翠色の炎色反応   作:水風浪漫

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二次小説って話数が少ないか、本編に突入していないとあんまり読んでもらえないイメージかあります。皆さんはどうでしょう?

少なくともティーダ登場まで書きたいものです。欲を言えばその先も、ですが。





03/無慈悲な顔面格差、些細な気づき

 夢の中ではいつだって羨望を一身に受けているヒーローになれた。

 

 たが、現実にはどれだけ頑張ろうと上には上がいる。

 

 天に愛されたとしか言いようのない才能を持つ奴がいて、そんな連中に同じように努力されてしまったら勝てる訳がない。

 

 四番手五番手六番手の俺たちは知られることもなく、連中の居座る"高み"を作り上げるための土台でしかないのだ。 

 

 

 どうやったって俺たちはあそこには行けないんだ。お前だって分かってるだろう。そう誰かが言った。

 

 

 当たり前だ。

 皆誰しも気が付いていて目を逸らしているに過ぎない。

 

 けれど、それでも、一縷の望みさえ無かったとしても。

 そこで足を止めたらもう此処には帰ってこれはしないのだ。

 

 賭けて、欠けて、駆け抜けてきた全てを捨て去って、何もかもが崩れ去ったとき、俺達に何が残るのか。

 

 お前だって分かっているだろう。

 

 

 

 

 03/無慈悲な顔面格差、些細な気づき

 

 

 

 

 年中アウェー感満載なビサイド島においても、俺にそこそこ友好的な存在はいる。

 ユウナ、チャップ、ルールー、ワッカ……は微妙か。アイツはからはまだまだ警戒され続けている。

 

 いつの間にやら俺のお目付け役みたいになっているワッカだが、その弟のチャップはとても俺に友好的だった。

 

 

 チャップとの初対面は、俺がスピラに迷い込んで十数日経った日の明け方だった。

 

 体を揺すられて嫌々目を覚ました俺の視界に飛び込んで来たのは、どこかワッカに似た、しかし圧倒的にイケてる好青年だった。

 

「よっ、おはよう!」

 

 人の安眠を妨害しておいて、悪びれもせず快活な挨拶をかましてくる同年代の青年。寝てるこっちが悪いのかも、と勘違いしてしまいそうになる程の爽やかスマイルを浮かべていた。

 もそもそとテント小屋から這い出て空を確認してみると、水平線の彼方に半分だけの太陽が見えた。おい、まだ夜が開けきってねーぞ……。

 

「初めましてだな。俺はチャップ。ワッカの弟だ」

「ワッカの……?」

 

 ああ、だから似てるのかと納得する。しかし、それにしてはイケメンである。ゴリラ染みたワッカと同じ血が流れているとは思えない。つまるところ、チャップはかなりの美形だった……滅ぶがよい。

 

 

「……んで、そのチャップがどうして俺の所へ? しかもこんな明け方から」

 

 一番の疑問を投げかけると、チャップは恥ずかしそうにはにかみ、指で頬を掻く。

 イケメンがやるとこんな動作も絵になる。まったくもって腹立たしい。

 

 まあ別に、自分も平均以上って言うか、ちょっと個性的なだけだと思っているが、こうまさに美形! って人に会うと無性に癪だ。美形連中はこれだけで他人より幾らも得してるんだろうなあ、とか考えてしまう。

 

 ……どうしてワッカにもう少し美形分を分けてやらなかったのだろう。美形の不当な独占である。独占禁止法でしょっ引いてやりたい。ドンと征け、国家権力。

 

 ……いかん。眠いせいか思考がおかしくなってる。

 

 頭を振って気を紛らわす。チャップは勝手に我が家唯一の家具である机に腰を下ろしていた。

 それ椅子じゃないから。背もたれの無い椅子にしか見えないけど机だから。

 

 襲い来る睡魔にそんな文句を言う様な気概さえなかったので、渋々黙認する。

 首と肩を回して寝起きの体を解すと若干だが目が覚めた。

 

「アンタ、アルベド族なんだってな。兄ちゃんから聞いたぜ」

「アルベド族……違うぞ」

 

 ワッカの思い込みは未だ晴れず。それどころか弟にまで伝染させているようだ。正直やめてほしい。アルベド族はスピラでは嫌われている―――誤解を恐れずに言うなら被差別民族のようだし、そんな部族と勘違いされるなんてたまったものじゃない。

 

「え、でも兄ちゃんがアルベド族だから気を付けろって……」

「勘違いだから、アルベドじゃないから。お前からもワッカに言っておいてくれ」

「あ、あぁ分かった。それじゃあ、アンタは一体どこから来たんだ? 南?北? それとも西か?」

「……そうだなぁ、東かなぁ。東も東、東極まるくらい東にある大陸から来たんだ」

「東の大陸……はぁ〜、やっぱ世界は広いな。そんな服も見たことないし」

 

 チャップが指指す先にはテント内に張った紐に引っ掛けられているアーミージャケットとブーツがあった。こちらに来た時に着用していて、偶然ビサイド島に流れ着いたのを回収した向こうの世界の物品の一つだ。

 今着ているジーンズと強繊維シャツも向こうの物だが、軍用品の卸売ショップで手に入れたあの二つは、特にスピラでは異様な存在感を放っている。

 

 科学技術の発達した元の世界と、科学が排斥されたスピラ。

 その科学の最もたる活躍の場の一つである軍から流れてきた装備品のジャケットとブーツも、そこいらの所謂「ファッショングッズ」とは一線を画する科学の叡智が詰め込まれている……のだと思う。詳しいことはよく分からない。

 

 

 そう言えば、エボンの教えとやらでは機械が禁止されているのに、俺の所なんかに訪れて大丈夫なのだろうか?

 俺が機械の武器―――銃を持っていたことは既に村中に広まっている。エボン教徒ではないとバレてるせいで早くも腫れ物扱いされている怪しい異教徒とは、何を隠そうこの俺である。

 

「『テッセさんは悪い人じゃないですよ』ってユウナちゃんが言ってたから、大丈夫だろ。俺は人を見る目は兄ちゃんよりユウナちゃんを信頼してるからな」

「ユウナちゃんってーと、あの白い服の女の子か?」

「そうそう。大召喚士ブラスカ様の娘にして従召喚士のユウナちゃんだ」

 

 

 ―――大召喚士。

 

 それも村で小耳に挟んだ単語だった。

 

 『シン』を倒すための唯一の手段である"究極召喚"を求めて最果ての地―――ザナルカンド―――とやらに到達し、見事『シン』打ち倒した召喚士に与えられる称号だった筈。

 スピラでは神の如く崇め奉られる存在らしい。実際、ビサイドのエボン寺院でも歴代の大召喚士の石像が祀られていた。

 

 あの子、そんなビッグネームの子供だったのか……。この先大変だろうなぁ。

 

「っとまあ、今はその話はいいんだ。アンタに頼みがあって来たんだよ」

「頼み?」

「出来たらで良いんだけどさ、一つ俺に"銃"ってのを見せてくれないか!? 剣より強い機械の武器。話には聞いたことあるんだけど、実際に見たことはないんだよ。アルベド族じゃないっぽいけど、機械の武器は持ってるんだろ? 頼む、この通り!」

 

 チャップは拳を膝につけて頭を下げる。

 だが、残念ながら俺にはその頼みに応えることはできなかった。

 

「何でだ!? 門外不出の特別な技術が使われてるとか? 頼むよ、この機会を逃したら、次いつ見られるか分からないんだ」

「んな事言われてもな……。今俺、銃持ってないぞ。お前の兄ちゃん達に没収されたから」

「何い!? ウチにそんな物見当たらなかったぞ!?」

 

 灯台下暗しとはこの事である。

 態々人目に付かない時間帯を狙ってまでの訪問は嬉しいが、残念ながら君の求めている物は君のお兄さんが持っていってしまったんだ。申し訳ない。

 たぶんワッカが何処かに隠してるんだろう。教えに反するものが弟の目につかないようにと……残念ながら、弟は興味津々の様だが。

 

「まあ見て触るくらいなら別にいいよ。ただトリガー……あー、人差し指を引っ掛ける所を触ったり、分解はしないでくれ。それと水にも漬けないこと。特に海水はダメだ。それを守れるなら許可するよ」

「トリガーを引かない、分解しない、水……特に海水には漬けない、だな。分かった! それじゃ戻って探してみる。朝早くに悪かったな、それじゃあな! またなテッセ!」

 

 そうしてチャップはコソコソと帰って行った。

 

 こんな早朝にたたき起こされて、初めは気に食わない美形野郎だと思ったが、中々どうして、話してみれば良い奴じゃないか。

 歳も近そうだし、チャップとはスピラで初めての友達になれるかもしれない。

 

 いつの間にか睡魔は吹き飛んでいて、思わぬ友達候補との遭遇に俺はすっかり上機嫌だった。

 

 ……今更なのだが、俺の名前は「テッセ」で確定なのだろうか? こちらには苗字という習慣が無いようなので「徹千」と名前だけ伝えたのだが、スピラ人には聞き取り辛いせいかずっと「テッセ」と呼ばれている。

 「てっせん」ってそんなに聞き取り辛い発音だろうか……?

 

 まぁ、国が変われば言葉も変わる。世界が変われば、もはや共通点すら無い、文字通り異界の言語だろう。言葉が上手く通じなくてもおかしくは―――て、あれ? なら何で元の世界の言葉が通じているんだ?

 

 そう言えばさっきチャップと話していた時も、何となくチャップの声と口の動きが噛み合ってなかった様な……。

 日常会話が自動翻訳されて聞こえているのか? 名前は固有名詞だから翻訳されずに、上手く言葉が伝わらない?

 それとも言葉の意味だけが伝わっていて、実際に俺が聞き取っている言葉はスピラの言語のままなのか……? いや、それだと名前が伝わらない理由が説明出来ない。

 

 突拍子もない可能性として、スピラにおける公用語が元の世界の公用語と同一だった可能性は……無いな。世界を越えた先の世界で同じ言語が使われているなんて、どんなミラクルだ。

 

 そうなると、一つ目が一番有力な説になるのだが……まぁ、どうでもいいか。

 会話に困らなくてラッキーくらいしか思う事ないし。まぁ、突然言葉が伝わらなくなった場合を想定して公用文字でも勉強しようかな? 外国語どころか異世界語を習得出来るとは思えないが、やらないよりマシだろう。

 

 

 ああ、何だか面倒臭い事実に気が付いてしまったな……。

 上がっていた気分も逆転してしまったし―――もうこれは、アレしかない。

 寝て嫌なことは全て忘れる! これに限る!

 

 チャップの姿が見えなくなると、俺はすぐさま布団に舞い戻った。

 

 

 




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

気になった点・良かったor悪かった箇所・誤字・感想なといただけるとメチャクチャ喜びます。

まだやる気は失せないので、書けるところまで書いていきます。あまり期待せず、ナマケモノの様にのんびりお待ちください。

追記:改行しました。

重要追記:本文中の流れを中間部分を変更しました。

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