Hightension School Jo×Jo 作:尾河七国
第1話《ある青年の出来事》
『事実は小説よりも奇なり』とはよくいったものである。
下手なミステリー小説よりも実際に起こる事件の方が複雑で難解という、言わずと知れた用語だ。しかし例え話かなんかで使うならまだいい。口だけなら何とでも言えるのだから。
これが本当に起こるとなるとそうもいかない。何故なら混乱してどう表現していいかわからないからだ。
これからお話しする物語はそんな非日常的な体験をした一人の青年が歩むことになった、文字通りの『奇妙な冒険』である………。
☆ ☆ ☆
「うぅ…いっつつ……」
何処か。それしか言いようがない場所に彼はいた。
辺り一面が真っ白な空間、それこそ白いペンキか何かをぶちまけたような真っ白さ。特徴的なものもなく、ただただ白い空間が広がっている。そんな場所に彼はいた。
見たところ歳は十代、黒のジャージ姿に髪はボサボサで寝癖だらけ。不良のような風貌の青年は顔を押さえながら起き上がった。暫くして痛みが和らいだのか、目を開いて周りを確認し始める。ようやく彼もこの異様な空間に疑問を抱いたようだ。
「此処は…何処だ……? つーか真っ白すぎて目が痛ぇ…どうなってんだ一体…?」
よろよろと力無く立ち上がり、もう一度辺りを見渡すがやはりわからない。大体辺り一面同じ色なもんだから、どこが壁か天井か全然見分けがつかない。
「チックショー、何なんだよ一体……あー身体中が痛ぇな………」
青年は全身の痛みを訴える。特に顔辺りが痛いのか、しきりに顔のあちこちを手で押さえている。そんなときだった。
『気ガ付イタカイ…?』
「!?」
どこからともなく聞こえてくる声。しかし『聞こえた』と言うよりも、脳に直接語り掛けてきたといった方がいいかも知れない。声はその姿を見せずに続けて青年に話し掛ける。
『ゴメンネ…コンナコトニナッチャッテ……』
「だっ、だ、誰だ! 姿を見せろてめー! 何処にいやがる!」
『姿ハ…ナイヨ。僕ニハ実体ハナイ』
「はっ!?」
"実体はない"と断言した声の主は、呆けてる青年にこう言った。
『僕ハ君ノヨウナ"イレギュラー"ヲ対処スルタメニ造ラレタ、イワユルコンピュータノ"プログラム"ノヨウナモノ。ダカラ、自分ノ意志ハアッテモ実体ガナインダ』
「そ…そ、そうなのか……。じゃあ聞くけどよ、此処は何処なんだ? 俺はどうして此処にいるんだ?」
『思イ出シテ…君ガココニ来ル前後ノ記憶ヲ………』
「俺の…記憶…?」
声にそう言われた彼は頭に手をやり、この空間に来る直前の記憶を探った。暫くして
「………あ」
一つの節を思い出した。
「そうだ…確か久々に悪ガキ時代の友人と出会って…それで…暫く話して別れた後……俺轢かれたんだ、救急車に…」
彼の証言を裏付けるように、彼が着ているジャージはあちこちが破れ、所々に血が付着している。だが彼の身体にはかすり傷一つ付いていない。一体どういう事なのか。
「…で車に轢かれたってのに、俺ピンピンしてんだけど。どうなってんだ一体?」
『実ハネ、君ハ僕達ガ予想ダニシテイナイ死ヲ迎エテシマッタンダ』
「し、死んだァ~~~~ッ!? 俺が!?」
あまりにもストレートな答えに、青年は開いた口が塞がらなかった。
『ソウ。付ケ加エテ言ウト、カナリ悲惨ナ死ニ方ダッタンダ。顔、痛クナイカイ?』
「あ、あぁ…」
『君ハ轢カレタ後、地面ト顔ガ接触シタ状態デ引キズラレタンダヨ。ソノ結果』
「わ、わかった! もういい! もういいから! 要はあれだろ!? 吉良吉影と同じ死に方だったってことだろ!?」
どおりで彼が顔を押さえていたわけである。
「ハァ…納得できねぇ事だらけだけど、今は信じるしかねねぇようだな……それで? 死んだ俺は一体どうすればいいんだ?」
『サッキモ言ッタヨウニ、君ノ死ハ予想シテイナカッタ。ツマリハ死ヌ必要ハナカッタンダ。デモ君ハ現ニ死ンデシマッテイル。ソコデ理不尽ナ死ヲ遂ゲタ者達ニモウ一度新シイ命ヲ与エル決マリニ乗ッ取ッテ、君ヲ此処ニ呼ビ寄セタンダ』
「…つまり転生ってやつか?」
『ソウイウコト』
青年は腕を組んでフム、と考え込む。
転生といえば死者が新しく生まれ変わる事を指す。そういった物語や噂は彼も聞いたことがあるが、まさか自分が体験するとは思わなかっただろう。それもそのはず。ご飯を食べたり本を読んだりすることと違って、当たり前にできる事ではないからだ。
『ソレデ、何カ特典デツケテ欲シイ事トカッテアルカイ? 何デモイイヨ』
青年があれこれ考えていると、声はそう尋ねてきた。
その時、彼の脳裏にあるものが浮かんだ。それは………
「…スタ…ンド」
『エッ?』
「俺への特典は…『ジョジョの奇妙な冒険第3部から第8部までのスタンド全てが使えるようになる』にしてくれ!」
スタンド能力。
言わずと知れた名作中の名作・ジョジョの奇妙な冒険の第3部『スターダスト・クルセイダーズ』から登場し、現在の第8部『ジョジョリオン』まで続く一種の能力であり、常に本体の側に存在する"パワーを持った像"である。元々この漫画を読んでいた青年はスタンド能力に憧れ、そして使ってみたいとも思っていた。この誘いは彼にとって千載一遇のチャンス。願わない筈がない。
『ウーン、別ニ出来ナクハナイケド…ソレダト無双プレイニナッテツマラナインジャナイノ?』
「別に。むしろこっちとしては全然ウェルカムだけど?」
『サラット言ッチャウンダネ…マァイイヤ。トリアエズソノ願イハ聞キ入レタヨ。ソレジャ、新シイ世界デモ頑張ッテネ………』
青年の願いを聞き入れた声は徐々に薄れ、完全に聞こえなくなった。その直後白い空間が目が眩む程強く輝き出した。
「うわぁっ!?」
空間の輝きはどんどん増し、同時に彼の意識もおぼろげになってゆく。
そして、彼の意識はここで途切れた。
(←To Be Continued…)
皆さん初めまして、尾河七国といいます。
Hightension school Jo×Jo 第1話、如何だったでしょうか。
それとこの話に出てくる"声"の表記がわかりづらいかもしれませんが、とりあえず第1話だけの予定なので、極力控えて出筆していこうと思います。
さて次回から、本編に向けての土台を書いていこうと思います。もし誤字脱字等がありましたらコメント欄にご一報下さい。
では、第2話でお会い致しましょう。