戦闘描写なんて久々すぎて、勢いだけで書きました。変だったら教えて下さい。
題名はロンゾの試練の誤りではありません。
今日一日を頑張る。それを合言葉に互いを研磨し高めあった日々は、気が付けば過去の話になっていた。
気が付けば上を目指しながらも、"高み"へは往けないのだろうと諦めをはらみながら剣を振るう日々の繰り返し。
お伽話に出てくるような、現実にも存在する戦士に憧れて。そして勝つならば同じ土俵の上でと選び取った得物も今では惰性で使い続けているだけだった。
あの日、あの夜に盗み出した父の刀剣は未だ鞘から抜いていないが、今の自分にあれを振るう資格なんて残っちゃいない。
友を羨み、その才に嫉妬し、至らぬ我が身に嫌気がさして、遂には恐れ逃げ出したのだ。
惨めな姿は勇者にはほど遠く、立ち上がる勇気さえ失くしてしまった。
07/ロンゾの試験
丘へ繋がる坂道を駆け上がると、最近ではその顔も見慣れたワッカとルールーが待っていた。
出来るだけ全力で走ってきたにも関わらず遅い、と言う2人に苦笑いを返す。無駄話でもしてたのか、と流石にルールーは鋭い。
とそこで「おい」とワッカが唐突に口火を切った。
「ぐだぐだ前置きするのも面倒臭いんで言っちまうが、コレでお前が此処から追い出されるかどうかが決まる」
「……分かってはいたけど、他人の口から聞くと現実味が増すな」
「言わなくても解ってるだろうが、村の方向性はお前の追放で固まってる。変えるのは難しいぞ。……だが、最終的な結論がどうなるかはお前の頑張り次第だ」
……予想通りだが、こうストレートに伝えられると精神的にキツイものがある。
俺にとっての最後の砦。謂うなれば最終面接官がこの2人なのだ。これがチャップとかならまだ今より望みはあったのだが、俺を――――正確には"銃"を持つ俺を――――スピラの民として正しく警戒しているワッカと調和を重視する合理主義のルールーでは望みは薄い。
幾つか俺を村に置くメリット、例えばいざと言うとき戦力になるとか、全身全霊粉骨砕身の思いで村に奉仕するとか、貴重な男手だとか考えてはみたものの、どれもこれも『シン』の脅威と比較しては天秤に乗せるにさえ至らない発想ばかりで、この場に於いて役立つとは思えない案ばかり。
やはり俺の頭は残念な出来なのか……こんなことならもっと先輩の様に頭を使って生きてくるんだったと後悔する。昔から知略より感情と直感を頼りに場を凌ぐことが多かった。「一見使えそうに見えて使えない」と上司に責められたこともあるが、あれは知恵が足りないと言われていたのかも知れない……実際、バディとして組まされた先輩は知略派で知られる人だったし。
どうするかなー……ともはや他人事の様に頭を悩ませていると、「だ、が」とワッカ意味ありげに言う。そしてルールーを一瞥して続けた。
「ルーの熱意によって、今のところ俺たちの中じゃお前を此処に残す方で考えてる」
「……
「まじ?」
「本当かってこと!」
「本当よ。ワッカには無理を言ったけど、最後には頷いてくれた」
予想外の展開に暫し茫然とする。
意外や意外、泣いて縋り付けば感情面でほんの僅かな望みがあるかも、と淡い期待を抱いていたワッカよりも正直なところ期待薄だったルールーが残留を認めてくれるとは。
しかも、ワッカの説得という大きな協力までしてくれているとは夢にも思わなかった。
「――――ありがとうございます」
頭を下げる。両手を太腿に添え、斜め45度。昔仕込まれた作法だが自主的に使うのは久しぶりだ。
ルールーにはいくら感謝しても足りない。これでビサイドに留まれる見込みが出て来たのだ。もしも追い出されたらどうするかとも考えていたが、迫害対象の武器一つで島の外に放り出されるなんて想像するだけで恐ろしかった。
ビサイドの連中は腫れもの扱いこそすれど直接的な排斥行為に出ることは無かったが、島の外でも同じかは分からない。
もし島の外で酷い迫害を受けたとしたら……? ビサイドの連中が特別優しいのだとしたら……?
帰還の手掛かりを探したいのなら広い世界に出るべきだとは解っているが……スピラに流れ着いて半年経たず、まだ踏ん切りが付けられなかった。
――――
もしかして、ルールーはそんな俺の心の内を見透かしてこんなことをしてくれたのだろうか? もしそうなら、本当に感謝の言葉しか出てこない。
「いいわよ、礼なんて。これは私の個人的理由なんだから」
「ルーの優しさに感謝しろよ」
「本当にありがとう……!」
何故かルールーじゃなくてワッカが得意気なのが腹立つけど、ワッカも協力者には違いないのだ。周囲が敵だらけの今、協力者は誰であっても感謝の念しか湧いてこない筈なのだが、どうしてだろう? ワッカに頭を下げると言う行為に心が拒絶反応を示している。
ワッカではなくルールーに頭を下げているのだと言い聞かせる。
頭を上げてからもワッカは偉そうに体を反らして態とらしい笑い声を上げていたが、ルールーに諌められると落ち着いた。
自分が威張る場面じゃないと自覚はあったのか、若干バツが悪そうにしているのを尻目にルールーは俺に包みを投げ渡してきた。受け取ったそれはズシリと何処か懐かしさを覚える物で、一瞬で中身を悟った。
「これ俺の……?」
「皆を説得するのに当たって、アンタにはユウナのガードになってもらう予定よ。ユウナはまだ従召喚士だからガード候補、だけどね。最終的な決定はユウナ自身によるけど、あの子なら断らないと思う。
それに従ってアンタにそれを返す。私はアンタがそれを悪用しないって信じている。信頼の証だと思いなさい。それと、基本的には使用禁止だから、忘れないように」
「ルールー……了解。その信頼を裏切らないと約束する」
「言っとくが俺はまだお前を信じちゃいねーからな! 銃を返すのも本当は反対だし、お前がガードに選ばれるとも思ってねえ」
フンッ、と鼻息を鳴らしてそっぽを向いたワッカにルールーは小さく微笑んだ。それを見てワッカは更に顔を
「ガードって、召喚士の護衛だよな?」
「実際はもっと多くの役割があるんだけど、まぁその認識でいいわ」
「究極召喚を求めて"ザナルカンド"を目指して旅し、
「……そうよ。
不思議とルールーの言葉には圧倒されるような雰囲気があった。怒りか誇りか、悲哀か希望か……とにかく物理的な重力すら感じそうな迫力があった。
「なるほどね……。そこに俺が加わって、ルールーとワッカと併せて3人に増えるってことか」
「2人よ。アンタが加わって2人になるの」
「2人だと?」
「勘違いしてるようだけど、私とワッカはユウナのガードじゃない」
「そうなのか?」
おいおい、それじゃあそのガードってのは誰なんだ。
チャップは前に違うと教えてもらったし、嫌われ者の身としてはコイツら以外のメンバーとは絶望的に上手くやれる気がしない。自分がどうこうより、相手に背教者だと嫌われるだろう。
それにそのガードだって俺を認めるかどうか……。ユウナならそのガードの意見だって汲み取るだろうし……これはそう簡単な話にはならなそうだ。
「そう言や、お前はまだ会ったことがなかったっけな。ビサイドには人間以外にも一人だけ別の部族が住んでるんだよ」
「そしてその彼が一人目のガード。今のところ、従召喚士ユウナの唯一のガードね」
「勿体振るなよ。……で、誰なんだ?」
「――――キマリ・ロンゾ。ビサイド島で暮らす唯一のロンゾ族よ」
ロンゾ族。
広大なスピラに生きる数多くの部族の一つであり、ザナルカンドへ続く"霊峰ガガゼト山"を住処にしており、"禁足地"である同山の門番も務めている獣人である。
額には角が生えており、ロンゾの男子にとって角は誇りであり命よりも大切なものだと言う……のだが。
「ムンッ!」
「うおっと!」
鋭く振るわれた刃を跳んで躱す。さらに着地した先に放たれた鋭い突きを即座にステップを踏んで避ける。
先程からずっとこれの繰り返しだ。
ふう、と軽く息を整えて眼前で槍を振り回す相手を見据える。
群青色の体表に筋肉質な体、豊かな白い毛髪は後ろに流され、一部は顔の横で三つ編みの様にして纏められている。
特徴的なのがその顔だ、一言で表すと犬である。足も獣同様の形をしていて、よく見れば指に鋭い爪が生えている。そしてその中でも特に異彩を放っているのは、額から伸びた一本の角だった。しかし、本来なら誇り高く天を衝いていたであろう角は半ばから
コイツこそが、件のキマリ・ロンゾだ。
ルールーたちに連れられて丘を降り始めてすぐの所で突然頭上から強襲を仕掛けてきた張本人である。
久しく本格的な戦闘から遠ざかっていたので体が動くか不安だったが、どうやら感覚は鈍っていないようだった。
「……ムンッ!」
「うおおおっ!?」
一息で距離を詰めて放たれた連続突きを剣で弾く。剣を実践で使うのは久方ぶりだが、こちらも一定の動きは未だ体に染み付いていた。本当なら手に戻ったばかりの愛銃を使いたかったのだが、「教えに反してはキマリもアンタを認めないだろう」と言われてしまったら剣を取るしかない。
ガキンッ、と最後の一撃を跳ね上げると、無防備になったキマリの腹に回し蹴りを叩きつける。あわよくば吹っ飛んでくれたらとも思ったのだが、実際はまるで鉛を蹴ったかのような感触だった。たたらを踏んで数歩後退するも、キマリは戦意を失わず再び槍を構えた。
「おい! コイツは一体どういう事だ!?」
「キマリはまず最初に相手を試す! 武人気質のロンゾなんだ!」
「要はコイツを納得させるまで終わらないってことか!?」
「ま、そういうことね。ロンゾは腕試しで手加減はしないから、本気でやらないとアンタ、死ぬかもしれないわよ?」
「ハードだなぁ! もう!」
「ムンッ!」
キマリが俺を知っているかどうかは分からないが、謂わばこれはガードに相応しいか判断する実技試験。そしてガードに求められる戦いは召喚士を守る戦い。重要なのは殲滅力ではなく、耐え忍び勝機を確実にモノにする戦い方だ。
チャップから借り受けた無銘の剣を改めて正眼に構える。中段で構えてもいいが、それじゃあキマリのスピードに対応仕切る自信がない。
彼我の距離は優に九歩以上空いているが、この相手を前にそんな距離はあってないようなものだ。少し気を抜いたら一気に槍の射程に踏み込まれて、こちらの射程距離外から一方的に叩かれる。
古来より最も一般的な槍の攻略法。それは――――懐に入り込むことだ。
「ヘイスト――――ラァッ!」
余りスピードには自信がないんで魔法を使わせてもらうが、これくらいは許容範囲だよな?
今まさに踏み込んだ瞬間のキマリに対し、カウンター気味に剣を振るう。狙うは槍の
加速した俺の動きに意表をつかれたのか、キマリはピクリと眉間を震わせる。しかし一瞬後には槍を滑らせて短く持ち直し、剣を
そのまま二撃、三撃、四撃と連続して斬撃を打ち込む。昔取った杵柄とは言え、そこらの使い手に遅れを取るとは思っちゃいない……が、キマリは極めて冷静に対応しその全てを凌ぎきった。
そしてお返しと言わんばかりに俺の剣を返す石突で跳ね上げると、ガラ空きの胸に蹴りを叩き込んだ。俺がやったような遠心力を利用した蹴りではなく、その場で持ち上げた脚を叩き込む、所謂ヤクザキックだったのだが、ロンゾ族は見かけ通りの怪力らしい。
肺の空気を強制排出させられ、何も出来ずに地面を十数メートル転がる
「ごほっ!ごほっ!」
とにかく、このまま何もしなければ敗北は必至。前傾姿勢に乗せた勢い全てを槍に転換し、キマリは必滅の一槍を放った。
「――――ッ!」
「………!」
そして突きつけられたのは……槍、そして剣。
キマリは己の喉元に突きつけられた剣先を見て、そして己の槍を横から掴み強引に軌道をずらした相手――――つまりは俺――――を見て、目を見開いていた。
危機一髪、なんとか成功したか……。しかし喉を逸れたとは言え、それでも槍は俺の首筋に添えられている。このまま動かせば頸動脈がパックリいくだろう。どちらにせよ王手には違いなかった。
暫しの沈黙の後、まるで示しあったように同時に武器を離す。
剣を背中の鞘に収めると、キマリがカツンと石突で地を鳴らした。
「強い。お前はキマリと互角に渡り合った」
「それは良かった。お前もかなり強かったぜ」
「キマリの名はキマリ・ロンゾ。お前、名前は何という」
「俺は雨宮徹千、テッセでいい」
そう告げるとキマリは一度頷き、高く飛び上がると木々を渡り森の奥へと消えていった。
苦戦したけど、第一の関門はどうにか突破できたようだ。
読んで頂きありがとうございます。
気になる点・良かったor悪かった点・誤字・感想など頂けると幸いです。
やっと初期メンバーが出揃いました。
この後は序章エンディング的なものを挟んで、次の章に入ります。
因みに、ウチのキマリさんは強者です。
FF使わなかった仲間ランキングで優勝するキマリさんですけど、ビサイドに来てから何年も修練を積んでいるだろうキマリさんが弱いわけ無いんです。
追記:助詞の誤りを修正