-冥界島近辺
ツナの至近距離からのバーニングアクセルがまともにアクノロギアの顔面に入った。爆発の煙で相手の表情は伺えないがツナは相応の手応えを感じていた。だが……
「その技、見覚えがある……やはり貴様、あの男の血脈か」
「!!」
煙が晴れるとアクノロギアが再び品定めするようにツナを見ていた。
-ノーダメージ!?いや……多少は効いたようだが戦闘に支障が出るほどじゃないか……-
アクノロギアの顔には確かにバーニングアクセルの傷跡が残されていたが、アクノロギアを追いつめる程のダメージは与えられなかった。
「あの男は間違いなく我の生の中で最強の戦士だった。まさかそれを超える者が現れるとはな……だが!最強は我一人!!貴様もあの男同様に破壊する!!」
そう言うとアクノロギアは翼をはためかせて空中へと舞い上がった。かつてのジョットを超えたツナに対して興味を持ったのだろう。人間に興味がないはずのアクノロギアがこれだけ饒舌なのは珍しい。
だがツナにとっては最悪だ。ようやく地上に引きずり降ろしたのに再び空へ昇られてしまったのだから。
「くっ!出し惜しみしてる場合じゃない。ナッツ!」
「ガウ!!」
「
「ガアァアウ!」
ナッツがツナへと飛び込むと眩しい光と共にフェアリーテイルの紋章が浮かび上がった。そしてツナの背中に炎の翼が顕現し、さらに脚部を覆うブーツが装着される。
今までは掌からの炎で空を飛んでいたツナだったがこの状態ならば背中の翼と足元の炎を使ってより速く、より微細な動きで空を舞う事が可能になる。
ツナは掌、足、翼の炎の推進力をフルに使ってアクノロギアへと飛ぶ。その速さは凄まじく一瞬の間もなくツナの右拳がアクノロギアの下顎を撃ち抜いた。
「くっ!硬い……」
だが予想していたがアクノロギアの竜鱗は硬く、少しぐらついた程度しかダメージを与えられない……追撃をかけようとしたツナだったがそこへ巨大な影が飛び込んできてアクノロギアに吶喊した。その影を見てツナは驚愕する。
「なっ!?またドラゴン!?」
燃え盛るような紅い竜鱗を持ったドラゴンがアクノロギアに体当たりを食らわせる。さらにそのまま口を開くとアクノロギアを呑み込む程の巨大な炎のブレスを吐き出した。
アクノロギアが巨大な火炎をまともに食らった瞬間に炎が爆発してアクノロギアを吹き飛ばした。ツナはその光景を呆然と眺めてぽつりと呟いた。
「すごい……あれなら……」
「いや。全くダメージを与えておらんな。だがそれでこそだ。燃えてきたわい」
その重厚な声、存在感はアクノロギアにも負けていない。だが新たなドラゴンにはアクノロギアのような邪悪な気配は一切感じられなかった。
そして何よりも自分がよく知っている魔力とよく似通っている。となると……
「まさかナツの親のドラゴン?確か名前は……」
「そうだ!我が名はイグニール!ナツがいつも世話になっているようだな」
「やはりか……ツナヨシ・サワダだ。ツナと呼んで欲しい」
アクノロギアを吹き飛ばしたイグニールはツナの横に来ると目線をツナに合わせてニヤリと笑う。
「ツナか……人の身でアクノロギアと渡り合うその力、誠に見事だ!……が奴の力はまだまだ底が深い。だがお前と俺の力を合わせれば奴に勝てるやもしれん」
「ああ……よろしく頼む」
それはツナにとっても望むところだ。正直勝つイメージが浮かんでこなかった。見たところイグニールの闘気はアクノロギアにも劣らない。
強力な助っ人と共にアクノロギアへ向かって攻撃を仕掛けようとしたところに再び乱入者が現れた。
「おい!父ちゃん!!俺を差し置いてツナとタッグを組むってどういう事だよ!?」
「ナツ!?」
足から炎を噴出してこちらへ飛んで来ながら叫ぶナツに驚くツナとやれやれとでも言いたそうなイグニール。ナツはイグニールの肩に乗ると更に文句を言い出した。
「どういうことだよ!?何で俺の体の中にいたんだ!?ウェンディ達のドラゴンも同じなのか!?何で今まで出てきてくれなかったんだよ!?それから……」
「ええい!話は後だ!!アクノロギアの前だぞ!!」
「とにかく俺も戦うぞ!俺とイグニールのコンビは無敵なんだ!!」
ナツの発言にイグニールは首を振る。それを見て激昂しそうになるナツの機先を制して諭すように語りかける。
「ナツよ……お前にはやってもらう事がある。お前が先程まで戦っていたあの男を倒すのだ!」
「けどよ!」
「聞け!奴の持っているあの本を見よ!あれこそがゼレフ書最強の悪魔ENDの書だ」
それは先程ナツがマルド・ギールに聞いた事だ。戦っている最中もずっとその本を抱えていた。
「ナツよ!あの男を倒してあの本を手に入れるのだ。ただし!決して破壊してはならん!!お前はこのイグニールの息子だ!お前ならばやれるはずだ!」
「父ちゃん……」
「ギルドというものに入っているのだろう?これは俺からの依頼だ」
「……報酬は?」
「何!?……まったく……お前の知りたいこと全てだ」
「燃えてきたぜ!!後で聞きたい事がたっぷりあるからな!ちゃんと教えろよ!!」
イグニールが頷くのを見た後、ナツは足から炎を噴出して再びマルド・ギールの元へと飛翔していった。ツナはナツが離れたのを確認してイグニールに問う。
「ゼレフがナツは自分の弟だと言っていました……俺もあなたに聞きたい事がある」
ナツの事、ゼレフの事、何故ナツの体の中にいたのか、ウェンディ達の親のドラゴンも同じなのか、イグニールが倒そうとしていたENDとは……
「話は後だ……まずはアクノロギアを倒さなければならん。奴には魔法が効かんがそなたの炎は完全には無効化できなかったようだな」
「魔法が効かない!?」
「ナツや俺に炎が効かないのと同じだ。奴は魔力そのものを食らう事が可能なのだ」
「魔竜アクノロギア……」
それは魔道士にとっては余りにも致命的な事実だった。ならば至近距離からの全力のバーニングアクセルがほんの僅かしか効かなかったのも当然だ。
ツナの炎は純粋な魔法ではないが魔力を放っている。前にマカロフがそうツナに言った事があり、大魔闘演武の時のMPFでも数値として表示されていた。
「俺は肉弾戦で仕掛ける!隙をついてお前の炎を叩き込め!!」
「了解した。だがあなたは既に……」
ツナは感じていた。イグニールは…………
「そこまで見抜くか……だが気にするな。奴を倒すために、この僅かな時間を作る事がナツの体の中にいた理由の一つなのだからな!」
そう言うとイグニールは再びアクノロギアへと吶喊した。二頭の竜の激突によって大気を揺さぶる轟音が辺りに響く。
「まだドラゴンが生き残っていたとはな!だが我はアクノロギア!ドラゴンは全て滅竜する!!」
「そうはいかん!!お前はこの場で倒す!!」
ツナは二頭の怪獣大決戦を見ながら右拳に炎を灯して目を閉じて意識を集中する。
-今までの炎じゃ通用しない……もっと純度を高めて渾身の一撃を……-
ツナの炎が色鮮やかに燃え上がり光輝いていく……目を開いたツナの手には過去最高の純度と力強さを感じさせる炎が煌々と灯っていた。
そして二頭の竜が組み合っているのを捉えると普通の人間なら一瞬にして命を失うキルゾーンへと躊躇いなく飛び込んだ。
「はああぁぁっ!!」
そして気合いと共にイグニールに集中していたアクノロギア横っ面を殴り飛ばした。
「ガッ!?」
「隙あり!!」
先程までとは違って今度の一撃はダメージが通っている。さらにその一撃で大きくぐらついたアクノロギアにイグニールが怒濤の連撃を叩き込む。そして最後に尾の一撃で吹き飛ばした。
「よし!……っ!」
「いかん!ワシの後ろに!!」
追撃をかけようとしたツナは猛烈に嫌な予感がして立ち止まる。イグニールの声と同時にその巨大な体躯の後ろに回り込んだ。アクノロギアの口内に凄まじい魔力が集まっている。
「ガアアアァァッ!!」
「ウオオオォォッ!!」
アクノロギアとイグニールが同時にブレスを吐き出した。それが中間地点で衝突すると凄まじい爆発と轟音がが起こり、閃光と爆煙に大気が白く塗りつぶされる……
二頭の竜は爆発の中でもお互いから目をそらさず睨み合っていた。煙が晴れると同時にイグニールが上昇する。それをアクノロギアが追いかけようとしたがその動きが止まる……いや、動きを止めた。
何故ならイグニールが一瞬前まで居た場所には額に炎を灯した青年が左手を自分に向け、右手を反対方向に向けて浮かんでいたからだ。
ツナはイグニールの後ろで爆風を避けながら準備をしていた。皮肉なことにこの爆発が隠れ蓑になってツナは充分に炎を練る事が出来た。そしてイグニールもその意を汲んでツナの射線を通すために上昇したのだ。
「
アクノロギアを視界に捉えたツナから巨大な熱線が放たれた。避ける間もなくアクノロギアは飲み込まれ、炎はそのまま向こう側の空の彼方へと消えていく。
「おお……」
炎竜の王たるイグニールですらその炎には感嘆の息を漏らさざるをえなかった。力強く、何より美しいその炎に魅せられていた。
「うわぁっ!!」
「なんつー戦いだ!!」
冥界島にもツナ達の戦いの余波は届いている。実力ある魔道士達ですらその常識を超えた戦いに恐怖を感じていた。
「けど……ツナは大丈夫なのでしょうか?」
「当たり前だ!ツナ兄はフェアリーテイル最強の男だ!きっとやってくれるぜ!!」
ヒスイの心配する言葉に勢いよく答えるのはロメオ……だがその足はガクガクと震えていた。
誰もがツナの勝利を信じたいと思っているが敵対しているのはアクノロギア……自分達があの場へ行っても一瞬で殺されるのは分かっている。ツナの足を引っ張るだけだと言うことも……
「くっ!フェアリーグリッターがあれば少しくらいは手助けできるのに……あのダメ親父はこんな時にどこをほっつき歩いるか分かんないし……」
かつて天狼島でのS級昇格試験の際にメイビスより借り受けた妖精三大魔法の1つを欲するカナ……そしてツナが現れるまで最強だった自分の父の不在を嘆く。
だがカナの父、ギルダーツの手足を奪ったのもアクノロギアである。この場にいたとしてもツナが戦闘に加えなかっただろう……
「みんな!!」
そこへ現れたのはトラフザーとキースを倒して来たルーシィ達だった。
「ルーシィさん!ジュビアさん!」
「ガジルにレビィ!」
「「「ラクサース!!」」」
ウェンディやカナ、雷神衆達が出迎える。ガジルが背負っていたジュビアの意識が無かったのですぐにウェンディが治療を行った。幸いにも吸い込んだ魔障粒子もそこまで多くはなかったのですぐに回復するだろう。
エルフマンとリサーナもその間に合流することが出来た。
「凄まじい戦いだな……」
例えラクサスが完調していてもあの戦いに割って入る事はできないだろう……悔しさに顔を歪めながら呟く。
「それよりあの赤いドラゴンはサラマンダーの親父だろ!?どうなってんだ!?」
「分かりません……さっきの動悸に関係があるのかも……あの時グランディーネの気配もしたような気がします」
「オメェもか……メタリカーナももしかしたら……」
滅竜魔道士の二人はイグニールが現れたのなら自分達の親も現れるのではないかと思案している。
「あれは!!」
遠くで戦っているツナをを見守っていたルーシィが声をあげる。全員の視線が戦いに向く。
「ツナさんのX BURNER!!」
「あれを食らったらいくらアクノロギアといえど無事な訳がねえ!!」
「ツナの勝ちか!?」
ツナの必殺技に勝利への期待が高まるが……
「嘘……だろ……」
「そんな……」
炎の砲撃が終わった後もアクノロギアは悠然と佇んでいた。絶望するフェアリーテイルのメンバー達……
「ツナ兄の必殺技も効かねえなんて……」
「悪夢だ……」
「いや、効いてやがるぜ」
ただ一人戦況を正確に把握しようと目を凝らしていたラクサスの言葉に皆怪訝な視線を送る。
「天狼島で俺達の総攻撃を受けてもびくともしなかったが今の一撃は確実にダメージを受けてやがる。さすがはツナってところか……」
「じゃあ勝てるの!?」
ルーシィが食い付くように質問するがラクサスは首を振る。
「そいつは分からねえが……ツナに任せるしかねえ。情けねえがな」
ラクサスの言葉に全員が、特にルーシィとウェンディは強く想い人の勝利を願う。そこに全員にマスターマカロフから念話が届いたのだった……
「見事だ!ツナよ!!」
イグニールが賞賛するがそれも当然だろう。誰が人間がアクノロギアに傷を付けられると予想できただろうか。X BURNERをまともに受けたアクノロギアは体の所々から血を流しながらツナを睨んでいる。
「だが……」
ツナはそこまで喜んではいなかった。確かにアクノロギアを傷つける事は出来たが戦況を有利に運べるほどのダメージではない。
むしろ傷つけられて怒ったのか闘気はさらに膨らんでいた。そのプレッシャーに押し潰されそうになる。
「貴様ぁっ!!」
「そうはさせん!!」
怒りの咆哮と共にツナへ突撃するアクノロギアの前にイグニールが立ち塞がる。再び二頭の竜による格闘戦が始まった。
「邪魔をするな!炎竜王!!」
「我が息子の友はやらせんぞぉっ!!」
さすがにイグニールが目の前にいるのにツナを狙うことはアクノロギアにも不可能だ。だがイグニールに攻撃を仕掛けようとすると……
「超Xカノン!!」
「ぬうっ!!」
アクノロギアの死角に回り込んだツナの攻撃が炸裂する。当然ながらツナは二頭の竜よりはるかに小さいのでアクノロギアがイグニールに意識を集中するとツナを見失ってしまう。
もちろんツナはそれを考えてアクノロギアの視界から外れるように動いていた。一撃で与えるダメージは大したことないが、二人のタッグは徐々に有利になっていった。
-このまま少しずつダメージを与えて隙をついて
勝利を手繰り寄せる為に攻めながらも考えるツナ……しかしアクノロギアも馬鹿ではないしまだ全ての力を出した訳ではない。激しい攻撃を受けながらも逆転の1手を狙っているのだった……
フェアリーテイル最終話を見てこの話の結末もだいたい見えてきました。頑張ります。