ!」

((いたー…))

 

 

 三人の立つ位置から100m離れた電柱のそば。通行人が奇異な視線を向けるその先に彼女らはいた。目立つ白ローブに緑メッシュ、そして治療の跡がある青髪の女性。そして隣には栗毛ツインテール。正しくゼノヴィアとイリナだった。その足元には丈城の予想通り絵画が。

 

 

「なんてことだ。これが超先進国であり経済大国日本の現実か。これだから信仰の匂いもしない国は嫌なんだ」

「毒づかないでゼノヴィア。路銀の尽きた私たちはこうやって、異教徒どもの慈悲なしでは食事も摂れないのよ? ああ、パンひとつさえ買えない私たち!」

「ふん。もとはといえば、お前が詐欺まがいのその変な絵画を購入するからだ」

「何を言うの! この絵には聖なるお方が描かれているのよ! 展示会の関係者もそんな事を言っていたわ!」

 

 

 …とまぁ、醜い争いを展開する二人。見ている分には面白いのだが、これでも当人達は真剣なのである。

 

 

 

 だが、その言い合いに招かれざる乱入者が現れる。

 

 

 

 

 

「君達、お腹が減っているのかい? なら僕が何とかしてあげよう」

 

 

 

 

 

 何処からともなく聞こえてくる、某あんパンなヒーローの声。その内容を聞いた途端に言い合いがストップし、辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

 

 

「い、今の声は…!? まさか…神が迷える私たちに恩恵を!?」

「ああ、神よ! どうか私たちにお恵…み……を?」

 

 

 これを神の声と判断した二人は祈りを捧げる。しかし信心深いイリナが祈るために上を向いた瞬間、彼女の目にその神の姿が映った。が、その正体は……

 

 

 

 

 

「フッフフ…フハハハハハハハ……アハハハ!!」ニタァ…

「あぁ…ああぁ……っ!」

 

 

 いつの間にか電柱に登り、逆さまで見下ろす存在。それは正しく、「玩具を見つけた悪魔がいた」。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「なっ、俺の言った通り引っ掛かったろ?」

「あ、あぁ…」

 

 

 教会コンビを発見した彼らは現在ファミレスにいる。丈城の予想通り二人は有り金全てをぼったくられたらしく、硬貨一枚すら持っていなかった。

 とりあえず丈城は交渉材料として二人に食事を奢ることにした。しかもお一人様2500円までという制限つき。これには二人も食い下がったが、目の前で灰皿を握りつぶして元に戻してやると一瞬で押し黙った。

 

 

「ふぅー、落ち着いた。キミたち悪魔に救われるとは、世も末だな」

「スミマセン、アタクシ人間ですけれど」

「「心は悪魔だろ(です)」」

「解せぬ…」

「はふぅー、ご馳走さまでした。ああ、主よ。心優しき悪魔達にご慈悲を」

 

 

 一通り食べ終えた二人は皮肉染みた事を口にする。そしてイリナが胸の前で十字をきったその時、小猫と匙が突如頭を手で押さえた。目の前で十字をきられた影響らしい。

 

 

「あー、ゴメンなさい。つい十字をきってしまったわ」

「これがわざとだったらタチが悪ィよ」

「で、私たちに接触した理由は?」

 

 

 ゼノヴィアに切り出され、丈城は「あぁ、そうだったな」と言った具合に話す。

 

 

「…エクスカリバーの破壊。それに協力させて頂きたい」

「「!?」」

「念のため言っとくが俺は『人間』だ。人間なら、お前らが拒む種族には属さないだろ?」

 

 

 この申し出に二人は驚いた。つい三日前まで敵意剥き出しだった人間が急に態度を変えて協力を要請してきたのである。目を丸くさせるのも無理はない。

 

 

 そんな異様な空気の中、ゼノヴィアの出した答えは…

 

 

「そうだな。一本ぐらい任せてもいいだろう。ただし、そちらの正体がバレないようにしてくれ。いくら人間とは言え、悪魔とパイプが繋がっている人物との関わりを持っているように、上にも敵にも思われたくはない」

 

 

 なんとYESだった。

 

 

「ちょっとゼノヴィア、いいの? 確かにジョジョ君は人間だけれど、悪魔と契約を交わしているのよ?」

「イリナ、正直言って私達二人だけでは三本回収とコカビエルとの戦闘は辛い」

「それはわかるわ。でも!」

「それだけじゃない。彼は人間の身でありながらエクスカリバーを意図も容易く変質させた。彼の持つ未知なる力ならば、十分エクスカリバーに対抗できる。それに…」

 

 

 言葉を切ったゼノヴィアは丈城に視線を向ける。

 

 

「最後に私を殴った時に使用したあの能力。怪我もエクスカリバーも修復できるのなら、今回の作戦において非常に心強い存在だ。こちらからも協力を願いたい」

「ゼノヴィア…」

 

 

 丈城の申し出を受諾したゼノヴィア。これまた先日とは違った心情の変化である。

 

 

「……グレートだぜ…ゼノヴィア! 交渉成立だな」

「ああ。それともう一つ、君の左手に宿るドラゴンの力。まさかこんな極東の島国で赤龍帝と出会えるとは思わなかった。感じるオーラからはかなりの実力と言える。伝説の通りなら、その力を最大に高めれば魔王並になれるんだろう? 君なら二つの意味合いでエクスカリバーに太刀打ち出来る。この出会いも主のお導きと見るべきだね」

 

 

 お互い身を乗り出して握手を交わす。イリナも抗議の言葉を繋ぎたかったようだが、タイミングを逃したのか、下手な真似をすればスタンド能力で強制的に黙らされると判断したのか、渋々承知した。

 

 

「ベネ(よし)。とりあえず俺からはドライグとスタンドの力を貸す。それともう一人、協力者がいるからちょっと待っててくれ。すぐ呼び出してみるわ」

 

 

 うまくいったと判断した丈城は次のステップに移る。そしてスマホのリダイヤルから、ある人物にコンタクトをとった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……話はわかったよ」

「悪りィな、裕斗。ああでも言わねぇと動かないと思ってな」

「また脅したのかよ……仲間でも容赦ねぇなオイ」

 

 

 嘆息してコーヒーに口をつける人物。丈城がリダイヤルした人物はやはり裕斗だった。

 元々丈城の作戦の真の目的は裕斗の想いを晴らすため。それに当人がいなかったら話にならない。そこで第二段階として行方知れずの彼を呼び出したのである。大方来なければスタンドで無理矢理探しだして連行する的なことで釣ったのだろう。

 

 

「正直言うと、エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは遺憾だけどね」

「随分な言いようだね。そちらが『はぐれ』だったら、問答無用で切り捨てているところだ」

「ハイハイ早くも内部分裂しない。ここはあくまでも話し合いの場。喧嘩させるために呼んだつもりはねーぞ」

 

 

 険悪な空気を何とか沈めようととする丈城。とりあえず話を振って話題を変えることに。

 

 

「そういや教会側で聖剣計画の事が露見されたとき、やっぱ責任者的な奴は首を切られたのか?」

「勿論だ。その事件は私達の中でも最大級に、今でも嫌悪されている。処分を決定した当時の責任者は信仰に問題があるとされて異端の烙印が押された。今では堕天使側の住人だろう」

「つまりは、そいつが今回裕斗が斬るべき仇ってか…。で、そいつの名は?」

「━━━バルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男だ」

「……堕天使を追えば、その者に辿り着くのかな」

「みてーだな」

 

 

 すると裕斗もこんな情報を教えてくれた。

 

 

「僕も情報を提供した方がいいようだね。先日エクスカリバーを持った者に襲撃された。その際、神父を一人殺害していたよ。やられたのはそちらの者だろうね」

「「「「「!」」」」」

「相手はフリード・セルゼン。この名に覚えは?」

「なるほど、奴か」

「フリード・セルゼン…元ヴァチカン法王庁直属のエクソシスト。十三歳でエクソシストとなった天才。悪魔や魔獣を次々と滅していく功績は大きかったわ」

「だが奴はあまりにやりすぎた。同胞すらも手にかけたのだからね。フリードには信仰心なんてものは最初から無かった。あったのはバケモノへの敵対意識と殺意。そして異常なまでの戦闘執着。異端にかけられるのも時間の問題だった」

「奴は片目に眼帯していたから、間違いはない。その傷は他ならぬジョジョがつけたものだからね」

「どういうことだ?」

「以前俺達が担当した堕天使グループの計画に奴が荷担していたんだ。堕天使共の根城を強襲した時、俺は奴の左目を撃ち抜いたんだが……やっぱ失明してたんだな、アイツ」

「まぁいい。とりあえず、エクスカリバー破壊の共同戦線といこう」

 

 

 そう言うなりゼノヴィアはメモとペンをテーブルの上に出して、連絡先を丈城達に寄越す。

 

 

「何かあったらそこへ連絡をくれ」

「サンキュ。んじゃ俺の方h」

「ジョジョ君の携帯番号はおばさまから頂いているわ」

「What!?」

 

 

 どこまでも用意周到な母だった。

 

 

「では、そういうことで。食事の礼、いつかするぞ。赤龍帝の兵藤丈城━━ジョジョ」

「食事ありがとうね、ジョジョくん! また奢ってね! 悪魔と繋がりはあるけれど、ジョジョ奢りならアリだと主も許してくれるはずだわ! ご飯ならOKなのよ!」

 

 

 二人はファミレスを出て、何処へと去ってゆく。何とか丈城の交渉は無事成功。ピリピリした空気から解放された一同は肩の力が抜けてホッとしている。

 

 

 そんな中、たれぱ○だの如くテーブルに突っ伏す丈城に、裕斗がこう尋ねた。

 

 

「……ジョジョ君。どうして、こんなことを?」

「…お前、一人で全部背負い込み過ぎ。何のための眷属、何のための仲間だと思ってるんだ?」

「……………………」

「たった一人でどうにかなる場合だってある。でもそれはごく限られた話だ。わかってるのか? 首謀者は聖書に記された堕天使。お前一人で敵う相手じゃない」

 

 

 ゆっくりと上半身を起こし、丈城は続ける。

 

 

「誰か一人でも欠けたら、それこそリアが悲しむ。だったら一人死んで帰るよりも全員大怪我負って帰る方がまだいい。少し主や仲間に頼るという選択肢を頭に入れとけ」

「……裕斗先輩。私は先輩がいなくなるのは……寂しいです。お手伝いします。だから……いなくならないで」

 

 

 小猫も裕斗の袖を掴んで目元を潤ませる。これが決め手となり、ようやく彼の表情に柔和の色が見えた。

 

 

「ははは。まいったね。小猫ちゃんにそんなことを言われたら僕も無茶はできないよ。…わかった。今回は皆の好意に甘えさせてもらおうかな。ジョジョ君のお陰で仇敵も判明した。でも、やるからには絶対に…エクスカリバーを倒す!」

「たーりめーだ! 聖剣よりも俺達が格上だということを証明してやろうぜ! 歪んだエクスカリバーを作ろうとしたそのバルパーって奴に!!」

(やる前からジョジョ君のワンサイドゲームになるね…とは、言わないでおこう)

 

 

 殺る気満々の丈城を見て遠い目になる裕斗。彼にはやるといったら殺るという凄味があるということを知っていたからだった。

 

 

 と、その時

 

 

「……あの、俺も? というか、結構俺って蚊帳の外なんだけどさ……。結局、何がどうなって木場とエクスカリバーが関係あるんだ?」

 

 

 すっかり空気ちゃんになっていたサジが挙手をして質問を投げ掛けた。確かに彼は今回の事件の詳細はおろか、裕斗が何故この件に深く関わっているのか全く知らない。そう思うのも無理はないだろう。

 

 

「……少し、話そうか」

 

 

 そして、裕斗の口から語られたのはあまりにも悲惨な記憶だった。

 

 

 人工的に聖剣適合者を作り出す非人道的な実験の日々。

 

 

 適合できなかったというだけで殺されていった同志達。

 

 

 夢を持った者達の未来を奪った、神へ仕える者達への憎しみ。

 

 

 

「……同志たちの、無念を晴らしたい。いや彼らの…死を無駄にしたくないんだ。僕は彼らの分も生きて、エクスカリバーよりも強いと証明しなくてはならないんだ…」

(予想はしていたが…こいつもこいつで凄げぇ道を通ってきたんだな)

 

 

 丈城は思った。以前リアは復讐以外の目的で剣を振るって欲しいと話してくれた。しかしそれは10割とまではいかないが、無理があるのではないかと。自分一人だけが生き残り、自分よりも遥かに夢や未来を多く持つ同志達が誰一人として生き残ることが出来なかった。そんな罪悪感がある限り、復讐以外で戦うのはあまりにも難しい。これが丈城だったら真っ先に「だが断る!」と言い放って仇を探しだすだろう。

 

 

 で、聞いてきたサジ本人はというと……

 

 

 

「うぅぅぅ……」

 

 

 

 周りがドン引きする程号泣していた。しかもガシッと裕斗の手を掴んだかと思えば

 

 

「木場! 辛かっただろう! キツかっただろう! 畜生! この世に神も仏もないもんだぜ! 俺はなぁぁぁぁ、いま非常にお前に同情している! ああ、酷い話さ! その施設の指導者やエクスカリバーに恨みを持つ理由もわかる! わかるぞ!」

 

 

 てな事を口にした。共感して感動してくれていることはわかるが、これは少々アバウト過ぎると思うのは錯覚だろうか。

 

 

「…まぁサジのリアクションはともかく、とりあえず満場一致だな。わかってるけど、リアやソーニャに感づかれれば一瞬で瓦解しちまう。そうなる前に作戦を遂行するのが絶対条件だ。皆、心してかかってくれ!」

「うん」

「……了解です」

「おうッ!!」

 

 

 

 丈城の締めくくりにより、この場の話し合いはひとまず閉幕した。これ以降は携帯でのやり取り等で連絡をとることになる。

 

 

 聖剣破壊同好会、結成の瞬間だった。

 

 

(←To Be continued…)




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