Hightension School Jo×Jo   作:尾河七国

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第17話《ある青年の昔話》

 合宿二日目。

 

 

 この日の午前中は勉強会があり、全員が別荘のリビングルームに集められた。何でも丈城とアーシアに悪魔の知識を教えようという魂胆らしい。

 

 

「別に覚えるのは苦じゃねーけどさ、アーシアはともかく何で俺までやる必要があるんだ?」

「そうは言っても知ってて損はない事だし、何かのイベントで上層部の悪魔達に会っても話についていけるようにだよ。さて僕達の仇敵、神が率いる天使。その天使の最高位の名は? さらにそのメンバーは?」

「『熾天使(セラフ)』、メンバーはミカエル、ラファエル、ウリエル、ガブリエルの四名。全員ケツに"エル"がつくから覚えやすいな」

「ケツって…まぁいいや、正解。次に僕らの王、『魔王』様。四大魔王様を答えてもらおうかな」

「サーゼクス・ルシファー、アジュカ・ベルゼブブ、ファルビウム・アスモデウス、んでもって唯一の女性魔王セラフォルー・レヴィアタン。どうだ」

「Good。でも一応様付けはしておこうよ。いつも通りにあだ名つけたら殺されるよ?」

「このジョジョ、魔王だろーと容赦せんッ!!」

「いつも思うけどその自信は一体どこからやってくるんだい……」

 

 

 丈城の崩れぬ自信に裕斗は軽く頭痛がしてきた。丈城も丈城で反省する気はないらしく、笑って誤魔化そうとする。

 

 気を取り直して、裕斗は次にこんな問題を出した。

 

 

「ハァ…じ、じゃあ堕天使の中枢組織、並びにその幹部を全て言ってもらおうかな」

「『神の子を見張る者(グリゴリ)』で、総督アザゼルと副総督シェムハザを中心にアルマロス、ベネムエ、コカビエル、サハリエル、タミエル、バラキエルの六名が幹部として在籍している」

「Perfect。完璧だよジョジョ君。それだけ覚えているなら大丈夫だね」

 

 

 そんな珍問答の後、次はアーシアによる授業が始まった。

 

 

「コホン。では僭越ながら私、アーシア・アルジェントが悪魔祓いの基本をお教えします」

 

 

 パチパチパチと全員から拍手を送られ、アーシアは軽く赤面する。

 

 

「え、えっとですね。以前私が属していたところでは二種類の悪魔祓いがありました。ひとつはTVや映画でも出ている悪魔祓いです。神父様が聖書の一節を読み、聖水を使い、人々の身体に入り込んだ悪魔を追い払う『表』のエクソシストです。そして悪魔の皆さんにとって脅威となっているのが『裏』のエクソシストです」

「『裏』のエクソシスト……か」

「そうね。ジョジョも会っているけど、悪魔である私達にとっての最悪な敵は神、もしくは堕天使に祝福を受けた悪魔祓い達よ。彼らとは歴史の裏舞台で長年にわたり争ってきた。天使の持つ光の力を借りて常人離れした身体能力を駆使して、全身全霊で私達を滅ぼしにくるの」

 

 

 リアの言葉に、丈城は先の事件を思い返した。彼らの行いは人道上許せない。エンリコ・プッチとまではいかないが、ドス黒い気分になってくる嫌な連中である。

 

 そんな事を考えていると、アーシアがカバンから幾つかの小瓶を取り出した。どれも中身には透明の液体が入っている。

 

 

「では次に、聖書や聖水の特徴をお教えします。まずは聖水。悪魔が触れると大変なことになります」

「そうね、アーシアも触れちゃダメよ。お肌が大変なことになるわ」

「うぅ、そうでした……。私、もう聖水を直に触れられません……」

 

 

 彼女は悲しそうに呟くと、今度は分厚い本を手に取った。

 

 

「次は聖書です。小さい頃から毎日読んでいました。今では一節でも読むと頭痛が凄まじいので困っています」

「悪魔だもの」

「悪魔ですもんね」

「……悪魔」

「うふふ、悪魔は大ダメージ」

「悪魔だからしゃーねーわな」

「うぅぅ、私、もう聖書も読めません!」

 

 

 全員の総ツッコミにアーシアは涙目。

 

 

 そんなこんなでアーシアの授業は終わり、最後は丈城によるスタンド能力の授業が開講することとなった。

 

 

「さて、と。とりあえずスタンド能力について解説していくわけだけど……何を話したほうがいい?」

「そうわね……スタンド能力がどういうものかは理解しているし、とりあえずジョジョの中で有力なスタンドを紹介して頂戴」

「有力なスタンドか…挙げるとしたら、『キラークイーン』かな」

 

 

 丈城はリアのリクエストにより、自身にとっての強力なスタンドを解説することに。

 彼はスタンドの中でも、東方仗助を苦しめた吉良吉影のスタンド『キラークイーン』を側に出現させて解説を始めた。

 

 

「キラークイーン。近接パワー型のスタンドで射程距離は1~2m。こいつはちと厄介でな、『触れたものを何でも爆弾に変える』っつー能力を持っているんだ」

「ば、爆弾!?」

「もうそれを聞いただけで恐ろしいわよ…」

「キラークイーンの爆弾は二種類。右手人指し指のスイッチを押して爆破させる『点火型』と、もう一つは爆弾化させた物体に触れた相手を爆破させる『機雷型』だ。俺は『キラークイーン 第一の爆弾』と呼んでいる」

「…"第一の"ってことは、他にも爆弾があるってことですか?」

 

 

 小猫の問いに、丈城は深く頷く。

 

 

「ああ、現に存在する。第二の爆弾『シアーハートアタック』はキラークイーンの左手甲に格納されている爆弾戦車で、一度発射すればガラガラヘビのように熱を探知して接近し自爆するんだ。しかも自爆しても元通りになるし、とにかく硬い。『星の白金』のラッシュでもぶっ壊れない程にな」

「『星の白金』のパワーでも破壊出来ない……だとしたら壊しようがないね…」

「そして第三の爆弾『バイツァ・ダスト(負けて死ね)』。これはキラークイーンの切札と言っても過言じゃない」

「切札…? どういうことかしら?」

「一言で言うと、『時間を爆破して巻き戻す爆弾』というわけだ」

「「「「「えぇっ!?」」」」」

 

 

 これには全員が驚いた。

 

 

「時間を…爆破して巻き戻す…!?」

「そう。まずは自分以外の人間にキラークイーン"自体"を仕掛ける。そして何かの切っ掛けで時間ごと爆破させ、一時間程巻き戻すんだ。強いと思うけど、二点程デメリットがある」

「デメリット?」

「一つはキラークイーン"自体"が仕掛けられているから、バイツァ・ダスト発動中はキラークイーンが使えない。二つ目はとてつもなく深く絶望しなければ、バイツァ・ダストは発動できないんだ。例えば仲間が殺されたりだとか、ピンチに追い込まれたりしない限り使えないってこと」

「あらあら…メリットが大きい分、デメリットも大きいのね」

 

 

 一同は驚愕し、言葉を失う。それもそうだろう。敵にまわせばとてつもなく厄介な能力が、今まさに目の前の人物が手にしているのだから。

 

 

 こうして様々なジャンルの勉強会は終わり、丈城達は午後の修行へと各々移行していった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 合宿を開始してから一週間たったある夜。

 

 

「………ん」

 

 

 ふと目を覚ました丈城はムクリと起き上がり、伸びを一つ。隣には裕斗がスヤスヤと寝息を立てていた。

 いつもなら両隣にアーシアとオーフィスが寝ているのだが、この合宿では別室で就寝している。安心していいのか寂しいのか複雑な気分である。

 

 

「……なーんか落ち着かねぇな。あの環境に慣れすぎたのが原因か…?」

 

 

 バリバリと頭を掻いてもこの感覚は収まらない。仕方ないので丈城はベッドから降りて台所へ向かった。

 

 水を一杯飲み干し、一息ついていると

 

 

「フ~、少しは落ち着けたかな…」

「あら? 起きたの?」

「お、リアか。どうしたんだ? リアも寝付けねぇのか?」

「ええ…まぁ、そんなところね」

 

 

 リビングから声がかかる。かけたのはこの時間に起きていたリアだった。

 

 

「ちょうど良かった、少しお話ししましょう」

「まー別にいいけどよ。てかリアって目ェ悪かったっけ?」

「あー、これ? 気分的なものよ。考え事をしているときに眼鏡をかけていると頭が回るの。ふふふ、人間界の暮らしが長い証拠ね」

 

 

 リアの提案を飲み、丈城は彼女の対面席に腰掛ける。

 

 

「…こんな時間に作戦練ってたのかよ? 一人で」

「正直……こんなものを読んでいても気休めにしかならないのよね」

「どういう意味だ? それ」

「相手が他の上級悪魔なら、これを読んでいれば戦いはできるわ。この本は研究された戦いの"マニュアル"だもの。でも問題はそこじゃないの」

「……ライザー・フェニックス自体に問題があるってことか?」

「ええ…」

 

 

 リアはフェニックス族の関係やライザーの戦績、自らの家柄が最初から仕組んでいた事などを丈城に打ち明けた。

 

 それを聞くなり、丈城は眉間にシワを寄せて拳を握り締める。

 

 

「…聞いてるだけでフザけた連中だな。リアの人生を何様のつもりで踏み込んでいやがんだド畜生が……ッ!」

 

 

 生き方に関して人一倍敏感な丈城。縛られることを拒む彼にとって、グレモリー家がとった行動は御法度なのだ。

 すると彼はずずいと身を乗り出すと、リアの目を真っ直ぐ見据えてこう言い切った。

 

 

「リア、お前は俺は必ず守ってみせる。多分グレモリーの家柄はしつこくつきまとってくるかもわかんねぇ。それでも…それでも俺は屈したりはしねぇ。次のゲームは必ず……このジョジョが上級悪魔どもに知らしめてやるぜ…!」

 

 

 言われたリアは頬を赤く染めて硬直。そのまま謎の沈黙が続き

 

 

「…Hey girl? 大丈夫か?」

 

 

 とりあえず丈城がリアに呼び掛ける。それで我に返ったのか、リアは慌てて「な、何でもないわ!」と言って頭を横に振った。どうやら少々驚いていたようだ。

 

 

「と、とにかく…私は今度のゲームに勝ちたい。勝たなくてはならないの。周りの悪魔達は私のことを天才天才って言ってくれるけど、この才能は元々グレモリー家が代々培ってきたものの結晶。まるで…神から与えられたみたいで嫌なのよ」

(……神から与えられたみたい、か)

 

 

 軌道修正のためか、彼女は今回のレーティングゲームに勝ちたいという意志を話してくれた。リアの滅びの力は元々母方である『バアル家』の特色であり、それを望まず受け継いでしまったと聞いた丈城は、少し奇妙な感情を抱いた。

 

 そしてあることを思いつく。

 

 

「……リアみたいに受け継いで力を得たっていう奴もいれば、世の中には『望んで』力を与えられたっていう奴もいるぜ。俺は、その例外を知っている」

「え?」

 

 

 彼が切り出した話。それはかつての、ある青年のについての昔話だった。

 

 

「昔…どこかの地方都市にある一人の少年がいた。彼は漫画やアニメを好み、いつしかその主人公のような大冒険や力が欲しいという夢を抱いた」

「………………」

「しかし彼の周りの大人達は皆現実的で、少年の夢を嘲笑い、それよりも現実に目を向けろと言って話を聞こうとしなかった。その内彼は夢を嘲笑った歳上達を憎み、事あるごとにトラブルを起こすようになった」

 

 

 席を立ち、窓辺の方に移動して語り続ける丈城。リアはその姿に話の中の少年の面影を垣間見た。会ったことはないが、彼の話や性格に類似する箇所がある。ひょっとすると、とリアは考える。

 

 

「しかし少年はその夢を実現することなく、歳上達に証明することなく死んでしまった。そして死んだ彼の前に、"その存在"は現れた。その存在は彼に転生の権利を与え、『望みを一つ叶える』と言ったんだ」

「……その少年が望んだ願いが、最初の…?」

「Excitly(その通り)。その後彼は生まれ変わり、どこかの地で自らが望んだ夢を楽しんでいる……というのが、俺の知っている例外だ」

 

 

 一通り話し終えた彼は欠伸を一つし、「んじゃいい感じにね眠たくなってきたし、そろそら寝るわ」と言って部屋へ戻ろうとした。

 

 

「ジョジョ、今の話に出てきた少年ってまさか……」

 

 

 リアは丈城を呼び止めるが、丈城は口元に人指し指を当てて

 

 

「この世界で活躍する、周りより優れた才能を持っている人間の中には、ひょっとすると何処かの世界からの転生者……だったりするかもな」

 

 

 うっすら笑い、部屋へ戻っていった。

 

 

「……これは、私の胸のなかにしまっておいたほうが良さそうね」

 

 

 リアはそれ以上聞かず、自室へ戻る準備をし始めた。

 

(←To Be Continued…)

 




こんにちは、尾河です。

今回は丈城の過去について少し触れてみました。また何か機会があれば書いてみようと思います。


そしてもう一つ、キラークイーンの説明に『猫草』がなくて違和感を覚えた読者の方もいらっしゃるかと思いますが、これは後々のネタに使うためにわざと省きました。ご了承ください。


誤字脱字、ご意見ご要望等がございましたら、コメント欄にご一報ください。

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